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分断を煽る李俊錫、次の標的は権利を求める障がい者たち

※イメージは、障がい者団体のデモに参加し膝をついて謝罪するキム・イェジ議員

 昨年弱冠36歳の若さで保守政党「国民の力」の代表に就任した李俊錫(イ・ジュンソク)。彼が先の大統領選挙で男女間の分断を煽って20・30代男性からの支持を得ようとしたこと、そしてこの戦略が女性たちの結集を促し票差わずか0.7%の苦戦を強いられたことはこれまで書いてきた通りである。政敵を挑発するだけでなく社会の分断を煽りながら自身の立場を固めようとする彼のやり方には、同じ「国民の力」内部からも批判がある。今度も社会的弱者に対する彼の発言が大きな問題となっている。

○移動の権利を求める障がい者たち

 筆者が留学生として韓国で暮らし始めた時にすぐ気づいたのが、街中で車椅子の人を見る機会が日本に比べて遥かに少ないことだった。東京では車椅子の人が電車に乗る時、係員が出てきてお手伝いする場面を目にすることがよくある。しかしソウルではそんな場面に出会すことがなかった。
 障がい者にとって韓国の地下鉄は危険極まりないところだ。車椅子の人が階段を上り降りするためのリフトを利用するときは、なんと係員の補助なく全部一人でおこなわなければならない。そのために墜落事故で亡くなった人もいる。ソウル市内の地下鉄のバリアフリー推進については、保守進歩を問わず過去の市長も約束してきた。しかしホームの狭さや駅舎の老朽化を理由に、いまだに安全設備が未設置の駅も少なくない。
 障がい者たちが自由に移動できないということは、それだけ社会活動が難しくなるということだ。韓国の障がい者のうち55.3%が中学校卒業以下の学歴しかなく、所得も全国平均の48.4%にすぎないという。韓国社会は障がい者に対してあまりにも冷酷だ。(https://www.chosun.com/national/national_general/2022/03/29/GSURBZP42NFZPO7ASKVEX2IYXQ/)。
 障がい者の移動権保障を掲げて行動に出たのは、障がい者自身であった。「全国障がい者差別撤廃連帯」(全障連)は2021年12月6日から地下鉄でのデモを開始した。彼・彼女らの要求を簡潔にまとめると、障がい者の移動の権利を拡充するための予算を保障して欲しいということになる。全障連のメンバーは要求事項の書かれたプラカードを持ったり車いすに掛けたまま、朝の通勤ラッシュ時に合わせて乗車口を塞いだり実際に電車内に乗り込むなどの行動を行った。当然電車の運行は麻痺し遅延が発生するが、その分社会的な注目を集めることができる。こうした行動を通じて世論を喚起し、実際に政治を動かそうというのである。
 12月31日には要求を一部盛り込んだ「交通弱者移動便宜増進法」改正案が国会を通過したが、全障連は予算の確保が完全に保障されたわけではないとして、大統領選挙の期間中もデモを継続した。ちなみに主要4候補によるテレビ討論会において、障がい者の移動圏に言及したのは、正義党の沈相奵(シム・サンジョン)候補ただ一人だった。

○「マジョリティーに迷惑をかけるな」とマイノリティーを非難する李俊錫


 大統領選挙は尹錫悦(ユン・ソクヨル)の勝利に終わった。それでも全障連は予算の保障を求めて地下鉄デモを継続したが、これに噛み付いたのが李俊錫だった。彼は3月25日からFacebookを通じて連日全障連の地下鉄デモを非難し、記者たちの前でも「地下鉄の乗車口に車いすを並べて運行を妨害し、多くの人たちに迷惑をかけて自分たちの意思を貫こうとするのはとても非文明的」などと発言している。また彼はフェイスブックに、ソウル市長が保守系のオ・セフンになってからデモが過激になったという趣旨の投稿を行い、まるで全障連の行動が「国民の力」を貶めるために行われているようなイメージを与えた。全障連の要求をどう実現するかについては具体的に言及せず、デモに批判的な層を取り込んで分断を煽ろうとしたのである。
 李俊錫の発言は当然批判の的になった。共に民主党や正義党は当然ながら、李俊錫が代表を務める「国民の力」からも彼の発言を問題視する声が相次いだ。障がい者の子どもを持つナ・ギョンウォン元国会議員は「迷惑を招く違法デモは批判されて当然」としつつ「移動の権利を保障することは障がい者の生存に関わってくる。非難や冷やかしも成熟した政治家の姿ではない」と李俊錫をけん制した。また聴覚障害を持つキム・イェジ議員も3月28日、盲導犬に導かれながらデモをの現場を訪ね、「適切な言葉を用いたり、コミュニケーションを通じてみなさんと思いを共有できずに申し訳ないということを、政治家を代表して謝罪いたします」と膝をついた。「国民の力」所属の国会議員とはいえ、キム・イェジ自身も障がいを持っている。そんな彼女が党代表の失言の責任をとって膝をついて謝罪した時、全障連のパク・ギョンソク共同代表は頭を抱えながらうつむいた。

○分断を煽るつもりが…

 李俊錫の一連の発言はむしろ社会的な関心を集めることにつながった。大統領職引継委員会はこうした事態を受けて全障連と面談し、障害者の日にあたる4月20日までになんらかの解答をすることを約束した。全障連も地下鉄デモを中断する一方、毎日削髪式を行うことに方針転換した(韓国の労働組合や市民運動団体は、頭を丸坊主にすることで決意や抗議の意思を示そうとする)。また全障連への寄付も相次いでいるという。大統領選挙の時同様、分断を煽ろうとする李俊錫の発言は、むしろ攻撃の対象とされた人々たちの団結を高めたり、メディアの注目を集める結果につながったのである。
 それでも李俊錫は3月30日、フェイスブックに「謝罪しません。何について謝ればいいのか、はっきりと要求してください」と投稿するなど、頑なな態度を崩していない。

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 ちなみに李俊錫は、他の障がい者団体に比べて全障連はマイナーな組織であるといった趣旨の発言をし、彼・彼女らの要求があたかも一部の障がい者の意思に過ぎないかのように表現した。しかし「韓国障がい者団体総連盟」も「李代表は障がい者差別禁止法が保障する障がい者の社会参加と平等権実現のためにどのような措置を講じるべきか、何が障がい者に対する嫌悪なのかを、しっかりと勉強し続けなければならない」と彼を批判している。
 社会的マイノリティを攻撃することで分断を煽り、結果的に多数派の票を集めて選挙に勝利しようとするのは、アメリカのトランプ前大統領に代表される手法である。例え49%の人々から嫌われてもいい、51%を味方につければ選挙に勝てるし、選挙に勝ってしまえば後は好き放題にしてもよい、という発想だ。こうしたやり方が結果的に混乱につながっていったのは、ここ数年のアメリカを見れば分かることである。尹錫悦次期大統領をトランプになぞらえた海外メディアがあったが、李俊錫もまさにトランプ流のやり方を模倣しているようだ。しかし現状において韓国では分断を煽る政治は成功しているとは言い難い。むしろ李俊錫という政治家の資質を問う声が日々高まっているのが現実だ。李俊錫が物議を醸すほど、マイノリティが結束しそれを支える声が高まるのである。頑なな態度を取れば取るほど、むしろ李俊錫と「国民の力」、さらには尹次期大統領も追い詰められていくのではないか。

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