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ほぼ宅飲みだけで日本酒通になる方法 ~その②~ 『夏子の酒』で勉強してみよう


日本酒を買ってみたいけれども…

 上司に勧められて飲んだのがきっかけで日本酒に興味を持つようになったわたし。それからしばらくして、こんなに美味しいなら実際に自分で購入してみようという気になった。2017年の秋頃だったと思う。
 しかし、どうやって日本酒を選んだらいいんだろう。とにかく基本的な知識がない。なんとなく醸造アルコールや糖類を添加しない日本酒の方が美味しいらしいという、『美味しんぼ』らしい本質主義みたいな基準だけは持ち合わせている(もちろん「普通酒=不味い」というのが偏見以外の何者でもないということを、今では十分理解している)。かといって、純米酒というだけで選ぶわけにもいかないだろう。前回書いた通り、わたしの周りに日本酒好きは多く存在したけど、彼・彼女らは日本酒通というほどではなかった。だから楽しく一緒に飲むことはできても(いま思えば、偉そうに蘊蓄を垂れ流す口うるさい人と飲むことがなかったのも、日本酒を美味しく感じた要因だったかもしれない)、わたしに日本酒選びのポイントを教えてくれるような人はいなかった。うーん、難しい。

 日本酒検定や唎酒師の教科書である「日本酒の基』を読むと、「ラベルに書いてある言葉の意味がわからない」「どんな味わいなのかわからない」から、日本酒を飲んだことがないという消費者が多いらしい。確かに一口に純米酒といっても、米の種類や精米歩合、酛、酵母、濾過や火入れの有無などで味は変わってくる。そんなことは全部ラベルに記載されているわけではないし、そもそも初心者はその言葉の意味すらわからない。特定名称だって、調べればそんなに難しいものではないけど、日本酒の知識がゼロの人からしたら「吟醸」がなんなのか、「純米酒」と「特別純米酒」の違いがなんなのかなんてわかるわけがない。こうした「わかりにくさが」が、日本酒から人を遠ざけているのだ。
 うーん、でも日本酒に興味を持ち始めた人間としては、いきなり教科書から入るわけにはいかない。なんたってまだそんなに何種類もの日本酒を飲んできたわけでもないんだから、堅苦しい用語から勉強してもわけがわからないだろう。なるべくならもっと気楽に学べる道はないだろうか。

漫画で楽しくお勉強しましょう

 というわけで購入しました。『夏子の酒』全12巻。いまの若い人は知らないかもしれないが、1988年から91年まで週刊モーニングに掲載された名作漫画である。88年から91年といえば、わたしはまだ小学生。青年誌の、しかも日本酒をテーマにした漫画なんか読むわけがない。ただ、その後ドラマ化もされたから名前くらいは覚えてたし、そういえばわたしに黒龍を勧めた元上司も「若い連中は『夏子の酒』を読め!」と言っていた。とはいえ、それは「一つのことを成し遂げようとすれば、細部にまで徹底的にこだわらなければならない」ということを伝えたい、という思いからだったけど。

 もう30年も前の漫画か。当然30年前と今では状況が違う。日本酒そのものが進化し、当時のマイノリティがいまのスタンダードになっている部分もある。それでもまあ、漫画を入門書とするのは、敷居を下げるという意味でいいんじゃないかな。原作者の尾瀬あきらの作品は元々好きだし(『みのり伝説』とか)。

 思い立ったが吉日、何の下調べもなしに神田の古本屋に行くのだが、最初の書店にいきなりありました、全巻セット。しかもドラマ化決定!の帯付き。これはラッキーだ(でもこのうち1・2巻は、その後友人に貸してから返ってこず…)。

 ここで『夏子の酒』のあらすじを書いておこう。新潟の酒蔵の娘として生まれた佐伯夏子は、新人コピーライターとして東京で働いている。そんな時、酒蔵の専務である夏子の兄・康男が病に倒れ帰らぬ人となってしまう。幻の米と言われる「龍錦」を復活させ、それで酒を作りたいという康男の夢を実現させるため、夏子は会社を辞め故郷に帰り、まずは「龍錦」の復活に奔走する。しかし彼女の前には、農薬依存や高齢化といった日本の農業がかかえる問題が立ちはだかる。それでも兄の夢を果たそうとする夏子は、多くの仲間たちとともに「龍錦」の復活と究極の日本酒づくりのために奮闘していく。まあざっとこんな感じかな。

 とにかくストーリーがわかりやすいし、一つひとつ難題をクリアーしていく流れが人を惹きつける。しかもこの「龍錦」の復活劇が実話に基づいているというのが面白い。実際に復活したのは「亀の尾」という米で、舞台はやはり新潟県和島村(いまの長岡市)の久須美酒造だ。

 『夏子の酒』はなにより日本酒に関する知識がコンパクトにまとめられていて、入門書として最適だ。いま思えば「米を削れば削るほど美味しい酒になる」みたいな書き方はあまりにも単純すぎるかもしれないけど、わたしみたい初心者にはそれくらいのわかりやすさがちょうどいいように思えた。いまはディテールよりもまず大まかな知識が必要なのだから。

 そういえば、2000年代に入って尾瀬あきらはまた日本酒の漫画を描いていたな。タイトルは『蔵人』。こっちはまあちょっとしたルートで読むことができた(わかる人だけわかってください)。正直言って『蔵人』の方は、『夏子の酒』に比べて感情移入できなかった。むかし日本酒を流行らせようとアメリカに渡った日本人が、禁酒法のために挫折し、その孫が祖父の生まれ故郷を訪れ日本酒づくりの世界に入っていく。わたしにはあまりピンとこない設定だった。しかも『夏子の酒』連載終了から約15年経って描かれた作品だけに、原作者の日本酒に関する知識が段違いに増えているのがよくわかる。つまり初心者にはとっつきにくいのだ。そのためわたしは、日本酒入門者には『夏子の酒』を勧めるようにしてます。

 ひとまず『夏子の酒』を読んで、酒米作りのこととか特定名称酒のことはわかった。日本酒づくりの大まかな流れもわかった。よし、これで日本酒の入門編知識はバッチリだ(?)。次はいよいよ実際に日本酒を買って飲んでみよう。

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