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おいしそう、たべられそう。

とっくに死んでしまった大好きな祖父、おじいちゃん。箕浦初(はじめ)さんの口ぐせだった。

寡黙で、孫には笑顔で優しく、煙草吸って、たぶんカップ酒辺りをよく飲んでいた記憶がある。

口ぐせは覚えているし、『昔は貧しくてそう言ってたのだろう』くらいに思っていた。

ところが

初さんは戦時中、軍に徴兵され、訓練所で壮絶な日々を過ごしていた事をはじめて父から聴いたのである。

対空砲を撃っても届かずに弾が落ちてくるから逃げるのに大変だったとか、配給された食事を上官に粗末に扱われ、空腹のあまりトイレで盗んだ大根をかじっていた事もあったそうだ。

『おいしそう、たべられそう。』

家族の手料理がテーブルに並ぶとき

親戚からお土産物をもらうとき

孫にお菓子やご馳走をくれるときでさえ

微笑み言っていた気がする。

僕は何故か哀しくもあり、心は不思議と温かくなっていた。

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