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ゴルトベルクが大好き

クラシック音楽が好きなのですが、中でもいくつか、特別に愛している作品があります。J.S.バッハによる『ゴルトベルク変奏曲』も、そのうちのひとつです。この記事では、私がどんな演奏でこの曲を楽しんでいるか、ざっくり紹介しようと思います。

簡単な作品紹介

(全然簡単に書けなかったので読み飛ばしてOKですごめんなさい)
作曲したJ.S.バッハは言わずと知れた西洋音楽の父祖であり、いわゆる「平均律」を発明して、複雑な対位法を確立した人とされています。説明すると難しいので割愛しますが、現在私たちが楽しんでいるほぼ全ての音楽が、バッハの音楽の延長にあるということは間違いないのです。すごい人です。

ただ生前はあくまで、自分の教区の中での知られているに過ぎなかったようですね。バッハの作品と功績の偉大さを発掘したのは『真夏の夜の夢』などで有名なメンデルスゾーンだったりするのですが、それはまた別の話。

今回取り上げる『ゴルトベルク変奏曲』は、もともと不眠に悩む伯爵がぐっすり眠れるように作曲したという(半ば眉唾物な)エピソードがあります。またバッハ作品の中では後期のものと位置付けられていますね。充分に熟された作曲技法が使われていますが、メロディが非常に親しみやすいのも魅力です。

題名に『変奏曲』とあるのは、最初に「アリア」というテーマが演奏されて、その後にそのテーマを基にしたバリエーションが何曲も続くためです。
(このアリアが本当に良い曲で、これだけでも傑作です)

ただ一聴しただけだと、「どこがバリエーションになってるんだ? 全然違う曲じゃないか!」と思うかもしれません。これどういう仕組みかというと、「ベースライン」が全曲を通じて一緒なんですね(正確に言うと常にベースラインが同じではなくてルート音が共通ということなのですが)。G-F#-E-D-H-C-D-G…という低音の上に、さまざまな音楽が変奏されていくという仕組みです。

しかも32種類ある変奏曲のうち3の倍数の曲はカノン形式が使われ、しかも曲が進むにつれてカノンの音程が順次広がっていくとか、
3曲だけ短調になっていて、ルート音進行は反行形になっているとか、
30変奏には当時の流行歌が2種類使われているとか、

…まぁ、流石バッハと言いますか、とんでもなく技巧的なことをさりげなく詰め込みまくっているのですね。正直私もわかりきっていません(むずかしくて無理)。詳しく勉強したい方はこの本がオススメです↓

バッハ『ゴルトベルク変奏曲』世界・音楽・メディア 理想の教室 https://www.amazon.co.jp/dp/B00NY5IVOU/ref=cm_sw_r_cp_api_i_WYAKEbBZ8MSFE

(ちなみに著者の先生には在学時代ほんの少しだけお世話になりました…)

というわけで後は、気に入っている録音を列挙していきますね。なおリピート回数については特にこだわって選んでいません。

1.モダンピアノ部門

マレイ・ペライア

バッハ:ゴールドベルク変奏曲 https://www.amazon.co.jp/dp/B0002ZF04Y/ref=cm_sw_r_cp_api_i_W5AKEbB69ZNWV


既に名盤として評価も高く、録音も良いため間違いないチョイスだと思います。
とにかく「高貴」な演奏。音色が素晴らしく、理知的に演奏が進められていく様は流石といったところ。それでいて26変奏以降は雄大に盛り上げていくので、非常に満足度が高いです。

モダンピアノだとイルマ・イサカーゼという女流ピアニストの録音も好きです。とても優しい音色で少し保守的に聴こえるかもしれませんが、全編流れるような美しさが続いていきます。

J.S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988 [Hybrid SACD] https://www.amazon.co.jp/dp/B001B1R15Y/ref=cm_sw_r_cp_api_i_XbBKEbWN042K4


2.チェンバロ部門

ディエゴ・アレス

J.S.BACH/ GOLDBERG VARIATIONEN https://www.amazon.co.jp/dp/B07CF6WRSH/ref=cm_sw_r_cp_api_i_DdBKEbRFK1789


明確な構築性がありつつ自由奔放な表現、本当に気に入っています。録音も生々しくて良い。装飾音が多々盛り込まれるのですが、そのどれもが音楽的で、自然な「遊び」として愉しく聴かせてくれます。チェンバロでのゴルトベルク演奏としてひとつの理想だと思っていますので、おすすめです。

3.室内楽部門

リナルド・アレッサンドリーニ指揮 コンチェルトイタリアーノ

Bach: Variations on Variations (Arr. for Baroque Ensemble) https://www.amazon.co.jp/dp/B0758NF6Z2/ref=cm_sw_r_cp_api_i_1qBKEbJ3MBAYF


ゴルトベルク変奏曲は様々なアンサンブル形態に編曲され、有名音楽家もこぞって録音しています。アレンジの違いを楽しむのも一興ですが、この録音は古楽アンサンブルによる演奏です。
アレッサンドリーニは鍵盤楽器奏者でありつつ、古楽アンサンブルのコンチェルト・イタリアーノを指揮して素晴らしい演奏をいくつも残しています。来日した際のモンテヴェルディ演奏は、BS放送もされましたが、素晴らしかった。

彼の古楽演奏は「歌・祈り」の部分と「踊り・喜び」の部分のメリハリが上手くついており、愉悦に満ち溢れていてとても好きです。ブランデンブルグはyoutubeで聴けますね。おすすめです。

最後に

ゴルトベルク変奏曲は無数の録音があるため聴き比べが大変楽しい作品です。往年の名演とされるグレン・グールド盤、また現代の俊英とされるキット・アームストロングの映像など、ここに書かなかったものでも良い演奏がたくさんありますので、楽しんでみてください。

余談1.

ゴルトベルク変奏曲が印象的に使われたアニメーション映画作品で、細田守監督の『時をかける少女』があります。記事のヘッダー画像はそこから引用しました。そういえば実写映画の『時をかける少女』を監督した大林宣彦さんが昨日、永眠なされましたね…。

余談2.

森絵都さんの『彼女のアリア』という美しく甘酸っぱい短編の中で、ゴルトベルク変奏曲が印象的に使われています。

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4043791011/ref=cm_sw_r_cp_api_i_iSBKEb4XYDHFY

余談3.

ゴルトベルク変奏曲の最大の魅力は、冒頭のアリアが終曲に「全く同じ形で」もう一度演奏されることだと思います。
様々な変奏を経ても、また同じ響きに戻っていく…現下の情勢の中で聴くと、愛と平和に満ちたあの頃に回帰していく希求にも解釈できるようです。

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