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【カンヌライオンズ/Cannes Lions】歴代「Grand Prix for Good(グランプリフォーグッド)」まとめてみた

こんにちは、あおきかい(@onakaitaiyurui)です

この記事ではカンヌライオンズ(正式名称:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)の「Grandprix for good(グランプリ・フォー・グッド)」をすべてまとめています。

まずカンヌライオンズの基本的な原則として”有償の契約で作製し、有償のメディアに出稿した実績を持っていること”という条件があり、カンヌライオンズはチャリティ・非営利機関や公共機関が実施したものはどのカテゴリであってもエントリーができません。

しかし、チャリティ・非営利機関や公共機関の実施したキャンペーンにも優れたものは多く、それらの非営利カテゴリに属するものを表彰するために設立されたのが「Grandprix for good(グランプリ・フォー・グッド)」です。

※カンヌライオンズについては以下公式サイトをご覧ください

2011年Grandprix for good:「SEE THE PERSON」

■Brand
SCOPE
■Agency
Leo Burnett Melbourne

オーストラリアで障害者の支援を行っているSCOPEという団体が実施したプロジェクト。

SCOPEは障害を持つ6人で編成されたバンド「Rudely Interrupted」のMVを通じて「See the person, not the disability(=障害ではなく、その"人"を見て)」というメッセージを訴求しました。

PVの前半では演奏している手元や楽器にカメラがフォーカスされ、どんな人が演奏しているのかわからない状態、あくまで演奏のみが視聴者に伝わる状態になっています。

後半になるにつれて、カメラは演奏者の顔や体全体を映し出し、演奏していた人たちが障害を持った人達であるということがわかります。

カメラワークや構成を通じて、「障害を見る前に"人"を見てほしい」というSCOPEの意思が伝わってくるプロジェクトです

2012年Grandprix for good:「HELP I WANT TO SAVE A LIFE」

■Brand
Help Remedies
■Agency
Droga5

アメリカの製薬会社Help Remediesが、骨髄ドナーの登録者数を拡大するために実施したプロジェクトです。

当時、世界中で毎年650,000人以上が白血球やリンパ腫と診断されていました。

これらの病気の有力な治療法は骨髄移植である一方、骨髄ドナー登録の手続きは煩雑かつ複雑であることから骨髄ドナーの人数は圧倒的に不足しており、骨髄移植を必要とする患者の半数以上が、自分に合ったドナーを見つけられずにいました。

ドナー登録への障壁をなるべく下げるためにHelp Remedyは、「名前」と「数滴の血」さえあれば登録できる、簡易的なドナー登録キットを考案しました。

キットはドラッグストアで販売される救急箱の中に入れられ、髭剃りで失敗した時や、紙で指を切った時など、日常的に血が出るシーンの中で、気軽にドナー登録をできるように設計されました。

この「簡易ドナー登録キット」はTEDで紹介されたことをきっかけに、さまざまなメディアで取り上げられたことで、50,000,000人視聴され、結果的に骨髄ドナー登録者数を3倍に増やすことに成功しました。

2013年Grandprix for good:「The Ant Rally」

■Brand
WWF
■Agency
BBDO Group Germany

WWF(世界自然保護基金)が創立50周年に際して、熱帯雨林の環境保護を呼びかけるために実施したプロジェクト。

驚くべきは環境保護を呼びかけるために、森がなくなったら一番困る存在である「虫(=アリ)」にデモ行進をさせたということ。

"起用"されたアリは中南米に多く生息する社会性のアリ、ハキリアリで、「葉っぱを運ぶ」という特徴的な習性を持っています。

特殊な技術で「SAVE TREE!」や「FIGHT!」といったメッセージを切り抜いた葉を、ハキリアリに運ばせることで、「アリのデモ行進」を実現したのです。

このプロジェクトはケルン動物園の目玉イベントとすることで大きく話題化、熱帯雨林の環境保護のメッセージを強く訴求しました。

2014年Grandprix for good:「Sweetie」

■Brand
Terre des Hommes
■Agency
Havas Lemz

国際的な自動支援団体Terre des Hommes が実施した、発展途上国の少女に対するWEBカメラを使用した性的搾取「WCST(Webcam Child Sex Touris)」の撲滅を目的としたプロジェクトです。

当時、インターネット上では先進国の人々によるウェブカメラを使用した性的搾取が蔓延しており、米国とFBIによると1分間に75万人もの小児性愛者がオンライン上で買春を行っていました。

深刻な社会問題だった「WCST」でしたが、「匿名性」というインターネットの特徴もあり、捜査は難航していました。

そこで実施されたのが『Sweetie』というCGで作られた架空の女の子を使ったおとり捜査プロジェクトです。

「Sweetie」をおとりとして使うことで、「WCST」の"加害者"を見える化することに成功、さらにショートフィルムを制作し「WCST」の深刻さと取り締まり強化の必要性を訴えました。

このプロジェクトは各国の警察も巻き込み、「Sweetie」によって収集された情報をもとに合計71か国、1,000人もの"加害者"が逮捕されました。

2015年Grandprix for good:「This Girl Can」

■Brand
Sport England
■Agency
FCB Inferno

英国政府のスポーツ政策を担うスポーツイングランドが、女性が意欲的にスポーツを楽しむことができる社会づくりを目的として実施したプロジェクトです。

当時、男性に比べて、運動を定期的にしている女性は200万人も少なく、スポーツにおけるジェンダーギャップ(男女格差)が叫ばれていました。

スポーツイングランドが女性が運動を積極的に楽しむことができない要因のひとつにあげたのは、「周りの目を気にする」女性たちの存在でした。

スポーツイングランドの調査によると、75%の女性がもっとスポーツや運動をしたいと思っている一方、多くの女性が運動時の外見(たるみ、皮下脂肪など)や運動能力、さらに家族や仕事より運動を優先していると周りに思われることなどを気にして躊躇していました。また、SNS上で引き締まった女性が運動する姿を見て、63%の女性がネガティブな気持ちになっていました。

そのような背景の中で実施された「This Girl Can」プロジェクトのキャンペーンムービーで描かれたのは、ごく一般的な女性が様々なスポーツに取り組み、身体を激しく動かして汗を流し、運動を楽しむ姿。

そしてどの女性も真剣そのものの表情で、他人の目や思惑を気にしている様子はみじんもなく、無我夢中でスポーツを楽しんでいます。

「This girl can」は直訳すると「この女性はできる」、ですがニュアンスを含むと「この女性"にも"できる」というメッセージになります。

「ごく普通の女性がスポーツを楽しむ姿」を通じて、「(この女性にもできるなら)私にだってできるかもしれない」とありとあらゆる人が、他人の目を気にせずスポーツを楽しむことができる可能性を巧みに表現しています。

さらにキャンペーンの公式サイトでは、自分に適した運動メニューの探し方や、運動を楽しんでいる女性のエピソード紹介など、女性たちが意欲的に運動を始められるようなコンテンツも用意されました。

また、「視聴率が高い時間帯にテレビでPRを行う」「“This Girl Can”のロゴ入りポスターを作れるサイトを公開する」など、認知度を上げる働きかけも行われ、その結果、キャンペーンを通して350万人以上の女性が運動に積極的になったと言われています。

2016年Grandprix for good:「MANBOOBS」

■Brand
MACMA
■Agency
DAVID

アルゼンチンで、乳がんを撲滅する為に支援する団体MACMA が作成したキャンペーンムービー

乳がんを撲滅するためには、簡単にできるセルフチェックのハウツー動画を作成することは有力な手法ですが、そこには一つの大きな壁がありました。

それは女性の胸部がソーシャルメディアでは「性的なコンテンツ」とみなされてしまうということ。

ソーシャルメディアでは性的な画像を扱うことは規制されているので、胸部を画像や動画で直接見せることができないのが一般的です。

その障壁を超えたのは非常にシンプルなアイデアでした。

それは「太った男性の胸部(=Manboobs)」を使って撮影するということ。

シンプルなアイデアによって社会のルールを逆手に取り、セルフチェックをのハウツーを訴求した結果、大きな話題を呼び、驚異の4000万回再生を達成しました。

さらにソーシャルメディアにおけるコンテンツポリシーの見直しに関する議論にも繋がりました。

2017年Grandprix for good:「The Immunity Charm」

■Brand
Afghanistan’s Ministry of Health
■Agency
McCann Health

アフガニスタンの厚生省が子供たちのワクチン接種率の低さを改善するために実施したプロジェクト。

アフガニスタンでは、世界的に見ても多くの乳幼児が亡くなっており、その原因の一つとして、ワクチン接種率の低さが問題視されていました。
BCGやB型肝炎などのワクチン接種率は、どれも194カ国中140位〜180位あたり。全人口のワクチン接種率は、50%ほどに過ぎないと言われています。

しかし接種率を低くしている原因はシンプルなものではなく、様々な要素が絡み合っていました。

主な要因としては識字率が低く、ワクチンの必要性を知ることが難しいこと、そして仮にワクチンを接種したとしても、その接種を記録する書類の意味もわからないため紛失され、適切なワクチン接種が難しい、ということがありました。

さらに医療が発展しているわけではないため、ワクチンは西洋の陰謀だとする偏見も根強く残っており、たとえワクチンが用意されていたとしても、その重要性が認識されていないために接種率が低くなっていたのです。

これらの複雑な障壁を乗り越えるきっかけとなったのが、南アジアで古くから魔よけのブレスレットとして信仰されていた「ナザル」です。

アフガニスタンの厚生省は「ナザル」をモチーフに、ワクチンの記録をすることができる小さなブレスレット「The Immunity Charm」を作りました。

麻しんや小児麻痺、ジフテリアなど、特定の病気ごとにビーズの種類や色を決め、予防接種を受けたらブレスレットにビーズを付け足していくことで、ワクチン接種の記録を分かるようにしました。

さらにナザルをモチーフにしているので、母親や地域の人のワクチンへの抵抗感や、不信感を拭い、ワクチン接種を促すことができます。

現地の伝統的な習慣をコミュニケーションに生かすことで、医療側・国民側双方の「不」を解消することに成功した事例です。

2018年Grandprix for good:「Project Revoice」

■Brand
The ALS Association
■Agency
BWM Dentsu

アメリカのNGO、The ALS AssociationによるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者を支援するプロジェクトです。

プロジェクト提唱者のPatt Quinn氏は、話題となった「ALSアイスバケツチャレンジ」の仕掛け人であり、その後彼は自らの声をALSで失いました。

彼は全身の筋肉が萎縮していくALSの症状によって自力での発声ができなくなった患者のために、「自分の声」を取り戻すプロジェクト「Project Revoice」を開始します。

プロジェクトでは、インターネット上から肉声データをつなぎあわせることによって、会話文を作り出すことのできるプログラムを開発、さらにディープラーニング技術を応用してさまざまな人々の発声パターンを学習することで、自然な会話として違和感のない音声を生み出すことに成功しました

機械的なテクノロジーとクリエイティビティによって、人間本来の有機的な「肉声」を取り戻すことに成功したこのプロジェクトは大きく話題となりました。

またプロジェクトの一環として、ALS患者に向けて自分たちの声をあらかじめ録音しておくことを推奨しており、未来の「声を失ったALS患者」に向けた取り組みも行っています。

2019年Grandprix for good:「Generation Lockdown」

■Brand
March For Our Lives
■Agency
McCann New York

銃規制を訴える若者の団体「命のための行進」(March for Our Lives)」が実施した、銃規制の必要性を訴えるため実施したプロジェクト。

銃社会である米国では、多くの銃を使用した事件が起こる一方、政治的な事情もあり、なかなか銃規制が進まないことが実情としてあります。

米国では「銃撃犯から“避難”して、安全な部屋に入り、そこを“封鎖”して銃撃犯の侵入を防ぐこと」をロックダウンと言い、米国の公立学校の95%はロックダウンの訓練である「ロックダウンドリル」を日常的に行っています。

子供までもがロックダウンについて知らなければいけない社会(=銃社会)の悲惨さを強く訴えたのが「Generation Lockdown」です。

「Generation Lockdown」とは学校で、「ロックダウンドリル」を行うことが当たり前になっている世代を指します。

このプロジェクトでは、ある会社のオフィスでのロックダウン講習の様子を描いた一本の動画が作成されました。

動画の中では、リーダーらしき女性がロックダウンの"エキスパート"としてある人物を紹介しますが、紹介された"エキスパート"はなんと普通の少女でした。

戸惑うメンバーをよそに、少女は淡々とした口調で、無表情のまま、冷静に銃撃犯が襲ってきたときの対処法を語っていきます。

「銃事件による被害」という従来の切り口とは異なる切り口で、銃社会の持つ悲惨さ・深刻さを端的に突き付けたプロジェクトです。

まとめ

今回は「Grandprix for good(グランプリ・フォー・グッド)」をまとめました。

SDGsの必要性が叫ばれる昨今、参考になる事例も多かったのではないでしょうか。

下記マガジンにて他のカンヌ歴代グランプリをまとめているので、チェックしてみてください!


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