世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?(山口周/著)

著者・山口周氏:1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。

本書の概要:分析・論理・理性に軸足をおいた”サイエンス経営”では今日の様な複雑で不安定な世界でビジネスの舵取りをすることは出来ない。アート的感性の重要性が高まっていると述べている。また意思決定における”真・善・美”の感覚”美意識”の重要性を説いている。

(本書からの抜粋)

:英国のロイヤルカレッジオブアートのグローバル企業幹部トレーニング、芸術学修士MFA(新しいMBA)は総合的でコンセプチュアルなスキル習得、ニューヨークのメトロポリタン美術館の早朝ギャラリートークに知的プロフェッショナル参加の増加。

:正解のコモディティ化が起こっている。つまり、多くのビジネスパーソンが分析的で論理的な情報処理のスキルを身に着けた結果、他人と同じ正解を出すことになり差別化が消失されている。

:アートが主導し、サイエンスとクラフトが脇を固める。資本市場のアカウンタビリティ、定量的分析可能なサイエンス・クラフトに対して、アートは可視化が難しい故に主張のぶつかり合いで勝てない、故に重要性が注目されてなかった。3つの要素のバランスが重要。

:CEOがPlan, COOがDo,CFOがCheck つまりアート型のCEOが大きなビジョンを描き、クラフト型のCOOが実行計画にお取込み、サイエンス型のCFOが実行のリスクや成果を定量化し、チェックする構造が好ましい。

:直感による経営、ソニーのウォークマンやアップルのスティーブ・ジョブズなど優れた経営があるが、”直感”は良いが”無論理的”はダメ。つまり論理も直感も高次元で買う調すべきツールだが軸足が論理に偏り過ぎることを善しとしないのが筆者の論点。

:熱い浪漫よりも冷たい算盤が先行してはダメ。

:経営という営みの本質は、選択と捨象である。何をやらないかは何をやるかを決めるのと同じくらい重要だ。

:消費の記号化 - 1970年代のフランスの思想家 ジャン・ボードリヤールの私的。モノの消費は機能的便益を手に入れるための交換ではなく、自己実現のための記号の獲得である。

:消費の記号化にみられるように今後拡大する自己実現市場は、日本にとっての好機。つまり日本人の美意識は世界最高水準の競争力を持っている。

:イノベーティブなアイデアで製品・サービスをつくったとしても、機能・デザイン・ストーリー(世界観)の3つが認知されなければ世の中に受け入れられない。時代と共に技術やデザインの差異から生まれる競争優位は、コピーという攻撃により、ポジションを守ることが難しくなっているが、ストーリー性だけはコピーされてもオリジナル価値は揺るがない最後の価値だと。(デザイン思考を超えるデザイン思考、浜口秀司氏)

:実定法主義と自然法主義 - システムの急激な変化に対して法の整備が追い付かない状況では論理が先でルールが後の順番。

: コーン・フェリー・フェイグループ創業者のディビッド・マクレランドが唱える3つの社会性動機 - ①達成動機(設定したゴールを達成したい)、②親和動機(人と仲良くしたい)、③パワー動機(人に影響を与えたい。羨望を受けたい) 

:見ることと読むことの違い。理解できる人は見ないで読んでいるから肝心なことを見落とすリスクある。つまりパターン認識が出来ると虚心坦懐に観る能力を失う。反対にパターン認識を身につけない大人がいて一般的にこの症状を”ディスレクシア=失読症”といい、成功した起業家は普通の人の4倍も失読症である確率が高いと。

:VTS Visual Thinking Sessionの重要性。何が起きているのか虚心坦懐に見るために有効なセッション。純粋に見る。抽象的な処理を行わない。

:哲学から得られる3つの学びは、 ①コンテンツからの学び(内容そのもの)、②プロセスからの学び(気づきと志向の過程)、③モードからの学び(世界や社会への向き合い方や姿勢) だが、現在のエリートが哲学を学ぶ際は、コンテンツでなくプロセスやモードにある。

:美意識の復権。14世紀のイタリアで起きたような転換が水面下で起きている。つまり物質主義・経済至上主義による疎外が続いた暗黒の19~20世紀が終わり新たな人間性(ヒューマニズム)回復の時代が来た。兆しは、システムから大きなメリットを得ているエリートが、システムそのものを改変を目指して、美意識を鍛えている。

(私自身のTake Away) 資本主義システムの中で懸命に生きて、EmployeeからEmployerそしてInvestorにポジショニングを昇華してきた自分ですが、山口氏の本から多くを学び自分が見えている世界と重ねて色々調整が必要な点が見えました。筆者の叫びである”大きな権力を持ち、他者の人生を左右する影響力を持つのがエリートです。そういう立場の人物であるからこそ、「美意識に基づいた自己規範」を身に着ける必要がある。”、琴線に触れました。私自身も起業してある程度成功した頃から、自己規範に従い行動できる幅が広がりました。自分の道が間違っていない事を再認識させてもらいました。実定法主義と自然法主義の考え方は今後常に意識しようと思います。又、日々の生活の中で抽象的な処理をせずに真実をじっくり見る習慣も強化しようと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?