吾輩は童貞である。魔法使いになる気はまだ無い。㉑マッチングアプリ編その6
前回の記事
これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。
筆者スペック
身長:160代後半
体型:やや細め
学歴:私立文系
職業:税金関係
趣味:映画鑑賞(ハリウッドからクソ映画まで)
社長に思うこと:いい加減ソロハラがうぜえよ
逃走よりは迷走を
スマホの分割払いが終わった。
別のマッチングアプリを始めた。(with)
俺は恋愛キャッシュフローを健全に管理するために勉強してるわけじゃないんですけど…。
というのも、ある友人がマチアプを並行しているというのだ。
「そうしないと中々マッチできない」という言葉には一切同意できなかったが(鼻ほじ)、前回アルピニストに袖にされて残弾が消滅した俺は、怒りのままに並行することを決めたのであった。
どうも迷走しているような気がしてならない。だが、逃走よりはマシだ。
(以降の記事はアプリが混ざると思うので、いちいち言及したりはしない)
既に迫るキャパオーバー
網にかかるかはともかく、タップルだけでも相当数マッチできていた俺は、爆速で自分のキャパを越えて崩壊した。そもそも複数の女の子とやり取りすることそれ自体があまり得意ではないので、それに加えてアプリも複数となると完全に手が回らない。そこまで好みでなければ返事するのも面倒になってきた。(殴られるぞ)
そんな中でも女の子と会ってみた。「ケツアナゴくん、もっと良い魅せ方があると思うけどな」「27で初彼女作るまで、彼女欲しいとか思わなかったの?」「あんまり人と話すの得意じゃないの?」
ガチャガチャうるせーぞ。
友人の”ベビー”のジャッジ的には、「中身が良かったらギリ抱ける」ラインらしい。ダメじゃねえか。「また会う気がないんなら別に奢らなくていいんだぞ」というベビーに従い、イラついたのでこちらが多めに出すだけにとどめた。
とかなんとかやっているうちに、ある女の子とマッチした。
それが今回の主役である、カリン(29)。
…何?普段のケツアナゴ(筆者)の命名法則から外れていないかって?
理由がある。続きを読め。
インフィニット・アンサラー
カリンは、ガビガビ画質のマスクの写真しか設定していなかった。
容姿の美醜に関わらず、己の顔をきちんと晒さない人はそもそも好感が持てないので、普段なら見向きもしないのだが、いいねを返したら向こうからメッセージが来たのでやり取りをすることにした。
──たまにはいいんじゃないか?機会損失の防止ってやつよ。向こうの熱量が高めならこっちが使う労力も少ないし、マスク外したら可愛いかもしれんし。
それが間違いだった。
カリン「仕事終わるのは遅い方なんですか?ちなみにどこに住んでるんですか?」
俺「日によるって感じですね。〇〇だから××には出やすいと思います」
カ「勤務時間は固定なんですか?」
俺「残業はありますけど定時はありますね」
カ「アプリで会った人いますか?」
俺「まあ少しだけ笑」
カ「その人とは今も続いてるんですか?」
──ちょっと待て。なんで全ての質問がぶつ切りなんだよ。脈絡もないし。
まあそれが嫌なら己も話題を展開していけばいいのだが、このカリンという女、こっちが一つ話題を振っても広げる素振りも見せずに自分の聞きたいことを聞いて来ようとするので対策のしようがない。
「マチアプで嫌われる男のメッセージ〇選!」みたいなしょーもない動画だの記事だのにこういう例が挙げられていたような気がする。
おい、女にもいるじゃねえかこういうの。
この時点で普通の男ならぶった切って終わりだろうが、悲しいことに俺はこんなしょーもない記事を連載しているキモい童貞なので、ネタになるならと少し泳がせてみることにした。マスク外したら可愛いかもしれんし。
それが間違いだった。
俺「(アプリで会った人と続いているのか聞かれて)気になりますか?笑」
カ「気になります!」
俺「笑笑 カリンさんはどうですか?」
カ「え?教えてくれないんですか?います!」
──知ってどうするのお前それ?
俺「こういうの表立っていうものなんですかね?笑ぶっちゃけ微妙な感じですね!続いていると言えば続いているのかな笑」
カ「自分的にはいい人って感じなんですか?そういう人がいるのに私とやり取りしてくれて嬉しいです!」
この時点で察したが、多分カリンは絶望的に自分に自信が無いのだ。そのくせ恋人…というより、自分を好きになってくれる人が欲しいから、誰かの一番になりたくてこんな戯言を吐き散らかしている。
──まるで前までの俺みてえだなあ!!よお!!
俺「(続いている人はいい人だと思うのか聞かれて)悪い子ではないと思いますよ笑 逆にカリンさんは今続いてる方はいらっしゃらないんですか?」
カ「やり取りしてる人はいますけど会ってはないです!」
俺「なるほど!じゃあ僕ら同じようなもんですね笑(思ってない)」
カ「もしかしたらケツアナゴさんがいいってなるかもですね!」
俺は嘆息した。文面だけなら自分が見定めてる側にいるような言葉にも見えるが、そうではない。そもそもこれはカリン側から展開した話題で、根掘り葉掘り聞いてきたのもカリンである。つまりこれは──。
──なあ、俺に”言わせたい”んだろ?言わせて安心したいんだよな?今自分がやり取りしているこの男が、自分に矢印を向けているんだという確信が欲しいんだろ?手に取るように分かるよ。俺もそうだったからな。
気持ちは分からんでもない。問題は、俺とカリンはまだ会ってすらいないということである。この子の性別を反転させたらあら不思議。激キモ非モテの弱者男性の出来上がり。ていうか普通に女でもキモいだろこれ。
だが、それ以上にキモいのは、キモいと思いながらやり取りを続けている俺の方である。自覚はある。しかし俺はライターなのだ…ただでさえ一か月近く更新しなかったんだ…ネタが…ネタが欲しい…!
俺「(俺をいいって思うかもしれないと言われて)なんですかもしかしたらって。いいってなってくださいよ笑」
カ「そしたらケツアナゴさんもならなきゃですよ!!」
俺「そうですね笑」
カ「嫌そうじゃないですか!もっと仲良くなりたいです♪いいと思ってる人がいるのに私がケツアナゴさんいいなって思っていいんですか?笑」
──知らねえよ。
カ「ケツアナゴさんの好きなタイプなんですか?」
俺「ちゃんとコミュニケーションが取れる方ならあとはフィーリングだと思いますよ!食べ物の好き嫌いが少ないとなお嬉しいですね!(偽らざる本音)」
カ「なるほど!自分大丈夫かなってちょっと思っちゃいました💦」
──知らねえよ。
俺「どうなんでしょうね?好き嫌い多いですか?」
カ「野菜全般です😢」
──せめて一つくらい褒めるところを見つけさせてくれよ…!!
マジで話にならん。辛いもの無理とかキノコ駄目とかそれくらいは良いと思う。アレルギー持ちや胃腸が弱かったりするのも仕方がない。けれど、ただ単純に野菜全般が嫌いで普段は肉ばかり食べてる人間と交際するのは、偏食が詐欺の次に重い罪とされる家で育った俺としてはどうにも容認しがたい。
というか一緒にご飯行くとき異常に選択肢が狭まるのが目に見えている。大体なんでも美味しく食せる俺にとって、相当なストレスになるであろう。
…ほどなくして、カリンから通話のお誘いが来た。俺は怖いもの見たさで承諾した。それに、話してみれば案外まっとうかもしれんし。マスク外したら可愛いかもしれんし。偏食家ということを除いても好きになれる要素があるかもしれんし。
それが間違いだった。
ダーリンズジェイル・ブレイカー
カリンは、通話でもメッセージと同じような調子だった。俺は声を作りながら、真顔で応対した。
互いに敬語をやめることを提案される。カリンは俺の一つ上なので、俺は若干の抵抗をしながら、渋々容認した。こういう場合、敬語の方が楽なので。
…読者諸君はそろそろ思ったかもしれない。「カリンにもっと分かりやすいあだ名をつけなかった理由は?」
お答えしよう。
カリンの一人称は、29歳のカリンの一人称は、自分自身の名前だったのだ。
──勘弁してくれよ。敬語をやめた途端にこれか。お前自分がいくつだと思ってんだ?
俺は、未だ小学生の従妹が将来こんな風になったら嫌だな~と思考を逸らしつつ、気取られぬようやり取りを進める。
俺「前の彼氏とはどうだったの?」
カ「8年付き合ってたんだけど、カリンと結婚したいタイミングが違ったからカリンの方から別れたよ」
俺「まあ、そろそろそういうこと考えるよね」
──遍歴だけなら恋愛弱者のそれじゃないのに、なんだこの卑屈さは?
その彼氏がDV的というか、よほどカリンの尊厳を踏みにじるような性格をしていたのだろうかと思ったが、そういうわけではないらしい。
曰く、付き合ったら毎週会いたいし、たくさん愛情表現をしてほしい。前の彼氏はそうしてくれていたのだとか。カリンはたとえ自分に非があっても素直に謝れずに拗ねて、後からLINEで「ごめんね」と送るような女の子であるらしい。そんなカリンに8年も付き合ってあげていたのだから、元カレは相当器が大きいことがうかがえる。俺だったら手が出るかもしれない。
ただ、元カレに言いたい。どうしてこんなになるまで放っておいたんだと。オマエがろくに性格も偏食も矯正せず全部をウンウン受け入れてきたせいで、オマエという檻から解き放たれたカリンはこんなヤバイ女になってしまったぞと。
もう誰も指摘なんかしてあげられないぞ。もうカリンは30目前なんだ。ボーナスタイムは終わりかけてんだ。なまじ若いころに安定した地盤があったせいで、自分の市場価値を正しく見る能力は俺よりないのだろう。こんなんじゃ大抵の男は逃げだすだろうし、俺はカリンのヤバさを眺めて記事にするだけの鬼畜外道だし。
…そんなこんなで通話を続けるうちに、カリンはこんな提案をしてきた。
カ「ねえ、ケツアナゴくん。カリンって呼んでよ」
──距離感の詰め方どうなってんだこいつ?まだ会ってすらいないんだぞ?
…通話を終えると、カリンはこんなメッセージを送ってきた。
カ「通話してくれてありがとう!今回でケツアナゴくんとの心の距離が近づいた気がする!」
──…。
カ「もっとケツアナゴくんの声聞きたいな!カリンおやすみって言って!ケツアナゴくんの声聞くとすごい落ち着く!」
──…。
カ「ねえ、カリンがケツアナゴくんのこと好きになったらどうする?」
──…。
──……。
──………。
俺はやっと気づいた。パンドラの箱を開けてしまったのだと。
オペレーション・ボックスシーリング
俺に”好き”と言わせたいんだろうな。だが残念だ。そういう根っから卑屈で距離感の詰め方がおかしい女に、俺は全く食指が動かんのだ。つーか、会ってすらいない相手にこれ?さすがに以前の俺でもここまでヤバいやつではなかったはずだ。
俺「別に嫌な気はしないけどね(嫌)」
カ「だったら今度遊ぼうよ!」
俺は思った。暇なら会うくらいはいいかもしれない。暇なら。だが残念ながら、俺には別の子とのデートがある。だが、カリンが今までのマイナスポイントを覆せるほどの見た目であったのなら、まだ話は変わってくる。
俺「いいよ!それじゃあ会った時探しやすいように、マスクしてないお顔の写真とか見せてほしいな!」
写真が送られてくる。俺はそれを確認した。
カリンは、阿部サダヲに似ている女の子だった。
──…。
──……。
──………。
──いや、無理だろ。
人は見た目ではないと人は言う。所詮そんなものは綺麗事でしかないが、見た目を上回る魅力が中身にあるのなら、たとえそこまで良くなくても好きにはなれると俺は思う。
ただ、卑屈で、メンヘラ気質で、距離感の詰め方がおかしくて、アラサーで一人称が自分の名前で、相当な偏食家で、謝罪もまともにできなくて、それでお世辞にも綺麗とも可愛いとも言えない見た目なら、カリンには何が残る?俺はこの人の何を好きになればいい?
俺「おー!ありがとう!」
そう答えるしかない。
カ「可愛くないでしょ!」
俺「そんなことないよー!」
そう答えるしかない。
カ「会いたくなってくれたかな?」
どう答えたらいいか分からない。
カ「会う気が無いなら返事しなくていいからね!」
堪忍袋の緒が切れた。
ここで”会いたいよ”と答えるほど、俺はお人よしじゃない。
自分のコンプレックスを後ろ向きに晒して相手に否定してもらおうとしたり、初手から自分のことを下に下に下に下げたりして、誰がお前のこと好きになるんだよ。
親しいヤツが落ち込んでるのと初対面の異性がハナっから奈落メンタルなのとじゃこっちの感情も違う。
褒めた上で謙遜してくるならともかく、最初から卑下はディスコミュニケーションも甚だしい。相手に自分のマイナスポイントを「そんなことないよ」と否定させる負担を考えたことないのか?
そこまで自己評価が低いならどうしてそれを改善しようとする姿勢がない!?どうして自分と向き合ってこなかった!?何もしねえで他人にただ愛されたいだなんて、生ぬるいこと考えてんじゃねえぞ!!
ここまで怒りを覚えるのは、カリンが以前の俺を彷彿とさせたからだ。いわば同族嫌悪と言ってもいい。性格こそ全然違うが、自己評価と自己肯定が終わっているにも関わらず自己愛に溢れているその在り方は、かつての俺そのもので、それがどうしようもなく不快だったのだ。
俺「ねえ、さすがに何度も何度もネガティブなこと言われるとこっちまで悲しくなってくるんだけど」
優しい爽やか好青年の仮面をかなぐり捨てて、俺はカリンに邪気の籠った三行半を叩きつけた。(結婚してないけど)
カ「ごめんなさい。自分に自信がなくてつい言葉にしちゃった」
悪いが、歳下ならいざ知らず、歳上のメンタルケアをする気はない。
そんな暇はない。自分で勝手に強くなってくれ。
見た目という最後の頼みの綱すら無くなってしまった俺は、嘆息しながらカリンをブロックした。
疲れた。ネガティブを撒き散らされる側は、こんな気持ちだったのか。
ネガティブハ・メンドクサーイ
結局、卑屈人間とは、劣等感や孤独感、コンプレックスを感じる自分のことしか考えていないので、付き合ったとしても負担にしかならない。ダルい、めんどくさい、勝手にやってろの極みだ。そんな背負う義理も意味もない荷物は捨て置かれるのがこの世の理である。
なぜ分かるか?分かるね。俺がそうだったんだから。
学びはあった。ネガティブをぶつけられる側の気持ちを、理屈ではなく実感として感じることができたからだ。俺はこれによって、前回の記事のように、女の子相手にチー牛だった自分の過去を鬱屈とした態度で赤裸々に晒すのをついぞやめたのであった。
自分の恥部を笑い話にできないならそもそも見せるな。
自分のことを嫌いなのは分かる。だが、自分さえ嫌いな自分のことを、誰が好きになってくれるだろう?
…。
……。
………。
何度も言っていることだが、俺たちのような弱者にとって、恋愛戦場は地獄以外の何物でもない。
だが、だからこそ前を向かなければならない。
これは魔法使い化の未来に抗う、アラサー童貞の記録である。
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