アルケミスト
自分は沢山本を読むタイプではない。
どちらかというと、同じ作品を何度も繰り返すタイプ。
自分にとって人生の指南書とも呼べるアルケミストとの出会いは、今でも鮮明に覚えている。
高校生の頃、仲間と一緒にピストバイクに熱中していた自分には、行きつけのサイクルショップがあった。
サイクルショップといっても、明るい蛍光灯がギラつき、沢山の自転車が並んでるような場所ではなく、ウッディでなおかつ温かみがあり沢山の自転車パーツが宝物のようにディスプレイされているそんな場所
仲間と次に買うパーツの話をしては、そのためにバイトをする。
そして自転車を少しずつカスタムし、自慢しあい街へ繰り出す。そんな日々
高校生の自分に今度も変わらない影響を与えてくれた場所と人達だ。
いつものように自転車のパーツを探しながら、よくしてくださっている店員の方と談笑をしていたある日
自分は留学についての話をしていた。
その当時は期待よりも得体の知れない不安が多く、言葉を着飾って前向きな態度をとっていた。
そんな自分を察していたのかも知れない。
『これから旅に出るならこの本を読むといいよ、今の君に何か残るものがあるかも知れないから』
そういってポケットから文庫本のアルケミストを取り出したのは、そのショップの中で高校生の自分にいつもいろんな視点を共有し与えてくれた大好きな店員さん。
『この本貸すから読んでみなよ、ちゃんと返してね』
そういって作業に戻った彼を横目に手に渡されたアルケミストの表紙をじっとみていた。
そして家に帰り、枕元で本を開く
情景がリズムを伴ってその本の世界に引きずり込まれていくのがわかった。
今まで体験したことのない物語と自分がリンクしていく感覚
そして、ふとしたタイミングで選ばれる言葉の数々に圧倒されてしまっていた。
時間が過ぎることを忘れ、作品を読み終えた自分に残ったものは幸福感と人生に対する希望だ。
そして次の日には同じ本を買いに自転車にまたがった。
それから何年もの間、ある毎年タイミングが来るとアルケミストに手を伸ばしその世界の中を旅する。
昔と違うのは、それが英語で書かれたものになったのと、物語に手を伸ばす自分自身だ。
圧倒された言葉に毎回線を引いているのだが、それが毎年読み返して違う解釈になっていたり、また新しい言葉を見つけ出すことができる。
過去の自分と、現在の自分を重ね合わせては物語とともに旅をしているそんな感覚に陥るのだ。
同じ作品を読んでも自分の現在地によって見えかたや解釈が変わる。
もしかしたらそれが自分のように本ではなくても、音楽や、映画、アートだったりすることもあるだろう。
自分はアルケミストとともに成長し人生を歩んできた。
年老いて、動きまわることが難しくなっていったとしても、自分はこの作品の中を歩き旅し続けるだろう
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