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21年ぶりの通学路

僕には、故郷と呼べる場所がない。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの」とは言うけれど、転勤族の家庭に生まれ、各地を転々としてきた人にとって、それはどこを指すものなのだろう。

30歳を間近に控えてなお、僕には「故郷」がわからない。

──平成最後の夏。
ふと「過去に暮らした街を巡ろう」と思いつき、最初に埼玉県を訪れた。

21年ぶりに足を運んだその街に住んでいたのは、4〜7歳の頃。1年間だけ通った小学校への通学路を、朧気な記憶を頼りに歩いてみる。

さすがに何も覚えていないかと思いきや──そんなことはなかった。

カーブミラー、自動販売機、神社、信号機。

どこにでもあるものなのに、不思議とそれらを懐かしく感じる。友達と遊んだ思い出や、初めて飲んだ炭酸ジュースの味が蘇ってくる。

置き去りにした記憶と再会したような、小さな感動がそこにはあった。

──平成最後の夏。
21年ぶりに訪れたその街で、僕は、ふるさとの欠片を見つけた。



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