こちら側へと“歩いてくる”VTuberの姿に感動した『FAVRIC』感想
もう何度、「バーチャルってすげー!」と感動させられたか、わからない。
2017年末から追い始め、2018年にはどっぷりとその世界に浸かることに。その夏にライブビューイングで見たVRライブが衝撃的すぎて、パソコンの買い替え&HMDの導入を決断。2019年には自らもVRに飛び込んで生活するようになり、バーチャルな世界は、すっかり身近なものになったはずだった。
ところがどっこい。
それでもなお、VR空間で行われるライブやイベントに行くたびに感動し、仮想世界ならではの演出に驚かされている自分がいる。もう感覚的には慣れているはずなのに、毎度のように並々ならぬ刺激を感じている。生活面では “日常” になってなお、VR世界はいまだ “非日常” のままであるのです。
その感覚は、VRと近しい関係にあるバーチャルYouTuberの文化圏でも同様。そちらでもまた、他では得られない驚きと、刺激と、好奇心を感じられている現状がある。彼ら彼女らが出演する現実世界のイベントもまた、強く強くワクワクさせられるものであり続けている──。そのように思います。
そんなワクワクと、興奮と、新鮮さを、2年近くにもわたってもたらしてくれている「バーチャル」の世界にて。先日のバーチャルマーケット3の興奮も冷めやらぬまま足を運んだイベントが、これまたとてつもなく楽しかったわけでございますよ! そこには、通常のライブイベントとはまた違う、極上の体験がありました。
無数のディスプレイが並び立つランウェイに面食らう
2019年9月29日。
幕張メッセにて開催されたイベント「FAVRIC」。
「FASHION × VIRTUAL × MUSIC」がコンセプトのFAVRICは、VTuberが登場するファッションショー。第一線で活躍する人気VTuberたちが、新たな装いで、幕張の大舞台に用意されたランウェイを歩く──。
公式サイトの説明によれば、そんなイベントになるらしい。
とは言え、それだけでは「それって何がすごいん? というか、楽しいの?」と疑問に思う人もいそうなところ。VTuberの「新衣装お披露目」と言えば一大イベントではあるものの、わざわざ大きな会場でやる必要はあるのかと。「結局は音楽ライブがメインなんじゃね?」と感じてもおかしくないように思います。
実際に終わってみれば、当たらずとも遠からず、といった感じでしょうか。
全体として見れば、「歌」が大部分を占めていたのは間違いない。「ファッション」を謳ってはいるものの、結局のところは「音楽ライブ」に過ぎなかった──。終演後の周囲の会話やツイートを見聞きするかぎりでは、そのような感想も多かったように感じます。その結果、期待はずれだったか、それでもなお楽しめたかは、人によりけりといった印象。
でも同時に、並々ならぬ衝撃を受けた人も多かったのではないかしら。
それなりの期待感を持って入場し、ステージを目の当たりにした瞬間、「やっぱり普通のライブだよねー」と冷静に受け取ることのできた人が、はたしてどれだけいるのかと。過去に類似のイベントがあったかもしれないので何とも言えませんが、きっと多くの人が「なんぞこれ!?」って驚いたのでは……?
だって、これだよ??
正面ステージ中央から突き出すように設置されたランウェイには、無数の液晶パネル。一定の間隔で、ランウェイの左右に、大量の画面が並んでいるだけでも驚くのに、よく見れば頭上にもパネルが。ついでに、ステージ中央のメインディスプレイと両脇のサブディスプレイ以外にも、大小さまざまなディスプレイ。
どこもかしこも画面だらけ。
なにこれこわい。
並び立つ四角を見れば、それがどうやって使われるのかは想像がつく。でも、それにしても、まさかこんな物量で「現実世界でのバーチャルファッションショー」を実現しようとするとは……! 周囲の会話に耳を澄ましても、「なにこれ!?」「画面の数やべえ!」「海苔だ!!」という驚きの声が多く上がっていましたし。
いったい、どんなイベントになるんじゃろうか……。
DJミライアカリが流す、ご機嫌なトラック
どうやら入場がスムーズに進まなかったらしく、イベントは当初の開演予定から30分遅れてのスタート。
トップバッターを務めたのは、ミライアカリ(@miraiakari_prj)ちゃん。
シンガーではなくDJとして登場した彼女が最初に選んだ曲は『Up-to-date』。VTuberのオリジナル曲を中心に流すのだろうとは思っていたけれど、「そこかーーーー!!」と叫びたくなる絶妙さ。ええぞええぞー!
VTuberの一大イベントで、幕張メッセという広い会場にて、一番最初に場内に響き渡ったのが、「理想の絵の具で 共に塗り替えた 旗のふもとに 世界は花咲いた」という一節であるという事実。これはエモい。こんにちはー!
そこからはてっきりVTuber関係の楽曲が続くのかと思いきや、『ピースサイン』『Catch the Moment』と人気アニソンが続く展開。「ファッションショーかと思ったら音楽ライブだった……と思ったら、アニクラだった……」と人によっては錯覚しそうな流れである。
でも考えてみれば、その人の “推し” 以外のVTuberのオリジナル曲って誰もが知ってるとは限らないし、アニソンを挟んでいくのは場を温める意味でもいいのかも……?
──なーんて油断してたら、突然の『ネオンライト』だよ!
ここ最近、鬼のようにリピートしているお気に入りの曲──先日の「VIRTUAFREAK Vol.4」でもフロアを熱狂させまくっていた──が、完全に不意打ちのように流れてきたから、たまったもんじゃない。
すっかりアニクラなテンションになってたこともあり、イントロが聞こえた時点で「あーーーー!?!?」って脳がバグったし、というかマジで声に出して叫んだ。「あーーーー!?!?」って。星宮とと(@hoshimiya_toto)ちゃんが、急に背後から迫ってきた感じ……バックアタックだ!!
──とまあ、1曲1曲について触れていると結構な文量になりそうなので、セットリストを引用させていただきます。ステージ中央の画面内でわちゃわちゃと動き回るアカリちゃんがかわいかった。
ただ、すでにTwitterなどでも散々ツッコまれているように、素人目にもわかってしまうほど粗が目立っていたのも、このパートだったかなーと。
終わったあとに映ったグリーンバックは笑って流せるものの、映像と音のズレは無視できないレベルだったようにも感じました。それも「大きな会場で観客のコールにラグが発生する」タイプのものではなく、そもそもの映像と音声がズレてしまっていた格好。
音楽で盛り上げるイベントであのズレは、割と致命的なのでは……?
とはいえ、それも慣れてしまえば許容範囲。「音ズレががががが!」と戸惑っていたのもしばらくの間だけで、それよりもセトリの展開にテンション爆上げ状態だったので。後半の『ヒトガタ』→『Hello,Morning』→『はじまりの音』→『アクセル』の流れはヤバヤバのヤバでした。
ぶいちゅっばのクラブイベント、次回はいつですか!?
「奥行きのあるランウェイ」から感じたもの
オープニングDJが終わると、本イベントのメインパート、出演VTuberたちによるファッションショーがスタート。ランウェイ上に立ち並ぶ無数の液晶パネルが、ついに本領を発揮するとき。
これが、思いのほか感動したんですよね……!
ステージ中央のメインディスプレイに映し出されるのは、ランウェイをほぼ正面から捉えた映像。新しい衣装に身を包んだVTuberたちが、仮想空間のランウェイを歩いてくる。
その動きに連動するように、現実世界のランウェイ上の液晶パネルでも、VTuberたちが行き交う姿を確認することができる。こちらはまったく違和感がなく、すれ違う様子まで自然に演出されていたのがすごかった。
推しが……推しがこっちに歩いてくるるるるるるるるr!?!?!?
写真だとパッとしませんが、この「VTuberがこちらに “歩いてくる” 」という体験は、想像以上の感動を伴うものだったんですよね……。
バーチャルな存在である彼ら彼女らとは、基本的には画面越しに接することしかできない。もちろんVRで “会う” ことはできるし、仮想空間でガチ恋距離で接したときの感激はすごかった。実際、僕はその経験があったから、ゲーミングPCとHMDを購入するまで至ったという背景もあります。
でも一方で、リアルイベントで目にするVTuberたちは、今なお四角いディスプレイの中にいる。画面越しにお話できるイベントもそうだし、音楽ライブもそうです。
もちろん、キャラクターがまるでそこに立っているかのような映像演出はすごいけれど、それでも、彼ら彼女らが動けるのは「ステージの上」だけ。より正確には、客席から見える「ステージという平面の上」だけだったんですよね。たしかに実態があるようにも見えるけれど、動ける範囲はまだまだ限られている状態。
それがこのFAVRICにおいては、キャラクターの可動領域はステージのみにとどまらず、ステージから客席へ向かって突き出したランウェイにまで広がっていた。ステージ上で、歌って、踊って、話すだけでなく、 “こちら側” へと “歩いてくる” ことができていた。
その姿を目の当たりにして、感動させられたわけです。
ただ、冷静になって見ると、四角いディスプレイの中にいる事実に変わりはないんですよね……。
それに、ディスプレイ同士の隙間でキャラクターの姿が見えないことへの違和感もある。VTuberがリアルで歩く姿に感動しつつも、「目の前で接する」という体験の濃度では、まだVRのほうが勝っている印象もあります。
それでも、これまでは「ステージ」だけで完結していたリアルイベントに、ある種の「立体感」が加わったことで感動させられたのも事実。
あの “歩いてくる” 体験は現地のほうが実感しやすかったようにも見えますし、参加して本当によかったなーと。割とこの時点で満足していた感じはある。早い。
大盛りあがりのライブパート
出演者紹介も兼ねたファッションショーが終わると、いよいよライブに突入。
今しがたランウェイを歩いていた全出演者による『ロキ』を皮切りに、代わる代わるVTuberたちが登場。合間合間にMCも挟みつつ、無数のディスプレイも用いたパフォーマンスを見せてくれました。
ステージ上のディスプレイやランウェイ上のパネルを見上げれば、そこには数々のVTuberたち。そして周囲を見やれば、各々が思い思いの方向に向かってサイリウムを振り、スマホを構え、推しの姿を視界に収めつつ跳ね回る観客の姿。
なんとなく不思議な光景だけれど、こんなん盛り上がらないはずがない!
印象的だったのが、通常のライブと違って、あちらこちらへと視線を動かしつつ腕を振り上げている人が多かった点。
でも、そりゃあキョロキョロするのも仕方ない。だって、ステージ上からランウェイ上まで立ち並ぶ無数のディスプレイに、大勢のVTuberの姿が映し出されているんだもの。どう考えても、目が足りない……!
選曲・歌唱・パフォーマンス含めどれもこれも魅力的だったのですが、さすがに全部は取り上げられないので……。
いくつか挙げるとするなら、まずは、ピンキーポップヘップバーン(@pinkypophepburn)&もこ田めめめ(@mokomeme_ch)の2人による『ワールズエンド・ダンスホール』。
イベントならではのコラボレーションで、しかもこの曲っすよ! 本家や派生動画を想起させる映像演出がすばらしく、思わず見入ってしまった。というか、笑ってた。最高すぎて。
衣装が目立っていたのは、YuNi(@yuni_vsinger)ちゃん。
最初にランウェイで目にした時点で、遠目にも「燃えとるーーー!?」という驚きがありました。しかも見るからに発火しているのに、YuNiちゃんの雰囲気や演出がそう見せるのか、「メラメラ」よりも「ふわふわ」と形容するのがしっくりくる不思議。
あと個人的には、KMNZ(@kmnzlita / @kmnzliz)の衣装も最高でしたね!
KMNZと言えばストリートファッションのイメージが焼き付いていたこともあり、流麗な「和」の装いは新鮮。しかも和傘っすよ! 和傘! 和装好きにはたまらない衣装でございました。普段の2人のイメージを対比させたデザインという点もてぇてぇ。
そして終盤、花譜(@virtual_kaf)ちゃんの『魔女』で涙腺が崩壊した。
日常的にリピートして聴いているにもかかわらず、いまだに泣かされるほどに大好きな歌声。それを大きな会場で聴けるというだけでも感涙ものなのに、さらに特別なRemixで堪能できるとか、最高じゃん……。
そうやって限界オタクと化していたところ、不意打ちのように登場したのがEGOIST(@egoist_2039)。まさかのトリである。
EGOIST──というかryoさんの作る楽曲は昔から大好きで聴いていたものの、これまでにライブで聴く機会はなく。恥ずかしながら、もう6年も前からあのスタイルでライブをしていることすら知りませんでした。
なので、ステージに立った姿を見て、しばらく経ってからそれが「キャラクター」であると認識した瞬間、脳がバグった。
顔が見えそうでくっきりとは見えない絶妙な距離感だったからかもしれないけれど、自分は彼女を「生身の人間」だと認識していたんですよね。1曲目が終わるまで。だって、あまりにも緻密な姿で、自然に動いていたんだもの。
──あるいは、生で聴く『名前のない怪物』に感動してぶちあがっていた影響もあるかも。
でもよくよく見ていると、自然なようでいて、あまりにもぬるぬると動く不自然さにふと気づく。人間の動きにしては、髪の毛がゆらゆらしすぎている。風があるにしても、どこかおかしな挙動をしていたんですよね。それがなければ、もうしばらくは彼女が「バーチャル」であると認識できなかったんじゃないかしら……。
狐につままれたような気持ちになりつつ、EGOIST・chelly(@chelly_zzz)さんの歌唱に夢中になっていたライブ終盤。
過去、鬼のようにリピートしていた『The Everlasting Guilty Crown』を聴けた感動で再び涙腺をぶっ壊しつつ、『英雄 運命の詩』の衣装チェンジで「ジャンヌゥゥゥゥゥウウウ!」と叫び、最後はVTuberたちも再登場しての『咲かせや咲かせ』で大団円。
まっこと楽しいイベントでございました……!
おっと、忘れちゃいけないアンコール。
出演者公募企画で選ばれたVTuberたちが出演する「Rookie’s Runway」。ここで、みたび泣いた。「50人ものVTuberたちが一堂に会して歌う」というだけでもすごいのに……選曲が……選曲がぁ……。
「まさに今盛り上がっているネット発のムーブメントの中心にいる人たちによる『Dear』の合唱」とか、古のニコ厨にぶっ刺さるに決まってるよね!?
思い出すのはボカロ普及期、多くの「歌ってみた」が投稿され、それをまとめた合唱動画がランキングに上がり、狂ったように聴いていた頃の記憶。
しかもそれを、現在の推しが、「逢いたくて逢いたくて 声にならない声で 君の名前を呼び続ける」って歌ってるんすよ! エモいよ……エモすぎるよ……。
ありがとう……FAVRIC……。
明日からも生きていけるのじゃ……。
SNSで聞かれた問題点と、来年への期待
そんなこんなで、個人的には大満足だったFAVRIC。
全体としては「音楽ライブ」としての要素が大部分を占めていたように感じるものの、より立体感のある体験ができるイベントとして、他のVTuberイベントとも差別化ができていたのではないかしら。
とはいえ、「ライブ」としてのインパクトと満足感が大きかったことも手伝って、肝心の「ファッション」要素が霞んでしまっていたように見えたのも事実。
それぞれに独自のコンセプトデザインがあるという衣装についても、「詳しくはパンフレットに書いてあるよ!」とのことで詳しくは知れず。会場入りが遅く、物販に並ぶことすらできなかった自分は、それを確認できなかったのです……。事後通販、待ってます!
また、それ以外にも「ちょっとここは……」という声が、終演直後から少なからず聞かれていた印象。
特に映像やCGに携わっている人からは、技術の拙さを指摘する意見がちらほらと挙がっていたようです。僕自身は素人なので何とも言えませんが、一部の衣装を見て感じた「VRChatで設定をミスったときに感じる “のっぺり感” 」が、もしかするとそれだったのかな……?
技術面のみならず、参加者による問題点の指摘は終演直後からTwitter上でも見られていました。noteやVTuberを取り扱うメディアでも、いくつかの記事が投稿されています。
中でも、ランウェイの正面前方にいた人たちからは「残念だった」という声が多く上がっている模様。
「音楽ライブとしては特等席なのでは……?」と首を傾げつつ読んでみると、どうやらランウェイ正面のモニターに隠されて、ステージ上のメインディスプレイがまったく見えなかったらしい。それはキツい……。
良くも悪くも、 “角度” によってまったく違った見え方をしていたFAVRIC。
無視できない問題もあった……とはいえ、あれだけの規模のイベントを開催し、現実の「ランウェイを歩くVTuber」の姿を形にして実現させたのは、きっとすごいことだと思うのです。いち観客として、VTuberファンとして、大声で「助かる!」と感謝の意を示したいところ。
すでに来年の開催も決まっているようですし、上記のような声は主催者さんたちにもおそらく届いているはず。次回は席に関係なく、それぞれが思い思いに楽しむことができるような環境で、さらにパワーアップしたイベントが見られればいいなと思います。
そのためには、もっともっとVTuber界を盛り上げていく必要もありそう。
数多くのVTuberイベントがあった2019年ですが、年末にかけてまだまだ大きな動きがありそうな予感。「バーチャル」の世界に心奪われた1人として、今後も全力でこの世界を応援し、楽しんでいく所存でございます。
余談:Moguliveさんで、白上フブキちゃんの紹介記事を書きました!
元記事:ぐるりみち。
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