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書評『侵略日記』 その前記

写真は「Friction Loss」

 市民革命を経た産業革命は、大量に生産し大量に消費し、中世から在位し続いた帝国主義と結託。労働力と市場を求め膨張し続けた。非科学的な迷信や信仰を近代科学は農村に追いやり、齎されたリアリティーは「ドン」「ドン」と、抜き差しならない大量死を齎した。
「20世紀」とインターネットで検索すると「キノコ雲」が真っ先に現れた。近代の書籍巻末「おわりに」を表すのが二発の原子爆弾である。
 そして現在、再び核の脅威は高まった。違いといえば侵略した側が核で他国を恫喝するという、どうかと思う程に悪化した。

 戦争という状況に陥った当事国外が目にする「戦争」というものは、概ねメディアを経て知るものだ。そこに映し出されるのは当事国の代表者と、名も知らない兵士と、名前も知らない被害者である。画面に映らないウクライナに暮らす人々は、戦争の前後どのようなものを見て、どう感じ、どう考えていたのだろうか。
 インターネット網が発達した現在、SNSを介することでこれらを知ることが出来るのだろうが、問題がある。遡上される膨大な現在の声は、次々と投稿される現在の声に素早く押し流され、全てを拾うということは到底不可能。同時にその現在の声には担保無き信憑性が関わってくる。
「視聴回数」「インプレッション」 流言飛語は味付け派手目で強目。盛られるだらしのない情報と演出が飛び交い、更にそこに加勢するAI精製による映像や音声、文章、はたまた居るのか居ないのか怪しいアカウントなどなどなど、日々全世界的社会信用の下落は続く。
 社会インフラの一部になりつつあるソーシャル・ネットワーク・サービスとは、一体誰向けのサービスに陥っているかを考える時期は疾うに迎えているが、これらの状況に向けられる運営会社の対応方針は、混乱を助長させることでイニシアチブを握ろうとしする節を感じる。事実よりも判りやすく派手目で強目な味付けは耳目を引きやすい故、このまま続けるつもりなのだろう。また、これは民間企業が運営していることも今一度考えるべきであろう。この忠言は総じてインターネットありきの社会設計を指す。
 ある日、大気圏内では無理だろうが、大気圏外ならば核弾頭を起爆させても制裁くらいで済むんじゃないかというものが現れ、実行したとしよう。爆発後に発生するEMPは全世界をオフライン化し、ネットワーク依存が高い程その社会は脆弱に陥る。物理的損傷はないのだが、至るところで機能不全をきたし、機能不全が別の機能不全を巻き起こしていく。
 SFの苗床なえどこのようなこうした設定は、作家の頭の中の頭の中の杞憂に留まることを願う。小姑の嫁いびりのような小言で済めばいいのだが、今後ますますインターネットありきで社会設計は進められていく。IT化と同時に高齢化社会待ったなしのご時世、お年寄りに押し寄せるIT化順応の波が止むことはない。これは凶悪化した観光地の寸借詐欺が、固定電話からパケット通信に鞍替えすることを暗示する。 私は今後伸びるIT産業とは、ユーザーヘルプセンターを整えた企業だと確信している。何故ならば合理化の名の下に切り捨て続けられたサポート対応の結果、インターネット上は荒れ野に絶滅危惧種と化した善意が辛うじて残り、点在する数々の村社会エコーチェンバーといった感を持っている。
 私はある日アカウントの不正乗っ取りに合い、ユーザーサポートに問い合わすが、有志による回答のみであり、解決案は雛形のURL先を見てというもので、陥った状況は雛形に該当せず、最終的な回答は「諦めましょう」というものだった。無常感を学べということだろうか。
 OS上に乗っかるサービスはサービス先に。サービス先のヘルプは有志によるもので、お役所の冷酷な対応を「縦割り」と非難する声があって久しいが、どっこい民間の方がサックでドライだ。
 ふと思う。自分は当然ながら歳をどんどんと重ねていく。数十年後のIT機器はユーザーフレンドリーに成っているのだろうが、ネットワーク上に外部記憶化していく自己を、自身は制御出来ているだろうか? 何かあった際、半ば自分だけでそれに対応出来るのだろうか?
 問題がない場合は大変便利だが、問題が生じると非常に複雑なことになっているというのを感じる。
 如何わしい詐欺の氾濫と、コストカットによる結果、ユーザーサポートの領域をブルーオーシャン化させるというのはどうかと思うぞ。いや、本当に。
 そうしたことを通過しながらSNSにどっぷり浸かり、辛辣な世の中を斜め読みし歳を重ね。複数設えたアカウントから、猿に人工知能を搭載させたことにも劣るアカウントを選択。問題には直接向き合わず、2byte文字の石をインターネット上に、いや、中なのか? どっちでもいいや、両方に向けてイラっときたら至急投げ捨てる、空虚なデットボールラーという老い方は避けたい。
 今後の選挙で高齢者向け演説に、ユーザー数に対して如何程規模のヘルプセンターと品質を示せる議員が票を集めるかと想像する。そこには論理があることを願っている。
 SNSを介し現在を知ることの障壁の最後に取り上げるのは、ザ⭐︎老舗「言語という壁」である。綿々と続く障壁は、昨今のインターネット上の狂躁に比べれば純朴なものだ。SNS上の罵詈雑言も読めなければどうということはない。それ故に単純化された判りやすが人気を得て、派手目で強目な味付けの……。ただでさえ戦争で気が滅入るのに、止そう。先行きがクラクラしてきた。
 そうした思いの中出会ったのが本書『侵略日記』 ウクライナ在住の作家アンドレイ・クルコフが著述したウクライナ戦争開戦前の当事国の雰囲気と、侵略後での戦争下の暮らしを書いた作家の日記。
 侵略は突然起きたわけではなかった。着々と進められ、ひしひしと迫る圧を辛うじてユーモアにし、それでも日常は営み続けたが……。

 読み進めながら所々思うのは、ウクライナという国についての基礎教養が求められることだった。本文中に民主化運動の名称や、歴代の大統領名などが現れるが、素地がなければリアリティーのある戦争渦中の話として読み片付けられてしまうかと想像する。
 ウクライナ周辺の欧州国は、ロシア産の天然ガスや、ウクライナの企業との業務取引、関わる人物の変死など欧州は身近な存在かと思う。
 こうして書くとあたかも私は訳知りの事情通のようだが、ウクライナの歴史に詳しくはなく、戦争前までの認知度は、正午と午前の狭間に放送されるTVのニュースにて断片的に知るようなもの。
 侵略戦争を同時代的に知っていった読者と共に、筆者が学び得た現在のウクライナにおいて重要であろう事柄を知り、それを踏まえた上で本書にあたってもらえると嬉しい。
 尚、この考えは映画の鑑賞体験から芽生えたもので、歴史に基づく作品の場合、その背景を知っているかどうかで、作品の到達深度は雲泥の差が生じることを幾度か経験した上で思い浮かんだ。
 映画開始時刻に席につくものの、同じ映画の予告を何度も、10代の恋愛物語を40を超えた男が、二度も見せさせられることを考えてほしい。いや、世代間をベルリンの壁のように断絶してしまうのは良くない。予告の一度くらいは見させて頂く。親目線で見守るふりも出来る。しかしこれが二度だ。これは思想教育か何かか。
 若者向けの恋物語予告の輝度は、ただただ眩しく、俺の目から光を奪う。映画館から帰宅後、心の目で 「SNS!」 映画オフィシャルアカウントを検索。発見。「ブッ壊してやる!」 猿に人工知能を搭載させたことにも劣るアカウントをアクティベート。怒りのフリック入力。憎悪の2byte 呪いの詩が綴り始まる。「白旗掲げやがれ!」投稿せんとする俺の右ベトナムを、左ベトナムが押さえ込む。
☆映画『プラトーン』のバーンズとエイリアスが揉めるシーンあるじゃん。アレ。
☆ベトナム国籍の方ごめんなさい。

 呪ってばかりでは仕方ない。だったら自分で提供していこう。ということで現在のウクライナに関わる重要なことであろうことを時系列毎に掲載。大枠の時系列を知ることで『侵略日記』の読書体験にパースが付帯することを願う。
 ウクライナ。西はローマ、東もローマ、西欧と東欧が接合する分水嶺たる地勢故、字面にすれば平面的であるものの、理解に奥行きが加わると深度が増し増すは我らが3次元と時間の世界の住まう民であることに他ならず、それ故時系列は大切でございます。ただの年号の記憶ゲームってのはほんと面白くないですよね。
 尚、選出する年次は筆者の私見である「払うもん払え。約束守れ。人の家に土足で踏み込んで来んな。偉そうにしてくんな。ズルすんな」それだけでございます。

 因みに私の恋愛自由思想は「男だって、優しくて面白い人が好き」 以上です。

☆現在ウクライナの重要な事柄 にこ調査☆
・1986年04月26日 チェルノブイリ原発事故
 事故原因を隠蔽すべきとしたソ連保守派。こうした体質がソ連崩壊の原因ではないだろうか。
・1989年12月25日 米ソ冷戦終結マルタ会談
 第二次世界大戦後から開催が延期し続いていた、核弾頭W杯の開催がやっとこさ中止決定。遅えよ。
・1991年08月19日 ソ連8月クーデター
 ソビエト連邦内の各共和国の権限を強め、一党独裁を否定するゴルバチョフ大統領を軟禁した共産党内の保守グループ。ロシア連邦初代大統領ボリス・エリツィンに戦車を送り込む。
「これは右派勢力による非合法なクーデターだ」 戦車の上に登り、国民の呼びかけるエリツィン。結果クーデーターは未遂に。
 ロシア国民は民主主義を守り、他共和国の自立を守ことに繋がった。
 力ずくで民主主義をねじ伏せんとする旧保守派、ソビエト共産党中央委員の解散に至る。
 これこそが事実上のペレストロイカではないだろうか。
・1991年08月24日 ソビエト連邦解体に伴いウクライナ独立国宣言
・1991年12月03日 ロシア共和国、ウクライナの独立を承認
・1991年12月25日 ロシア共和国 国名を「ロシア連邦」に変更
・1994年12月05日 ブタペスト覚書
「ウクライナ」「カザフスタン」「ベラルーシ」が旧ソ連時代の核弾頭をロシアに平和を込めて返却。「米」「英」「露」三国がその後の安全を保障するという内容。
・1996年06月28日 ウクライナ憲法制定
・2004年11月22日 オレンジ革命 
 2004年のウクライナ大統領選挙「ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ」の結果を受け、野党の対立候補「ヴィクトル・ユシチェンコ」陣営が起こしたストライキ、デモ。
 権力の集中とその時間に応じて独善的に至る。人はそもそも非合理的であり、産まれながらに人間として誕生しない。一部の人間を除き、不条理極まる行政に、民衆は嫌気が指すというのは別段不自然な事ではない。ウクライナはEUとの経済を強めるか、天然ガスなどエネルギーを軸に旧来のロシアと共にするか、ソビエト連邦崩壊後、選挙不正と腐敗がしつこく付き纏う。差し詰め東欧の呪いか。
 ヴィクトル・ユシチェンコ陣営のシンボルカラーがオレンジ色だったため「オレンジ革命」と名付けられた。バイクメーカーKTMとは関係はない。
・2013年11月28日 EUとの自由貿易協定の締結を拒否
 ヤヌコーヴィチ大統領は高騰する天然ガス価格など、ロシアからの影響により、協定への署名を拒否した。そこにはクリミアへのロシア黒海艦隊の常駐機関の延長など、EUに近づくウクライナを剥がす取引が組み込まれていた。
 政治腐敗、警察や特別警察による恣意的な取り締まりなど、強権政治の無茶が遂に堰を切る。
 一党独裁共産党というイデオロギーをロシアが打ち破った筈だ。旧共産党保守派とは、即ち特権階級であろう。
「ソ連8月クーデター」のロシア民主主義は何処に行ったのか?
・2014年2月18日 尊厳革命マイダン
 腐敗と癒着を氾濫させ、それを再びと思われれば国民から反対されるだろう。何故ならば100人中数名の特権階級が旨みを持つ仕組みに賛同するいわれは私信に立脚しない。公共において組み立てられると思う。それは税や福祉にて成り立つものである。
 結果、大規模な反政府デモが発生。警察は群衆を攻撃し、死者を出す。ヴィクトル・ヤヌコーヴィチはロシアに亡命。
 尊厳革命を「クーデター」と認識するロシアは『ソ連8月革命』 共産党保守派を遠のけた、ロシア国民が望んだ民主運動と矛盾を抱えることになる。
・2014年2月20日 ウクライナ、クリミア半島庁舎を謎の武装組織が占領
 尊厳革命後に勃発。判り易い。ウクライナの交戦相手は「謎の武装組織及び親露独立派」ということに一応なってはいる。
・2022年2月24日 ロシア軍によるウクライナ侵攻開始
 ウクライナの交戦相手はこれでロシア軍となる。
・2022年2月27日 首都キーウ北西部の村「ブチャ」での住民虐殺
 これの何処にロシアの正当性があるのか。

 次にウクライナの簡単な地域特徴を。
 ウクライナ東南部、ドネツク州、ルハンスク州を「ドンバス地方」と呼ぶ。ドンバスはウクライナ最大の炭鉱地域があり、元国有企業を私有化し誕生した新興財閥オルガルヒなど、裕福層が多く住む。親ロシア派の議員を送り出している。
 尊厳革命後「不当な弾圧を受けるロシア系住民の保護」の名目の下に、ドンバス地方を親露派分離主義勢力が実効支配を続けている。

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