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HRテック3.0「パフォーマンス・マネジメント」 企業文化を競争優位性に変えて、チームの成果を最大化させる

緊急事態宣言以降も、経営層と現場の働き方に対するズレはある。

先日Amazonが「完全テレワーク型」ではなく、出社とリモートをmixした「ハイブリッドワーク型」が最も生産性が高いと判断し、社として公式運用するというニュースが話題になった。

経営陣と従業員の間で求めるワークスタイルにギャップがあるので、引き続き最適解を探していく流れだと感じるが、このAmazonの判断は世界にとって大きな分岐路になると感じている。

●米アマゾン・ドット・コムは10日、一部従業員の勤務体制として、1週間のうちオフィス勤務を3日、リモートワークを2日にすることを認めると発表した。
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-amazon-com-idJPKCN2DM2OD

「働き方改革」や「ジョブ型雇用」の流れもあるが、何よりコロナによるライフスタイルの変化により、日本でも加速的に導入が進んだリモートワーク。

コロナの緊急事態宣言は解除されたものの、就労環境は依然「コロナ期において適応した状態」のままであり、多くの人がオンライン勤務で働いている。

緊急事態宣言解除に合わせて「出社スタイル」に戻す会社も散見されるが、アメリカと同様に「完全にリモート禁止」にするわけではなく、リモートワークと出社をミックスする形態が一般化している。

Amazon社や、後で取り上げる Apple社で働かれている方々のことを考えると、こういった「ハイブリッドワーク」が最も市民権を得るのではと思っているが、現場において出社が週に1日でも発生すると、「リモートのほうが良かった」といった後ろ向きの精神が生まれることは想像に難くない。

一方、経営目線に立つと、実態経済指標の悪化や、企業の廃業・倒産ニュースが流れることもあり、「チームの一体感/帰属感が強化されないが、厳しい戦いに突入していく」恐怖が日に日に強くなっていくだろう。

非常に過酷なビジネス環境において、今まで人類が味わったことがない環境において、会社としての成果を出したり、働きがいやエンゲージメントを高めてチームが働いていくために必要な要素は何なのだろうか。
今日はその解について、HR領域で先行している北米の流れを基に、個人的な意見をまとめてみた。

「人の獲得・最適配置・生産性を持続的かつ高度に発揮できる状態に近づける」

これらの実現がHRも使命であり、各領域の効果を最大化させることが、どんな企業・どんな時代においてもHR担当に通底する最も重要なミッションだと考えているが、その前提に立つと下記のポイントにおいて、特にHR/人事担当者の働きが変化していくのではないかと感じている。というか変化できない企業は、今後戦えない状態になるのではとさえ思っている。

この流れに沿って対応していく企業は、今後厳しくなるビジネス環境の中でも大きく飛躍するのではないだろうか。

①「エンプロイー・エクスペリエンス(従業員体験)」と「パフォーマンス・マネジメント(チームの成果を最大化)」

②「チームと個人の成果を最大化させる『パフォーマンスGM』という新しいHR施策の担い手」

…前段が長くなったが、この2点について意見を整理した。

「エンプロイー・エクスペリエンス(従業員体験)」の重要性 - カスタマー化する同僚たち

上にAmazonのニュースを記載したが、同じ頃こんなニュースがあった。

●Apple社員、オフィス復帰命令に反発 CEOに公開書簡で訴え
https://forbesjapan.com/articles/detail/41751

トップ層が決めた方針に対して、従業員は完璧でなくともある程度その意向に沿った働き方をする、という慣習があったが、まさに隔世の感がある。
ここで言いたいことは、どちらが正しいかではなく、ここ数年にわたって「働く」というその意味が大きく変化する時代の中でも、現在は非常に大きな変換点である、ということだ。

これまではリモートなのか、出社なのか、つまり「働く場所(where)」に焦点があたっていた。

そこから進展して、「企業の意思決定体(who)」に変化が生まれつつあるように思える。

従来の経営層に加えて、「従業員の意思」が間違いなく経営判断に大きなウェイトを占めてきている点を、大きな転換点と個人的に捉えている。

これまでは社長や経営層が「リモートワークなんて終わりだ」と意思決定して上意下達すれば、リモートワークを続けたり、終わらせられる時代だった。
そうではなく、「これからの働き方に関して、経営層の意思決定に対して、従業員がNOを突きつけて、市民権を得た」のである。

「働き方」が、会社と従業員の間にある今後の摩擦になることが確定したのだ。

更にここで強調したいのが「社長や経営層が、従業員の意に反する働き方を納得感がない状態で強制してしまうことは、従業員のエンゲージメントを大きく損ねてしまう」点にある。

トップダウンで、働き方を決めてしまうことが、経営上非常に大きなリスクを抱えることになることを理解しているからこそ、GAFAといった巨人企業たちも、「働き方」に関しては非常に繊細な決定や舵取りをしている。

上に書いた「摩擦」とともに企業は歩まねばいけないが、一歩間違えると「紛争」になることもありうる。

遠いアメリカの話で終わらせるのではなく、これらのニュースは他山の石にすべきだと個人的に考えていて、コロナが完全に落ち着いたとしても、一度新しい働き方の効率性/快適性を知ってしまった労働者は、コロナ前の考えに基本的に戻れないのではと思っている。

緊急事態宣言が終わっても、多くの企業がリモートワークを導入していて、とある調査によると9割の企業が「コロナが収束してもリモートワークを継続したい」と回答した調査もあり、社会が完全にコロナ前の状態に戻るとは考えにくい。

NTTの下記ニュースは非常にインパクトがあったが、経営がどのように推移していくか非常に興味深い

●NTTグループ、リモートワーク基本に 転勤・単身赴任も撤廃
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2109/29/news091.html

なお、Appleに至っては、先日こんなニュースもあった。
性差別的な著作を出したことのある人間が2000名の署名により、採用から数時間で解雇になったという展開。

■Appleがテック業界の“狂宴”を暴いた男を採用するも、従業員の猛反発で解雇した問題の顛末
https://wired.jp/2021/06/02/plaintext-chaos-monkey-apple-uprising/

会社の舵取りを任せられた経営陣にとって、従業員は、同志でもあり、お客様にもなりつつある。

マーケティングでは自社商品を購買した「お客様」に対して、その場限りの関係性に終わるのではなく、「メールでのフォロー」など継続的にタッチポイントを創出する取り組みがオンラインを通じて進化/一般化したが、従業員のカスタマー化が進むと、HRの領域においても、マーケティングと同じく「関係維持を強化する」ことが今以上に重要になるのではないか

エンプロイー・エクスペリエンス(Employee Experience)と呼ばれるものの重要性は、HR関連メディアでも語られてきているが、その背景としてこの「従業員が一方で、お客様化しつつある」ことは見逃せないと思う。
この変化による影響をダイレクトに受けるのは、直にメンバーと接している「中間管理職=マネージャー」だろう。

「お店とお客の関係性」を想像したとき、頭ごなしにお客を怒鳴ることしかしない店主は自分のお店を維持できないように、まずはマネージャーとメンバーの関係性が大きく変わってくる。俺はマネージャーだから言うことを聞け、といった肩書に頼った強制力は無意に近づいていくだろう。

マネージャーはメンバーというカスタマーとどう向き合うべきなのか。完全にメンバーをカスタマーとして扱う対応は、社にとってもメンバーにとっても良くないが、あらゆる企業が今後、リモート/出社を融合した多様な働き方に合わせて「従業員体験」を再設計していくことが求められる。
オフィスとリモート、仕事とプライベート、あるいは社内と社外など、いろいろなものが融合していく。

ではそんな時代に対してHRパーソンができることは一体なんなのだろうか。

「働きがい」とは、残業時間の削減やリモートワークの実施など、影響レベルがわかりやすい「働きやすさ」と、一見しただけでは非常にわかりづらい「仕事のやりがい」の足し算


リモートワークはずばり「働きやすさ」を支援する取り組み
だ。

今後は「働きがい」を支援する取り組みが主流になってくるのではないだろうか。

「働きやすさ」と「働きがい」は別の指標で、相関性についてはまだはっきりしていない。

そもそも働き方改革においては、「働きやすさ」よりも「働きがい」を創造することがより本質的に重要であり、コロナによるリモートワーク化による「働きやすさ」の改善が進みにつれて、「働きがい」の重要性がますます顕在化してきたと感じる。

個人的には、「働きがい」とは、残業時間の削減やリモートワークの実施など、影響レベルがわかりやすい「働きやすさ」と、一見しただけでは非常にわかりづらい「仕事のやりがい」の足し算だと思っている。
メンバーにとっての報酬が、ないと不満を抱く「外的報酬」と、あると満足する「内的報酬」の総和であるのと似た構造かもしれない。

働きやすさに加えて、「仕事のやりがい」の部分を1人ひとりのメンバーが感じられるように、経営者やHRパーソンは、社内の仕事や働き方をプロデュースすることが求められる。

企業文化が競争優位性をつくる

リモートワークが普及し、1人ひとりが自分自身のキャリアや人生を見つめ直したことによって、この傾向は加速度的に高まってきているように思う。

そんな時流の中で「働きがいをプロデュースする」とは、メンバーがそこにいる意味を創造し、その1人ひとりが価値を発揮できる場を作ることに他ならない。
企業と個人はもはや対等に選び・選ばれる時代になってきている。経営者やHRパーソンにとって、メンバー1人ひとりとの積極的な対話が、これまで以上に大切になる。

言葉にするのは簡単だが、これをやりきれる会社はまだまだ少ないだろう。

ただ、実現を目指す企業には「意味性を感じる仕事、意気投合した仲間と、チームで挑める」文化が生まれ、その文化を起点に企業に競争力が生まれる。

企業文化という言葉は非常によく登場するが、その実態はよくわからない言葉でもある。

私は企業文化とは、「メンバーが一定の好ましい行動をとる確率を高める」ものだと捉えていて、「意味性を感じる仕事、意気投合した仲間と、チームで挑める」文化を築くことができれば、会社にとって大きな生産性をもたらす状態になれると信じている。

飛び抜けた人材が採用しづらく、商材もマーケ手法もコモディティ化する中で、上記に記載したような文化構築は非常に有用だと考えている。

文化を築きあげることは難しいが、一度築くことができれば、他社は真似しづらいので障壁ある差別化が実施できる。

整理していく中で最も言いたいことの1つは、今はまさに「企業文化が競争優位性をつくる」時代であることだ。

企業文化をつくるには「キャリア開発への貢献」と「リアルタイム・フィードバック」

では上記のような「意味性を感じる仕事、意気投合した仲間と、チームで挑める」状態になれるよう、「メンバーが一定の好ましい行動をとる確率を高める」、つまり企業文化をつくるためにできることは何なのだろうか。

私はマネジメント層の「キャリア開発への貢献」と「リアルタイム・フィードバック(高頻度な定期的なフィードバック)」が大事だと考えている。

リクルートワークスの研究者千野さんの1年にわたる調査結果をご紹介すると、実際にこの2つの有用性が語られている。


こちらの研究の概要をざっくりまとめると、日本でもっとも導入されている目標管理/評価モデルであるMBOに、「キャリア/能力開発支援の高頻度フィードバックを組み合わせると、組織はどうなったか」を追跡調査した内容である。

リクルートワークス記事1

結果を記載すると、

・「やりがいや・納得感/達成感があるストレッチ目標の達成を目指す」ことは 全年代で能力向上にプラスの効果がある。
・「上司からの支援」もすべての年代で能力向上にプラスの効果
・20-40代で「今後のキャリアについての話し合い」は最も能力向上にプラス
・40-50代は「新しいキャリアへの働きかけ」が最も能力向上にプラス

という結果だった。

リクルートワークス記事2

リクルートワークス記事3


※スコアは能力向上やエンゲージメントの総和

この調査を見る限り、キャリアに関する支援及びリアルタイム・フィードバックは有意に効果があることがわかる。

多くの会社は

「マネージャーが忙殺されていて、業務にいっぱいいっぱいでメンバーの成長に関する意思について把握していない」

「キャリアや評価に関するフィードバックは3-6ヶ月に1回」

というのが内実だと感じるが、まさにこの時流重要なことに対して、正反対の方向性だ。

繰り返しになるが、「飛び抜けた人材が採用しづらく、商材もマーケ手法もコモディティ化する」状況において、育成は非常に重要だが、「人を育成する文化」になることは非常に大きな競争優位性構築につながるだろう。

「パフォーマンス・マネジメント」とは


「人を育成する文化」と「成果を生み出す文化」を、どちらかだけに肩入れせず、会社が成長できる状態をバランス良く築きあげるため、フィードバック/1on1の過程や成果をトラッキングできる仕組みを、北米では「パフォーマンス・マネジメント
」と名付けていて、Fortune500のうち20%の大企業が、この5年で社内にパフォーマンス・マネジメントを導入した。

OKRの欠点を補強する形で、ハイスピードで普及が進んでいる。

具体的には下記がパフォーマンス・マネジメントの特徴である

①目標が各メンバーがやりたいと思うものか、会社目標に貢献するものか、工夫すれば実現が見込めるレベルのストレッチ目標であるかの定期確認
②あらゆる現場で、週1〜月1レベルで、1on1やフィードバックが実施されているか、またその質を確認する(成長や能力開発に関する話がなされているかちゃんと把握する)
③マネージャーがメンバーを半期に1回ではなく、定期的に評価状況を伝えているか

外資系企業のマネージャーはこういった内容を一般的に業務内容に含めているが、日本企業のマネージャーはまだ取り組めていない人が多く、ハードルが高いと思われるかもしれない。

しかし、これからチームで更に高い成果を出していかざるを得ない状況では、こういったことに取り組む企業・マネージャーがコロナ以降加速的に増えてきている。

最終的には、成果・成長を果たす社員が評価される(正しいとされる)状態になると、その企業に徐々に競争力をもたらす文化が生まれる。

余談だが、このパフォーマンス・マネジメントはHRテックの中でも投資対効果が出やすく、主に「離職防止」と「評価業務の効率化」に貢献できることがわかっている。
※売上も平均社員1人あたり10%向上したという先行研究があるが、売上は関係する変数が多いので鵜呑みにするにはまだ早い印象で、これから解明が進むだろう。

投資対効果

パフォーマンス・マネジメントをこれからスタートするなら、まずは

①目標が各メンバーがやりたいと思うものか、会社目標に貢献するものか、工夫すれば実現が見込めるレベルのストレッチ目標であるかの定期確認
②あらゆる現場で、週1〜月1レベルで、1on1やフィードバックが実施されているか、またその質を確認する(成長や能力開発に関する話がなされているかちゃんと把握する)

…をサポートする「パフォーマンスGM」の役割を設置することがオススメで、会社の生産性を高めるHR施策を実施したい人事の方や、マネジメントに強く興味のある現場リーダーが兼務するとうまくいきやすい。

HRテック3.0の中心を締めると言われる「パフォーマンス・マネジメント」だが、日本においても今後普及が進むのではと思っている。


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