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リスキングバブルが引き起こす『学びズレ』に注意!本来の意味と実践する企業3選

大リスキリング時代は”リスキリングバブル”に?
本来の目的は企業成長のため

リスキリングに対する注目度が高まっている

2020年に開催されたダボス会議で『リスキリング革命(Reskilling Revolution)』が大々的に発表されました。そして、日本でも岸田首相が2022年秋の臨時国会で「リスキリング支援」に5年で1兆円を投じると表明し、「リスキリング」は2022年の流行語大賞候補になりました。

世はまさに、大リスキリング時代となっています。

リスキリングの本来の目的

「リスキリング」という言葉は急激に広まっている一方で、企業目線でリスキリングの本来の意味を捉えた実践を行っている企業は少ないように感じます。
このままでは、本来のリスキリングが広まらず、"リスキリングバブル"として一過性のブームで終わってしまうのではないかと、私は懸念しています。

リスキリングは本来、個人のスキル・キャリアアップのための学び直しではありません。
あくまで企業を取り巻く環境や技術の変化に対応し、企業が求める人材を育成するためにスキル・キャリアアップの機会提供をすることが元々の目的です。

つまり、企業側が自社に必要な人材の要件整理やリスキリングの全体像の青写真を描いた上で、リスキリングの取り組みを推進する必要があるのです。
加えて、企業は企業の目指したい成長と従業員個人の目指したい成長を結びつけるアプローチも必要です。

そもそも人への投資は企業成長最大のドライバーである

リスキリングと同じように「人的資本経営」という言葉がブームとなっていますが、投資家も、社員の能力や人材戦略を重視するようになってきています。

日本経済新聞の「人への投資、企業価値を左右 スコア上位の株価7割高」という記事によると、若手の成長を重視する企業などで株価や業績が高まっていることがわかったそうです。

リスキリングによる企業成長を阻む「学びズレ」

リスキリングを推進していても人材育成には苦戦している会社が多い

ここまで人への投資が企業成長において最も重要であるということをお伝えしてきました。
近年においては、その人への投資の代表例がリスキリングとなっています。

では、積極的にリスキリングを推進している会社は人材育成に成功し、株価や業績の向上を実現できているのでしょうか?

実は、必ずしもそうとは限りません。
会社によってはリスキリングをしているのにも関わらず、社員の成長が期待を下回るということが多く発生しています。

しかし、なぜリスキリングを実施しても人材育成が成功しないのでしょうか?
私が代表を務める株式会社オーは人材育成を中心とした事業を展開しているため、リスキリングに関連した支援事例が複数あるのですが、リスキリングを推進しているのに、人材育成がうまくいっていない企業には共通する一つの特徴があります。

それはどの企業も『学びズレ』が発生しているということです。

『学びズレ』とは

『学びズレ』は弊社による造語で、”自社にとって必要な、新しい環境に適応できる人材や新たな産業・事業を生み出すことのできる人材の育成”から乖離した、個人だけのための学習機会を提供することを『学びズレ』と呼んでいます。

『学びズレ』が起きている企業では、従業員はスキルを得ていますが、それがその企業にとって必要不可欠なものではないため、昇進やキャリアアップに繋がらず、企業にとっても従業員にとってもかけた時間が無駄になってしまうという事象が発生します。

よくある話としては、「戦略無き学習機会の提供」です。
リスキリングと称して、従業員なら誰でもITスキルの学習ができるような制度を整えている企業がありますが、もし人材育成の戦略が不明瞭、もしくは無いのであれば、これはリスキリングとは言えません。

どのような人材を育成する必要があるのか、そしてどのようにその人材を育成していくのかという戦略があった上で、ITスキルの学習機会提供をすることが理想のリスキリングとなります。

このように言語化すると、リスキリングを本来の目的通りに推進し、成功させることは、そこまで難しいことではないと思われませんか?

さらにリスキリング・学びズレに関する理解を深めるために、表を用意してみました。
リスキリングを推進している会社は4タイプに大別することが可能です。

縦軸はリスキリングが企業戦略に直接関与しているのか否か
つまり、下に分布している会社は、とりあえずの形で従業員に学びの機会を提供しているということです。

横軸は従業員が学びに能動的か否か
つまり、左側に分布している会社は従業員から反発が生まれる可能性が高いということです。

やらされゾーン(リスキリングが企業に直接関与×従業員が受動的)」「個人の趣味ゾーン(リスキリングが企業戦略に間接関与×従業員が主体的)」にいる会社では『学びズレ』が発生することが増えます。

リスキリングを強化したい皆様は是非、「学びフィットゾーン(リスキリングが企業戦略に直接関与×従業員が主体的)」を目指すといいでしょう。


『学びズレ』を防ぎ、リスキリングを成功させた企業事例から学べること

リスキリング成功事例3選

ここからは多くの企業が陥っている『学びズレ』を防ぎ、リスキリングを成功させた先進企業の事例をご紹介します。
世間一般でイメージされるリスキリングとは違う切り口でのご紹介となるので、違和感があるかもしれませんが、どれも『学びズレ』を起こすことなく、適切にリスキリング・人材育成に成功した事例と私は考えます。

①伊藤忠商事株式会社

従業員数:4,187名
事業内容:
繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において、国内、輸出入および三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開。

伊藤忠商事株式会社(以下伊藤忠)は繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において、国内、輸出入および三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開している会社です。

今回は伊藤忠が行っていた朝型勤務の施策が、リスキリングの観点からみても魅力的な事例のため、ご紹介します。

【背景】
・伊藤忠は長らく同業他社と同じく、フレックスタイム制度を導入していた
・フレックスタイム制度のせいで夜遅くまで働く、育児や介護で飲み会に参加できない社員が活躍できない、朝の早い取引先とのコミュニケーションが取れず信頼を失うなどのネガティブ事象が頻発
・上記を問題視し、2013年10月に朝型勤務を始めることを決意

【やったこと】
・午後8時から午後10時までの勤務は「原則禁止」、午後10時から翌日午前5時までの勤務を「禁止」に変更
・逆に午前5時~午前9時は深夜勤務と同じ割増手当が付くようにし、さらに午前8時までに出社した社員には軽食を無料で提供することで、夜型の働き方を朝型に切り替えることを促した

【結果】
・今では午後8時以降に残業をする社員はわずか5%
・午前8時より前に出勤し仕事を開始している社員は全体の半数近くに
・残業時間は、導入前よりも約10%強減少
・朝型勤務を通じ、長時間残業をしてその後深夜に飲みに行くといった生活ではなく、短時間で集中して仕事に取り組み、夜は早く帰るスタイルが定着

参考元↓
https://career.itochu.co.jp/student/about/environment.html

この事例のポイントとしては、ただDX化をするのではなく、伊藤忠で結果を出せる人材とはどんな人材か?を「現場主義」「三方よし」と言う理念に立ち戻り、施策を行ったことにあります。
朝一にお客様対応出来ていなかった点を課題と捉え、「朝早く来て、お客様としっかり向き合える人材」を育成する事で、お客様からの信頼を得ています。
また、残業時間を朝型教育を導入する事で約10%強減少させることに達成し、会社としてもメリットがあり、かつ、育児や介護といったライフステージを迎えた方でも結果を残しやすくなったため、「お客様」「会社」「従業員」の三方から見ても嬉しい状態になっています。

このように、自社で結果を出せる人材とはどんな人材か?を自社の理念に立ち戻りリスキリングをしていくと言う考えをぜひ参考にしていただけたらと思います。

②日本マクドナルド株式会社
従業員数:2,554名(2022年12月31日現在)
事業内容:ハンバーガー・レストラン・チェーンの経営並びにそれに付帯する事業
続いては、研修だけでなく企業内大学を入れてリスキリングをした事例として、日本マクドナルド株式会社を紹介します。
補足をしておくと、企業内大学とは、企業が社内に設置する研修制度の一種で、社員が自主的に学ぶ場を提供できることが強みとなっている制度のことです。

【背景】
・ブランドの使命として『美味しさとFeel-Goodなモーメントを、いつでもどこでもすべての人に』を掲げている
・ブランドの使命を守るために、全クルーにこの考えを浸透させ、再現することができるようになる必要がある

【やったこと】
・人材育成に力を入れるべく、企業内大学として、ハンバーガー大学を設立
・ハンバーガー大学では、基本的に飲食店の経営方法とリーダーシップについて学びますが、各クルーのレイヤー(≒職位)に合わせて、複数のクラスが用意
・たとえば、リーダーとしてのマインドセットやモチベーション維持、部下へのフィードバックやコーチング、タスク委譲の方法について学ぶクラスや、コーチングが難しい場合のカウンセリングの方法や、店舗オペレーションの概要を学ぶクラス等
・一般的な企業研修とは違い、より実践的かつメンバーが主体性を持って参加できるもの
ex)「上司が部下からマネジメントについて相談される」というテーマの模擬1on1があり、部下役の悩みへの解決策を、部下役自身に考えさせ、部下役から引き出す練習や、上司役が上手く会話をリードし、自ら解決策を示す練習をする、といったようなもの

【結果】
・生涯に通じるリーダーシップスキルの育成と、ブランドプロミスを実現し、店舗力を向上させること、マクドナルドのカルチャーを浸透させることを成し遂げた

このように、より実践的で主体的にメンバーが参加できる場所を提供したことで、生涯に通じるリーダーシップスキルの育成と、ブランドプロミスを実現し、店舗力を向上させること、マクドナルドのカルチャーを浸透させることを成し遂げています。

参考元↓
https://shueisha.online/business/78858
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10862

この事例のポイントは、研修だけに留まらず企業内大学を社内に設立することで、従業員に、より主体的かつ実践的に学んでもらうことができた点にあります。

企業内大学の設立まではハードルが高いかもしれませんが、従業員にとって主体的に学べるリスキリングのデザイン設計と学んだことが日々の業務で即実践できる内容であるという点をぜひ参考にしていただけたらと思います。

③株式会社Merone

従業員数:正社員1名・業務委託社員25名
事業内容:
・在宅物販スクール
・託児事業
・スクールコミュニティ

続いては、大企業ではなく、これから新規市場を切り開いていく存在のベンチャー企業に焦点を当てます。
リスキリングは大企業のものであるようなイメージもありますが、ベンチャー企業・中小企業においても重要な施策です。

【背景】
・従業員の9割以上が業務委託であり、稼働時間もバラバラであるため、マネジメントやモチベーションの維持が通常の会社よりも難しかった
・実際、なかなか目標達成ができない状況が続いていたため、成果が上がらない原因を分析すると、原因は業務委託のママさんに対するマネジメントやコミュニケーションが行き届いていないことだった

【やったこと】
・元々実施していた1on1の数を3ヶ月に1月から隔週に1回に増やした
・1on1の中で組織のMVVを軸にした対話を行うことによって、常に「組織としてやるべきこと」と「個人の成長」のすり合わせをした

【結果】
・講師の方々は自分に足りていない部分やその足りていない部分を埋めるためにどういった工夫が必要なのかを常に理解することができるように
・1on1の中で話した講師の頑張りがデータとして蓄積され、最終的に評価にも活用されることで評価の納得感も上がり、モチベーションも高まっていった
・1on1改善を始めて、3ヶ月が経ったころにはメンバーの平均売上が250%向上した

この事例のポイントは、リスキリングは人事部からの指令だけで上手くいくものではなく、現場主導で実践していく必要がある点とMeroneに最も必要だった理念を体現できる人材に必要なスキルに焦点を当て、それを1on1で鍛えたことです。

最終的には現場で成果を上げるためのリスキリングなので、そのためには現場のマネージャーにも理解してもらった上で現場でリスキリング計画を立て、実践していく必要があります。

Meroneでは1on1をうまく活用されており、弊社としてもリスキリングと1on1の相性は『学びズレ』防止の観点でかなり高いと感じております。


『学びズレ』を防ぐ手段として、おすすめしたい1on1ツールの「コチーム」

リスキリングは明確な人材戦略があってこそ成功する施策なので、企業目線と従業員目線を常にすり合わせて、学習を進めてもらう必要があります。

このすりあわせにおいて、有効なのが上司ー部下、もしくは人事ー現場社員間の1on1です。
1on1で企業側が考えている人材育成の方針と従業員が考えている成長したい方向性を高頻度ですり合わせることが『学びズレ』が発生せずにリスキリングを推進することができます。

弊社は1on1の質を高め、売上向上・エンゲージメント向上・離職低下を実現させることのできるサービス「コチーム」を提供しております。
まさに③でご紹介させていただいたMeroneさんには弊社から1on1の支援を実施させていただきました。

「パフォーマンスマネジメント」と呼ばれる1on1を中心とした高頻度フィードバックによるマネジメントを実施することで現場主導で「学びズレ」を防ぎながらリスキリングを実践することが可能となります。

人材育成・リスキリングにご興味のある方はぜひこちらのサービス資料をダウンロードいただければと思います。
https://coteam.jp/document/introduction-to-coteam/


終わりに

大リスキリング時代の到来は、産業全体を盛り上げる好機だと思います。一方で、リスキリングが企業の成長と紐づかない個人の趣味的な学び直しが主流になってしまうと、この折角の好機が"リスキリングバブル"となって泡のようにシュリンクしていかないか、懸念しています。

本記事で何度も出てきた内容となりますが、事業戦略・人材戦略からの逆算で『学びズレ』を防いだ自社ならではのリスキリングを設計・運用することをおすすめさせていただきます。


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