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女装官能時代小説「睦美丸秘抄」第3話 指

 智性僧都が語った天台宗の秘儀=稚児灌頂ちごかんじょうとはいかなるものか。中世の比叡山のような山内十六谷さんないじゅうろっこくに3000人もの僧侶と彼らの世話係など男ばかりで暮らす環境で、仏法における女犯の禁を守るために生み出された「装置」と言えるだろう。
 智性自身も菊童丸に言っていたように、修行を経た仏僧といえど性欲を完全に消し去ることは簡単ではない。男数千が山で集団で暮らすにつれ、女犯の代用品のようにして男色が蔓延はびこり、それを正当化しようとするものが現れた。僧侶が自分の侍童から見目麗みめうるわしい者を選び、灌頂の儀式を経てその稚児を観音菩薩の化身と見なして契り、夫婦のような性的関係を持ち続けるようになる。そんな男色関係を正当化し、その関係性を仏法に叶うものとするための秘儀なのだった。源信僧都が残したと伝わる秘法の書も伝わるほど天台宗では公然と長く行われ、僧侶たちも己が侍童を誇り、延年舞えんねんまいでは侍童にその艶やかさを競わせたという。

 時は元禄、しかも比叡山のような隔絶した山の中ではなく、東の叡山と呼ばれるものの、寛永寺は大都市・江戸のそばである。親鸞しんらん登場以降、仏法の解釈も変化して妻帯の僧侶も登場している。中世比叡山で煮詰めて蒸留されたこのような儀式が顕性院に残されていることにも驚かされるが、こうした秘儀は自儘じままに応用する者が権力さえ持っていれば、より秘匿性を高くして、どんなことでも可能となるのだ。
 顕性院の智性僧都はそういう権力をもち、どうやら己が理想郷を自院で実現をしている風情であった。真偽のほども定かでないが、塔頭たっちゅうを創建した尾張候のご落胤らくいんの血脈という噂もあり、僧都とはいえ師の智洞含めた僧正たちからも一目置かれる存在であるようだ。そう考えると菊童丸に女乗物を遣して御公儀や寺社奉行から咎められないのも理解できた。
  稚児灌頂を含む稚児と僧侶のありようは、密室のことであって千差万別。これから語られる菊童丸と智性のこともあくまでも2人の間でのみのことであるし、全ての稚児と僧侶がそうだったわけではないことをご承知おき願いたい。

 ちょっとした挨拶くらいの気持ちで出向いた僧都との対面で、自分の魔羅を握られ扱かれ逝かされるという思いもよらない体験をした菊童丸だったが 、精を迸らせると正気に返り、「失礼しました。お許しを。」と、備え付けられた懐紙で僧都の掌や自分の体を拭き取り 、そそくさと自室に戻った。

 襖を境として2つ向こうの部屋で起こったことを思い返すと全身が火照って堪らない。これから自分に待ち受ける稚児灌頂なるものがどのようなものかも気になるが、それよりも何よりも、自分の密かな欲望を見透かされたことや、女人のように毎日を過ごして良いと言われたことや 、僧都のような年上の男に己が魔羅を勝手に弄られ逝かされたことなど、次々と降り掛かってきた初めての経験に心も体も興奮しきって冷める気配もなかった。なんとか眠ろうと行灯の火を消し、褥におさまって頭まで掛け布団にくるまってみたが、目が爛々と冴え眠れそうもない。
(無明火を鎮めなければ。)
  僧都が言っていた言葉を反芻しながら、いまいまの自分の火照りと照らし合わせてみる。あんなに、はしたなく精を思い切り吐き出したはずなのに、菊童丸の魔羅は半立ちのままモヤモヤとした気持ちはおさまらない。
  はたと思いつき褥をそっと出ると、荷解きもまだ済まない手荷物の中から母に渡された例の草紙を取り出してみた。

 頁を繰ってみる。満月の夜なので、蒼白い月明かりに、もつれ合う男女の姿が辛うじて浮かび上がる。昼間見た時よりも一層淫靡なものに感じられ、半立ちのままになっていた菊童丸の魔羅は少しずつ膨らんだ。
  初夜の花嫁もいれば、恋人と密会する町娘もいる。初めて客を取った夜の遊女もいた。女達が男と初めて行為に及ぶ時の姿を描きつつ、ちょっとした詞書ことばがきを添えて、閨房指南けいぼうしなんしたもののようだ。
  詞書の仔細しさいまで読めるほどの月明りではないのでパラパラと頁を繰っていくうちに、ハッと「こんなものまであったのか」と驚きつつも釘付けとなった木版画があった。
  一瞬僧侶と振袖姿の町娘かと思ったが、娘と思った者の陰部には僧侶のものを少し小さくした魔羅がしかと描かれているではないか。そこに描かれたのは、華やかな振袖を着た若衆と僧侶の初夜の姿だったのだ。

「こんなものまであったのか」と驚きつつも釘付けとなった木版画があった。

 それと気づいた途端、菊童丸の無明火はぐんと大きくなって、露を火先からぬるっと零し始めた。月明かりの中なんとか詞書を少しでもと読んでみる。
 「法性花と呼ぶ菊門に僧侶の無明火を迎えるために七日にわたって入れる指を毎日変えて太くしていく。まずは子指にはじまり、薬指、人差し指、そして親指までいけば あとは二本指と、一日一日穴を大きくしようとする稚児の努力はなんと可愛いいのだろう。」ああ、これこそ明日以降我が身を待ち受けていることではないか。稚児灌頂のその日に向けて、子指、薬指、中指、人差し指、そして親指と己が菊座を少しづつ押し広げ、僧都の無明火を無理なく受け入れる準備をせねばならないのだ。母はこの頁こそ自分に見せたかったのだろう。母は不安にならぬよう心構えを持たせようとしたのだろうが、菊童丸の反応はそれとは真反対に大きく振れた。無明火の炎はますますメラメラと燃え上がり、また精を迸らせようと昂っていく。
 「智性さま、お菊の法性花を灌頂に備え毎日整えております。」褥の中でそう小声で呟いてみた時、空想の中で菊童丸は智性にまた魔羅を扱いてもらっていた。
 「なんと可愛いことを申すのじゃ。しかも可愛さと真逆に無明火がまた大きゅうなりおって。淫らな子じゃ。ほれ、可愛さの褒美にもそっと扱いてやろう。このまま逝きなされ。」
 「ああっ。逝かせてくだされ。」さきほどの勢いはないものの、菊童丸の魔羅からはこぼこぼと精が零れだした。月も上野のお山の向こうに傾き、月明かりもなくなる頃、無明火を鎮めた菊童丸は慌ただしい一日を終え、ようやく眠りに落ちた。

                                           ☆

 朝から菊童丸の部屋には色んな人間がやって来た。

 昨日の、髪結いがまず来て、その後に着付師まで新しい着物を携えて早速仕事を始めようとする。髪結い師は昨日と違っておしゃべりしながら手を動かし、化粧水の使い方や効果から始まって、下地の作り方から白粉おしろいき方、紅の差し方まで菊童丸に化粧の基本を伝えようとしてくれているようだった。
 「明日からは自分で出来るかねえ。もう一日くらい教えないと、自分ではまだ出来んかねえ?」白粉を塗り紅を刺し眉を描く、男ながらに毎朝化粧することになるとは数ヶ月前まで想像出来なかった。女人のように美美しく化粧するのは、まだ自分には難しいように感じた。昨日とはうってかわって細く柔らかい柳眉りゅうびを描いて貰うと、色めいた女人の雰囲気が顏から立ち上がるから不思議だ。
 「あと何日かは御指南くだされ。」
 合点承知また明日、と仕上げた後に部屋を去る。

 次に現れた着付師は新しい着物を携えて来て、化粧する間に屏風型の衣桁いこうに見やすいように、綺麗に掛けてくれていた。
  真新しい、赤地の正絹に金刺繍が全面に施された豪華な振袖打掛である。長い裾は引きずって歩いた時に、打掛の裾が美しく広がったかたちにまとまるように綿入れである。大奥の上臈じょうろうしか着ることを許されないような、こんな豪華な打掛にまもなく袖を通すと思っただけで、無明火が灯ってしまう。よく見ると、驚いたことに金刺繍の中に、あおきの御紋が見えるではないか。徳川家もしくは親類と位置づけられる松平姓の姫君のために特別に仕立てられたものであることは間違いない。
 「なぜこのようなものが。」
 「僧都が親しくされてはる尾張候の姫君が先頃嫁入りされた時、飽きはった衣装一式を貰い受けられたようなことやった気がしますなあ。そのうちのだいたいは檀家だんかの旦那衆の御内室ごないしつや娘はんにこっそり内緒で、一部を数寄者すきものの稚児はんにこっそりと。」
 家光公の時代から繰り返し発布されてきた奢侈禁止令しゃたきんしれいや美服禁止令をものともせず、欲するものの間ではこうして豪奢な着物も遣り繰りされているのだ。 

 この打掛を羽織るということは、今日は大奥の女人たちと同じ衣装を身に纏って過ごすということになる。女人にも若衆にも好まれる艶やかな色柄の小袖や振袖には何度か袖を通してはきたが、打掛の綿入りの裳裾もすそを引き摺り、女人用の艶やかな掛下帯まで締めて、しっかりと女人の装いとなるのは初めてのことになる。
 だから着付師が呼ばれているわけだが、改めて姫君たちと同じ装いとなることを思えば、菊童丸は昂り魔羅を大きくせずにはいられなかった。しかも、稚児灌頂に向け己が法性花を整えて過ごしさえすれば、この先も姫君たちの装いそのままに毎日を過ごせるのだ。
 「長襦袢ながじゅばんは白で良ろしいか。打掛の下のお着物、掛下はこっちの、淡い桜色などどうどす?襦袢にうっすら、地と同じ白で入ってる桜文様と響きおうて、女っぽう仕上がりまっせ。」
 京都が本店の呉服屋から派遣されている着付師は、上方出身なのか上方なまりで遠慮のない物言いである。そう言われながら、ふわりと肩から掛下を羽織らされただけで、どんどん女人に近づいて行く自分に高揚してしまう。「女っぽう仕上げた方が僧都はんも喜ばはりまっせ。」
 あけすけに淫猥な言いざまに頬を赤らめながらも、返事を戻す。「ではこの掛下で。」
「きっとお似合いになりまっせ。帯の締め方はどないしまひょか。上方で人気の女形が始めた吉弥結びでどうでっか?江戸の若い女子衆にも可愛い言うて人気でっせ。」うっすら聞いたことのある名前であったので、頷いておく。腰の高いところで蝶々の形にして少し垂らすのが、流行りの吉弥結びで、これも華やかで女人好みだ。「ほな着付けさせてもらいます。」
 掛下帯を締めていく段取りが、男の正装とは微妙に異なるので、その辺りを助けてもらいながら傅ずかれるようにして着付けられていく。 着付師はせっせと手を動かしながらも、口の方も動かさずにはいられない男らしく、おしゃべりは止まない。
 「それにしても男なんがもったいないくらい、お美しゅうございますなあ。わては男色はしまへんけど、僧都が一年あまり寝ても覚めても、あんさんのことが忘れられんかったって気持ちも分かる気ぃするわあ。」
「お戯れを。そんなまさか。」と言いながら、ちらりと男色に触れられるのは恥ずかしいが、菊童丸も美しいと言われて悪い気はしない。
「いやいや嘘やないで。一年前にあんさんのこと見染めはってからは、元服延長してまで可愛がってはった前のお稚児はんへの執着がだんだんなくならはって、半年前には相手されんようになったお稚児さんから寂しゅうなって暇乞いとまごいいしはってな。」きゅっきゅっと帯を締める衣擦れの音が「女っぽう」仕上げられる気分を高める。掛下帯を吉弥結びで「女っぽう」締め終わると、いよいよ衣桁に掛けた打掛を取りはずし、着付師は菊童丸の後ろに回った。そのついでに耳元で前の稚児のその後を囁いた。「僧都はんがあんまり可愛がりすぎたから、すっかり可愛がられ癖がついてもうて、今は陰間茶屋かげまぢゃやにいはるそうや。」
 陰間茶屋とは、江戸の芳町あたりに多くあった、歌舞伎の女形を目指す役者の卵らを主とした男娼たちのいる遊里である。菊童丸は、自分の前の稚児が自らそこに行ったとはにわかには信じられなかったが、身近な事実として語られたことに少なからず驚いた。と同時に、これからの自分にもそんなに人を虜にする快楽が待ち受けているのかと思うと、恐ろしさと同時に、自分が昂り始めているのにも気付いて慄いた。観音菩薩の化身が遊里に流されて行くものなのかと、ものの哀れもまた噛み締めた。

 打掛がはらりと肩にかけられて、両袖を通すように着付師に促され、さらに姿見の前へと誘われた。
 「いやあ、思うてた以上にお綺麗やなあ。」

高貴な姫御前が戸惑いを隠せぬ表情でこちらを見ていた。


 姿見の中には見慣れぬ、高貴な風情を衣装から匂わせた姫御前が戸惑いを隠せぬ表情でこちらを見ていた。真紅の地の色打掛も金刺繍の華麗な草花文様も目に艶やかな印象で、襟元にのぞく薄桜色の掛下と長襦袢の白にほのかに浮かぶ桜花模様が響き合って、着付師の言う通りに、女めいた雰囲気を匂い立たせる。
 紛れもなく菊童丸自身であるはずなのだが、まるで別人のような気がして、フワフワと気持ちが落ち着かぬ。昨夜僧都に扱かれながら「女になってみとうございます」と言って逝き果てた己も思い浮かぶ。興奮が身を包み全身の血が泡立つように感じる。帯の下あたりの薄桜色の掛下を無明火が持ち上げ、打掛の合わせの隙間から見えそうになる。気取られまいとささと打掛の合わせを深く寄せてみたが、着付師の目は誤魔化せなかった。
「綺麗に女っぽうならはったのに、そこだけ男らしゅう膨らませはって。」
「ぶっ、無礼な。」一応武門に育ったものの体裁から、言ってはみたものの、言葉に力がない。
「これは失礼。下賤の者の戯れ、二度と申し上げませぬ故、お許しを。」着付師はササッと素早く土下座してやや大仰に謝罪すると、立ち上がりざまに菊童丸の耳元でまた小声で囁いた。「とはいえ抜きとうなったら、遠慮のうお申しつけくだされ。前のお稚児さんも寂しゅうならはったら、着付たあとにもう一働きさせていただいてましたよって。」
「なにっ、まだ申すか.…。」抗議の言葉を続けようとしたが、着付師は言い捨てると、そそくさと逃げるように退散した。

 ただでさえ姫御前の衣装で火照り昂りきったところに、着付師の余計ななぶり言葉のおかげで、菊童丸はもう我慢が効かなくなっていた。懐紙を取り出し畳の上に敷き、姿見の前に跪くと姫御前に擬態した己が姿を映したまま、掛下帯の下で大きくなった無明火を握って扱き始めた。無明火を握る己が掌は、着付師の掌だ。
「女っぽう仕上げたげたのに、こんなに大きゅうして淫らなお稚児さんやなあ。」退散したはずの着付師が菊童丸の頭の中に現れて、さらに菊童丸を言葉で嬲る。「それとも、女っぽうなったから、こんなに大きゅうしてはるんか。どっちやろか?」
「そんな。言わないで。」
「そうかぁ、どっちもや。淫らな上に、女になるんが好きやから、こんなに大きゅうしてはるんやな。姫御前の恰好して男衆おとこしに扱かれんのが、ええのか?」扱く速度を上げていく。
「ああ、そんなこと。恥ずかしい。」
 己が昂ぶりにあわせて、頭の中の着付師の嬲り言葉を強めていく。「男のくせに姫御前の格好になりきっとる方が恥ずかしいやないか。ほんまは、恥ずかしいことして、恥ずかしいこと言うのがええんやろ?ほんまのこと言わな、扱くのやめるで。」扱く掌の動きを自ら止める。
「ああ、やめないで。女になりきって男衆に扱かれるのが…。」再び扱き始めると、無明火の芯から精が昇る。
「好き。」精が迸る。
「あっ、逝く。」
 掛下の隙間から覗かせた無明火からびゅるるっと噴き出した精液が、懐紙におさまるわけもなく、姿見や畳にも飛び散った。

            ☆

 四書五経と経典がいくつか小坊主の手で持ち込まれ、自習をしておくようにと告げられた。僧侶たちの侍童たるもの、見目麗しいのは当たり前、教養も豊かに蓄え、芸事もある程度身に着けておかねばならない。姫御前の装いのままで、この日は日暮れ近くになるまで自習に勤しんだ。
  バタバタと周辺が騒がしくなると、本坊から戻った僧都の訪問を告げられた。机の前でそのまま入口の方に向かって,正座に直り三つ指ついて頭を下げた。

 「ほう、昨日以上に美しいのお。」また例の無遠慮な鋭い視線で頭の先から爪先まで舐めまわすように見られていた。「尾張の姫御前にいただいた色打掛がよう似合うとる。薄桜色の掛下も色っぽくて良いのお。これはお菊が選んだのか。」
 そんな風に着衣を褒められ、しかも昨夜の続きのままに「お菊」と呼ばれると、鎮めたはずの無明火がぼうと急に燃え上がる。
「左様でございます。」
「女人になりたき気持ちが自然とそういうところに出るのお。」
 返答に困り言葉を継げずにいると、ますます無明火は燃え盛り、朝に自分で抜いたとは思えぬほど、掛下の絹をぐいと持ち上げていた。着付師に気取られまいとした時と同じように、打掛の合わせを深く直してみたが、僧都の眼はしかと炎を見透かしていた。
「お菊、そちは本当に反応の良い子じゃ。そんなに無明火が燃えると、またわしの法力で鎮めねばのお。」
 ああ、鎮めてくだされ、すぐにでも扱いてくだされ。菊童丸は心中そう叫んでいたものの、実際には頬を赤らめたまま俯くことしかできない。
「お菊や。まずはわしの前にうつ向きに横たわるのじゃ。座布団に顎を載せて楽な姿勢で良いから。」
 言われたままに、胸から下は畳の上に俯向きで長々と横たえた。「このようにすればよろしいでしょうか?」
「うむ。今日からは昨日申したように、七日後の稚児灌頂へ向けて入念な用意を始めて参ろう。」昨夜月明りで見た草紙の一場面と詞書がまざまざと思い出された。
 <法性花と呼ぶ菊門に僧侶の無明火を迎えるために七日にわたって入れる指を毎日変えて太くしていく。まずは子指にはじまり、薬指、人差し指、そして親指までいけば あとは二本指・・・。>
 詞書の言葉を思い出すと、ますます無明火が熱を帯びてゆくので、畳の冷たさが際立つ。

 「稚児灌頂のためには、昨日も申したが、そちの法性花を整えねばならん。自分で整えさせたり、他の稚児に手伝わせたりすることもあるが、わしは自分で整えることにした。覚悟はできておろうな。」
 「はい、覚悟しております。」
 「ようし。わしが何をしようとじっと身を任せるのじゃ良いな。」〈入れる指を毎日変えて太くしていく〉という、あの草紙の詞書が頭から離れない。きっと僧都はその子指を菊童丸に入れてみるつもりに違いない。

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