『見習い神様、願いを叶えて。』#2 大事な大事な一枚
【前回までのあらすじ】
私は絶賛片思い中の高校2年生、吉沢みゆき。花屋敷ゆりは私の親友。
ゆりに私の好きな人は芳高くんだって告白する。
(全20話 恋愛×ファンタジー 毎日1話ずつ更新します)
最近、ゆりは本屋のアルバイトを始めた。学校終わりにマックで一緒に勉強したり、だべったりができなくなっちゃった。
ゆりの応援はしたいけど、正直ちょっと寂しい。
でも今日はバイトが休みだって聞いたから、ちょっと期待している。
「ゆーり!今日バイトないんだよね?久しぶりにマック寄って帰ろーよ!」
「ここんとこ、一緒に帰れてなかったもんね。私もみゆき不足で寂しかったー!」
ゆりが犬みたいに抱きついてくる。
ゆりってほんとにかわいい。なんかいい匂いがするし。
私からもこんな匂いでてたらいいなと思って、嗅いでみたけれど自分で自分の匂いは分からなかった。
「ねえ、みゆき。提案があるんだけど。今日はみゆきの家に行ってみたいな。」
「うち?いいけど、普通だよ。」
「みゆきの部屋ってどんなのか見てみたい!」
「じゃあうちでポテチでも食べながらだべりますか!」
「賛成~。」
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「ただいま~。」
時刻は六時を回っていた。お父さんとお母さんが帰るのはいつも八時を過ぎてから。
誰もいないのは分かっているけれど、小さいころからの習慣で「ただいま」と言うことにしている。
「お邪魔しまーす。」
「みゆきの家、いい匂いがするね。人んちって独特の匂いがあるよね。」
「分かる分かる。うちにもそんな匂いあるんだ。住んでるから分かんないけど。」
「みゆきと同じ匂いだよ。」
「私匂いあるんだ!?どんな匂い?臭くない??」
反射的にゆりから少し距離をとった。
「いい匂いだよ。ちょっと甘い香りかな?恋してるとそんな匂いになるって聞いたことあるよ。」
と言って、ゆりはウィンクした。
私にもちゃんとゆりみたいな女の子っぽい匂いがあるんだってちょっと嬉しくなった。
「二階あがってすぐの部屋が私の部屋だから、ゆりは先にあがってて。」
二人分のグラスにオレンジジュースを注ぎ、ポテチとチョコレートをお盆にのせて二階へとあがった。
扉を開けると、ゆりがニヤニヤした顏でこちらを見ている。
「みぃ~つけちゃった。」
ゆりが指でつまんでぷらぷらさせているのは、芳高くんの写っている写真だった。
いつもはちゃんと引き出しにしまっているのに、今日に限って机の上に出しっぱなしにしていた。
「ほんとに芳高のこと好きなんだねぇ。でもよくこんな正面からばっちり写ってる写真撮れたね?芳高に直接お願いしたの?」
「ま、まさか!そんなこと言えないよ。」
「これって去年の体育祭のときのだよね。ってことはもしかして…。」
その、もしかしてなのだ。
体育祭ではプロのカメラマンが写真を撮ってくれていて、後日その写真が数百枚ほど廊下に貼りだされる。写真には番号がふられていて、注文用紙にその番号を書くことで、一枚50円で写真が購入できるシステムになっていた。
普通はみんな自分が写っている写真を選んで購入する。
私も自分が写った写真の番号を8枚分、芳高くんとその他複数人が写っている写真の番号を3枚分書き入れた。ここまではスムーズに選べたのだけれど、問題はこの1枚…。
芳高くんソロのどアップ。しかもウルトラスマイルのめちゃくちゃカッコいい神ショット。
絶対に手に入れたい!でも芳高くんソロ写真を私が注文するのは絶対におかしい!
この番号を書いたら、私が芳高くんを好きなことがバレるかもしれないと思った。ん?でも誰にバレるんだ?先生かな?写真屋さん?
きっとこれは写真屋さんが用意してくれるのだと思い込むことにした。それにいざとなったら、番号を書き間違えたっていう言い訳もできなくもない。
注文用紙を握り続けてこんなに手汗まみれにしたのは私くらいだっただろう。悩みに悩んだ挙句、恥ずかしさを乗り越えて、ふにゃふにゃになった注文用紙に最後の番号を書き加えた。
そんな激しい葛藤の末手に入れた、大事な大事な1枚だった。
「みゆきがそんなに乙女だったとはね~。」
ゆりが少しいじわるそうな顏で笑っている。
「ねえ、いいこと思いついた!だべるのはまたにして、今日は星を見に行かない?」
「ゆりが家に来たいって言ったんじゃん。なんで急に?」
せっかくポテチも用意したのに、と思った。
「みゆきのいじらしいとこ見てたら、いてもたってもいられなくなっちゃって。」
「それでどうして星を見に行くにつながるの?」
「私、星を見るのが好きでね。車で40分くらいかかるんだけど、お気に入りの場所があるの。」
ゆりの言いたいことがまだよく分からない。
「運が良ければ、一時間に数回、流れ星が見れるんだよ!みゆき、こないだも商品券当ててたし、運だけはいいじゃない?それで、流れ星に芳高くんと両想いになれるようにお願いするの!ロマンチックでしょ?」
そういうこと。
「でも、そんなにうまく流れ星見れるかなぁ?」
「今日は快晴だし、月の入りも早いから、星空見るにはバッチリ。私のお父さんに連れてってもらおう。」
そう言って、ゆりはスマホを取り出して素早くおじさんの許可を取った。
「こういうときのゆりって、行動力半端ないよね。その提案にのってみますか!」
「そうこなくちゃ。」
私も心配をかけないよう、お母さんに連絡を入れた。
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