「セグメント」言い出したコトラーが意味合いの定義を改訂している件

今回は、効果的に市場を開拓するためのマーケティング手法であるSTP、中でもセグメンテーションについて思うところを書き残します。

来たれ、セグメント 甘き死の時よ

そもそもセグメントって何でしょう。

コトラーの「マーケティング・コンセプト」(日本語訳版)には「市場細分化」と記載されています。

また、「マーケティング・マネジメント第3版」(日本語訳版)には「類似した欲求を共有する顧客グループ」と記載されています。

つまり市場を類似した顧客単位に細分化することを「セグメント」と理解すればいいのかな、と思います。

他にもマルケトのサイトを見ると「セグメンテーションとは市場を細分化すること」とあるので、マスを分割する方法と捉えれば良いでしょうか。

セグメントの切り口として、デモグラフィックやジオグラフィック、サイコグラフィック、行動変数などがあげられるでしょう。

いわゆるMAツールなんかは、こうした切り口をもとにサイトに訪れた人をランク付けして、一定以上の得点になれば様々なアプローチを仕掛ける、なんかが一般的ですね。

一方で、数年前から、セグメントなんか不要!たった一人のためにマーケティングをするべき!One to One マーケティングだ!という声もあると思います。

数年前のアドテックで、SalesForceのデモがそんな感じでした。


ところで、そのセグメントの既存の切り口なんですが、もういい加減、機能しなくなったと思っているのは私だけでしょうか?

そもそも、プロダクトやサービスとは本来、顧客のためにあるはずなのに、どうして製品ができあがってから、市場細分化しないといけない(≒マーケティングと称して広告宣伝が始まる)んでしょう。

プロダクトやサービスができあがった段階で、セグメントの切り口なんてとっくに決まってなきゃいけないのに。


それに、そうしてセグメント切った結果、どれほどの商品が墓場に埋められたというのでしょう。STPという手法が有効なら、今頃日本はもっと経済が活性化してますよ。

おおよそ充たされてしまっている「だいたい良いんじゃないですか?時代」に、デモグラフィックやジオグラフィックの切り口だけで市場を細分化して、果たして「私のための製品だ!」って感じる人はどれくらい居るのでしょうか。「だいたい良いね~」で済むんじゃないでしょうか。

CVRを1%改善するのには有効かもしれませんが、それでセグメントすげぇ!というのは本質じゃないよなぁと思っています。

つまり今のセグメントの切り口って、もう先進国においては機能しないんじゃないかと考えています。みんな新しい切り方を所望しているのではないでしょうか。

「セグメント」言い出したコトラーが定義を改訂している?

と思ったら、セグメントって言い出したコトラーが、微妙に言い回しを変えていました。

2013年刊行「コトラー 8つの成長戦略 低成長時代に勝ち残る戦略的マーケティング」で、次のように述べています。一部だけ引用します。

マーケティングの成功のカギは、自社が求める顧客のタイプを理解することだ。目標とする顧客の定義を間違えると、バリュー・プロポジションの定義ができなくなる。
顧客分類はマーケット・セグメンテーション(市場細分化)を応用して行われる。
マーケット・セグメンテーションには色々な方法がある。賢明で想像力のあるマーケターはさまざまな分類をし、新たな可能性を見出すことが可能だ。たとえば、犬の大きさや年齢ではなく、飼い主の犬に対する姿勢からドッグフード市場を分類してみてはどうだろう。
今日、企業が行うべき重要事項は、新たな消費者の洞察(インサイト)、できれば現状を変えるようなインサイトを深堀りすることである。
1960年セオドア・レビットの「ハーバード・ビジネス・レビュー」掲載の成熟産業に関する有名な論文から回想したものである。レビットは、多くの経営者が、業界が「成熟」してしまい、これ以上の成長が望めないとぼやくのを聞いた。彼は、市場が成熟しているというのは言い訳で、マーケティングの想像力の欠如を示すものだと述べている。

つまり、どんな市場においても、良い切り口 ― インサイトを見つければ成長できるとコトラーは言っているわけです。

ものすごく重要なことを言っていると思うので、英文から引用します。

in fact, one major pursuit today is to search for fresh customer insights ― hopefully, transformational insight.

日本語訳ではインサイト=洞察と訳したうえで、念のための保険として(インサイト)と書いています。

ロングマン現代英英辞典によるとインサイトとは…

1 [countable] a sudden clear understanding of something or part of something, especially a complicated situation or idea
2 [uncountable] the ability to understand and realize what people or situations are really like

どうも「洞察」ではないような…。「理解(=understand)」がキーになりますが、どちらかと言えば「発見」なんだと思います。

ちなみに当社ではインサイトを「顧客を動かすための隠れた心理」「人を動かす隠れた心理」だと定義しています。

今までに見た機会が無いけれど、ほらコレが欲しかっただろ?と差し出されると思わず”そうそう”と言ってしまうサービスや製品がありますよね。スマホとか、最近ではライザップとか。

そういうサービスや製品に組み込まれているのがインサイトなんです。

そういう「インサイト」で市場をバッサリ切ることが、これからの"セグメント"には必要ではないでしょうか。飼い主の犬に対する姿勢からドッグフード市場を分類するというのも1つの「インサイト」でしょう。

ちなみにセグメントと言うと、市場が100あったとすると、最初の切り口で50:50、2つ目の切り口で20:30:40:10とMECEに細分化しないといけないと思っている人多いですが、何の意味もありません。

インサイトに合致する、合致しない、これで十分です。

「インサイトとは消費者に関する隠れた心理」なので、その心理を持たない人に向けてターゲティングしても意味無いですから。

ちなみに大松の本の感想で「車が自己主張し過ぎとか意味不明」「生タイプのお茶漬けとか欲しくねー」という感想をつぶやいている人いますが、そりゃそういうインサイトにあなたが合致してないだけでしょ、って感じです。

キットカット、きっと勝っと、インサイト

大松の本の中でも紹介されていた「キットカット」の話、知っている人も多いでしょう。KitKatのWEBサイトでも紹介されています。

しかし、高岡さんが市場調査会社のキットカットにまつわる市場調査を行っていて、「高校生がキットカットをパキッと割る瞬間、抱えている受験や家族やなんやかんらのストレスから解放される気がする」というインサイトを得ていたことはあまり知られていません。

※この話、高岡さんが以前に講演で嬉しそうに話していたのを大松が聞いたので間違いないと思います。まぁ、会社的にはこっちは本当の裏側みたいで嫌ですよね。たぶん。口コミで広がったことにしたいですよね。

「キットカット」と「きっと勝っと」、そんなダジャレみたいな掛け言葉だけでネスレみたいな大企業が「これ使えるで!」ってなるわけないじゃないですか。事前の調査で「高校生に関するインサイト」を得ていたからこそ、「これ使えるで!」となったわけです。

今では時系列は不明なのですが、キットカットを受験で九州に訪れている高生が泊まったホテルに無料で配布したところ、ホテルのフロントが気を利かせて「きっと勝っと」とコメントしたとかしないとか…。

でも、それって「高校生のインサイト」を得ていたから、そういうコミュニケーション戦略ができたんじゃないの?と思うわけです。どっちが先なんでしょうか。


「ニーズが顕在化している時代がともかく、何すればヒットするか分からない時代にこそ、デモグラフィックやジオグラフィックではなく、インサイトという切り口が大事だ」

って話をインサイトを作り、アイディア開発でイノベーションを主導する株式会社デコムの社内で常に話し合っています。誰か一緒に働きませんかー!


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