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私たちマーケターは「意味」の世界で戦っている

今回のnoteは8月30日に開催した勉強会のうち、松本パートの「インサイトって何だ?」を有償で公開します。

いろんなところでインサイトの重要性について話すにつれ、認知度は広がっているものの「具体的に何ができるかイメージがわかない」という声を頂いています。そこで改めて「具体的にインサイトを知れば何ができるのか」を書きました。

有償の理由は単純で、勉強会の参加費が1000円だったからです。全てお酒代とピザ代に消えましたけども、付加価値金額として、300円という値付けにしました。

四捨五入すると、全文で約9600文字あります。はっきり言って長いです。お昼休み時間や、移動中に楽しんでいただければ幸いです。

※第3回は11月予定しております。


或るデータサイエンティストの挫折

まず最初に、私が「インサイト」をちゃんと勉強しようと思ったキッカケをお話します。

私のキャリアの大半は「デジタルマーケティング」で過ごしてきました。効果測定システムの開発に従事していたエンジニア期が前半、「データ溜まってるんだから何かできるやろ」と考えたデータサイエンティスト期が後半に当たります。

「ゴリゴリとコードもSQLも書けてデータも触る人」だと思って下さい。

では、なぜ今は転職して、インサイトのお仕事をしているのか? 色んな積み重ねがあるのですが、キャリアを振り返って決定的なターニングポイントはどこか、と問われると、迷わず「直帰率30%事件」を上げます。

直帰率30%問題…
ある商材のブランドサイトを分析して、ブランド名での直帰率が「30%」と説明したところ、WEBチームからは「かなり低い」と評価を受けたが、ブランドマネージャーからは「リアル店舗で考えたら10人に3人がすぐに帰るなんてありえない!」とお叱りを受けた事件。検索クエリ単位で直帰率が出た時代なので、いつ頃の話なのかは何となくイメージして下さい。

優れたマーケターであれば、手元にある数字だけを見て「こんな理由です」と説明できたでしょうが、私は凡庸なデータサイエンティストであり、凡庸なマーケターであったため、ちゃんと答えられませんでした。

僕は、数字だけで消費者を理解できない。数字を数字としか読めない。

それがずーっと劣等感のように纏わり付いていて、何とか新しい思考を採り入れないといけないと思っていました。

そもそも、(デジタル)マーケティングの場合、扱うデータはほとんどが消費者から生まれます。では、消費者の「何」を理解すれば、データをちゃんと理解できるようになるでしょうか。

私の意見ですが、それは「インサイト」です。だからインサイトについて勉強しようと思うようになりました。

インサイトについては、色んな人が意見を持っているでしょうが、ここは一旦、デコムの定義である「人を動かす隠れた心理」とします。

重要なのは「人を動かす心理」「隠れている心理」の2点です。

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よく「潜在的ニーズ」という言葉を聞きますが、あれだけは本当に何を言っているのか分からない。ニーズは露出しているからニーズなので、潜ってしまったらニーズではない。


「サントリー天然水」ブランドに見る価値の大切さ

インサイトはどんな時に必要になるでしょう?

もちろん、定量的なデータだけでは理解できない時があげられます。その他にも消費者の不満を知りたい時や物が売れない時に、インサイトの重要性が語られています。

しかし、それだけではありません。例えば、自社の商品の価値を知る時、消費者が商品を買う理由を知る時など、そのバリュエーションは様々です。

日経クロストレンドに紹介されていたサントリー食品の事例は、目から鱗が取れ過ぎてヤバかった事例です。

1991年の発売以来、ほぼ右肩上がりの成長を続けている天然水ブランド。実は小容量では「ボルヴィック」「クリスタルガイザー」といった海外勢に押されていたうえ、2009年に発売された「い・ろ・は・す」(以下、いろはす)に一気に抜き去られて以降、13年までは“ずっと勝てない2位ブランド”だったという。

何とかして立て直すために、天然水チームは小容量での1位奪取を狙った戦略の一環として、パッケージのリニューアルに取り組んだそうです。

チームは、消費者イメージ調査の結果から「あれだけ自然環境に配慮した活動をしているのに伝わっていない」「若い人たちに自分向けのブランドだと思われていない」という2点を課題として特定しました。

環境をアピールし、かわいいパッケージにして若い人たちに振り向いてもらおうと、13年5月には「天然水の森」に生息する動物のイラストをデザインしたラベルに変更されました。

当時のプレスリリースは以下の通りです。パッケージデザインは、プレスリリースに掲載された画像を引用しました。

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その結果、どのような変化が起きたか。再び記事から引用します。

ところが発売した途端、社内に激震が走った。シェアが上がるどころか、急激に下がり始めたのだ。当時指標にしていた一部コンビニでのシェアが約47%から一気に約38%と10%ほど下落(数字はサントリー推計)。

10%は血の気が引く数字です。その名の通り、まさに「激震」だったでしょう。直ぐさま執行役員から「止血」の指示が出たそうです。

なぜ、買われなくなったのか。消費者が新しいパッケージを見て「これは自分には関係ない」「だったら買わなくても良い」と思ったのでしょう。問題は、なぜそう思われたのかの究明です。

チームは、過去のデプス調査から「天然水が大好き」という超ヘビーユーザー約300人の声を片っ端から調べ始めたそうです。

その結果「すごく涼しい」「ひんやり気持ちいい」「すがすがしくて、思わず深呼吸したくなる」という「水に関係ない意見」が多いのに改めて注目が集まりました。

そこで天然水の価値は「水」ではなく「南アルプスの冷たく澄んだ空気を体の中に取り込める気持ち良さ」にあるのではないか、という1つの仮説にチームは辿り着きます。

「都会で満員電車から出て会社に向かう前のコンビニであの南アルプスの空気が吸えたら、さぞ気持ちいいだろうと。そこに天然水の本当の価値があると考えた」(小南氏)。

つまり天然水ブランドが提供している価値は、水なんだけど、水だけじゃない。水の後ろに隠れている、冷たく澄んだ空気であり、それを表す世界観だったのです。画像で選ぶと、こういう世界観ではないでしょうか。

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冷たく澄んだ風がなびく山々を駆け巡る清冽な天然水。それを凝縮して表現したのが「天然水」ブランドであり、「サントリー天然水」ミネラルウォーターなのです。

ブランドの価値は明確になり、以降はフレーバーウォーターやスパークリングなど様々なラインナップが拡大。その結果、2018年には国内清涼飲料市場で年間販売数量No.1を獲得しました。大成功です。

ちなみに13年7月に再びパッケージデザインをリニューアルされているのですが、新しいデザインは以下のような感じです。プレスリリースに掲載された画像を引用しています。

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前後を見比べて、何が、どう、なぜ違うかわかるでしょうか。日経クロストレンドの記事から抜粋します。

ラベルの色が青と白をメインにして緑が少しなのは、表現したい自然が単なる緑ではなく、その外側にある「南アルプスの冷たく澄んだ空気」だからだ。山の稜線(りょうせん)をパキッとさせたのも、山の空気を感じてもらうためだという。


インサイトをどのようにして発見するか?

天然水チームが「南アルプスの冷たく澄んだ空気を体の中に取り込める気持ち良さ」というインサイトを発見できたのは、デプス調査や様々な消費者の声に普段から塗れていたからです。かつ「優秀過ぎるマーケター」が社内にいたからではないかと私は考えています。

俗っぽく言うと、「偶然」と、「個人の能力への依存度」が高い。

できれば、偶然ではなく必然で、秀でたTOPマーケターでも無いけれど、何個かは「そうそう!」と言えるようなインサイトを発見できるようになりたいものです。

そこで編み出されたのが、その人の抱いている価値から本質的な意見をあぶり出すデコムのフレームワークです。(手法自体は一般的な気がします)

※ここからは有償です。

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