The Blind Side~陽の目を見ない場所に光を~Vol.3:パフォーマンスコーディネーター Part.2
Part.1ではパフォーマンスコーディネーターチームがどのようにJWLに関わるようになったのかを書いたが、このPart.2では実際に彼らがどんなことをやっているのか、どのように選手にアプローチを図っているのかを伝えていこうと思う。
「骨格調整」
この言葉もあまり耳にしない言葉であろう。私は山田京介とは2016年からの仲で、彼がこのようなことをやっていると言っていたのは知っていたが、実際にメッセージのやり取りだけではこれが何なのか理解に苦しんでいた。この「骨格調整」について鈴木はこう説明してくれた。
「各競技それぞれやりやすい骨格があるということですね。サッカーならサッカーの、水泳なら水泳の、野球は野球の、投げやすい、打ちやすいという骨格があって、それを自分の体に落とし込んでから練習した方が上手くなるのが早いですよねということがあるので、まずは骨格というところにアプローチをかけてます。大谷翔平に近づけさえすれば下手になることはないですよね。
骨格調整といって、じゃあ実際何をしているかというと、関節のポジションを変えて身体全体の位置を変えてるっていうことをしているんですよね。骨と骨のつなぎめの関節があってその位置関係を変えることによって、何もしなくても前に行きやすい骨格を手に入れれるということですね。」
ここまで読んでなんとなくこの「骨格調整」がどんなものか理解していただけただろうか。鈴木は続けてこう付け加える。
「骨格調整は基本的に当たり外れがないというか、全員に共通することをやっているだけなので全員のパフォーマンスが上がりやすいっていうのはありますね。メソッド売りになってくると、A君は伸びたけど、B君は伸びないっていうのが結構出てきてしまうんですけど、それだと、運とかガチャになってきてしまうじゃないですか。そうでなくて単純に物理の法則に則って全員のパフォーマンスが上がるっていうことを考えていくと、ものである骨という部分にアプローチをかけていくと一番可能性があがりやすいかなというところがありますね。」
動きやすい身体に整えて練習や、トレーニングをする、そうすることでパフォーマンスが上がっていく。人間本来持っている骨格に近づけていくことで、より自然に体が動いていく、スポーツにおいてやりたい動きができていくようになる、そのサポートをこのパフォーマンスコーディネーターはやっているということだ。
この4人のコーディネーターのゴールは同じではあるが、骨格調整をやっていく上でそれぞれにアプローチの仕方が違う。
長竹佑介の場合は、まずは選手にどうなりたいのか、どこに行きたいのかという目的を聞いて、それに対しての現状の体の使い方を見て、その差を言語化する。
ここを変えればこうなると言ったような提案をしつつ、本人のしたいことを具現化して形にするというイメージを持っているため、選手がどうなりたいかということを最優先事項として置いている。
選手との信頼関係も長竹にとっては重要な項目になる。選手のなりたい像が間違っていたとしても、それを達成できるような身体にすることで自らを信用してもらうことも重要だと考えている。
鈴木の下で勉強している中野将史の場合だと、「リズム、タイミング、アクセント」というのをパフォーマンスを上げるうえで重要だと考えている。いろんなスポーツを見る中で選手のリズム感というのを最初に結構観察をする。
そこからその選手がやりたいことに対して、リズム、タイミング、アクセントのどこがずれているかっていうのを見てマッチさせていくことでパフォーマンス向上の手助けをしている。
第1回からJWLに関わっている中野はこのリーグに参加している選手たちの印象をこう答えている。
「このトライアウトには、あんまり上手くならなかったりとか、あまり教えて貰えてなかったりだとか、そう言った選手たちが結構来ているんで、単純に練習したら上手くなるんだっていうのを自覚してやってもらうことをとにかく意識して話しました。野球って上手くなるっていうのを半ば諦めている選手たちも来ているんで、『野球って上手くなるんだ』っていうマインドに仕向けるようにやり方とか声掛けをずっと意識してやっています。」
中野はこのノートの第一回でも紹介した西坂秀斗をリーグ期間中に調整して西坂の平均球速を1ヶ月で10キロ近く上げることに成功している。西坂とどのようにコミュニケーションをとってどのように彼のパフォーマンスが上がっていったかは第1回の記事を見てもらいたいのだが、鈴木も長竹も第2回のJWLで選手の成長に深く関わっている。
鈴木は印象に残った選手に第2回のウィンターリーグでトライアウトのMVPを獲得し、今シーズン関西独立リーグの姫路イーグレッダーズでプレーすることが決まった飯田直樹の名前をあげた。
鈴木が飯田と接したきっかけはアドバンスでゲームコーディネーターを務めていた田中勝久が声をかけたところから始まる。田中は2023年度、北海道ベースボールリーグに所属している旭川Be:Starsの監督をしていた時にすながわリバーズでプレーをしていた飯田に声をかけてこのウィンターリーグに誘っている。その田中がアドバンスリーグのオフ日にトライアウトの練習に現れた時に鈴木と飯田のことを話す機会があり飯田とのセッションが始まった。
「カツさん(田中勝久)と、ユニラテラルとバイラテラルの話をしていた時に、カツさんが『これやわ!』と言って飯田くんを連れてきたんですよね。」
簡単に説明すると、ユニラテラルとは単品動作、つまり片足または片側で行う動き、バイラテラルとは両手や両足を同じ動作で行う動きのことを言う。
話を鈴木の話に戻そう。
「バットは両手で持つものなので、例えばユニラテラルだと右手だけ、左でだけと言う使い方に対してバイラテラルは両方を意識して両方で振っていくと言う形。その違いはインパクトの場所が変わっていくんですよね。右手主導だと当然右の前が力入るし、左手主導だと左のまえが力入るし、両手主導だと当然真ん中が力入るって言う感じになりますよね。飯田くんの場合はそこがバラバラになっていたと言うことですね。」
タイミングのスポーツでもある野球で、下半身意識したり、割れを意識したり、他のことをしたり、タイミングのスポーツであるにも関わらず、自分の中のタイミングが数多く存在していたら本来のピッチャーの投球に対する以前の問題になると言うことだ。いかにやる作業を減らしてピッチャーとのタイミングを合わせるために自分のタイミングをシンプルにするか、鈴木はそこを飯田に伝えた。
「飯田くんの場合はバイラテラルでいこうと言う話をして、両腕が一つのものになって欲しかったので、バットから腕、肩のラインが一つのものとして背骨の周りを回るだけだよ、と言うイメージにしたんですよね。さらにセッティングにもタイミングが出てきてしまうので、最初から作っておけばもう動かさなくて済むので、あとはもう手を出すだけでいいと言うセッティングをしてピッチャーと対峙することになったのでピッチャーとのタイミングが合わせやすくなったんですよね。」
飯田は鈴木とのセッション前もそれなりにヒットは出ていたが、なかなかインパクトを残せてはいなかったが、このセッションを終えた翌日の試合で特大のホームランをライトスタンドに放り込んだのである。このホームラン後も飯田はヒット数もさることながら四球も増え、まさに鈴木の言った通りタイミングがとりやすくなり出塁率増加に繋がり最終的にMVPを取るまでの活躍ができたのであろう。
長竹にもとりわけ大会中に指導していた選手がいる。飯田と同じくすながわリバーズからJWLに参加して今年から和歌山ウェイブスでプレーする馬場尚輝だ。
「馬場くんから話を聞いてきてくれたと言うところがスタートなんですけど、彼はやる気があるのでいろんなところからいろんな話聞いて一生懸命やってたんですけど、その結果ごちゃごちゃになっていったのでどう言うふうに打ちたいのかって言うのを聞いてそれをやるにはこう言うことを意識するしかないよね、と言った話になったんです。本人に自信をつけさせたい、信用してもらいたいと思って、馬場くんが数字を気にしていたのでそしたら数字をあげようと言うことに集中してやりました。」
しかし長竹はもう少し馬場と早く出会えておけばと悔しい思いを見せていた。
「身体の中で重たいものを速く動かした方がエネルギーは出るので、馬場くんの身体を見た時に肋骨はそんなに悪くないなと思い、それぞれの柔らかさの動きはなくてもその物体を動かすのが得意っていうのは感じたのでそこを引き出す調整やトレーニングをやっていくと数字もどんどん上がっていって本人も楽しくなっていったんですけど、ただ試合で使えるのと練習で使えるのとはちょっと違うよというところで、僕には正直そこまで教えらえる時間がなかったです。ピッチャーが投げたボールを打つっていうところまではできなかったのでやり残した感じはありますね。」
副代表としての業務に追われなかなかパフォーマンスコーディネーターとしての仕事に全うすることができなかった山田だが、その中でもアメリカからこのJWLにチームを探しにきたロビンソン・コリンズとは定期的に関わることができた。
「コリンズは全体的にはいい骨格をしていたんですけど、腸骨が近いため上半身と下半身の動きがバラバラだったのでそこの動きを出してあげることを重点的にやりました。ただ、言語の壁があるのでそのことを理解してやってもらうということを伝えることがとても難しかったです。どういう目的でこういうことをやってその動きが出てきた時にどうなるかっていう紐付けをしていかないと結果として結びつかないことがあるので、そこの難しさは外国人選手を調整する上で皆さんが感じているところではあるのかと思います。」
このようにそれぞれの形で選手と関わり続けた4人ではあるが、彼らの選手との繋がりはリーグ期間中だけでなくリーグが終わった後も選手たちからコンタクトをもらいその後も個別でセッションを続けている。
鈴木は第1回に参加した松山真生がアメリカに旅立つまで定期的にセッションをしたり、山田もリーグ前からセッションをしていた広谷涼、そして、企業のキャンプに招待選手として参加するファーカーソン海翔のセッションも今回のリーグ期間中から継続して続けている。
中野はオリオンズのメンバーと関西でセッションを行う計画を立てていたり、長竹はアドバンスリーグに参加していたBCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサスの小林貫太、榊原元稀両投手のサポートを続けていくことが決まっている。
「セッションはできなかったんですけど、それぞれ疑問に思っていたことを説明をしてそれを明確に答えてあげて、選手たちが腑に落ちてそれを実際にやってみたいと言うことでオファーをいただきました。それで群馬ということもあってオファーをいただいたっていうこともあるかと思います。」
こう長竹は答えたが、群馬に在住している長竹にも選手にも好都合だったということでもある。
最後に彼らにJWLの魅力はどんなところにあるか聞いてみた。
まずは鈴木がこう切り出した。
「このウィンターリーグを作った時の(ウィンターリーグ代表)鷲崎さんや京介くんの理念というか、次のステージに挑戦するためにレベルを上げてステップアップしていくということがあるので、このレベルアップということを諦めている選手が結構多いんですよね。今ある自分の技術だけでどう戦っていくかって感じがあるんですけど、まだまだ全然選手はレベルは伸びますよっていうことを良い意味アホになって信じてこのJWLに参加してくれたら良いなって思ってます。全然諦める必要なんかなくて、1ヶ月あればレベルなんて絶対に上がるんでレベルを上げてステップアップしたい人は是非とも参加して欲しいと思いますね。」
長竹は会話の切り口でJWLの魅力をこう伝えてくれた。
「人生の中で一番野球が好きになる瞬間じゃないですかね。ウィンターリーグ側の目線で中野くんとか鈴木さん、山田さんの指導をちょっと引いて見てみると、どっちも楽しそうなんですよ。そして、坂梨さんとかゲームコーディネーターの方々が試合でみんなを鼓舞しているのとかをみるとやっぱり楽しい瞬間じゃないのかなって思いますね。1日1日レベルアップしている自分もわかりますし、どんどん野球が好きになっていくんで、切迫感があって参加する選手もいると思うんですけど、それが180度ガラッと変わるんで、そう考えたら40万って高くもないのかなって思うし来ない理由はないのかなって思います。」
あまりにも素晴らしい回答だったため中野は長竹の言葉以上の回答が見つからず、JWLに参加した時のように長竹の思いに追随した。
最後にチーフパフォーマンスコーディネーターでありJWLの副代表でもある山田は自信を満ち溢れた口調でこう締め括った。
「僕たちがいるから来た方がいいと思います。諦めきれなかったり、まだもっとやれるんじゃないかとか少しでも、1%でも自分に可能性を感じているのであれば参加してもらいたいですね。そこの可能性を広げられるメンバーをこちらは集めているつもりなので、ここにきてくれたらその可能性を広げられると自信を持って言えるんで、1%でも自分に可能性を感じているのであれば来てもらいたいですね。」
可能性、選手は伸びる、そして自分たちはそこを絶対に引き出せる能力がある。終始謙虚ながらも自信に満ち溢れているパフォーマンスコーディネーターの4人。全日程ではないが今年もJWLに参加してくれる予定で今も話が進んでいるそうだ。
レベルアップしてステップアップをしたい選手、1%でも可能性を自分に感じている選手、そして何より人生で一番野球を好きになる瞬間を感じたい選手は是非JWLで彼らと関わって見てはいかがだろうか。
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