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大きな躍進を果たしたリヴァプール(WSL 23/24シーズン総括3) :: WSL Watch #076

"WSL Watch 073"と"WSL Watch #075"に続くWSLの23/24シーズン総括の第3弾は、大きな躍進を果たしたリヴァプールを。控えめに言っても、今シーズンのWSLで一番のサプライズだったんで。決して派手なサッカーだったわけじゃないけど、しぶとくて堅い闘いを見せて、下馬評はそれほど高くなかったと思うけど、シーズンを通じてリーグを盛り上げてくれたチームだったな、と。

最終的には見事にトップ4でフィニッシュ

最初に挙げなきゃいけないのは、やっぱり4位っていう見事な結果。しかも、12勝5分5敗の勝点41、5位のマンチェスター・ユナイテッドに勝点6差をつけたっていう見事な成績で。

シーズン始めに書いた"WSL Watch 001"の中の「23/24シーズン開幕前の勢力図」でも触れた通り、近年のWSLはチェルシーとアーセナルのロンドンの2チームとマンチェスター・シティとマンチェスター・ユナイテッドのマンチェスターの2チームが上位争いをするって構図で、改めて確認したみたら、この4チーム以外のチームが最後にトップ4に割り込んだのは18/19シーズンのバーミンガム・シティの4位まで遡らなくちゃいけなかったりして。しかも、実はマンチェスター・ユナイテッドは今の体制でチームが運営されるようになったのは18/19シーズンからで、その18/19シーズンにチャンピオンシップで優勝して19/20シーズンからWSLに昇格したチームだったりするんで、今シーズンのリヴァプールはマンチェスター・ユナイテッドが昇格してから4シーズン続いてた4強体制に初めて割り込んだチームってことになる。そういう意味でも、けっこうな快挙って言っていいはず。もちろん、クラブ史上最高成績だし。

上位を苦しめてリーグを盛り上げたチーム

今シーズンのリヴァプールの闘いぶりを振り返ると、やっぱり目を引くのはアーセナルにもチェルシーにもマンチェスター・ユナイテッドにも勝ってる、しかも、マンチェスター・ユナイテッドにはシーズン・ダブルまで達成してるってこと。逆に言えば、優勝争いにすごく大きな影響を与えたチームって言い方もできるけど。まずは、何と言っても開幕戦のアウェイでのアーセナル戦の勝利。もちろん、アーセナルが開幕前にUEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグの予選ラウンドで負けちゃってた流れもあったし、スタッツを見ても保持率が60%:40%、シュート数が18:9(枠内が3:2)だったんで基本的にはアーセナルが優勢だったって言っていい試合だったとは思うけど、54,115人入ったエミレーツ・スタジアムでのアーセナル戦の勝利はすごく大きかったし、決して多くはないチャンスを活かした1-0ってスコアも含めて、今シーズンのリヴァプールを象徴するような試合だったのかも。

アンフィールドに23,088人入った3節のエヴァートンとのマージーサイド・ダービーで負けたのは痛かったけど、10節にはアウェイでマンチェスター・ユナイテッドに勝ったりしつつ、基本的にはトップ・ハーフをキープしながら進められたシーズンのもうひとつのハイライトはシーズン終盤の4連勝、特にチェルシー戦とマンチェスター・ユナイテッド戦の勝ちだったかな。準備が逆になっちゃうけど、マンチェスター・ユナイテッド戦に関しては、けっこうチャンスを作られながらもしぶとく守りつつ、CKからのゴールで奪ったリードを守って1-0で勝利って感じ。実はリヴァプールもけっこうチャンスを作れてたし、別に防戦一方って展開じゃなかったって点もポイントかも。

で、リーグ優勝の行方を大きく左右したことでも意外すぎる試合展開でも大きな話題になったのがチェルシー戦。最終節前のタイミングでの優勝争いの状況をまとめた"WSL Watch #067"でも触れたけど、今シーズンのリヴァプールらしからぬ撃ち合いをチェルシー相手にやっただけでもビックリなのに、マリー・テレーズ・ヘビンガー(Marie Therese Höbinger)のCKから生まれた3ゴールを含む4得点で見事に打ち勝っちゃってさらにビックリって感じだった。

シーズンを振り返ると、実はアウェイでのチェルシー戦では5-1、マンチェスター・シティにはアウェイで5-1でホームで4-1で大敗してたりもするんだけど、それでも強豪4チーム相手に4勝っていうのはものすごく立派な結果だったって言っていいはず。

堅い守備で拮抗した展開に持ち込むのが持ち味

今シーズンのリヴァプールを改めて振り返ると、基本的には「堅い守備をベースに、多くの試合を拮抗した持ち込める非保持型のチーム」だったって言っていいんじゃないかな。チェルシー戦とかマンチェスター・シティ戦の大量失点はあったけど、それでも22試合で28失点って数字は上位3チームに次ぐリーグ4位の少なさだったんで。チーム・スタッツを見てみても、今シーズンの平均保持率は46.9%でリーグ8位、平均のパス数はリーグ9位って感じで、攻撃のスタッツで上位にきてるモノはほとんどないし。他の項目で目を引くのは、ロング・ボールの成功数がリーグ1位、クリア数がリーグ2位、クリーン・シートの数がリーグ3位、イエロー・カードの数がリーグ1位って辺りなんで、やっぱり非保持がベースって感じ。フォーメーションは3バックが基本で3-5-2がメインだったけど、3-4-2-1の試合もあったかな。観ててわかりやすい派手なサッカーってわけじゃないけど、強豪4チームとは明らかに違うタイプのプレイモデルでしっかり結果を出したって意味でもなかなか興味深いチームだったな、と。ちなみに、今シーズンのリヴァプールはマンチェスター・ユナイテッドとブライトン&ホーヴ・アルビオンとアストン・ヴィラとレスター・シティ相手にシーズン・ダブルを達成してる。

夏に補強した新戦力が躍進の原動力に

個人的には、リヴァプールっていえばオランダ代表でもお馴染みのベテランFWのシャニセ・ファン・デ・サンデン(Shanice van de Sanden)なんかのイメージがけっこう強かったんだけど、実は今シーズンはそこまで試合に出てなくて、編成的にもわりと若返った? って印象だったりする。例えば、空中戦勝利数105っていう最多記録を作ったらしいノルウェー代表FWで178cmある24歳のソフィー・ロマン・ハウグ(Sophie Román Haug)なんかは、今シーズンの新加入選手でいきなりチーム内得点王になってたり。

今シーズン頭に加入した新加入選手としては、チェルシー戦のCKでの3アシストで強烈なインパクトを残した22歳でオーストリア代表MFのマリー・テレーズ・ヘビンガーもリーグ戦全試合に出場してて5ゴール+4アシストって記録を残したし、ウェスト・ハム・ユナイテッドから獲得したグレイス・フィスク(Grace Fisk)は出場時間がチームで1位だったりするんで、去年の夏の補強がハマったって言い方もできるのかも。他にも、テイラー・ハインズ(Taylor Hinds)とかジェマ・ボナー(Gemma Bonner)なんかも存在感は抜群だったし、昨年の1月に加入した長野風花も実は出場時間がチーム2位だったして、すっかりチームの主力って感じだし、戦力はけっこう充実してきてる印象。あと、チェルシーに勝った試合で見事なカウンターを決めたり最終節のレスター・シティ戦で途中出場からハットトリックを達成したりしたリアン・キアーナン(Leanne Kiernan)もけっこうインパクトがあったかな。

もう1人、個人的にかなり気になってるのがシーズン終盤に出場機会を増やした18歳のミア・エンダービー(Mia Enderby)。シェフィールド・ユナイテッドから夏に加入した選手で、開幕戦から起用はされてたんだけど、ちょっとケガもあったみたいで、ウィンター・ブレイク前はスタメンは1試合だけだったんだけどウィンター・ブレイク後はスタメンで5試合使われてて。最終的にはリーグ戦14試合出場(スタメンは6試合)でゴールはなくてアシスト1なんで、まだまだ主力として活躍したとはいえないレベルだと思うけど、出場した試合でのインパクトはけっこうすごくて。特にチェルシーに打ち勝った試合では持ち前のスピードでけっこうチェルシーのDF陣を苦しめてたし。あと、リーグ戦ではノー・ゴールだったけどコンチ・カップではマンチェスター・シティ戦でゴールを決めてて、しかも、アレックス・グリーンウッド(Alex Greenwood)をいわゆる'シャペウ'で見事にかわして決めたこともけっこう話題になってた。

最近、『GOAL』にも"Mia Enderby: Liverpool's Lauren Hemp-like teen on track to fulfil her dream of playing for the Lionesses"なんて記事が載ってて、見出しにもある通り、たしかにちょっとマンチェスター・シティのローレン・ヘンプ(Lauren Hemp)に似たイメージもあるかも。調子が上がってきたタイミングでシーズンが終わっちゃったって感じもあったんだけど、来シーズン以降の活躍がすごく楽しみなタレントであることは間違いない気がしてる。

ソリッドなチームを作り上げたマット・ビアード

チームがこれだけの躍進を果たしたんで、マット・ビアード(Matt Beard)監督の手腕も当然高く評価されてて、優勝を争ったチェルシーのエマ・ヘイズ(Emma Carol Hayes OBE)監督とマンチェスター・シティのガレス・テイラー(Gareth Taylor)を押さえてマネージャー・オブ・ザ・シーズンに選ばれた。監督の表彰って、ちょっと難しいっていうか、「普通に考えたら優勝チームの監督になっちゃうだろ」みたいなところがあって、それを避けるためにJリーグみたいに優勝監督賞と優秀監督賞を分けてるリーグもあったりするんだけど、そういう風になってないマット・ビアードが選ばれるのって、いい意味でちょっと面白いな...って思ったり。もちろん、受賞辞退には納得感があるけど。

前述の通り、基本的にはソリッドに守って速く攻める非保持型のチームを見事に作り上げて素晴らしい結果を出したマット・ビアードだけど、個人的には、もうちょっと先っていうか、もっと進化させようとしてる、具体的には、保持の部分の質をもっと上げようとしてるんじゃね? ってちょっと思ってたりもする。そう思ったキッカケは、ウィンター・ブレイク明けの1月21日のマンチェスター・シティ戦で、5-1で大敗しちゃった試合だったんだけど。というのは、マンチェスター・シティのゴールがハイプレスからのショート・カウンターが多くて、でも、それまでのリヴァプールだったら低い位置から丁寧にビルドアップして前進することにそれほどこだわってなかったからこういう失点って多くなかったんで。観てて、普通に「あれ? リヴァプールってこんなに後ろからビルドアップしようとしてたっけ?」「中断期間中のキャンプでけっこうビルドアップに力を入れて取り組んでて、それをこの試合で試してみてるのかな?」って思っちゃう感じだったっていうか。もちろん、この試合では全然上手くいかなくて大敗しちゃったんだけど、そのタイミングでもう降格の心配はほとんどなかったし、築いてきたベースに新しい要素をウィンター・ブレイク中に加えようとしてたんだとしたらちょっと興味深いな...って思ったんで。その後の試合で保持率が目に見えて上がったとかって話ではないんだけど、気を付けて観てると「あ、やっぱりそうなのかも」って思うようなシーンもちょいちょいあったりして、だとすると、来シーズンはさらに面白くなりそうだし、マット・ビアードの引き出しにどんなモノが入ってるのか、お手並み拝見だな...なんて思ったりもしてる。もちろん、ただの思い過ごしとか考えすぎの可能性も全然あるけど。

ベテランが今シーズン限りでチームを離れることに

新たに補強した選手がどんどん主力として活躍したり若い選手が出てきたり、徐々に変化してる感じのリヴァプールだけど、最終節の直前に4人の選手が契約が満了になって今シーズン限りでチームを離れることが発表されてた。具体的には、31歳のシャニセ・ファン・デ・サンデンと29歳のエマ・コイヴィスト(Emma Koivisto)と30歳のメリッサ・ロウリー(Melissa Lawley)と24歳のミリ・テイラー(Miri Taylor)の4人で、ミリ・テイラー以外はベテランって言っていい年齢の選手なんで、やっぱりスカッドの若返りを図ってるのかな? って感じはする。シャニセ・ファン・デ・サンデンなんて、個人的にはリヴァプールの顔的な選手ってイメージだったんで、かなりビックリしたけど。

来シーズンからキャパシティが大きなスタジアムを使用

リヴァプールに関するニュースとして、来シーズンからホーム・ゲームを開催するスタジアムが変更されるっていう件がある。新しいホーム・スタジアムはキャパシティが18,000人のセント・へレンズ・スタジアム。引き続き何試合かはアンフィールドも使うらしい。

スタジアムを新設したって話ではなくて、セント・へレンズ・スタジアムはセント・へレンズR.F.C.っていうラグビーのチームが使ってるスタジアムらしくて、ラグビーのシーズンは2月〜9月だから時期はほとんど重ならない、具体的にはWSLのシーズン終盤だけちょっと重なっちゃうくらいっぽい。写真とか動画を見た感じではかなり立派なスタジアムで、現地の立地とかアクセスとかの事情まではわかんないけど、SNSなんかを見てる感じでは概ね好意的に受け止められてるみたい。ちなみに、今シーズンまで使ってたプレントン・パークはキャパシティが6,912人(立見が2,034人)だから約2.5倍くらいになるってことみたい。今シーズンのリヴァプールのホーム・ゲームの平均入場者数は4,549人でリーグ7位、アンフィールドでやった3節のエヴァートンとのマージーサイド・ダービーだけが23,088人で突出してて、それ以外で5,000人を超えた唯一の試合は12節のアーセナル戦で6,085人って感じで、リーグ全体で考えると入場者数が多いチームとは言えないと思うんだけど。来シーズンからのこの動きで入場者数の部分でも大きな変化があるのか、とりあえず要注目かな。




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