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アメリカが優勝したパリ・オリンピックをWSLファンの目線で総括 :: WSL Watch #092

7月25日から行われてたパリ・オリンピックのWSLファン目線での見どころは"WSL Watch #088"、グループ・リーグが終わったタイミングでの雑感は"WSL Watch #090"で書いたけど、アメリカの優勝で大会が終わったんで、大会全体の振り返り的な雑感を。

* 試合のフルマッチ映像のアーカイブはNHKのサイトで視聴可能。いつまで観れるのかわかんないけど。


アメリカを金メダルに導いたエマ・ヘイズの功績

WSLファンの目線で今大会全体を振り返って一番インパクトが大きかったのは、選手よりもアメリカ代表のエマ・ヘイズ(Emma Carol Hayes OBE)監督の仕事ぶりってことになるのかな、やっぱり。もちろん、"WSL Watch #009"で書いた通りWSLとイングランドのウィメンズ・フットボールにとってエマ・ヘイズは偉人なんだけど、そんなに軽くはないだろうプレッシャーがありながら、かなりの短期間で、わりと大胆なマネージメントをしつつ、内容でも結果でも期待に見事に応えちゃった感じだったと思うんで、改めて、ただただ素晴らしかったな、と。

まず、「そんなに軽くはないだろうプレッシャーがありながら」って部分は、ウィメンズ・フットボールの世界で'スーパーパワー'って言ってもいい強豪国であるにも関わらず、去年のFIFAウィメンズ・ワールドカップ(FIFAWWC)ではまさかのベスト16止まりって結果に終わって、そこからの立て直しを図るタイミング、しかも、長年に渡ってアイコンとしてアメリカ代表を牽引してきたミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)が引退、アレックス・モーガン(Alex Morgan)もベテランになってきたってタイミングで、結果的にアレックス・モーガンはメンバーから外して今大会に臨んだわけで、復権を託されたっていうか、期待された結果が出なかったらかなり批判されてたであろうことは容易に想像できるわけで。

「かなりの短期間で」に関しては、言うまでもないけど5月半ばまでWSLでチェルシーの監督をやってたから準備期間は約2ヶ月、6月と7月に親善試合を2試合ずつやっただけで本大会突入だったんで。常識的に考えてかなり短い、さすがに短すぎるって言っていいはず。もちろん、アクシデントでも何でもなく解ってて引き受けてるんだけど。

「わりと大胆なマネージメントをしつつ」って部分はいくつかあって、アレックス・モーガンを選ばなかったメンバー選考もそうだし、今大会で'トリプル・エスプレッソ'なんて呼び名が付いたトリニティ・ロッドマン(Trinity Rodman)とマロリー・スワンソン(Mallory Swanson)とソフィア・スミス(Sophia Smith)の3トップを軸にする選手起用もそうだし、あれだけタイトな日程にも関わらずかなりメンバーを固定して、選手交代もわりとパターン化させつつ意図を明確にして、大会を通じてチームの練度を高めるようなマネージメントで。実はアメリカのメディアには選手のローテーションをしなかったこととか、累積警告で準々決勝が出場停止になる可能性があったサマンサ・コフィ(Samantha Coffey)をグループ・リーグの3戦目に使っ(て結果的にイエローカードをもらっ)たことなんかもけっこう疑問視されてたんだけど。

「内容でも結果でも期待に見事に応えちゃった」って部分に繋がると思うんだけど戦術面の整備も見事で、ベースは4-3-3だけど保持時は左SBだけ押し出して3-4-2-1に可変するようなシステムを使いながら、平均60%超えるポゼッション率を維持しながら多くの試合を上手くコントロールしてて。これまでのアメリカって、基本的にはトランジションが多い、言い換えれば、行ったり来たり上等、トランジションの応酬の中でアスリート能力とスキルの差で相手を上回るって感じの闘いが多かったんだけど、今大会では慌てて攻めないであえてペースを落とすような展開とかがあって、エマ・ヘイズが就任してから目に見えて一番大きく変わったのはこの部分なんじゃね? って思っちゃうくらい整備された印象だったかな。結果に関しては言わずもがな、ノックアウト・ラウンドは延長戦2試合を含む3試合全てクリーンシート、オリンピックは6戦全勝、エマ・ヘイズ就任後は10試合で9勝1分0敗、20得点・2失点ってとんでもない数字で、在任78日で金メダルまで駆け抜けちゃった感じなんで。

ただ、実際にノックアウト・ラウンドの試合は3試合ともけっこう大変だった、思ってた以上に手こずった印象かな。延長戦までもつれた準々決勝の日本戦に関しては、アメリカ的には「ちょっと難しい展開になったけど焦れずに我慢強く闘えた」、日本的には「できることはやったし、ある程度、狙った展開には持ち込めた」って試合だったと思うけど。今大会の日本は(意図してたかどうかはわからないけど)基本的に非保持型(平均ポゼッション率は34.0%で、全12チーム中11位)で、ハイプレスはあまりせずにミドル・サードか自陣に守備陣形を整えてからスタートするプレイモデルのチームだったと思うけど、アメリカはチャンスを作るのにわりと苦労してたし。ただ、今までのアメリカだったらもっと強引っていうか、無謀って言ってもいいようなことをしようとして、もうちょっとミスをしてくれた感じだった(し、そこが日本が狙いたい隙だった)けど、この試合のアメリカはけっこう丁寧で、「90分で、何なら120分で仕留めればいいんでしょ」って感じがあって。実際にトリニティ・ロッドマンの質的優位一発で仕留めたし。2戦連続延長戦になった準決勝もドイツのシンプルでダイレクトなサッカーとフィジカル・バトルにくるしめられたし、マルタをスタメンから外して(出場停止だったからケガの巧妙だったのかもしれないけど)ハイプレスでスペインをパニックに陥れた準決勝を踏襲したような闘いをしてきたブラジルにかなり苦しめられた、何なら前半はけっこう劣勢だったし。それでも後半は修正して押し返して勝ち切っちゃったのはさすがだったけど。

ただ、個人的にはアメリカ対スペインが観たかったかな。勝手にスペインがブラジルに勝つって思ってた、何ならブラジルが準決勝でスペイン相手にやったハイプレスをアメリカがやったら面白いと思ってたんで。あと、スペインとアメリカって、当たり前だけど公式戦で対戦する機会が次のFIFAWWCまでないし、単純に(3年後じゃなく)現時点のアメリカとスペインの対戦が観てみたかったってのももちろんあったし。エマ・ヘイズがチェルシーでの最後の会見(=優勝会見であり退任会見でもあった)で去り際に「次はスペインをぶっ倒さないと」みたいなことを言ってたのをちょっと思い出したりもしたし。

ちなみに、優勝後のエマ・ヘイズのコメントもなかなか感動的で。"WSL Watch #009"でも書いた通り、エマ・ヘイズは実はコーチとしてのキャリアを始めたのがアメリカでだったんだけど、「イングランドのウィメンズ・フットボールがほぼ何もなかった時代にアメリカが機会を与えてくれたから今の自分がある」「イングランドがまったく与えてくれなかったモノを与えてくれたアメリカに絶対に恩を返したかった」みたいなことを言ってて。まさにその通りなんだろうし、ものすごくいい話だな、と。

WSLの選手で輝きを見せたのは...

今回のオリンピックで輝きを見せたWSLの選手でまず頭に浮かぶのは、やっぱり見事に金メダリストになったアーセナルのアメリカ代表DFのエミリー・フォックス(Emily Fox)ってことになるのかな。"WSL Watch #063"でも取り上げた選手だけど、延長戦2試合を含む全6試合に右SBとしてスタメンで出場して、ドイツ戦は後半アディショナル・タイム、オーストラリア戦は65分、準々決勝の日本戦は延長後半アディショナル・タイムに交代したけどほぼほぼフル稼働って言っていい活躍で。非保持は4バックだけど保持では3バックになる可変の鍵を握る役割を託されて、日本戦までの4試合は保持時のトリニティ・ロッドマンのサポートと攻撃参加のバランスを取りつつネガティヴ・トランジションに備える仕事がメインだったけど、拮抗した内容になった準決勝と決勝では晒される場面が増えたっていうか、純粋に守備者としての能力の高さも存分に発揮された感じだったんじゃないかな、と。1月の移籍ウィンドウでアーセナルに加入した選手だからまだ'WSLを代表する選手'って感じじゃないかもしれないけど、今後のWSLを牽引するような選手にはなってくれそう。

アメリカ以外の国でノックアウト・ラウンドに進出した選手だと、記憶に残ったのはチェルシーのドイツ代表MFのシェーケ・ニュスケン(Sjoeke Nüsken)かな。3位決定戦までの6試合全てにスタメン出場してて、4-4-2のトップみたいな使われ方までしてたり、かなりいろんなタスクを担ってた印象だけど、ソリッドでダイレクトなサッカーで見事に銅メダルを獲得したドイツの原動力になってた感じで。去年の夏の移籍ウィンドウでチェルシーに加入して、いきなりシーズンを通して主力として活躍した実力はやっぱり本物だってことをタフな大会で改めて証明して見せたっつうか。4位に終わったスペインだと2人のライア、アーセナルのライア・コディナ(Laia Codina)とマンチェスター・シティのライア・アレクサンドリ(Laia Aleixandri)もさすがの活躍だったかな。ライア・コディナはグループ・リーグ3戦目から3位決定戦までの4試合出場、ライア・アレクサンドリは全6試合出場だったんで、ほぼ主力としてフル回転したって言っていいはず。マンチェスター・ユナイテッドのルシア・ガルシア(Lucía García)もアクセントになってたし。あとは、チェルシーのコロンビア代表FWのマイラ・ラミレス(Mayra Ramírez)は負けちゃったけど準々決勝では期待通りの存在感でスペインを苦しめてたし、準々決勝でドイツにPK戦で敗れたカナダではチェルシーのカデイシャ・ブキャナン(Kadeisha Buchanan)とアシュリー・ローレンス(Ashley Lawrence)、アーセナルのクロエ・ラカス(Cloé Lacasse)といった選手がすごく奮闘してたかな。個人的には、マンチェスター・ユナイテッドのジェイド・リヴィエール(Jayde Riviere)の出場が(おそらくケガで?)なかったのは残念だったけど。それから、アストン・ヴィラのフランス代表MFのケンザ・ダリ(Kenza Dali)もわりと印象的なプレイを見せてたかな。

WSLでプレイしてる日本人選手に関しては、そこまで大きなインパクトは残せなかった印象かな。もちろん、初戦のスペイン戦でケガをして離脱しちゃった清水梨沙はただただ気の毒だし、仕方がないんだけど。個別に見れば、ナイジェリア戦の長谷川唯のスルー・ボール→裏抜けした植木理子のクロス→詰めた浜野まいかのゴールって場面みたいにWSLでプレイしてる選手が光った部分はもちろんあったし、特別出来が悪かったとか期待外れだったって選手はいなかったとは思うけど、昨シーズンのWSLでのプレイを観てきた視点で考えると、特に際立った印象を残した選手はいなかったかな、残念ながら。

新シーズンのWSLでプレイする選手たち

WSLでプレイしてる選手と同じくらい注目しちゃったのは、やっぱり新シーズンのWSLでプレイすることが決まってる選手。この夏の移籍ウィンドウで加入する選手の情報は"WSL Watch #085"で随時更新してるけど、例えばチェルシーに入るフランスのサンディ・ボルティモア(Sandy Baltimore)なんかは明らかに質的優位をもたらせるWGって感じでインパクト抜群だったし。他にも、日本戦で決勝ゴールを決めたのはアーセナルに入るスペインのマリオナ・カルデンテイ(Mariona Caldentey)だったり、マンチェスター・ユナイテッドに加入するカナダのシミ・アウージョ(Simi Awujo)もエネルギッシュなプレイでかなりインパクトが大きかったし。あと、昇格チームのクリスタル・パレスに入るニュー・ジーランドのインディア・ペイジ・ライリー(Indiah-Paige Riley)もちょっと面白そうな選手だし、エヴァートンに加入するナイジェリアのトニ・ペイン(Toni Payne)は普通に即戦力になりそうな実力者って感じだったし。

もちろん、ブライトン&ホーヴ・アルビオンに入る清家貴子、マンチェスター・シティに入る藤野あおばと山下沙也加もここの括りに入る(WSLのチーム間で移籍した清水梨沙と林穂之香は除く)んだけど、一番大きなインパクトを残したのは藤野あおばだったかな。やっぱり、スペイン戦で決めた直接FKの印象は強烈だったんで。もちろん、まだ20歳って年齢が若もあるし、去年のFIFAWWCのチャンピオン相手に初戦でいきなり決めたってインパクトもあったし。ただ、清家貴子も攻守にアグレッシブなプレイ・スタイルで好印象だったし、山下沙也加も好セーブを見せてたし、十分期待感を抱かせるプレイはしてたんじゃないかな。

WSL目線抜きで気になったのは...

ここまではあくまでもWSLウォッチャー目線で気になったポイントを書いてきたけど、ここからはそこからちょっと逸れる、もしくは直接関係のない話を。

NWSLの存在感
ほとんどの選手がNWSLでプレイしてるアメリカが優勝したから当然って言えば当然なんだろうけど、ブラジルとかカナダとかコロンビアも含めて、やっぱりリーグとしてのNWSLの存在感は際立ってたのかな。オリンピックの見どころをまとめた"WSL Watch #088"でも触れたけど、今大会はNWSLでプレイしてる選手がリーグ別では最多だったし、参加国でNWSLでプレイしてる選手がいなかったのはコロンビアと日本とスペインだけだった(日本はケガしてなければ遠藤純は選ばれてたと思うけど)し、NWSLの全チームからオリンピアンが出てるっていうのもすごいことだし、27人のメダリスト(金が17人・銀が8人・銅が2人)がNWSLでプレイしてるって数字ももちろん素晴らしいし。これまでにも「WSLの世界的な位置付けは?」みたいな観点で、比較対象としてNWSLについてちょいちょい触れてるけど、やっぱりNWSLは侮れんっていうか、間違いなく一大勢力だなってことを改めて強く印象付けられた感じ。

ブラジルとマルタのストーリー
今大会前に想定されてた大きなストーリーとして、「最強のスペインがFIFAWWCとオリンピックの連覇を果たすのか」と「新たにエマ・ヘイズ体制になったアメリカが復権は成るのか?」と並んで「ブラジルはレジェンドのフィナーレを金メダルで飾れるのか?」っていうのがあって。もちろん、ブラジルのレジェンドってのは今大会中に代表キャップが200を超えたマルタ(Marta)のことで、今大会を最後に代表を引退することを公言してたんで、当然、ブラジル代表としての最後のプレイに世界中の注目が集まってた。実際には、けっこうトリッキーな展開っていうか、グループ・リーグ3戦は全てスタメンで出てたんだけど、3戦目のスペイン戦でレッド・カードをもらっちゃって、「この試合がマルタのブラジル代表としての最後の試合になっちゃうのか?」「これだけ偉大な選手の代表キャリアの最後がこんな幕切れなんて、さすがにあんまりだろ」みたいな状況になっちゃって。スペイン相手に45分以上マルタ抜きの数的不利で闘わなきゃいけなくて、その時点ではスコアレスだったけどスペインに負けたらグループ3位で勝ち上がれるか微妙だったし、結果的にブラジルはグループ3位で勝ち上がれたんだけど、それでもマルタは2試合出場停止処分だから次に出れるのは決勝か3位決定戦、つまり、準々決勝のフランス戦はマルタ抜きで勝ちが必須になっちゃったんだけど、フランスは開催国だから完全アウェイって状況なわけで。そんな逆境がモチベーションになるって側面もなくはなかっただろうけど、それでも、控えめに言っても相当難易度が高い状況になっちゃったことは間違いなかったかな。でも、この状況が結果的に上手い方向に転んだような気がして。今大会のブラジルに関しては。もちろん、内実はわからないけど。ブラジル代表の選手なんて全員マルタに憧れてサッカーをやってきたって言っても過言じゃないだろうし、「マルタのために」って想いで結束を強化するっていうか、そういうメンタル面での作用は相当大きかったと思うんで。ただ、個人的にはピッチ上の実際のプレイにも実は大きな影響があったと思ってて。一般論として、オリンピックとかFIFAWWCとか、この手の短期集中開催の大会はどれもそうだと思うけど、個人的には決して「一番強い国を決める大会」じゃないっていうか、あくまでも「(実力がある程度拮抗したチームの中で)特殊な環境下での最適解を見つけられて勢いに乗ったチームが勝つ大会」でしかないと思ってるんだけど、今大会のブラジルの銀メダルにもそういう感じがあったっていうか、完全にケガの巧妙っていうか、図らずもだったとは思うけど、そのトリガーになったのはマルタの2試合出場停止っていう'縛り'だった気がして。具体的には、スペインに勝っちゃった準決勝が典型例だけど、腹を括ったような潔いハイプレスは38歳のマルタがいたらさすがにちょっと難しかったんじゃね? って思うんで。もちろん、試合の流れのコントロールとか局面での創造性とかスキルの高さとか、マルタ不在で失ったモノも多いんだけど、それを差し引いて考えても、今大会のノックアウト・ラウンド以降のブラジルに関しては、'マルタ抜きっていう縛りプレイ'に強いられた腹の括り方、具体的には、ハイプレスをベースにした肉弾戦上等のフィジカルな闘いに全振りしたようなスタンスに変えたことでプレイが大きく好転した印象だったかな。もちろん、出場停止が明けた後はマルタをスーパー・サブとして勝負どころで使えたし。実際にマルタの出場停止が明けた決勝でもマルタをスタメンに戻さなかったのは、マルタ不在の2試合の流れを変えたくなかったって選択だったんだろうし。結局最後(特に決勝の後半)はブラジルも力尽きた感じがあって、残念ながら最高のカタチでレジェンドが有終の美を飾る結末にはならなかったんだけど、2002年から代表としてプレイしてて、FIFAWWCには2003年大会から、オリンピックには2004年のアテナ大会から出てるような、文字通りリヴィング・レジェンドって呼ぶべき選手の代表キャリアの最後のプレイがレッド・カードに繋がったファールにならなくて本当に良かったな、と。

リヨンとPSGの選手たち
上に'NWSLの存在感'って書いたけど、同じくらい印象に残ったのがフランスの2つの強豪クラブ、リヨンとパリ・サン・ジェルマンの選手たちだったかな。フランス代表はもちろんこの2チームの連合軍+αみたいなチームで、リヨンならキャプテンのワンディ・ルナール(Wendie Renard)とかデルフィーヌ・カスカリーノ(Delphine Cascarino)とか、パリ・サン・ジェルマンなら大会得点王に輝いたマリ・アントワネット・カトト(Marie-Antoinette Katoto)とか、印象的な活躍を見せた選手がたくさんいたんだけど、実は他の国でもリヨンだとアメリカのリンジー・ホーラン(Lindsey Horan)とかオーストラリアのエリー・カーペンター(Ellie Carpenter)とか、パリ・サン・ジェルマンだとオーストラリアのクレア・ハント(Clare Hunt)とか、主要国のキー・プレイヤーがいるのはさすがって感じで。リヨンで長年プレイしてた日本代表の熊谷紗希なんかもそうだったってことなんだろうけど、UEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグの上位に頻繁に勝ち上がるようなチームの主力選手ならどこの国でも中心になってて当然なんだろうな、と。

プレイモデルの完成度の高さが際立ったスペイン
結果的にはベスト4に終わっちゃってメダルも獲得できなかったけど、チームとしてのプレイモデルの完成度の高さって意味ではやっぱりスペインが飛び抜けてた印象だったかな。それが必ずしも結果に結びつくとは限らないのがサッカーって競技ならではの難しさなんだろうけど。典型的なポジショナル・プレイをベースにした保持型のチームで、質の高い保持で相手を押し込んで、幅と深さとライン間を丁寧に使いながら攻めて、ボールを失っても相手陣内ですぐに奪い返して攻め続けるスタイルで、大会を通じた平均ポゼッション率は驚異の76.0%でもちろん全チームで1位、パス数、シュート数、枠内シュート数も1位で、得点もアメリカに次いで2位なんで、基本的にはやるべきことはやれてたはず。初戦の日本戦なんかは顕著だったと思うけど、カウンター対応も大会半ばまではかなりタイトにやれてたし。日本戦前後のスペインの選手のコメントをいくつか見聞きした感じだと、ほぼほぼパーフェクトな内容で勝った去年のFIFAWWCで唯一悔しかったのが日本戦の敗戦で、ほぼ負けることがなかった最近のスペインにとっては屈辱って言っていい感じで、カウンター対応は特に気を付けて強化してきたらしくて。ただ、さすがに過酷なスケジュールの影響があったのか、準決勝と3位決定戦(準々決勝のコロンビア戦もかも?)に関してはカウンター対応も緩んでたし、それどころか、生命線である保持でのミスも増えてたし、特に自陣での保持のミスによって自分たちでより苦しい状況にしちゃった感じだったけど。「スペインみたいなプレイモデルのチームが崩れるならこういう展開だよね」って感じだったって意味では、良くも悪くもやれることはやりきったとは思うし。もちろん、体力のコントロールとか取れるときにちゃんと点を取ることとか、スペインとしてはいろいろ課題はあったんだろうけど、やっぱり完成度の高さは圧倒的だったし、単純に「スペイン、やっぱりスゲエな」って思っちゃうような、期待を裏切らないサッカーは見せてたんじゃないかな。

ヨーロッパとアメリカのバランスが絶妙なカナダ
"WSL Watch #088"でも触れたけど、ヨーロッパとアメリカっていうウィメンズ・フットボールの2大勢力圏でプレイする選手をバランスよく抱えてたカナダはやっぱりすごく興味深かったかな、個人的には。もちろん勝点剥奪で逆に変なスイッチが入っちゃった? みたいな感じもあったけど、やっぱり力はあることを改めて印象付けた感じで。厳密に言えば、アメリカとカナダ(とメキシコも?)って、なかなか関係がユニークっていうか、違う国だけどいろんな分野の交流は密で、例えばカナダのチームがNBAとかMLSに普通に入ってたりするような関係だから、そのまま日本と比較するのはちょっとフェアじゃない気もするけど、でも、ヨーロッパとアメリカがウィメンズ・フットボールの2大勢力圏であることは間違いないはずだから、日本にもいろいろ参考になる部分があるっていうか、「日本もカナダみたいにヨーロッパでプレイする選手とアメリカでプレイする選手が半々くらいになったらいいんじゃね?」なんてちょっと思ったりして。

今大会で気になった選手は?
WSLって枠を抜きにして今大会で記憶に残った選手もせっかくだから挙げとこうかな。真っ先に頭に浮かんだのはアメリカの右CBのナオミ・ギルマ(Naomi Girma)かな、やっぱり。24歳のサン・ディエゴ・ウェーヴの右利きのCBで、もともと代表戦で観てて認識はしてたけど改めて「こんなにいい選手だったんだ」って思っちゃった。シンプルに守備者としても能力が高いし、保持の面でも貢献度はものすごく高かったし。もちろん、アメリカだと'トリプル・エスプレッソ'ことトリニティ・ロッドマンとマロリー・スワンソンとソフィア・スミスは華やかで魅力的だったけど。

あと、ここまでに名前を挙げてない選手をシンプルに羅列しちゃうとオーランド・プライドでプレイしてるザンビアのバーブラ・バンダ(Barbra Banda)とかヴォルフスブルクでプレイしてるドイツのジュール・ブランド(Jule Brand)とかコリンチャンスでプレイしてるブラジルのガビ・ポルティーリョ(Gabi Portilho)とかハーバード大学のハーバード・クリムゾンでプレイしてるジェイド・ローズ(Jade Rose)とか、思い返すと面白い選手はたくさんいたかな。WSL以外のリーグはどうしてもそれほどチェックできないからどこまで追いかけられるのかわかんないけど、せっかくだからちゃんと覚えとかないと...とか思ったり。それに、誰がいつWSLに来るかわかんないし。実際にカナダのシミ・アウージョなんか大会中にマンチェスター・ユナイテッド入りが発表されたし、オーストラリアのカイラ・クーニー・クロス(Kyra Cooney-Cross)とかカトリーナ・ゴリー(Katrina Gorry)なんかも、去年のFIFAWWCで知って「いい選手だな」って思ってたら2人とも実際にWSLに来たし。あと、日本人選手は知ってるからこういう感じで観たりはしないけど、世界的には谷川萌々子なんかはインパクト抜群だったって言っていいのかな? とか思ったりしつつ。

オリンピックってやっぱり過酷すぎ
最後にやっぱり触れとかなきゃいけないのはオリンピックって大会自体のこと、もっと言っちゃえば、コンペティションとしていろいろ問題がありすぎってことになっちゃうかな、やっぱり。12チームしか参加できないって点もそうだし、12個の椅子の割り振りもそうだし、全試合中2日っていう過酷なスケジュールもそうだし、移動の多さもそうだし、もともとは18人+4人の予備メンバーって数もそうだし、しかも、予備メンバーの扱いが大会直前に変更されるって事態もそうだし。いろんな意味で問題ありすぎ、少なくとも、純粋に競技自体に、ピッチ上のパフォーマンスに悪い影響を及ぼすような問題がありすぎで。いろんな国の選手のコメントとかを見てると、その中でも移動の問題、特に宿泊地が変わるストレスがかなり大きかったっぽい。FIFAウィメンズ・ワールドカップだったら、大会中は基本的に決まった場所に宿泊+トレーニングをして、そこを拠点に試合会場に移動するカタチのはずだけど、オリンピックでは宿泊先自体も変わってた、つまり、移動のときに荷物をパッキングしなきゃいけないわけで、そんなの、想像しただけでもかなりストレスだと思っちゃうし。しかも、パリでは選手村も使ってたらしいんだけど、そこで体調を崩した選手がいたなんて話もあったし、そうじゃなくても、選手村に入れる人数にも決まりがあるらしくて、例えばトレーナーも入れる人数が制限されたり、シェフが入れないから食事も変わっちゃうとか、いろいろあったみたいだし。

オリンピックって、男女で意味合いとき位置付けが違ってるっていうか、メンズ・フットボールの世界よりも大きな価値をウィメンズ・フットボールの世界では持ってる大会だったとは思うけど、そのわりには大会自体にトリッキーな要素が多すぎて、ちょっといろいろ見直すべき時期にきてるんじゃね? って思っちゃったかな、正直なところ。FIFAWWCの翌年にあるって時期も含めて。『ザ・ガーディアン』にも"Women’s football at the Olympics is not working – it needs to change"なんて記事が掲載されてて、例えば、イギリスのメディアだからそもそもイングランドじゃなくイギリス代表で出ることの是非に関する指摘があったり、17日で6試合やるスケジュールだったら延長戦は要らないんじゃないかとか(そういえば、準々決勝の4試合は同日開催で、キックオフ時間の間隔が2時間だったから延長戦になったら次の試合が始まっちゃうスケジュールで、実際に最後の試合以外は全部延長戦になっちゃってたし)、夏の暑い時期の大会なのに18人+4人って人数にももちろん問題があるし、男女共にU23+オーバーエイジにしたほうがいいなんて指摘も含めていろいろ書かれてて、もちろん全部が賛同できるわけじゃないけど、影響力があるメディアがこういう提言をすること自体は好ましいな...って思っちゃったかな、やっぱり。


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