見出し画像

ゴールド・カップがWSLに与える影響は? :: WSL Watch #042

年末年始のウィンター・ブレイクから今月の代表ウィークまでのWSLの動きを振り返った"WSL Watch #041"の最後の"不確定要素としてのゴールド・カップ"って項目で、「個人的に全然詳しくないからちょっと調べてから改めて近いうちに別の記事として書こうと思ってるけど」「アメリカ大陸ではゴールド・カップが開催されることになってて、コレがなかなかトリッキーっていうか、WSLにも影響を与えそうな不確定要素を含んでて」なんて書いた件について、いろいろ調べてみた。

CONCACAFのチャンピオンを決める大会

ゴールド・カップってのは北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)に属する国の代表チームのチャンピオンを決める大会で、今大会の正式名称は"2024 CONCACAF W Gold Cup"。メンズのゴールド・カップはそこそこお馴染みだったりするけど、ウィメンズでは過去に似た名称の大会もあったらしくて、でも、今回はレギュレーションを新たにしてリブランドされた形式で開催される初めての大会とのこと。日程は2月20日〜3月10日だからもう始まってて、アメリカの4都市で開催されてて、現段階でグループ・リーグの2戦目が行われてる。

つまり、意味合いとか位置付けとしては、ヨーロッパにおけるユーロ、南アメリカにおけるコパ・アメリカ、アジアにおけるアジア・カップ、アフリカにおけるアフリカ・カップ・オブ・ネイションズに該当する大会って認識で基本的には間違ってないはず。

北中米の強豪国と南米からのゲストが参加

大会形式としては、参加国は12ヵ国で4ヵ国ずつ3グループに分けてグループ・リーグを闘って、成績上位8チームがノックアウト・ラウンド=決勝トーナメントに進むっていう形式で、この形式自体は特に珍しくないと思うんだけど、でも、参加国の構成がちょっと変わってる。端的に言っちゃうと、CONCACAFの8ヵ国に加えて、南アメリカ・サッカー連盟(CONMEBOL)からゲスト国を4ヵ国招いて全12ヵ国ってことらしくて。どういう経緯、どういう意図でこういう形式になったのかはよくわかんないんだけど。競技レベルを上げることとかプロモーション的な意味合いとかなのかな? メンズでも、例えば過去には日本代表がコパ・アメリカに参加したことがあったり、ゴールド・カップにカタールが参加したこともあった気がするからものすごく珍しいってわけじゃないとは思うけど、CONCACAFとCONMEBOLのバランスが2:1ってのはさすがにちょっと珍しいな、と。

ちなみに、参加国はグループAがアメリカとメキシコとドミニカ共和国とアルゼンチン、グループBがプエルト・リコとパナマとコロンビアとブラジル、グループCがカナダとコスタ・リカとエル・サルバドルとパラグアイの計12ヵ国。アルゼンチンとコロンビアとブラジルとパラグアイがCONMEBOLからのゲスト国ってことになるんだけど、この4チームは2022年のコパ・アメリカの上位4ヵ国ってことらしい。どこかのグループが当然そうなるんだけど、グループBは普通に半分が南アメリカの国になってる。

WSLに及ぼすトリッキーな影響

大会自体は他の連盟と同じような形式で、当然だけどそれほど珍しいモノじゃないんだけど、WSLに関わる影響としてまず考えられることとして、まずは日程の問題がある。2月20日〜3月10日の予定だけど、WSLは3月の第1週から再開されるから、ゴールド・カップに出場してる選手はリーグ戦の15節だけじゃなく、コンチ・カップの準決勝とFAカップの準々決勝にも出れないってことになるんで。もっと言っちゃうと、ちゃんと気付いてなかったんだけど、代表ウィーク直前の14節が行われたのが現地時間で2月16日〜18日だったから、14節に出場せずに代表に合流してた選手もいたっぽくて。1月に行われてたメンズ・チームのアジア・カップとかアフリカ・カップ・オブ・ネイションズもそうだったけど、大会日程が代表ウィークに収まってないから選ばれた選手はチームが勝ち残ってる間はクラブ・チームから抜けることになって、選手がたくさん呼ばれてるチームは少なからず影響を受けそう。

トリッキーな要素はまだあって。具体的な例を挙げると、チェルシーのコロンビア代表FWのマイラ・ラミレス(Mayra Ramírez)がゴールド・カップの代表チームに呼ばれてないことがわりと論争になってたみたいで。当初は「チェルシーが召集を拒否した。大陸のチャンピオンを決める大会に対するリスペクトが欠けてる。ヨーロッパのビッグ・クラブは横暴だ」みたいな意見をSNSとかで見かけたんだけど、実はそんな単純な話じゃないっぽくて。代表ウィークであれば召集されたらクラブ・チーム側は拒否できないのが基本的なルールだけど、今回のゴールド・カップは代表ウィークの日程には収まってない。連盟のチャンピオンを決める大会なんだから拒否できないはずって意見もあるんだけど、ここでさらにトリッキーなのは、ゴールド・カップはあくまでもCONCACAFの公式の大会だけど、マイラ・ラミレスはコロンビア代表で、コロンビアはCONMEBOLの国で、今回はあくまでもゲストとして出るだけだから拒否できるみたいな意見もあって。もっと言っちゃうと、マイラ・ラミレスの意思とか、本人とコロンビア代表の関係とかコロンビア代表での立場とか、コロンビア代表が今大会をどう位置付けててどういう意味合いで考えてるのかとかもわかんないわけで。マイラ・ラミレスはコロンビア代表では押しも押されぬエース・ストライカーだと思うけど、本人が移籍したばっかりのWSLに馴染むことを優先したいって考えてたり、コロンビア代表が今大会では新しい戦力を試すのに使いたいって考えてても不思議じゃないし。実際にチェルシーからカナダ代表の選手は参加してたりするんで、チェルシーがこの大会を軽視して横暴な態度を取ってるとか、本人の意思を無視して代表に行かせなかったとかって話ではなさそうな気がしてるけど。ともあれ、参加国は呼びたい選手は全員呼べたのか、ケガとか以外の理由で辞退した選手はいるのか、ちょっとわからなかったりするかな。CONCACAFの国はともかく、CONMEBOLからのゲスト国のスタンスとか本気度もイマイチわからないんで。

最大勢力はカナダ代表

実は最初にゴールド・カップのことが気になったのは、"WSL Watch #021"の1月の移籍マーケットの動きを調べてる中で、例えばアーセナルが元フランス代表のベテランGKのサラ・ブアディ(Sarah Bouhaddi)を獲得したニュースとか、チェルシーがスウェーデン代表DFのナタリー・ビョルン(Nathalie Björn)を獲得したニュースに関して、「ゴールド・カップで選手が離脱することも見越した補強だろう」みたいな記事を読んだからだったかな。で、その後に「チェルシーのラミレスは呼ばれるのか?」みたいな記事を見て、「え? ってことは、シティのショウもじゃね? ショウが抜けたらシティはメチャメチャ困るんじゃね?」って思って確認してみたら、ジャマイカはそもそもゴールド・カップ出場権を獲得できてなかったから、マンチェスター・シティのジャマイカ代表FWのカディジャ・ショウ(Khadija Shaw)は抜けることはなくてけっこうホッとしたんだけど。

実際に今回のゴールド・カップに呼ばれてるWSLのチームの選手は以下の通り。パッと見た感じ、カナダ代表の多さが目立ってる。

チェルシー
DF カデイシャ・ブキャナン(Kadeisha Buchanan / カナダ)
DF アシュリー・ローレンス(Ashley Lawrence / カナダ)
FW ミア・フィシェル(Mia Fishel / アメリカ)* ケガで辞退

アーセナル
DF エミリー・フォックス(Emily Fox / アメリカ)
FW クロエ・ラカス(Cloé Lacasse / カナダ)
GK サブリナ・ディアンジェロ(Sabrina D'Angelo / カナダ)

マンチェスター・ユナイテッド
FW ジェイゼ(Geyse / ブラジル)
DF ジェイド・リヴィエール(Jayde Riviere / カナダ)* ケガで辞退

アストン・ヴィラ
FW アドリアナ・レオン(Adriana Leon / カナダ)

レスター・シティ
FW ディアン・ローズ(Deanne Rose / カナダ)

ブライトン&ホーヴ・アルビオン
DF ジョレリン・カラバリ(Jorelyn Carabalí / コロンビア)

ウェスト・ハム・ユナイテッド
DF シェリナ・ザドルスキー(Shelina Zadorsky / カナダ)

選ばれたけどケガで辞退したミア・フィシェルとジェイド・リヴィエールも含めると全12人で、影響を受けるのは7チーム。内訳はチェルシーとアーセナルがそれぞれ3人で最多、マンチェスター・ユナイテッドが2人、その他のチームは1人ずつで、マンチェスター・シティとトッテナム・ホットスパーとリヴァプールとエヴァートンとブリストル・シティから参加してる選手はいないらしい。

国別で見ると、カナダ代表がジェイド・リヴィエールも含めて8人で圧倒的に最多。次いでアメリカ代表がミア・フィシェルを含めて2人で、あとはブラジル代表とコロンビア代表が1人ずつ。改めてゴールド・カップに参加してる各国の選手の所属チームを見てみると、やっぱりヨーロッパでプレイしてる選手はそれほど多くない印象かな。その中で異彩を放ってるのがカナダ代表で、WSLでプレイしてる8人を含めて23人に辞退したジェイド・リヴィエールを加えた計24人の招集メンバーの内の14人がヨーロッパのクラブ(イングランドとフランスとイタリアとポルトガルとスウェーデン)でプレイしてて、しかも、残りの10は全員アメリカで、カナダのチームに所属する選手は1人もいなかったりして。もちろん、アメリカとカナダって、いろんな面で通常の隣国以上の結び付きがあるから単純に自国のチームでプレイしてる選手がゼロって表現すると若干違和感があるのかもしれないけど、それとは別の話として、ヨーロッパでプレイしてる選手の多さはやっぱり目を引くかな。とりあえず、WSLのファンが試合を観て、馴染みの選手が多いのはカナダってことで間違いなさそう。

もちろん、ゴールド・カップはグループ・リーグ+決勝トーナメントってフォーマットなんで、2月20日〜3月10日って日程はあくまでも最長でってことだから、グループ・リーグで敗退しちゃえば早めに帰ってくることになる。ただ、カナダやアメリカがそんなに早く負けちゃうとは思えないけど。

実際にチームに及ぼす影響は?

実際の影響の大きさを考えるなら人数はもちろんだけど、試合の出場頻度とかポジションとかを考える必要がある。例えば、チェルシーの場合だと、守備のユーティリティ・プレイヤーのナタリー・ビョルンを補強しけど、カナダ代表で抜けたカデイシャ・ブキャナンとアシュリー・ローレンスが2人ともDFだったり、代表に合流してからケガをしちゃったミア・フィシェルが先に長期離脱してるサム・カーと同じCFWだったりして、もともと選手層は厚いから今の状態であれば問題はないけど、カップ戦も含めて試合数は多いし、同じポジションにさらにアクシデントがあったりしたらけっこう厳しくなるのかも。

チェルシーと同じく3人が不在のアーセナルも、実は2月17日の14節のマンチェスター・ユナイテッド戦に出場せずに代表に合流してて、2月21日のアメリカ対ドミニカ共和国に出場してたエミリー・フォックスなんかは完全に主力って感じだったし、今シーズンは途中出場が多いけどマンチェスター・ユナイテッド戦ではスタメンだったクロエ・ラカスも出場機会がけっこう多い選手だし、アメリカもカナダも上位まで勝ち上がるだろうから、けっこう影響がありそう。GKのサブリナ・ディアンジェロに関しては、今シーズンは基本的に控えが多かったし、短期契約で経験豊富なサラ・ブアディを獲得してるんでそこまで問題にはならなそうかな。

マンチェスター・ユナイテッドのジェイゼとジェイド・リヴィエール、アストン・ヴィラのアドリアナ・レオンなんかは普通に主力なんで不在は痛いんじゃないかな。レスター・シティのディアン・ローズに関しては、出場試合数はけっこう多いけど途中出場後多くて、籾木結花の加入なんかもあって攻撃陣の層は厚くなったんで、そこまで大きな影響はなさそう。ブライトン&ホーヴ・アルビオンのジョレリン・カラバリは、最近はそこまでリーグ戦も出場が多い選手じゃないんだけど、アーセナルのエミリー・フォックスと同じように14節のリーグ戦のメンバーには入らずに2月22日のパナマ対コロンビアに出場してる(WSLの14節に出ないで代表に合流した選手と出てから代表に合流した選手がいるのは、チームでの立場とか選手層とかもあるだろうし、逆に代表側の事情もあるだろうけど、単純にゴールド・カップの日程的に初戦が早かったかどうかって面もあったっぽい)。個人的には、ウェスト・ハム・ユナイテッドのシェリナ・ザドルスキーの不在の影響はけっこう大きい気がしてるかな。1月の移籍マーケットで加入してから主力として活躍してるだけじゃなく、守備陣の中心って言っても過言じゃないんで。

日本ではYouTubeで観れるっぽい

今回のゴールド・カップの試合は日本のメディアでは特に放送・配信されないっぽいけど、CONCACAFのYouTubeアカウントでライブ配信されてて、フルマッチのアーカイブもハイライトも観れるみたい。

個人的には、UEFAウィメンズ・ネイションズ・リーグとかイングランド代表の親善試合とかもあるし、日本代表のオリンピック予選も観といたほうがいいっぽいし、既に終わってるゴールド・カップの試合結果を見た感じ大量得点差の試合も多いみたいなんで、どこまでフォローできるかわかんないけど、グループ・リーグはともかく決勝トーナメントくらいは、主にカナダ代表を中心にちょっと追ってみようかな...とはちょっと思ってたりするかな。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?