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しなやかな上手さでユニークな存在感を放つメアリー・ファウラー :: P2W017 :: WSL Watch #064

アーカイブ的な意味合いもあるかも? って思って気まぐれに量産体制に入った'P2W = person to watch(注目したい人)'シリーズの第17弾はマンチェスター・シティのオーストラリア代表FWのメアリー・ファウラー(Mary Fowler)を。ちょっと掴みどころがない感じがしつつも、実はWSLではちょっと珍しいタイプの面白い選手な気がしてて。

クールでユーティリティ性が高い若きテクニシャン

プロフィール的な部分は後回しにして、とりあえず、ざっくりとした印象を端的に言いたいところなんだけど、メアリー・ファウラーに関してはちょっと悩んじゃうっていうか、「攻撃的なポジションならどこでも起用にこなすテクニシャン」とか「若いのに落ちつきがあって左右両足を巧みに操るアタッカー」とか「クールに見えて実はしなやかな強さと速さも兼ね備えてる技巧派」とか、いくつか強調したいポイントはあるんだけど一言で表現するのが難しくて、でも、実はそういう部分こそがメアリー・ファウラーのユニークさだし、最大の魅力な気がして。

まず、攻撃的なポジションならどこでもこなすユーティリティ性が高いアタッカーって部分が大きな特徴だと思うけど、逆に言うと、適性ポジションがどこなのかイマイチよくわからない選手って言い方もできて。最初にメアリー・ファウラーのプレイを意識するようになったのはマンチェスター・シティに加入した昨シーズンからなんだけど、昨シーズンは主にCFWで、具体的にはエース・ストライカーのカディジャ・ショウ(Khadija Shaw)のバックアップとして、カディジャ・ショウが出れなかったり休ませたりしたいときに使われることが多くて、オーストラリア代表でも2トップで起用されてることが多かったんで、基本的にはCFWの選手だと思ってたんだけど、今シーズンはCFW起用はあまりなくて。インサイドMFで使われた試合もあったけど、基本的にはWG起用が多くて、最近は右WGでスタメン起用が増えてる。右WGで出てるのは、たぶんクロエ・ケリー(Chloe Kelly)の代わりに出てる、つまり、左WGにはローレン・ヘンプ(Lauren Hemp)がいるからで、別に右がものすごく得意ってことじゃないっぽいんだけど。実際に、試合中に入れ替わってることもけっこうあるけど、左WGでも問題なくプレイできてるし。プレイ・スタイルも、スピードとかドリブルのテクニックを活かしてどんどん単独で突破を試みるようないわゆる典型的なWGタイプじゃなくて、ボールを簡単には失わない上手さは持ってるけど、WGポジションから周りとのコンビネーションで崩すのが好きそうに見える。で、インサイドMFに入ってもプレイの印象は似てるし、CFWで出たときも身体を張ってボールを収めるとかスピードを活かして裏を頻繁に狙うとかボックス内でフィニッシュの場面を虎視眈々と狙ってるとかって感じよりも、いわゆるファルソ・ヌエベ=偽9番的なプレイ、つまり、少し下りて中盤で数的有利を作りながらコンビネーションで打開するプレイの印象が強くて。

他に似た選手がなかなかいないメアリー・ファウラーならではの特徴をあえて挙げるなら、プレイを観てる限りたぶん右利き(PKは右で蹴ってたし)なんだけど左足でもCKを蹴ってることかな。FKを直接決めちゃうような、いわゆる'セット・プレイの名手'として注目されてるような感じじゃないから、そういう印象だけで語るのもちょっと違う気がするんだけど、キック自体は確かに上手くて、左足のCKからもアシストがあったりする。使う足が制限されるような流れの中でのプレイならともかく、止まってるボールをどっちの足で蹴ってもいい状態で左足を選んでるってことは、左足に自信があるんだろうし。日本には前に宮間あやっていうレジェンドがいたけど、一般的には両足でセット・プレイのキッカーを務める選手なんて、古今東西の男女のサッカーを見てもなかなかレアなわけで、その点がもっと注目されてもおかしくないとは思いつつも、そこに必要以上にフォーカスを当てちゃうとメアリー・ファウラーって選手の特徴を見誤っちゃう気もして。ただ、左右両足を使えるテクニシャンでドリブルも含めてキープ力があって精度が高いキックを持ってるっていうのは、間違いなく大きな特徴のひとつだって言えると思うけど。

改めてメアリー・ファウラーって選手について考えてみると、結局一番強く印象に残るのは「まだ21歳とは思えない落ちつき」ってことになるのかも。基本的に立ち振る舞いがクールで、スピードも強度も実は全然持ってるんだけど、それを全面に押し出してるってよりも'しなやかな速さと強さ'って感じで。ちょっと意地悪な言い方をすると、良くも悪くも淡々とプレイしてる感じすらあって。一般論として、WSL(もしくはイングランドのサッカー全般)って、強さとか速さとか激しさが特徴で、そういう部分をわかりやすく全面に出すタイプの選手が好まれる傾向が強いと思うんだけど、メアリー・ファウラーって、そういうイメージとはちょっと違ってる気がして。個人的には、アーセナルのメンズ・チームのドイツ代表MFのカイ・ハヴァーツ(Kai Havertz)とちょっと似てる印象があったりする(もちろん、カイ・ハヴァーツは逆足でCKを蹴ったりはしないんだけど)。基本的な技術のレベルがすごく高くて、複数のポジションでプレイできて、実は身体能力もけっこう高くて、でも、熱さとか激しさをそこまで感じさせないっていうか、ちょっと淡々とプレイしてる印象も与えがちで。だからこそ、WSLにあまりいないレアなキャラクターとして逆にすごく面白いと思ったりして。もちろん、そういうWSLの風潮の中でしっかり存在感を放つだけの実力はあるし。

あと、最近のマンチェスター・シティを観てると、ジェス・パーク(Jess Park)のブレイクがすごく印象的なんだけど、実はジェス・パークのブレイクとメアリー・ファウラーのスタメン起用(=プレイ時間)の増加は関係してるかも? とかちょっと思ったりもしてて。完全にただの推測だけど。"WSL Watch #053"でも取り上げたけど、ジェス・パークは最近数ヶ月のWSLの中でも一番光ってるって言っても過言じゃない選手で、大きなケガで1月から離脱しちゃってるジル・ロード(Jill Roord)の代わりに右インサイドMFでスタメン出場することが増えてて、メアリー・ファウラーも同じくらいの時期から、クロエ・ケリーの小さなケガの影響なんかもあって、主に右WGでクロエ・ケリーの代わりに使われるようになったんだけど、クロエ・ケリーがケガから復帰した後もジェス・パークとメアリー・ファウラーが引き続きスタメン起用されてることに関して、ガレス・テイラー(Gareth Taylor)監督が「単にパークとファウラーの調子がいいからだ」的なことを言ってて。もちろん、そのコメント自体はその通りなんだろうし、チーム内での純粋な競争の結果で今はそういう選択になってるってことだとは思うけど、もうひとつ、「パークとケリーは同時に使いにくいのかも?」なんて思ったりもして。もちろん、監督はそんな言い方はするわけないんだけど。っていうのは、マンチェスター・シティは基本的に保持の質で試合をコントロールしたいチームで、その質についてはWSLの中でも突出してると思うんだけど、そこで大事になるのは攻撃のスピードを上げるシーンと落ちつかせるシーンの見極めだと思ってて。長谷川唯とか("WSL Watch #055"で取り上げた)アレックス・グリーンウッドなんかがその部分を司ってるんだけど、マンチェスター・シティの選手の中でもジェス・パークとクロエ・ケリーはスピードを上げたがりがちな選手、スピードを上げる局面で良さが出やすい選手、ちょっとバカっぽい言い方をすれば、ちょっとイケイケな選手だと思ってて。で、この2人を同時に右のインサイドMFとWGで使うとちょっとイケイケになりすぎるって思ってるんじゃね? ってちょっと思えて。その点、メアリー・ファウラーは保持を安定させる能力はピカイチだから、ジェス・パークが絶好調すぎて外せないとなると、WGはクロエ・ケリーよりもメアリー・ファウラーって選択になってるのかな? と。少なくとも今のところは。メアリー・ファウラー自身も全然好調なわけだし。もちろん、監督とかチームの誰かがそういうことを言ったわけじゃなくて、単なる推測なんだけど。ただ、この推測が当たってるかどうかはともかくとして、今後はちょっとその部分には変化がありそうかな。直近のウェスト・ハム・ユナイテッド戦でカディジャ・ショウが負傷交代してて、残り試合は出れないかも? って話になってて、当面はカディジャ・ショウ抜きの選手選考になりそうなんで。たぶん、クロエ・ケリーをスタメンで使って、イングランド代表でもやってるローレン・ヘンプのCFW起用か、昨シーズンやってたメアリー・ファウラーのCFW起用か、ウェスト・ハム・ユナイテッドの後半でやってたクロエ・ケリーをそのままCFWに入れる感じになるんだと思うけど。ともあれ、今シーズンの残り試合=優勝争いはもちろん、今後のマンチェスター・シティのことを考えても、すごく楽しみな選手であることは間違いないはず。

21歳で50キャップに到達した将来有望なタレント

プロフィール的な部分も押さえとくと、メアリー・ファウラーはオーストラリア代表のFWでマンチェスター・シティでは背番号8を付けてる。2003年2月生まれの21歳で出身はオーストラリアのケアンズ、それほど長身には見えないけど172cmあって、父親はアイルランド、母親はパプア・ニュー・ギニアの出身なんだとか。ユース時代をローカルなクラブで過ごして、16歳だった2019年にアデレード・ユナイテッドと初めてのプロ契約を結んでリーグ戦7試合に出場、2020年1月にフランスのモンペリエHSCに移籍して約2年半でリーグ戦40試合に出場したらしい。マンチェスター・シティに移籍したのが2022年6月なんで、長谷川唯と同じく22/23シーズンからプレイしてることになるんだけど、マンチェスター・シティについて書いた"WSL Watch #008"でも触れた通り、大きな変革のタイミングに加入したってことになるわけで、そういう意味でも今後のマンチェスター・シティを担っていく存在なることが期待されてるはず。ちなみに、昨シーズンはリーグ戦11試合出場で1ゴール+1アシストだったけど、今シーズンはここまでにリーグ戦19試合中18試合に出場してて、1ゴール+5アシストを記録してる。

オーストラリア代表としての初キャップは2018年なんだけど、15歳162日での代表デビューはその時点でオーストラリア代表の歴代5番目の若さだったんだとか。2019年のFIFAウィメンズ・ワールドカップ(FIFAWWC)のメンバーにも16歳で選ばれたんだけどハムストリングの負傷もあって出場はできず、2021年の東京オリンピックではイギリス戦でゴールを決めてベスト4進出に貢献、開催国として出場した2023年のFIFAWWCでもエースのサム・カー(Sam Kerr)がほとんど出場できない中で6試合に出場して1ゴールを決めて、ベスト4進出の原動力として大活躍してた。今年行われたオリンピック予選にももちろん出場してて、まだ21歳なのに代表キャップはもう50に到達してるっていうかなりすごい経歴の持ち主。サム・カーとか世界的なスターがけっこう多いオーストラリア代表だけど、次世代のスターは"WSL Watch #012 "で取り上げたアーセナルのカイラ・クーニー・クロス(Kyra Cooney-Cross)とかメアリー・ファウラーってことで間違いないんじゃないかな。

新しい世代のロール・モデルとしても注目

若くしてオーストラリア代表に中心選手として活躍してて、ものすごく盛り上がった自国開催(厳密にはニュー・ジーランドとの共催だけど)のFIFAWWCでもベスト4進出の原動力になって、しかも、WSLのマンチェスター・シティで活躍してる選手だから、メアリー・ファウラーは新しい世代のスター、若い女性のロール・モデル的な意味でもオーストラリアでけっこう注目されてるみたい。オーストラリアはもともとたくさんの移民を受け入れてきてて、オーストラリア人にはいろんなルーツを持つ人がいるから、アイルランドとパプア・ニュー・ギニアにルーツを持つって部分も含めてみたいだけど。例えば、オーストラリアにあるスポーツ用品のチェーンでレベル(Rebel)って店のブランド・アンバサダーをやってるらしくて、去年の夏にはショート・ドキュメンタリーが公開されてたりするんだけど、なかなか興味深い内容で。他にもいろんなインタビューとかを観てみたけど、どれを観てもプレイの印象と同じように若いのにすごく落ちついてて、地に足が着いてて聡明でしっかりしてて、自然体でコンシャスな感じで、人気があるのも頷けるっていうか、シンプルに魅力的な存在だなって思わされるし。バカっぽい言い方だけど、「若いのにしっかりしててスゴイな」って素直に感心しちゃう。



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