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【プロ野球】秋山選手のヒーローインタビューは、「平和」へのメッセージだった!

【↑トップ画像】8月6日広島原爆忌の日、秋山選手は球場に詰めかけたファンに慰霊と平和へのメッセージを述べた。3・11の大災害に対する、被災地宮城の楽天イーグルスの主将・嶋基宏選手による追悼メッセージを思い起こさせた。(画像はすべて「プロ野球ニュース」=CSフジテレビONEより)

「ピースナイター」の劇的な幕切れ

8月6日に行なわれた広島×阪神戦は、じつに劇的な幕切れだった。
 
広島に原爆が投下されてから77年のこの日、広島のマツダスタジアムは「ピースナイター」と銘打ち、広島・阪神の両チームの選手は、試合に先立ってグラウンドで黙とうを捧げた。

7連敗の泥沼から抜け出そうともがく広島の前に立ちはだかったのは、久しぶりに先発マウンドにあがった藤浪晋太郎投手(阪神)だ。
 
藤浪投手はそれまでのノーコン・荒れ球の悪癖を修正し、デッドボール2個にとどめて好投、6回と1/3を5安打、2失点におさえ、先発の役目を果たした。
 
降板した時点で、阪神は5-1と広島をリードし、藤浪投手は数年ぶりに勝利の栄冠に輝くはずだった。
 
ところが、5-2で迎えた9回裏、それまでの試合で25セーブをあげ、 “勝利の方程式”であるはずの岩崎優投手(阪神)が絶不調で、高めに浮いた球をねらわれ、3連打と味方のエラーで、ついに同点となってしまった。
 
ここで、内外野席を赤一色に染めたカープファンの歓呼に迎えられ、打席に立ったのは、この日の主役となる大リーグ帰り(6月末に広島入団)の秋山翔吾選手だ。
 
1アウト・ランナー2塁という場面で、ライト前に鋭い打球を飛ばし、サヨナラ打を放って、見事ヒーローとなった。

サヨナラ打より感動した「平和」へのメッセージ

秋山選手はその打席まで4打数無安打だったから、野球解説者に「なにか、このとき、神が降りたのかもしれませんね」と言わしめる気迫の一打だった。
 
プロ野球選手としての技量もさることながら、秋山選手をすごいと感じたのは、ヒーローインタビューのお立ち台で、次のような言葉を口にしたからだった。
 
「あのう、広島の皆さんにとっては(8月6日は)大切な日というか、忘れられない日だと思います。僕も外から来た人間ですけど、やはり、こういう野球ができているということ、そして応援してもらえることを、これからも心に秘めて、皆さんとともに、この日を忘れずに、やっていきたいなと思います。……これからもよろしくお願いします」
 
途中、秋山選手は感極まって、涙目になったようにこちらには映ったが、そのヒューマンな“スピーチ”には大いに感動した。

戦争になったら「野球」どころじゃなくなる!

「平和でなければ料理はできないのよ」と言ったのは、戦争体験者の小林カツ代さん(料理研究家)だったが、秋山選手ももしかしたら同じように、「平和でなければ野球はできない」と言いたかったのではないか。
 
広島と長崎の市長のように核廃絶とまでは踏み込めなかったにしても、「戦争は絶対にしてはいけない。平和を大切にして、いっしょに野球を楽しみましょう」というメッセージを発したように思う。
 
劇的なサヨナラ打より、横浜ファンのわたしとしては、この言葉のほうが「ピースナイター」にふさわしいと思った。

これまた劇的、日米通算1500安打を達成!

さて、そのサヨナラ打の翌日(7日)、同じく阪神とのゲームで、秋山選手は同点の3回にソロホームラン(第4号)、7回には2塁打を放ち、日米通算1500安打(大リーグでは通算71安打)を達成した。

1500安打達成の記念ボードを塁上で受け取り味方ベンチを見やった秋山選手(34歳)の人なつこそうな笑みは、さらにファンを増やすにちがいない。

【付記】スポーツ選手と社会

秋山選手がストーブリーグ(プロ野球のオフシーズン)の間、アメリカから一時帰国して、NHKBSの「球辞苑」という番組にゲスト出演したとき、たまたまそれを見て、打撃術に関する受け答えが理路整然としていて、予想外に明晰な人だなと思った記憶がある。
 
データを重視する「ID野球」「考える野球」を提唱し、ヤクルト(南海、阪神、楽天の監督も歴任)を日本一に導いた野村克也さんは、人差し指を頭に当て、「ここを使わない選手は野球がうまくならん」とよくぼやいていたが、まさしく秋山選手は「考える野球選手」の一人ではないかと思う。
(もちろん、わが横浜ベイスターズには佐野恵太選手や宮崎敏郎選手という巧打のプレイヤーがいるし、後輩には牧秀悟選手がいて、皆じつに「考える人」たちなのだ)
 
なにしろ、秋山選手は大リーグ移籍前の西武ライオンズ時代、シーズン最多安打(216本)を記録し、守備・走塁にもすぐれた巧打者だ。
 
また、プロ野球は、投手―捕手間が18.44m、その距離を時速150~160キロ超えのボールが走り抜ける超高速の世界。
 
相手投手の配球と心理を読めなければ、相手の守備陣形を頭に入れなければ、つまり投げられたボールをただ打ち返すだけでなく、瞬時に的確に球筋や内外角のコーナーを予測し、守備の穴を狙うバットコントロールがなければ、リーディングヒッターにはなれない。
 
ところで、うちの連れ合いは、8月6日のヒーローインタビューを聞いて、すっかり秋山選手のファンになってしまった。
わたしも好感をもっていたが、CS(クライマックス・シリーズ)進出のライバルチームは広島カープと狙い定めているだけに、その主力選手のファンというのは、どうにも気持ちのおさまりが悪い。
 
秋山選手は横須賀市出身らしいので、いっそのこと、同じ神奈川のわが横浜ベイスターズに移籍してくれるとすっきりするのだが、引く手あまたのなか、大リーグから“金満球団”では決してない広島カープに移籍し、かつ広島市民にピースメッセージを発信するくらいの人だから、それはとうてい叶わぬ夢のまた夢だろう。
 
“そうだ京都に行こう”じゃないけれど、隣の家の花をめでるような感覚で、秋山選手個人の活躍を祈ることにしよう。
 
==嗚呼、それにしても、大リーグのダルビッシュ有投手やプロテニスの大坂なおみ選手、全米プロバスケット(NBA)の八村塁選手のように、社会問題に対して自分の意見を積極的にSNSなどで発信し、時には抗議デモに参加するような“空気”が、ニッポンのスポーツ界にはなぜないのだろうか、としきりに思う。==
 
==例外として、森喜朗会長(当時)の女性蔑視発言を真っ向から批判し、感染拡大下の東京五輪の延期を堂々と主張した元柔道世界女王でJOC理事をつとめた山口香さんの奮闘ぶりだけは、(現役選手ではないけれど)ここに銘記しておきたい。==


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