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ATC授業内容編:スポーツ現場での緊急時対応

各大学によっても異なると思いますが、ATのクラスに入学した最初の学期、一番最初に叩き込まれたのが「緊急時対応」です!
スポーツにはケガや事故は必ず起こります。軽症なものから命にかかわるものまで様々です。

僕は、スポーツ現場には必ずアメリカのように緊急時対応ができる人材が1人は確保する必要があると考えています。
現状、日本でスポーツ現場で活動するために必要な知識や資格は法律で定められていません。ですが、選手の生命と健康を守るために、このような知識を持った人材が多くのスポーツ現場に配置されることを願っています。

令和2年にスポーツ庁から発表された報告書(「体育活動中における骨折事故の傾向及び事故防止対策」)によると、平成30年度の高校での体育活動(運動部活動および体育授業)中の災害(事故)の発生件数は207,678件。日本の高校だけでも様々な事故が起こっていると言えると思います。

その時にアメリカではいち早く対応するのがATの役目です。ATの役目にはリハビリの提供や診断、健康指導など様々ですし、日本のスポーツトレーナーという枠組みになるとパフォーマンスや身体機能の向上など役割はさらに拡大します。ですが、ATとして最も重要な役割が、この緊急時対応であると僕は考えています。
緊急時対応といっても心停止から低血糖など様々ですが、今回はその中でも基本であり全緊急時に行う「ファーストコンタクトの手順」を僕の復習もかねてご紹介したいと思います。

選手が倒れた!その時あなたは何をする?

まず何をしないといけないか知っていないと正確に行える人はほぼいないと思います。知っていたとしても、トレーニングを積んでいないと緊迫の状況でパニックにならず、正確に行うことは難しいです。まずは知ること、次に予行演習を定期的に行うことが重要です。(私自身、実習地で慌ててしまったりしてうまく行えず、予行演習の重要性を身をもって感じています(-_-;)

では、本題に入りましょう!
現場で誰かが倒れたところを見たとします。あるいは、選手やコーチが自分を呼びに来たとします。

安全確保

まず最初にやることは「安全確保」です!
これはシンプルです。試合は中断しているか?コートに飛び出して大丈夫な状況か?さらなる危険(落雷や後続車など)はないか?などです。選手の安全も大事ですが、自分が危険にさらされて対応できなくなることは避けなければなりません。

1.意識確認

次に行うことは意識確認です。
Glasgow Coma Scale (GCS)が使われ、1点でも減点があればレッドフラッグであり緊急搬送になりますが、ここではGCSを詳細に評価するのではなく、とにかく覚醒状況の確認です。特に混乱した会話等の詳細は評価を進める中の会話で判断していきます。
ここでやることはシンプルです。目を開けているかを確認し、「大丈夫ですか?」に反応できればOKです。異常肢位や反応がなければこの時点で緊急搬送確定です。ここで異常があったとしても無かったにしても、次の手順に進みます。

2.ABCD確認

A(airway)、B(breath)、C(circulation)、D(deformity)の頭文字です。自動車教習所などで救命講習を受けた方はご存じの方も多いと思います。気道、呼吸(数と質)、血液循環、変形(骨折や脱臼など)の有無の確認を行っていきます。

意識確認時に声が出れば気道は確保されていると考えられます。しかし、呼吸時もそうですが、普通では聞こえないであろう変な音が聞こえる場合は何か異常があるかもしれません。
呼吸数は12-20が成人では正常とされていますが、年齢や選手特有の心肺機能を考慮する必要があります。いずれにせよ、重要なのは呼吸によって換気が行えているかなので、それはCとしてSpO2でも確認できます。
また、SpO2だけでなく、実際に脈拍を触ってその強さやリズムが一定かどうかも判断します。

この時点で脈拍がない場合はすぐにCPR(心臓マッサージ)を開始し、周囲の人にAEDを取りに行くことと救急車の要請を依頼します。
もし呼吸に異常があったりSpO2が95%を下回っている場合は酸素ボンベからの酸素供給を行います。

ABCまでが確保できれば、第一関門はクリアというところかと思います。
Dに関しては変形に合わせて出血(内出血も含めて)ややけど、皮膚の色なども含めて観察を行うといったところになります。それぞれの対応を説明すると長くなるので、また今後のテーマとしておきます。

3.頸椎固定

CPRなど自分が行う必要がないことを確認した(必要であっても他の人が行える状況も含む)タイミングで、頸椎固定を行います。
頸椎固定は頸椎損傷があった場合に損傷の悪化を防ぐために行うものです。わかりやすく言えば、少しちぎれてしまっている首の神経がさらにちぎれることを防ぐために首が動かないように支えることです。むやみ動かして損傷が悪化すると完全に首から下が動かなくなってしまうリスクがあるからです。

方法はこのように行います。(図1,2*)

図1
図2


よくサッカーなどのコンタクトプレーで倒れた選手を、他の選手が仰向けに戻そうとしたり頭を動かしたりすることがありますが、何とかしようとしているのは分かりますが、正しくはなくリスクが高いです。

どんな体勢であったとしても頸椎損傷の可能性を除外できるまでは、選手は倒れている状態のまま、ここまでの対応を行います。
*ただし、うつぶせの状態でCPRが必要な状況のみ、頸椎損傷よりも生命維持を優先して仰向けに戻すことがあります。本来は正しい方法がありますが、やむを得ない場合もあります。

4.頸椎損傷の有無の評価

頸椎固定を行いながら頸椎損傷の評価を行います。まず、何もしていない状態で首に痛みがないかを聞きます。次に、手足の指先が動かせるか、感覚はあるか、痺れなどの異常感覚はないかを確認します。この時点で受け答えが混乱していたり、指示に従えない場合は意識障害の可能性もあります。すでに意識がない場合は頸椎損傷がある前提で対応し、頸椎固定は救急隊員に患者を引き継ぐまで継続します。

運動も感覚も正常であれば、寝ている状態で首を左右に動かします。痛みやゴリゴリした感覚が無ければOKです。異常があったり、四肢の運動や感覚に異常が出た場合は頸椎損傷の可能性があるので頸椎固定継続です。

ここまで確認してすべて異常が無ければ、ここで患者を起こしていきます。常に症状には注意が必要です。また、脳震盪など頭部への衝撃があった場合は姿勢を起こすタイミングでめまいなどの症状も出る可能性があります。

もし頸椎損傷が疑われる場合はスパインボード(図3*)にのせて搬送するか、救急隊がその場に来るまで待つということになります。スパインボードに関しても、日本で一般的な担架とはまた違うので、あらためて記事にしたいと思います。

図3

5.各状況に対する対応

ここまでの評価を終えた後は各状況に対する評価と対応を行っていきます。

まとめ

いかがだったでしょうか?
文字にすると長くなりましたが、実際に4の手順までは1分以内、もしくはもっと早く行う必要があるでしょう。特にCPRとAEDに関しては救命率はスピード勝負です。

そのためにも、最初にお伝えしたように定期的な予行演習でトレーニングしておくことが重要になってくるわけです。
もう一つ重要なのがEAP(Emergency Action Plan)と呼ばれる緊急時対応マニュアルを事前に作成し、これも手順を定期的に確認しておくことです。

*引用文献
Cleary, Michelle A., Flanagan, Katie Walsh. Acute and emergency care in athletic training. Human Kinetics, 2020, p.258, 267.

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