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いじめについての分析

一人っ子のため段取りの悪かった私は、幼少からよくいじめの対象になってきました。高校はおとなしい良家の女子が多い女子校だったので、好き放題していましたが、その後の人生は何かと波風がありました。 私はこれを「自分は世の中とうまくかみ合わない部分があるために、こうなるのだ」と思っていましたが、兄弟姉妹の多い人やいろいろな勤務先を経験した人も、同様の目にあっていることを聞きました。 そうした経験や人から得た知見を踏まえ、なぜいじめるのか、社会が豊かになってもなぜいじめはなくならないのかという考察をしてみたいと思います。

Ⅰいじめの要素


いじめが成立するのは、細菌が繁殖するのに極めて似ています(私の専門はボツリヌス毒素でした)。食中毒が発生する条件については「細菌の存在・湿度・温度・繁殖する場所・水分活性」と、どの食中毒予防のマニュアルにも書かれています。これに準じていじめを考察しようと思います。いじめはイコール細菌ですね。その繁殖の要素を、①いじめが起きる場 ②いじめる人 ③いじめが起きる人間関係とそのルールに分けてみました。


①いじめが起きる場
これは職場・学校、ママ友仲間など、人が集まるすべての場です。細菌の繁殖する場所、実験室なら培地です。
人が社会的動物であり、経済活動や教育を受けるために集まらなければならない以上、これらの場に所属しないで生きることは避けられません。この場所についてもいろいろな種類があります。

流動性の高い場と、そうでない場です。前者は異動がよくある会社、必ずクラス替えのある学校などです。居住空間では、転勤に伴って人が入れ替わる社宅なども流動性が高い場です。メンバーを把握できる時間もないくらい異動が早いと、いじめはなかなか成立しません。

また、そこに属する人たちが、空間を共有する時間も要素の一つです。入れ替わり立ち代わりで、一人3時間程度のパートタイム労働の場と、残業もありで1日中その場にいる場合とでは、これも条件が違ってきます。

②いじめを行う人
最初からその傾向がある人がいじめるのは勿論です。そうした要素のある人はすべて「細菌」です。
また、何らかの劣等感や「自分はいままで損をしてきた」という人が、いじめてもいい対象を見つけると水を得た魚のようにいじめに回ることがあります。この人たちは本来の「いじめプロ」なので、どこでもやります。自分より圧倒的に強い人の時はやりません。

私が通学していた大阪府立大学の獣医公衆衛生研究室は、大学内でも有名ないじめの巣窟で、留学生の自殺未遂などが起きていました。
ここで、しょっちゅう私に嫌味を言い続けた助手がいました。
この人は「自分はずっと貧乏をしていた。下積みの苦しさもよく知っている」と言いましたが、それと大学院で研究をするのに何の関係があるのか理解できませんでした。こういう手合いには、「私も同じくらい貧乏でした」というストーリーが一番です。

自分より貧乏な人はいじめないのです。一番好む餌は「本来は自分よりちょっと上、しかし職場の上下関係や、その時の状況で抵抗しにくい状況になっている人」です。家が裕福と聞いた学生などもよくいじめていました。

この府立大のいじめプロはかなりの数の学生を追い込み、最後には某私立大学の教授で終わりました。
もっと上に行ける可能性もあったかもしれませんが、「自分は貧乏してきたからいじめをやってもいい」という低い理念の人が人を指導する立場にはなれなかったのでしょう。

そして、普段いじめない人がいじめる側に回ることがあります。
それは、その本人がいじめられている場合です。そういう場合、自分がいじめる対象を探すのに、かなり懸命になります。

同じ大学院に他の大学から入学してきたある女子学生が、いじめのターゲットになっていました。何かと学内で慣れていないことが原因だったようです。その頃、私の母が入院寸前になり、その看病などで私が研究室の当番ができない日がでてきました。彼女はその時、迷わずいじめる側に回りました。普段なら何もしない人が、環境次第でいじめる人になるという例です。いじめのターゲットを自分から逸らしたいということだったのでしょう。

また、女性にありがちなケースですが、「自分がとても不幸である」と思う人は、そうでない人をいじめます。女性の場合、いろいろ人と比較して、不幸であると思う要因を作りだす傾向にあります。そうした視点で、幸せそうな人を見るといじめにかかります。

③いじめが起きる環境とそのルール
これは会社の規約やルール、学校ではどの程度監視が行き届いているか、いじめを防ぐための教育訓練がどの程度行われているか、ということです。いわば組織の風通しと、監視システムの充実度合いです。先ほどの例で例えると、湿度や温度に相当します。
おおむね、上司が見て見ぬふりをする、訴えに耳を貸さない、という状況が多く、そのような環境ではいじめはどんどん増殖します。また、会社で一人一人の話を聞く時間を設けていない、設けられても自由な発言ができないという例もあります。また、被雇用者は弱者なので、言いたいことが言えない状況もあります。

組織の構成も重要な要素です。上司が中間管理職に丸投げ、全く関与しない、という職場では、いわゆる「中ボス」が支配する環境が整います。その方が楽ですので、トップは支配を容認するのです。これでは上司の仕事ができていないことになります。京都の某大手タクシー会社のオペレーター室もこのような状況であるそうです。

更に、ルールの面で、太古の昔から通用してきたいじめを正当化する言葉があります。それは
「我々は新人を教育してやっている」
という言葉です。更に
「この程度で音を上げるようでは、きっと続かない」
というのもあります。同じ人が、
「向いていない人間は早く辞めればいい」
とも言います。

いじめてろくな指導もしないのに、「教育」などという言葉を使います。
また、その人が社員かどうかの適性は会社の人事が行うにもかかわらず、勝手に職員の選別をしています。上司というものがあるのに、社内では「別ルール」が進行しています。そんな会社、心あたりありませんか?

Ⅱ いじめ予防の方法

さて、細菌が増殖しないためには、温度・栄養・水分などの要因を断てばよい、と申しましたように、いじめの増殖を防ぐためには、①から③の各領域での予防が必要です。

①については、仕事や学習の場を閉鎖的にしないことです。異動があると、いじめ傾向のある人が勢力を伸ばす時間がありません。
問題が多いのはたいてい、何年も人の関係が変わらない大学の研究室のような場です。
井伏鱒二の「山椒魚」のような状況が起きています(読んだことない?ぜひ一度読んでくださいね)。いつかは異動があり、この関係から解放されると思えば耐えられることも、定年までそうだと思うと耐えられなくなり、心を病んでしまいます。

また昔、茶道や華道の教室でも、いじめがありました。先生の一番弟子が新入りをいじめる、というものです。当時は免状が嫁入り道具であったり、近所のしがらみでなかなか教室をやめられなかったようです。最近は習い事自体の人口も減っているので、こうした話はあまり聞きません。①のいじめが起きる場が、状況の変化によって消滅しているのです。

②を改善すること、これはいじめを行う人の排除ですが、これもなかなかできません。
ではどうしてこういう人たちはクビにならないのでしょうか?それは「いじめプロ」特有の立ち回りの上手さです。
上には上手にへつらいますので、なかなか問題が表に出ません。
また、昨今の人手不足で、クビにしにくいという事情もあるのです。会社も一旦雇用した人間を首にするのは大変です。

③のいじめが起きる人間関係とそのルールを改善すること、実はこれが有効で、しかし多くの組織がやっていないことです。
当事者が大騒ぎすれば組織も改変をやります。今は昔より転職もしやすいので、やってみる価値はあるかもしれません。
会社や学校の管理の甘さを指摘する良い機会となります。

機会をとらえて上司にいじめの事実を訴えることです。「大声で叫んでも無駄」といわず、まず大声で叫んでみることです。

いじめによる退職があると、会社は新規に採用をしなければなりません。
そこで、いままで人を採用するにあたってかかった経費はすべて無駄になります。いじめが会社に損失を与えていることを理解させなければなりません。「私が悪いんです」ではなく、害悪を与えた人には責任を取ってもらう。そういう姿勢もいじめられる側には必要であると思います。

そこで、一人で悪戦苦闘せず、司法書士や行政書士(弁護士までいかなくても十分です)の力を借りることも賢い方法です。いじめをする手合い、実は公的な場に弱いので、そこに引きずりだせばよいのです。電話一本会社にかけてもらうだけで結果が出る場合があります。

ともかく一人で苦しまないことが一番大切です。結構重い内容なのでどんな画像にしようかと思いましたが、牧歌的な風景で癒されてください。でも牛の世界も上下関係があるんですよ!

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
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オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/

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