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動物を殺す実習に出ないで、獣医師になれるか?

獣医科大学の実習科目の扱い


「動物を殺す実習に出ないで、獣医師になれるか?」という、以前も書いた問題の続きです。
たまに、「海外ではこういう例があります」などと議論をもちかける人がありますが、あくまでも日本の獣医科大学での問題です。
実習は大学の単位なので、出席がなければ当然単位がとれません。誤解のないように申しますと、実習はほかの座学と違って別扱いなので、レポートだけで助けてくださいという訳にはいきません。単位がとれません。

また、実物を見ないで、専門職になるのは難しと思います。
内臓は模型のような形をしていませんから。
下記の画像は牛卵巣モデルです。排卵のものとか、排卵準備中のものとかを覚えるものですが、あくまでも練習です。

卵巣は手で蝕知するしかなく、それも手袋をして、牛の肛門から糞をかきだした先にあるものです。真実への道のりは遠いのです。この卵巣を実際に見るのはそれこそ解剖のときです。

獣医師は法律の規制のもとに


以前書いた内容ですが、獣医師は「動物の愛護するためにある職業」という側面もありますが、「人を動物の病気から守る・公衆衛生の立場で感染を防ぐ」のが本来の業務です。
ほかの職業と同じく、公衆衛生の一環を担う専門職なので、資格を取る以上、その規制に従う必要があります。
小動物の開業獣医師も狂犬病ワクチン接種など、その一環を担っています。
家畜の保健衛生にかかわる獣医師は、殺さなければ感染が広がるときは、躊躇せず何百・何千と殺していきます。
これも法律で定められているからです。マスコミやTVで、獣医師はペットを主に診る職業と思われがちですが、法律の下で家畜衛生管理を行う仕事も多いのです。
大動物診療でも、白血病などの症状が出ると、その牛は我々の手を離れて、家畜保健所の扱いになります。
その理解なしに、感情論だけで「殺さないで自分はれる!」と思われるのは自由ですが、その職業に求められている訓練やスキルというものがあるのです。

獣医師広報版でお書きになっているある先生のお言葉「私達は自分1人の力でかってに獣医師になれるわけではないのです、教師や多くの実習の材料となった命に支えられてきているのです。」は胸に刺さります。
すべての実習で使った犬や牛は我々の先生です。勉強させてもらっていることへの敬意なしに解剖はできません。私の「動物を殺して獣医師になる」の精神的落しどころはここでした。今でも伝染病を発症して、処分扱いになった牛さんたちには、「勉強の材料になってくれてありがとう」と思っています。

まずは現場を見る

難しいことかもしれませんが、職業を全体として見るために、まずは現場をみて、どんなことが起こっているのかを見るのが大事かと思います。
進学してから「こんなはずではなかった」と離脱するのは、無駄が多すぎます。そうしてやめた人の代わりに、もっと適性のある人材が入学できたかもしれないのです。
また、現役の先生方に議論を吹っ掛けるのもどんなものかと思います。必要なことは殺さないことではなく、「敬意をもって命を扱う」ことであると思います。

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)

似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/

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