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獣医師は何のために存在するのか

そもそも獣医師は何のために存在するのでしょうか?
ほとんどの人は、獣医師はペットの診療をしていると思っていますが、私の卒業した年で、ペット臨床を志望した人は全体の20%程度です。他にどんな領域に仕事があるかというと、公務員・会社・教育機関などです。

公務員ですと、「技師」待遇で、一般より採用条件は良くなっています。
企業も不景気などでリストラがあったり、研究職にいられなくなるというリスクはありますが、一応の昇給や身分保障があります。教育機関も公務員に準じます。

これらの職業につけば、上記の理由で生活に苦しむということはまずないのです。臨床を志望する人だけが、開業資金調達や売り上げの増減など、いろいろなリスクを背負わなければならないことになります。

歯科医や医師のように医療保険のリターンがないといって嘆く人もありますが、それは仕方ないことでしょう。
ペットの治療はサービス業としての要素も大きい仕事だからです。公衆衛生の観点から必要な狂犬病の予防以外は、あくまでクライアントが生活に余裕があって、その上で成立する職種ですからそれなりのリスクはあっても仕方がないのです。
運営の過程で経営が下手で、病院を継続できない人が出てくるのは仕方ないことです。これをチェーン化した病院でなんとかしようというのも、本質的解決ではありません。

本質的解決は、
6年間の専門教育に見合う職種をもっと政府が作り出すことです。

国立大学の獣医学部では、多額の費用をかけて獣医師を養成しています。また、私立大学ではその大部分が父兄の負担となります。ある新設獣医学部では、初年度納付金が1400万円という数字が出ています。これに下宿代や食費・教材費が上乗せされるのです。

公務員は給与が安い、民間は思う職種につけない、だから「開業でも」と思う人があまり出てこないようにするのも政府の責任です。もし開業してうまくいかなかれば、その費用は社会的損失となってしまいます。
国公立大学卒業ならまだしも、私立大学を出てその時点で多額の教育費を使い、その上に開業資金投入、病院がうまくいかない、というのはあまりにも悲惨です。
その意味で本当に臨床に向いている人だけが臨床に行けるようにしなければなりません。

もっと6年間の専門教育に見合う収入のある職種を作り、養成した獣医師をそこに吸収すべきです。獣医師はペット治療のためにだけある職業ではないのです。
病院のチェーン化を推奨しても、開業事情の複雑さは増えるだけで、全く解決にはならないのです。この「社会資本の損失」は何とかならないかと常々考えています。

【画像解説】京都府の府営牧場の様子です。最近は地方で大動物臨床にかかわる獣医師が減っていることもひとつの問題となっています。
似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブログ「獣医学の視点から」

オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/


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