ごはん杖【#毎週ショートショートnote】
もともと私の家では、炊いた米を掬う道具のことを、ごはんべらと呼んでいた。
「しゃもじって言うんだよ」
と、クラスのカースト上位女子に笑われて以来、私はそれを「しゃもじ」と呼び、家族にも浸透させようとした。
そんな私の努力も知らず、母も妹もごはんべらと言い続けた。
ある日、妹が、
「お姉ちゃん、そこの『ごはん杖』を取って」
と、しゃもじを指して言った。
私は眉一つ動かさず、「はい、しゃもじ」と渡したが、ごはんべら派だった妹に起きたパラダイムシフトを案じた。
杖は明らかに誤用だが、うちの女は皆頑固なため、へら、しゃもじ、杖の三派閥に割れた。
我が家のルールに則って採決を取ると、私、母、妹はそれぞれ自分に一票ずつ入れた。
最後に、事情を分かっていない父に投票させると、
「妹ちゃんに一票。一番年少だから」
と、贔屓により決選し、以来うちではそれをごはん杖と呼ぶようになった。
今思えば、多数決でしか意思決定できぬ民主主義を壊してやると決めたのはあの時だった。
たらはかにさんの企画に参加させていただきました。ありがとうございます。
#毎週ショートショートnote
文学フリマの熱に当てられて、これからもっと書きたいと思いました。
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