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認知症に寄り添う|[4]近距離介護 #9

認知症の母が住む実家と我が家は、電動自転車で10分ほどの距離です。
親の近くに住んで介護する『近距離介護』にあたります


同居介護を考え始める

今年の3月に会社を辞めるまで、仕事と家庭、息子、それに加えて母のスケジュールで手帳は真っ黒でした。

通院の付き添い、食事の用意、薬のセット、ケアマネジャーとの打合せ、行方不明になった眼鏡や財布の家探し、冷蔵庫の中身の整理など、細々した生活の手助けが増えるにつれ、自宅と会社の往復に加えて、実家との行き来の頻度が増していきました。

実家から帰宅した途端、母から電話がかかってきて、再訪することも度々ありました。電動自転車をフル活用してはいても、疲れが溜まっていきました。

手帳に書き込んだスケジュールを見落としたり、そもそも手帳を見ることを忘れたり。加齢による事務処理能力の衰えもあり、常に頭が一杯で、時間に追われていました。気が急いているわりに、何もかも中途半端なことがストレスになっていました。

会社を辞める頃には、母には安心、私にとっても心身の負担が少ないと考え、『同居介護』に気持ちが傾いていました。

同居のハードル

我が家で同居、実家で同居の二択。

前者は必要最小限の荷物にして母が単身で移動するだけなので、物理的なハードルは後者に比べて低い。でも、馴染みのない環境で生活すれば母ができることは限られ、認知機能が悪化することは容易に想像できます。

後者は、私達が移り住む前に、実家の荷物の断捨離、最低限のリフォームが必要。断捨離は少しずつ始めているものの、まだ目を覆いたくなるほどの大量の荷物があります。手間と時間を考えると気が遠くなりました。加えてリフォームの間は、短期間とはいえ母の仮住まいが必要になります。

いずれの選択肢も決め手に欠けました。

専門家から意見を聴く

お世話になっているケアマネジャーやデイケアのスタッフ、そして、かかりつけの認知症専門医にも相談しました。

皆さん、母に安心感はあるだろうという肯定的な側面も認めつつも『同居が必ずしも良いとは思わない』という意見でした。

介護職の意見

ご自身も認知症の親御さんを介護されていたデイケアのスタッフの方からは、

『ご自分(私)の人生を中心軸にして検討してください。同居の介護はきりがない。全ての時間を介護に捧げることになる。にも関わらず、色々見てきたが、親子、特に母娘はお互いに遠慮がなくなりがちで軋轢も生じやすい。それならば、もっとデイケアや福祉サービスを活用して、このまま近距離介護を続けたほうがいいと思います。』

私のことも考えた親身なアドバイスを頂きました。

多数決では、すでに近距離介護に軍配があがっていましたが、お世話になっている認知症専門医にも相談しました。

認知症専門医の意見

普段から穏やかで丁寧な対応の医師ですが、いつもに増して、慎重に言葉を選びつつ次のようにお話してくださいました。

医者は参考情報しか提供できない
『お役に立てなくて申し訳ないが、医者には答えが出せない。こういう事例がありましたと参考程度にお伝えするしかない。』

正解はない
『同居が正解とか、別居がいいとか、ベストな選択はない。』

同居について
『同居は、お母さんに安心感を与えるはず。でも、認知症が進めば、家族ですら忘れていく。付き合いの年月の浅い(私の)ご主人はもちろん、可愛がっていたお孫さんも忘れる。最終的には貴女(私)のことも忘れる。
その過程で『あなた、誰?』を繰り返したり、家人の悪口を言い出したりして、家庭の雰囲気が悪くなる事例も見てきました。』

リフォーム
『全面バリアフリーにリフォームしたものの、住み始めた途端に転んで怪我をして入院。退院後は自宅に戻らず、施設に入居した方もいる。時間と手間とお金をかけても、考えていた通りにならないこともある。』

拙速に判断しない
『描いたシナリオ通りにはならない場合がある。もしリフォームして同居するなら、母が施設に入るなどして不在になった後も、残った家族が継続して住まう前提で検討するのをお勧めします。』

近距離介護を継続することにした

親身なデイケアのスタッフのアドバイスは心に沁みました。しかし、『私の人生を優先して同居せず、プロとはいえ他人の手に任せる』ことに、多少の後ろめたさも感じました。

しかし、認知症の専門医の『いずれ家族も忘れる』、『考えたシナリオ通りになるとは限らない』というアドバイスに、私は冷静さを取り戻しました。

認知症の症状は百人百様。進行のスピードもまちまち。高齢になると転倒による怪我、特に骨折などのリスクも高まる。骨折すれば部位にも依るが認知症が進むことは多い。
緩やかな認知症の進行を想定して同居を検討していた私の視野の狭さを指摘された思いでした。
同時に、緩やかであったとしても、認知症である以上は避けて通れない、『家族ですら認識できない』未来を改めて覚悟しておく必要があることも。

今は、『当面は近距離介護で頑張ろう』と考えています。
認知症を進行させないために、できることは自分でやってもらう。でも、できるように周到に準備してあげようと思っています。近距離介護だからこそできる、きめ細やかなサポートを模索しています。












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