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浅野いにおという「サブカルメンヘラ生産工場」について
浅野いにお先生の漫画の世界には、ありとあらゆるコンプレックスが飽和している。さらに強烈な入子構造がある。最終的に「結局、私は何者なのだ」と謎の哲学的な感覚を覚えさせるのが特徴だ。
基本的に浅野先生は斜に構えて人を描くので、主人公はみな自己承認欲求が足りない。なので、周りの普通の人をなんか危ない人のように見ている。
例えばジャニーズオタクは「盲目的なミーハー女」だし、公園の営業マンは「暑いのに仕事で辛い思いをする男」だ。主人公はそれを俯瞰的に見るわけだが、実は主人公こそが最も世間に馴染めない存在なのは言うまでもない。そして馴染めない存在であることを、これでもかとアピールしているのである。
そんな隅っこのほうで生きる人間を、かわいく描くのが上手い。その結果、阿鼻を越える第九の地獄・メンヘラドクペサブカル地獄を生み出してしまった浅野いにお先生という人物について書く。
浅野いにお地獄に巻き込まれる文化系大学生たち
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「浅野いにお欲する女子、すなわち心弱く体細く頭丸し」と格言が残されているほど、浅野いにお先生はサブカルメンヘラカルチャーに多大な影響を与えた(なんだ、サブカルメンヘラカルチャーって)。
今宵もボブカットのサブカル女子たちは、ドクぺ片手に、何回読み直したか分からん「おやすみぷんぷん」の最終巻のページをめくり、なんとなく「自分は社会不適合者だ」と言い聞かせてはコンビニ行くくらいの感覚でバイトをブチって、元カレであるマッシュの細長い男に電話し「病んだから飲もう」と家に呼び、抱かれようとしているわけだ。両者ともなぜか体が細く頭が丸い。これは謎の奇病である。
ちなみに細マッシュを待つ間はMy hair is badかクリープハイプあたりを流して、さらに悲壮なムードにひたる。さすがだ。ここにも余念がない。プロ野球選手がきっちり開幕に身体を仕上げるように、男が来るまでの間に最高のメンヘラコンディションを整えるわけである。「あたし、最低な女だ」と二階堂ふみを意識しながら呟き、録画保存している「ソラニン」を観て「死にたい」とTwitterに書きながらぐびっとドクぺを飲む。
一方のマッシュの細い元カレは電車のなかでドクペボブの呟きを見て、一応LINEで「大丈夫?」と書くものの本心では「まぁセックスできるしいいか」くらいにしか思っていない、という地獄のような話が展開されるのだ。シェイクスピアも青ざめるほどの悲劇である。
浅野いにお先生のドミンゴ・マルティネス並みのミートとパワー
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なぜこの地獄は生まれてしまったのか。それは浅野いにお先生のせいだ、というのはさすがに暴論だが、やはりこのメンヘラサブカル女というジャンルを考察するうえで浅野いにお先生はキーマンの1人だ。
浅野いにお先生はターゲットが鬼のように狭い。しかしパワーはえげつない。元巨人のドミンゴ・マルティネスに似ている。
ずばり18〜24歳くらいの陰の者、サブカル好き、なかでも自己承認欲求が強く、美術や音楽への興味が深い。
そんな狭き門をくぐり抜けたエリートだけが、あの退廃的で無気力な若者のストーリーに共感し、憧れを抱きながら闇に引きずられていくわけだ。これは灘高並みの難関で、ある種持って生まれた才能が必要になる。
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しかし一度、浅野いにお作品のターゲットに入ってしまうと、もうたいへんだ。まるで自分の日常なのか、と錯覚するほどのリアリティ、また人文系にありがちなマイナス思考によってズルズルと沼に引っ張られていくわけである。
これはもうブラックホールのようなもので、一度でも触れると身体が木っ端微塵になってしまう。太陽フレアで粉塵爆発を起こして最終的には燃え尽き、気付いたらヒロイックになって、ドクペ片手に細マッシュに電話をするというわけだ。
偏りすぎてすんません
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と、つらつら書いたが、偏りすぎたね。そんなに、浅野いにお好きは、みんながみんなヤバいわけじゃないよね。
何せ私も浅野いにお先生大好きですもの。漫勉の浅野いにお回も観ましたもの。風景写真を撮って上から絵を描いてるんですってね。あれ。たまに写真そのものを使う時もあったりしてね。マンレイみたいな手法に近くてかっこいいですよね。
デデデデのあのタイトルコールの演出とか超斬新でカッコよかった。
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「しかしまぁ大人になった今だから、物語に没入せずに、主人公のメンヘラ大学生すら斜に構えて観てるのか……」と思ったが違う。
浅野いにお先生のマンガはおもしろすぎて、没入すると、出られなくなるから、少し遠巻きに眺めているのだ。
いま文化系の大学生やってて、軽音サークルとか文芸サークルとかに入ってる、ヴィレヴァン通のあなた! 浅野いにお作品の健全な楽しみ方の正解はこれだぞきっと。
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