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マンガ界最強キャラは「コジコジ」に決まりました

「マンガ界でいちばん強いキャラ」はもうずいぶん前からひっきりなしに討論されてきた男の子の永遠のテーマだ。

「悟空だ!」「いや、DIOだ!」「いやいや両津勘吉だろうが!」とあの討論が始まったらもう一生抜けられん。たまに「野原ひろしだ!」とかいう奴おるけどなんなん? 足の臭いで草木枯らすシーンでも想像しているのか?

「りぼん」の伏兵・コジコジ

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ところでこの「漫画キャラ最強決定戦」をするときって、なぜかジャンプのキャラに限られる。気づいたら集英社以外のキャラ名出すと、なんかこう、ふんわりした変な空気になる。

その現象こそが、もうジャンプ特有の「持たざる主人公(でもなんか唯一無二の能力有り)がライバルと切磋琢磨しつつ、敵を倒す」という、もうどうあがいてもインフレし続ける構図を物語ってるのだ。あのインフレによって「最強決定戦は完全に答えが出ない禅問答」と化した……かに思われた!

……いやしかし、ここで私がもう完全に論争に終止符を打っちゃうぜ! もう、すべての争いを止めます。令和のガンジーと呼んでください。

もうやめて。悟空とか、DIOとか、ましてや野原ひろしなんて口に出すのは。マンガ界最強キャラは「コジコジ」なのだから!

『コジコジ』とはどんな作品なのか

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『コジコジ』を全日本国民が知っている体で書きましたが、もちろん知らない人もいると思うので前提を書きますね。

『コジコジ』は、1994年から1997年まで「きみとぼく」で、2010年から2013年まで(不定期ではありつつも)「りぼん」で連載されていた漫画。単行本は超短くて全4巻。作者は今は亡きさくらももこ氏。実はまだ完結していない(泣ける話)。

舞台はメルヘンの国。コジコジはクラスメイトらと偉大なキャラクターになるために学校に通っています。ちなみにメルヘンの国はくんちゃんマンガ界や地球に隣接している別の惑星です。くんちゃんマンガ界からまる子が遊びに来たり、メルヘンの国から渋谷に遊びにいったりします。別の惑星とは言いつつ、ふらっと遊びに行ける距離ではある。この設定のテキトー加減がなんかたまらない。

コジコジのプロフィールとしては「宇宙生命体」。ただそれだけ。アニメの声から女性と思われがちですが、性別も家族構成も明かされていない(ちなみに本人も知らない)。年齢もわかっていないが「長生きばあさん」の回で明かされましたが、おそらく12億〜13億歳という長寿。でもプロフィールってほんとこれくらい。ここまでパーソナルがわからない主人公も珍しいのではないか。

ここまでで分かる通り「コジコジはとにかく自分のことを話さない」。コジコジには「分かってもらいたい」という欲求もなければ「認めてもらいたい」という欲求もない。だからこそプロフィールが謎に包まれているのだ。

全話通して、阿闍梨並みの諸法無我なのである。ここにこそ「コジコジの強さ」がある。では実際のストーリーでその強さについて書こう。

コジコジは「勝ち」も「負け」も知らない

あまりに有名な1話目を例に挙げる。

コジコジはメルヘンの国の学校のテストで−5点を取った。名前を書き間違えて限界突破したのである。友達の次郎くんはドン引き。先生はカンカンで放課後に職員室に呼び出す。

先生:コジコジお前は普段何をしているんだ!

コジコジ:空を飛んで遊んだり、遊んでお菓子食べて……海で遊んだり……あと寝たりしてるよ。

先生:遊んで食べて寝てるだけじゃないか!

コジコジ:えー、殺しや盗みや詐欺なんかしてないよ? ダメなの?

(中略)

先生:コジコジお前は素晴らしいキャラクターになって、世界中のみんなに愛されたくないのか!

コジコジ:先生大きい声出したから、お腹空いたでしょ?

先生:(わ、私の教育が間違っていたのか?)コジコジお前は何になりたいんだ?? それだけを教えてくれ……

コジコジ:コジコジだよ?コジコジは生まれたときからずーっと将来もコジコジはコジコジだよ?

この話を見ていただければわかる通り、コジコジはとにかく戦わない。勝ったこともなければ、負けたこともないのだ。

そもそも「戦う理由」とは何なのか。それは「何かを背負っているから」だと思う。例えば悟空は地球の命運や仲間の命を背負っている。「オラ、つえーやつに会うとワクワクすっぞ」と言うあたり、自分の力に対するコンプレックスも背負っている。

しかしコジコジは何にも背負っていない。これは強さだ。コジコジは全部、なにもかも手放してめちゃめちゃ身軽に生きている。

これは強い。「負けたくない!」も「負けられない!」もないんだから。眼の前にフリーザが出てきて友だちの次郎くんの首根っこを掴みながら「おやおやコジコジさん、次郎さんがどうなっても知りませんよ?」とか脅されても「おや、次郎くんとフリーザくんが遊んでいるね。仲良しだねぇ」と言いながらフラーっと空を飛んでどこかに遊びにいってしまうだろう。コジコジが負ける日はきっと一生来ない。

コジコジは「キャラクターのアンチテーゼ」でもある

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ちょっと話は逸れるが、コジコジは「キャラクターのアンチテーゼ」ともいえる。まずコジコジたちが通う学校はいわば「愛されるキャラ」を作るための教育をしている。そこでのいちばんの落第生という設定がもう逆説であり、コジコジは本来人気の出るキャラにはならないはずなのだ。

元来、キャラクター(マンガやアニメはもちろん、芸能人、多くの一般人も含め)は、綿密に計算されたうえで、多くの人から愛されるように作られる。悟空が戦うのは、DIOが時を止めるのは、そこにドラマがあるからだ。地球滅亡を前に逃亡する悟空とか嫌でしょう。

しかしコジコジの世界では何も起きない。戦いがないし葛藤もない。そもそもコジコジは「愛されたい」という自我がまったくない。「成長したい」なんてもってのほかだ。キャラクターという概念を根底から覆している。コジコジが「哲学」といわれる背景はそこにある。

「愛されたい」から戦う、戦うほど弱くなる

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そして実はここにこそ、コジコジが最強である理由がある。

「愛されたい」や「認められたい」というキャラづくりの精神はいわば弱さの証明だ。弱いから人は承認を求める。承認を得たいから戦うわけである。

つまり満足していればいっさい戦わない。これほどまでの強さはあるだろうか。

例えば刃牙なんて地上最強の男になるべく、何十年もかけて日夜修行に励んでいるわけだ。で、決戦の場でコジコジから「ふ〜ん、すごいねぇ。あ、やかんくんのお茶が沸いている音がするよ。またね〜」と言われたら、どうだろう。その何十年のアイデンティティはコジコジには通用せず、もしかしたら崩れてしまうかもしれない。

人はアイデンティティを濃くするほど、いわゆる「芯」を持つほどに弱くなるものである。そして人から愛されるためにできたキャラクターは、総じてアイデンティティを持っている。

一方、コジコジには背負うものがない。"自分"なんてくだらないものは全く持っていない。ぜんぶ手放して、常にからっぽの状態だ。この何にもない状態こそ強さなのではないか。

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ということで、マンガキャラ最強はコジコジに決定しますね(独断と偏見)。ただし前提として、これは「コジコジがこの世のキャラクターで最も好きな私」が書いた記事である。

きっと実はマンガ史上最強キャラなんていないのでしょう。いつも議論してるけど、答えが出ないことを前提に話しているに違いないです。最強とか口に出す時点で、もう弱いことの証明なのでね。強さとかくだらないことは、実はどうだっていいんですよ。

それより優しさの話をしましょう! あっ、優しさといえば個人的には、あの……コジコジってキャラが優しさNo.1と思っているんですけど……(盲目)。

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