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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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2021年3月の記事一覧

グスタフ・クリムトとは|ウィーンの芸術をアップデートした「優等生の反撃」について

オーストリア・ウィーンの画家、グスタフ・クリムト。彼の絵に取り憑かれる国内美術ファンは、日本でもめっちゃ多い。個人的にも大好きな画家で、彼の作品のエコバッグ持ってます。かわいくない? クリムトの絵を観ると、妙な感覚になる。「めっちゃ綺麗〜♪」と思う一方で「怖いな〜、なんやこの妖しさは」と不安になったり「杉本彩越えのエロさやな」と見惚れたりする。 それほどまでに、1枚の絵から写実、幻想、耽美、抽象、ロマンなど、あらゆる影響を感じるのがクリムトの絵だ。それらが合わさって、完全

「ペスト下の死神」と「コロナ下のアマビエ」|シンボルで比較する人の思考

全国的に緊急事態宣言も明けて、ようやく日常が戻ってきたのを感じる。まだまだ油断はできないけれど。ワクチンもようやく完成した。 しかしまぁ長かった……。2020年の1月からもう15ヶ月以上になる。治療法のない病がこんなに怖いものだとは思わんよ。去年の1月は、こんなことになるなんて誰も思ってなかったでしょう。 そういえば西洋美術において「不治の病」といえば「ペスト」だろう。ペストは全部で3回のパンデミックがあったが、ヨーロッパでは14世紀ごろに流行り、人口の約1/3が亡くなっ

「アカデミー」とは|200年以上も西洋絵画のメインストリームだった美術学校

西洋美術史を語るうえで、やたらと登場するのが「アカデミー」という存在。歴史上の画家たちは、この組織に良くも悪くも振り回されてきた。 このマガジンでも画家の人生を振り返るうえで何度か触れたが、よく考えると「そもそもアカデミーってなんだ」については詳しく書いていませんでした。しかしアカデミーという存在は西洋美術史において、200年以上もメインストリームとして君臨し続けてきた存在。「美術のルール」を定めて画家を選定し続けてきた機関である。 今回はそんな「アカデミー」について一緒

アンリ・ルソーとは|40歳を超えて独学で画家になった天然の才能

画家とは絵に魂を捧げなければいけないのか。血や骨を削って、必死に一枚の絵と向き合う必要があるのか。画業をやるうえで絵だけに集中をするべきなのか? 私はそんなスポコンはいらないと思う。noteというプラットフォームの登場はまさに自由な世の中を表している。誰でも作品を自由に投稿でき、不意に発見されてアーティストとして世間に認知される。才能が埋もれない心底素晴らしい世界だ。 作品を投稿している皆さんのなかにも、普段は会社員や公務員として厚生年金を支払いながらも、休日は作品づくり

オディロン・ルドンとは|「突然変異の幻想的画家」の76年の生涯

オディロン・ルドンの世界は明らかに異様だ。完全にまともではない。草花に眼があったり、クモの顔が人だったり、一つ目の化け物を笑わせてみたり……。 ちょっと頭がおかしい世界観ゆえ、アングラ・サブカル界隈から、しこたま愛されている画家だ。私も大大大ファンで、画集をいくつか持っている。 キャラクターが強いので、ルドンの作品は日本でも人気が高く、特に若い人にファンが多いイメージだ。その分かりやすいモチーフは、鑑賞者として見やすい。ルドンから絵画鑑賞の世界に入る人もいるんじゃないかし

ワシリー・カンディンスキーとは|「純粋な芸術」を生んだ真のアーティスト

ふとnoteを見てイラスト、二次創作の多さに驚いた。もちろんnoteだけではない。Twitterでもインスタでも、とんでもない絵師さんの数がいて、素敵な作品をあげてくれる。素敵な世の中だ。 いっぽうで、抽象絵画を見ることはあまりなくなった。もしかしたら抽象絵画は、キャッチーなキャラクター文化が主流の日本において、最も日陰に追いやられている存在なのかもしれない。 人物画や静物画のような「モチーフ」があることで、見やすくなるのは確かだ。例えば荒々しい波の上に船を一艘置くだけで

遠近法の歴史|誰にでも分かりそうなのに1000年も発明されなかった技法

遠くの人は小さく、近くの人は大きく見える。 今となっては、当たり前に成立している遠近法。しかし1200〜1300年以前、つまりルネサンス期より前の絵画には、遠近法はほとんど存在しない。つまりのっぺりした2Dの絵であり、3Dの概念はなかった。 「え? なんで?」と思う方もいるかもしれない。正直なことを言うと、私もその1人だった。だって風景画も人物画も、観たまま描けば遠近法になるじゃん……。しかし、実際に描いた経験がある人なら分かると思うが、見たまま描いても正確な遠近法にはな

「アートはもっと爆笑しながら学ぶものだ」という持論

「アートは学問の1つであり高尚なものだ」 そんなイメージは世界共通のものだろう。基本的に美術館は重々しい静寂に包まれており、皆マジマジと作品を見ている。アートはけっこう重いテーマなんですよね。 西洋美術史のなかでも長らく王家や教会だけが楽しむハイカルチャーだった。また「学問」として成り立ち、さらに作品の単価はマンガやアニメの数百倍だ。 そのこともあって、日本でもいまだ「アートは高尚な趣味」みたいなイメージが固まっているんだろう。それも素晴らしいと思う。アートがやたらめっ

マン・レイとは|最期まで"アーティスト"を貫いた前衛写真家の「バズ」にない魅力

マン・レイの写真は決して「ただ綺麗なだけ」ではない。カラーリングもほぼないので、どこか不穏な空気すら感じる。それは昨今から続くSNSブームとは一線を画している。 「原宿でカラフル綿菓子を食らう女子高生」や「コントラスト爆上げで海辺を散歩してるカップル」などは日常的に見るでしょう。 ただマン・レイのようなアングラ表現主義の写真家は母数が少ないですよね。特にコンプライアンスがっちがちの現在では、こうした作品群に接する機会がないんじゃなかろうか。 そんな現代で「映え」はもう8

2021年の美術展をずらっと紹介! コロナ明けは生でアートを見つめよう

2020年は新型コロナウイルスの影響によって、予定されていたあらゆる美術展が中止・延期になった。皆さま楽しみにしていた展示もありましたよね。しかし絵より命のほうが大事なので致し方なかろう。 特に2020年の夏ごろは東京五輪での海外客到来を見込んで「ジャパン・アートの素晴らしさ」「バンクシーのやばさ」を訴えたイベントを予定していたが、見事にずっこけたのが同情を通り越してちょっとおもしろかった。 2021年、まだまだ油断はできないが、ワクチンの接種もいよいよ始まりかけており、

サブカルとアングラの違いとは|ヤバい世界について本気で考えてみる

「アングラとサブカルの違い」は一般のメインカルチャーで生きている人には理解し難いものがある。「いやいや、どっちも絡みにくいでしょ」とまとめてしまいがちだ。 しかし気をつけてほしい。アングラ畑で"毒"を撒布している人と、サブカル畑で"無駄"を耕している人は違う生き物だ。当人からすると「一緒にしないでくれ」と思っているパターンは結構ある。 アングラの人に「お前、ほんっとにサブカルだな」と安易に声をかけるのはマズい。「ちげぇよ。俺はアングラだよ」と血走った眼で返されるだろう。な

バルビゾン派とは|風景画の基礎を築いた「バルビゾンの七星」の"豊かな心"

「バルビゾン派」をご存知だろうか。断っておくが決してウルトラ怪獣ではない。「ゼットン派?レッドキング派?」「いや、俺バルビゾン派」ではないので注意してください。 バルビゾン派とは1830年代から1870年代くらいまで、フランスで隆盛した美術派閥だ。「自然をあるがままに描く」という考えが特徴。フランス・フォンテーヌブローの森の近くにある「バルビゾン村」が舞台になったのでバルビゾン派という。 西洋美術史のなかでも「バルビゾン派」というグループは見ていて楽しい。 17世紀からず