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ポエトリー

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2019年10月の記事一覧

この木

まっすぐではないかもしれない
この木は
まっすぐで太い木の隣で
この木は恥じる、自分を
まっすぐでないといけないような気がしてくる
まっすぐでない自分には価値がないと思えてくる

だがこの木にも鳥は集う
よい香りの花が咲けば
蜜蜂がやってくる

まっすぐか まっすぐでないかは
鳥や虫たちには
あまり関係がないようだ
気にしているのはこの木だけ

まっすぐで太い木の隣で
まっすぐでないなりに
まっ

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ひかり(ウィンターズ・テイル)

さよなら光
りんごは赤
夜がわたしを迎えにくる
絵本を持つ手がぽとりと落ちる
おやすみを言いそびれて
夢の中でまた眠る
昼間思い出せなかった画家の名前が
りんごの皮をむくみたいにするりと口から出る

夜が伸びていく
どちらかの足はまだ冷たくて

冷めたコーヒーを飲み干す人
お茶を淹れなおす人
蛍光灯の下、作業を続ける人の上にも
昇る月
欠けてゆく月

さよなら光
夜はりんご
下弦の月
かじりかけの

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ときどき

私、ときどき涙がでる
前に
市民祭りで色とりどりのチロリアンスカートをはいたおばあさんたちが踊っているのをみたとき
今朝
倉庫で「あら塩ポン酢ドレッシング」っていう商品をピックしたとき
なんでか涙がでる

人にきついこと言われたときは
ぜんぜんでない
かたく閉められた蛇口みたいに
涙は奥にしまわれてでてこない

無題 (191019 詩)

それは恵みと呼ばれることもあった
これは愛だと言われても
受け入れられない愛もあり
拒まれた愛は濁流となって
軌道をはずれてゆく
愛の対象物までをも押し流して

工場の詩③

いつか工場のなかに
小鳥がまよいこんできたことがある
さえずり
羽ばたき
作業上 頭のはるか上で
チチチ(大空は)
コンベヤを流れるオリコンの川のほとりで
チチ(大空は)
うず高く積まれた米や粉の袋のうしろで
チ(大空は)

「死ヌデショウ。水ガナイカラ」
しかし小鳥は夜が明けると 搬入口の先に大空をみつけて飛び去っていった

あれからふたたび小鳥がまよいこむことはなかったが
小鳥のいた日の記憶が

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夏を終わらせる

いまだボーダーを着て
ふらふらと飛び交うものたちがいる
空中を

もうストーブも出した
パン!
と手を打って
私は夏を終わらせた

待つと咲く

待つと咲く

息をひそめて
嵐が去るのを待っていたのは
ひと や どうぶつ だけ じゃない
今朝、オレンジシャーベット色をした花の香りで目が覚めた

工場の詩②

休憩室で
ものを食べるとき、音をたてる人がいた
彼に指摘され
息子に注意され
それでも直らなかった
両親にはなにも言われなかったから
が、その人を見てすぐにわかった
あれは人に殺意を抱かせる音だと

翌朝の食卓はいつもより静かだったとおもう

工場の詩①

砂糖と塩とだと
どっちがやわらかいか?

女の赤ちゃんと男の赤ちゃん
抱っこしてわかるちがいとおなじ