ダイス

ダイス

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、  レモンソーダ  に続き 「ダイス」

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人生ゲームが出てきた。
二年付き合っている彼との同棲が決まり、
さて断捨離するか、と部屋を片付けていたら見つけたのだ。
1年出番がなかったものは捨てなさい、という言葉をどこかで見たことがあるから、これはもうとうの昔に捨てられるべきものだろう。
細かい埃を散らしながらゆっくりと箱を開けると、赤色のボードが現れて懐かしさを感じる。

色んなカードやお金が、種類ごとに綺麗にゴムでまとめられていて、
わたしの几帳面さは変わってないんだなと思う。
大小様々曲がりくねったマスには、新事業で世界進出したり、ヒット曲を書いたり、家をいくつも購入したり、
かと思えば、デートで散財したり、株価が大暴落したり、羊が乱入してきたりとあらゆることが起こっていて、
なんて休まらない人生なんだと思わず苦笑する。

小さい頃は、すごく好きなゲームだった。
普段絶対に持つことのない厚みのお金を自由に使いこんで、
教師も看護師も俳優も歌手も警察官も、なりたい職業全部になることができた。
若すぎる結婚もして、大家族になった。
これは夢中にもなるなって見てると思う。

だけど、わたしはもう楽しめなくて、
頭はもうこれが入るゴミ袋を探している。
だってもう考えちゃうから。
単位は$なのに数字は円に合わせてるなとか、
あれこれ仕事変えられるわけないじゃんとか、
こんな人生はあり得ないよ、って。

このゲームは、ゴールするまでどうなるか分からなかった。
でも今のわたしは、上手くいけば人生まだ半分以上残ってるけど、もう何となくわかる。
さすがにきっと色々起こるとは思う、思うけど、
それでもちょっと引いてみたら直線に見えるような、小さいさざ波みたいなものだろう。
そのことが悲しいわけでもないし、ましてやあんなジェットコースターみたいな人生が送りたいわけでもない。
ただ、今のわたしがそういう段階に入った、それだけの話だ。

人生ゲームは捨ててしまおう。
わたしの人生は、もはや運命に向かって進み始めていて、
後退はできないのだから。


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次回は
ダイス → 「スレンダー」です。
友人の、ミナミガワ(@minami_gawa)が担当します。

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