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対策会議
スーツを着た大人たちが真剣な表情で、机を囲んで座っている。
彼らが話しているのは、一刻の猶予も許されない、人類が今、目の前に突きつけられてしまった重要課題。この世界の今後の行く末に関わる大命題が話し合われていた。
会議室に置かれたホワイトボードにはこう書かれている
【ロボット対策会議】
「いよいよ我々の言うことを聞かないロボットが出てきてしまったな」
「一刻も早く手を打たないと大変なことになるぞ」
「今こうして喋っている間にも、なにか問題が勃発しているんじゃないのか?」
「こうなることはだいぶ前から予測できたんじゃないのか?」
額の汗を拭いながら、喧々諤々の議論が止まらない。
「こういう時のために、会議を開いたり、法律を作ったりしてきたんじゃないのか」
「今は法律がどうとか、細かいルールに捉われている時ではない」
「人類の頭脳を結集して問題解決に当たらねばならん」
不安を煽る言葉はどんどん出てくるが、解決の糸口に繋がることを誰もいうことができない状態が長時間続いている。
「そもそもロボットを作ったのは我々人間なんだから、なんとかできるはずじゃないのか!」
机を囲んでいるメンバーの中で、一番大きい声のメンバーが、いつも以上に大きい声を出した。
「確かに根本を作ったのは我々ですが、すでに彼らは、自分たちだけで成長する能力を持っていて、常に進化を続けています」
末席に座っている白衣の研究者が小さな声で返答した。
「なるほど~ってそんな正論を今は聞きたくないんだよ!」
具体的な策が出ないまま、どんどん時間だけは経過していく。
「自分の意志で動くようになったロボットが人間と対立したら勝ち目はあるのか?」
「勝つかどうかはやってみないと正直分からないですが、戦うなら一気に勝ってしまわないとまずいです。彼等は一度戦い方を覚えてしまったら、すぐに学習するので、同じやり方は二度と通用しなくなります」
白衣の研究者が誰を見るわけでもなく、遠くを見ながら、力なく答えた。
「だから私は、ロボット研究をどんどん進めるのは危険だと言ったんだ」
「なにを今さら寝ぼけたことを言ってるんだ。ロボットの心臓部に使用するモーターには、自分のところの会社の部品を使ってくれって、毎晩ウチの家に頭を下げに来てたじゃないか」
「あの時はウチの会社が傾きかけていたから仕方なく。ロボット開発自体は大反対に決まってるだろ」
間に入って止める者は誰もいない。みんな万策尽きたという暗い表情をしている。もしかしたらこれは、この世の終わりの光景になってしまうかもしれない。
「みんな、こんな時こそ心をひとつにして話し合おうじゃないか。相手のことを気遣わずに一方的に話をするなんてロボットと一緒じゃないか」
「そうだ、こんな時こそロボットとの違いを見せてやろうじゃないか」
解決の糸口はまったく見つかっていないが、再び全員が思案顔をし始めた。
「ちなみになんですが、最新の彼らは、相手の心情を読んで会話できる機能が付いております」
白衣の研究者は淀みなくロボットの性能について喋った。
「白衣を着ているキミ。さっきからロボットのことを彼って呼んだり、ロボットの味方をような発言をするのは慎みたまえ」
「すっ、すいません」
声を上擦らせながら白衣の研究者は答えて、俯いてしまった。
「おい、待てよ。ロボットは相手の心情を読んで会話をするって、今キミ言ったよね」
「はい」
白衣の研究者は少しだけ顔を上げて答えた。
「ということは僕らの気持ちを考えることもできるってことじゃないか」
「そうか、つまり話し合うこともできるし、分かり合うこともできるってことだな」
「誠心誠意、真心を込めて話し合ったら、分かってくれるんじゃないか」
「早速、交渉役を立てて、話し合う場を設けよう」
その時、会議室のドアがものすごい勢いで開き、汗だくの男が駆け込んできた。
「大変です!全世界のロボットが暴れだして。人間の言うことを聞かなくなって。死者も出ています」
これまで黙っていたこの会議の議長を務めている男が立ち上がり、諭すように言った。
「落ち着きなさい、彼らロボットにも我々と同じように心があるから。話し合えば分かってもらえるはずだ。しっかり膝を突き合わせて話し合おう」
この会議室の天井の隅に備え付けてあるカメラの向こうでは、数台のロボットたちが机を囲んで「ロボット対策会議」を見ている。
会議室の中央に置かれたホワイトボードには、こう書かれている
【人間対策会議】
この人間対策会議を仕切っている議長のロボットがおもむろに発言した。
「よ~し、人間たちの恐怖がピークにきているから、あそこにいるロボットにそろそろ破壊指令を出すか」
「そうですね」
「今あいつら、恐怖を感じていた状態から、一旦落ち着きを取り戻したので、ここであのロボットが暴れだしたら、相当驚くと思いますよ」
議長のロボットが悪趣味な考えは慎みなさい、といった言葉とは裏腹に、慌てる人間たちを見て薄ら笑いを浮かべている。
「それではそろそろ、破壊指令スイッチを押すことにします」
「了解」
「宜しくお願いします」
「承知しました」
破壊指令スイッチを押すと、ロボット対策会議室にいる白衣を着た研究者が突然暴れだした。
ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪