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運を持っていること

運がいいとか、悪いとか
人は時々 口にするけど
そうゆうことって確かにあると
あなたをみててそう思う

さだまさしの名曲「無縁坂」にこんな歌詞がありますが、「運」は存在します。
人生だってそうです。親ガチャという言葉は好きではありませんが、生まれ育ちの運はたしかにあります。体の強さの運や時代の運や選択の運もあります。
昨今の就活市場は超売り手だそうですが、僕は就活の前年にリーマンショックが起きて絶望した記憶しかありません。努力だけではどうにもならないものも、この世には存在するのです。

それは、創作においても同じです。

たくさんのライバルが生まれて消えていく仁義なき世界。その世界に足を踏み入れるには、まず実力と努力が必要です。
しかしそれは前提であって、加えて「運」を持っているかどうかも大きな要素だと思います。

たとえばデビューを目指して応募した新人賞。

自分の作品が、たまたまタイプ的に相性の悪い選考者にあたってしまったら。(選考に携わる人はみなフラットに読んでいますが、それでも好みや相性は存在します)

また、最終候補に残ったとして、傾向やジャンルが似ていて自分よりちょっとよくできている作品が同じ候補に入っていたとしたら。
選択の末に向こうが選ばれて、こちらが落選することもあります。

有無を言わさない圧倒的な作品を作ればいいだけじゃないか、と指摘されるかもしれません。しかしそれは容易いことではありません。
作り手はみな魂を削り、想いを込めて作品を作っています。
ベストで渾身の作品同士が戦っているのです。甲乙つけがたい世界で抜け出すのは簡単なことではないのです。

どうにかデビューしてからだって大変です。
創作を続ける体力や健康があるかどうかの運もあります。
(それを整える努力も必要ですが、病気や怪我は努力でどうにもならないものもあります)

運悪く相性の悪い編集者と組んでしまうことだってあります。
お互いに人ですから合う合わないは存在して、それは組んでみないと分からない部分です。

誰もが実力と努力を備えている世界。
創作の世界はアスリートに近いところがあり、だからこそ「運」も必要になるのです。

書き手だけでなく、編集者だって同様です。
文芸の世界では、一人の作家さんがいろんな出版社の編集者とお仕事をします。それぞれの出版社で出す本はヒットするものもあれば、期待ほど伸ばせなかった本もあります。
それらの責任は編集者のディレクションにも一端がありますが、じゃあヒットした本の編集者が優秀で、そこまで伸びなかった本の編集者は優秀ではないのか。
それがそうとも言えず、優秀な編集者のディレクションでヒットの糸口をつかんだケースもあれば、作家さんがすばらしい原稿を書いてデザイナーさんがすばらしいカバーを作ってくれだけであり、編集者の意思はほとんど介在しない場合もあります。

また、いろんな要素が複雑に絡み合うので、いちがいには言えませんが、「タイミング」というものも存在します。時代の空気との絡み合いもあります。人の運もありますね。
編集者視点で、この企画をもう少し早く出せていたら…! もう少し遅く出していたら…! 
そんな要素も存在しますし、それは努力で制御できない部分でもあります。

※※

創作に関わる全ての人が、努力しています。
中でも優秀な人は、センスや才能に長けているだけでなく、とりわけ努力しています。本当に優れた人ほど努力しているし勉強しています。
実績を出されている人と話すと、なによりそれを痛感します。

なので、まずは圧倒的な努力をしているかを自問しつつ、それに加えてひとかけらの「運」も持っているか。
これらがそろってはじめて、結果につながるのでしょう。

努力に関してはがんばるしかないのですが、「運」を引き寄せるにはどうすればいいのか。
それが分かれば誰も苦労しませんが、僕は「続ける」ことかなと思っています。

結果が出せなかったことも一つの運であって、その結果を分析して次につなげることができる。
たとえ運の力が弱くても、チャレンジし続ければいつかは当たるかもしれない。
大切なのは打席に立ち続けることです。続けさえすれば、いつか当たる。きっと。

打席に立ち続けることは、実は難しいことです。
とくに商業に関わる作家さんや編集者はある程度の実績が求められるので、ずっと鳴かず飛ばずだと打席に立てなくなります。打席に立ち続けるだけの結果は保たないといけない。
打席に立つときも、常にたくらみと挑戦と野心を持っていなければいけません。
血反吐を吐きながら努力と分析のサイクルを続けて、なんとか打席に立ち続け、来るべき時をつかみ取る。

それは地獄に垂らされた蜘蛛の糸かもしれません。
ぷつりと切れてしまうかもしれないし、天国に繋がっているかもしれません。
次こそはと願いながら、いつまでも「大きな運」はやってこない可能性だってあります。
それでも。糸を掴んで上らないと、結果は分からないのです。

きっと次こそ「運」をつかみ取る。
そう信じて、次の打席に臨みます。

★★★

<最近読んだ本>
山舩晃太郎さん『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』
あまり知られない「水中考古学」についてのエッセイ。
ピラミッドとか住居跡とか、遺跡と言えば地上地中をイメージしがちですが、そういえば水の中にだって遺跡はあるわけです。
とくに「船」。
沈没船には当時の造船技術が詰まっているし、積み荷からはいろんな歴史が見えてきます。しかし水の中は潜らないといけないし、流れもあって大変!
そんな「水中の考古学」をいかにして発掘し、解き明かし、守るかが熱く語られていて、とても面白い一冊です。


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