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ファンドレイザーはたくさんの人とコミュニケーションをとるのが良いのか?

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

寄付金に占める大口寄付者の方(※1)の割合は、みなさんの組織ではどのくらいでしょうか。

先日お手伝いしました日本にある団体さんでは、寄付者の1割に満たない数の方が、寄付全体の半分以上の金額を占めていることが分かり、スタッフの方と一緒に驚きました。この団体さんは、広く多くの人に支援してもらっている印象が強く、スタッフの方もそのように思っておられたので、余計に驚きました。

私自身、外部アドバイザーという立場で多くの団体さんとご一緒していますが、私の感覚では、日本の非営利組織でも、実は大口寄付者の方が多くを占めているのではないかと思っています。

そこで、今回は、ファンドレイザーと大口寄付者との関わりについて、先行している米国の事例を見ていこうと思います。

※1 大口の定義は組織に寄って異なりますが、「10万円以上」というのが多い印象です

1.ある事例から見た大口寄付者との関わり

ミネソタ州立大学農学部
・ファンドレイザー:専任3名、パートタイムアシスタント1名
・寄付金:年間1,000万ドル

米国のソーシャルセクターでは、ファンドレイジングにおいて大口寄付者の方が、その組織の収益を左右することが公然の事実とみなされているため、大口寄付者担当を設けることが多くあります。

しかし近年は、大口寄付担当が1人で対応している範囲が広すぎることで、様々な問題が起きています。例えば、今回の事例で紹介します大学基金担当のキャッシュマン氏(女性)は、1人で1,000人を越える大口寄付者及びその見込み層の方との対応を行っていましたが、期待されるコミュニケーション量に耐えることが徐々にできなくなり、身体を壊してしまいました。

キャッシュマン氏は、復帰後に寄付者コミュニケーションについて調査・分析をしてみると、今まで当然と考えていたことと異なる事実が浮かび上がってきました。

・大口寄付者の3分の1が「寄付に対するやり取りをしたい」と考えている。残りの3分の2は、やり取りには消極的。
・やりとりが必要な支援者に時間が費やせていないことでの機会損失が大きいこと
・担当者として対応するドナーの数を制限することで、Win-Winの関係になれるドナーに集中できる

ということです。

そこで、大口寄付者担当が1人で担当する数を150人に絞りました。その150人は、組織とのやりとりを望んでいる寄付者であることを前提としました。
こうして、やりとりを行う人数を大幅に絞ったコミュニケーションを続け、1年半が立つ頃には、寄付額を2倍以上に伸ばすことができました(年間1,000万ドル→年間2,100万ドル)。

キャッシュマン氏は
「対応しやすい数にすることで寄付者一人一人の顔が見え、また現実的に丁寧な対応ができるため、私自身のモチベーションとしても彼らを幸せにしたいという気持ちが強く続くため、仕事が本当に楽しくなりました。寄付者の方も、敬意を持った対応を受けるので、とても喜んでいました」
キャッシュマン氏の上司は
「ファンドレイザーは当然に人間であり、彼・彼女たちは人として支援者の方と接せれることが最も幸せです」


2.レビューの大切さ

今日の米国では、ファンドレイザー1人が見れる寄付者の数について研究が進んでおり、高額寄付者については、ファンドレイザー1人についき100人~150人という見解があるようです。

このように、人数を絞ることとともに重要視されているのが、絞った人たちを定期的に見直すことです。米国のあるファンドレイザーは、「少なくとも年2回は、大口寄付者対応を行うべき支援者について、維持する人と、他のチームに移す人を決めます」と言います。

今回の事例であるミネソタ州立大学でも、定期的にこうしたレビューを行い、キャッシュマン氏が対応する寄付者と、一般の寄付者担当をしているファンドレイザーに移す寄付者とを決めています。

キャッシュマン氏の上司は
「たくさんのやり取りを望まない大口寄付者を(キャッシュマン氏のリストから)移動させることで、ほとんど連絡を取らないという彼らの要求を尊重できます。一方で、多くの関与を望んでいる新しい潜在的なドナーがその場所を取ることができます」

最後に

この事例のポイントは、多くの人と密なコミュニケーションが難しいという前提にたち、その上で、誰とコミュニケーションをとれば双方がWin-Winになれるのか、コミュニケーションをとるべき寄付者を継続的に決めていくことが、組織としての収益向上のみならず、ファンドレイザーにとっても、メンタル面でプラスの効果が得られる、ということが、この事例から感じることかなと思いました。

ただ一方で、それでも、多くの支援者の方とコミュニケーションをとる方法もあると私は思っています。この辺りのバランスというか戦略については、また別の機会にまとめられたらなと思います。

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

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