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トンガを知る ー湊かなえさん『絶唱』ー

1月19日、日本財団が基金を設立して寄付金募集を開始し、ベストセラー作家の湊かなえさんがトンガ支援をしたというニュースが出ていました。

「なんで?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかと思いますが、湊かなえさんは、青年海外協力隊としてトンガ王国で活動されていた経験があり、その後の作家人生に影響を与えたと公言されているそうです。

それが具体的にわかるのが、湊かなえさんが書かれた『絶唱』という小説。

「心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために。『死』に打ちのめされた彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島―。喪失と再生。これは、人生の物語。」

『絶唱』紹介文より

これはトンガ王国を舞台にした小説で、僕が最も好きな小説です。
とは書いたものの、僕がトンガ王国での赴任が決定して、トンガを知るためにトンガに行く前、最初に読んだ時は好みではなかったのが本当のところです。

なぜか。

湊かなえさんの他の小説、例えば『告白』などのいわゆる“イヤミス”こそが湊かなえさんらしいと思っていて、面白いんだけど何か物足りない気がしていたのです。

ただ、トンガの雰囲気やトンガ人の人柄などはすごくよく伝わって、トンガに行くのが楽しみになった小説、というのが最初の読後感でした。

さて。少し本のことから離れて、湊かなえさんとランチをさせていただいた話を書きます。

トンガに赴任してから2週間くらい経過した頃、JICAの調整員の方から1通のメールが届きます。

湊かなえのトンガでのTV撮影について】

メールを開くと、「アナザースカイ」の撮影でトンガを訪れた湊かなえさんと派遣中ボランティアとの意見交換の時間など持てないかとも計画しているという旨が記載されていました。

その計画を見事実現していただき、スケジュールがぱつぱつの中でご調整していただき、ランチをご一緒することに。

小説や小説を原作とした映画やドラマなどは拝見していたものの、湊かなえさん自身のことはほぼ知らず、作品からしてちょっと怖い方がいらっしゃるものだろうと、勝手に身構えていました。しかし、いざお話しさせていただくと、ものすごく優しい雰囲気の方で、こちらの拙い話を丁寧に聞いてくださる姿が印象的でした。このような機会をいただけるなんて本当にラッキーだったと今も思います。

トンガのボランティア連絡所(ドミトリー)には本がたくさん置いてあって、隊員たちの娯楽だったのですが、そこに湊かなえさんの著作を寄贈してくださり、改めてすべての小説を読み返しました。『告白』『夜行観覧車』『Nのために』などなど…やはりどれもとてつもなく面白く、夜な夜な読み耽っていました。

赴任したばかりでたいして活動もしていないのに、呑気なものでした。

いや、呑気なわけではなく、湊かなえさんとお会いする前後で、大きな大きな失敗をしてしまい、多分人生で最も凹んでいた時期の一つでした。信頼してくれていた人たちの期待を裏切り、何しにトンガ来たんだろ、って。読書はその逃避行動でもあったと思います。その意味でも(勝手に)湊かなえさんの作品に救われていました。
下記リンクはFacebookで当時投稿した内容です。小っ恥ずかしいですが、そんときはすごく大事な決意表明でした。

トンガに赴任してから、およそ一ヶ月が経ちました。 やっとトンガでの生活に慣れてきて、ようやくまともな一人暮らし生活ができるようになりました。 さて、たったの一ヶ月ですが、すでにたくさんのことを学ばせてもらっています。 これは先日、とあ...

Posted by トンガ・キリバス 横浜国立大学学生現地レポート on Saturday, May 2, 2015

その後、活動中何度も失敗しては、周りの人たちに支えられ、なんとか仕事をすることができて、おそらく人生初の成功体験を得ました。

国中を回って(頑張れば1日あれば一周はできるけど)女性向けのワークショップを実施したり、NHKの取材を受けさせてもらってBS番組に取り上げていただいたり、2週間くらいかけて離島巡回したり、戴冠式のある年の農業祭で200人分くらいの料理を作ったり、健康啓発活動をやり切ることができました。

『持続する情熱〜青年海外協力隊50年の軌跡』より。トンガの皇太子様たちと。


あっという間に短い任期を終えて、Facebookに投稿したのが下記の画像です。

Facebook投稿→https://www.facebook.com/jun.tamakoshi.5/posts/732792656853084

だいぶ長い前置きとなってしまいましたが、ここに書いてあるように、トンガに来てから『絶唱』の読み方というか読後感が変わりました。

トンガに来るまでは(今もだろ!ってツッコミが旧知の人からはされるかもしれませんが)大学生よろしく正直人生にすごく迷っていて、引きこもって『新世紀エヴァンゲリヲン』を一気見したり、深夜に漫画喫茶で夜通し暗い漫画を読み耽ったり、トンガに来ても人に迷惑をかけて落ち込んでと、散々だったんです。

でもトンガ王国で、たくさんの人と交流して、一生懸命仕事をして、ほんの少しはトンガ王国のために貢献できたという自負を持つことができた。

トンガでの経験があるからこそ、『恩廻し』という僕の人生の目標ができたし、今、次の夢に向かっているのもトンガで“健康”に関する活動をしたから、人に直接的に貢献したいと思ったからであることは間違いなくて。

トンガから帰国して就職した後も、何度も失敗して、逃げ出してしまうことがあっても、思い出すのはトンガでの日々。何度でも立ち上がれるのはトンガでの再生の経験があったから。

そのような体験をしたから僕にとって『絶唱』の存在はとても大きいのです。

…って大袈裟に書いてしまったけれど、湊かなえさん自身を知るとこの小説はより一層面白くなります。今や日本で活躍するトンガ人ラガーマンは多いですが、その道を切り開いた、とある日本人女性とトンガ人男性の夫婦の実話など現実の話が絶妙に織り混ざり、まるで湊かなえさんの自叙伝かのような、まるでトンガで人知れず活躍した方々の伝記かのような、それでいて心温まる小説となっていて、本当におすすめいたします。

(↓『ありえへん∞世界』でスポットを当てられた又平直子さんの話)


そのような湊かなえさんもなされたトンガ支援が赤十字社を通して行われるそうです。寄付しろ〜寄付しろ〜みたいな雰囲気を醸し出してしまっていたら大変申し訳ございませんが、このような活動がされていることを知っていただけるだけでも嬉しいです。

Malo aupito for reading.
'Ofa atu.

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