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言葉より確かなもの~雑巾で利用者の自己効力感が上がった理由~

「私なんて役に立たないから」

もしご利用者がそんなことをおっしゃったら、皆さんならどうしますか?「そんなことはないですよ」とお声をかけるのも対応の一つだと思います。

でも、本当に言葉だけでいいのだろうか?
何か他にできることはないだろうか?

そう考え、様々な取り組みを実践している事業所があります。「やすらぎの家栢山」その小さなデイサービスでの取り組みについて、所長の上西さんにお話をお伺いしました。

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言葉以外で伝えたい

小田急線「栢山駅」から3分程度歩くと見えてくる一軒家。「やすらぎの家栢山」は民家をそのまま使った地域密着型の小規模なデイサービスです。

この事業所では毎月ご利用者と驚くようなクオリティーの作品作りをしたり、地域の方々が喜んでくれればと200本のひまわりを植えるなど様々な取り組みがされています。

その数ある取り組みの中の一つに3年前から始まった「雑巾を作って小学校へ寄付する」という取り組みがあります。なぜこの取り組みが始まったのか、その経緯を上西さんは次のように話されます。

「あるときご利用者が『自分なんて役に立たないから』とおっしゃったんです。『そんなことはないですよ』と声をかけるのは簡単なんですが、それだけでは不十分ではないかと考えました。ご利用者に自分が役に立っていると感じてもらう、要は自己効力感を高めてもらうには言葉だけでは伝えきれないんじゃあないか、もっと確かな実体験が必要ではないかと思ったんです。そこで始めたのが雑巾作り小学校へ寄付する取り組みだったんです。」

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雑巾作りで起こったご利用者の変化

ご利用者の中には和裁を習っていた方も多く、雑巾を縫うという取り組みはすぐに受け入れられました。当初、雑巾縫いにミシンを使用することを職員は提案しましたが、「ミシンなんてすぐ解れるからダメ!」とご利用者が口を揃えて反対されたこともあり、全て手縫いで作られることに。そして取り組みを始めてから少しずつ変化が起きました。

「雑巾作りが始まってから、普段はあまり自分の意見を主張されない方が意見を主張されるようになりました。そのためか、ご利用者同士のコミュニケーションも自然と増えましたね。その様子を見たときに、人は自信が持てることや一生懸命になれることには、はっきりと主張することができるんだなと感じました。そしてその機会を作れているかどうかが重要だと再認識できました。」

またその他にも嬉しい発見がありました。

「あるときご利用者が雑巾の厚さについて気が付かれました。小学生が使うのには厚みがあり過ぎる、もっと薄くするために素材のタオルの畳み方を変えた方がいいと意見を出して下さったんです。これには驚きました。私達職員が思っていた以上にご利用者は雑巾を使う小学生のことを考えて下さっていたんです。正直、職員は誰一人雑巾の厚さのことには気が付いていませんでした。」

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「役に立っている」という確かな実感

雑巾はこれまでトータルで500枚以上が小学校へ寄付されました。そしてその雑巾を小学生が嬉しそうに使ってくれているという報告に、ご利用者達は本当に喜ばれました。「自分がしたことが誰かの役に立っている」というこの「事実」こそが、言葉だけでは伝えきれないものをご利用者へ伝えてくれるものだったんです。

そして、小学生が直接事業所を訪れてくれる機会も作ることができました。

「一緒に昔の遊びをしたりお話をする中で、小学生から直接ご利用者へ雑巾のお礼が伝えられたことで、より一層ご利用者の自己肯定感は高くなったんです。今では事業所にいるときだけではなくて、ご自宅に戻ってからも雑巾を縫って下さっている方もいらっしゃいます。それだけ喜んで頂けたんだと思うと嬉しいですよね。」

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終わりに

この取り組みは地域に広がり、近隣の介護事業所から素材のタオルを寄付して頂けるようになったり、一緒に雑巾を作って下さる事業所も出てきました。そしてそのお礼にはご利用者が縫った雑巾をお返しする、嬉しいことにそんなサイクルが広がってきています。

誰でも少なからず「誰かの役に立ちたい、必要とされたい」という気持ちを持っているのではないでしょうか。今回はそんな思いをより確かなものとして実感して頂けた「やすらぎの家栢山」の事例をご紹介しました。

これからも少しでも多くの方が活躍できる場を作っていきたいと思います。では、また次回をお楽しみに!

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(写真:やすらぎの家栢山が小学校へ寄付した大作)


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