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精神覚醒走女のオオサキ ACT.15「ブラインドアタック対策」
次は作戦会議だ。
「戸沢の属性はなんだったんだ?」
「オーラの色は黒、つまり闇属性でした」
「闇属性か、光/風属性とは相打ちだな」
闇と光は互いに得意としている。
属性の相性がいいと、技の速度と威力が上がる。
「戸沢はヘッドライトを消す走りをするって言っていましたが、それに対抗する作戦を考えないと無理ですね」
「そうだな。奴の暗闇の走りに勝つには作戦を立てないとな」
「どんな作戦がええんやろうか?」
「エンジン音を消すとか?」
クマさんはそんな作戦を閃いたものの、
「そんなことはできんやろ!」
川さんは突っ込みを入れる。
「RB26を積んだ180SXはエコカーとは真逆だ。どちらかというと大きい音だ。その走りは不可能だ」
智姉さんも川さんと同じだった。
それが無理なら……
(どんな走りにしようかな……。今日の深夜までには考えておこう)
自分で考えるしかない。
しかし、それには時間が掛かった。
夜11時の和食さいとう。
この店は閉店していた。
リビングにおれと智姉さんがいる。
パジャマの全身タイツ姿となっている。
2人はテーブルにあるラジオを聞いている。
「野球には「消える魔球」という技がありますけど、その仕組みとは地面スレスレにボールを投げることで土煙を発生させて、土の保護色でボールを消すことでボールが消えているように見せるのです」
そのラジオの言葉におれの心に電流が走った!
「あれだ! ボールが煙で消えるように、ドリフトの煙で車を消す作戦で行きましょう!」
ラジオを聞いて思いついたのだった。
「それは難しいが、出来るなら出来る技かもしれないな。出来れば覚醒技の技として使う方がいい」
「この技……。使うなら戸沢と戦えますね!」
煙で車を消す……それなら素晴らしい作戦かもしれない。
「暗いですけど、今から練習してきます!」
「事故には気を付けろよ!」
パジャマの全身タイツを着たまま、外へ出て、ワンエイティに乗りこむ。
エンジンを掛けて夜の赤城道路を走っていった。
(煙を使って車を消す……どこか懐かしく感じる――)
智姉さんはおれの考えた作戦について、そんな風に感じるようだ。
暗い夜の赤城道路。
資料館前の駐車場におれの乗るワンエイティが走っていく。
紫タイツに包まれた手でハンドルを握る。
「<コンパクト・メテオ>!」
駐車場で<コンパクト・メテオ>を使って、その技から発生する煙で車を消そうとした。
けど、車は消えなかった……。
「くそ……難しい……!」
失敗したおれの顔は焦り出した。
また<コンパクト・メテオ>を使って消そうとしたものの、無理だった。
「どうしよう……出来ないよ。どうすれば使えるんだよ……?」
煙で車を消すことが出来なくて、頭がモヤモヤしてくる……。
その後も和食さいとうに帰るまで練習したけど、煙を消すことはできなかった……。
深夜0時におれは和食さいとうに帰ってくる。
「ただいまです。智姉さん」
思い頭を抱えながら、あいさつする。
「おかえり。どうだったか、練習?」
「ダメです。消すことができませんでした」
「残念だったな。けど、車を消すようになるまでこの練習を応援しているぞ。明日はバトル当日だが、練習はするんだろ?」
「朝早く練習します。今日同様、全身タイツ姿でします」
「明日の練習は私もついて行こうか。お前の練習の応援しようかと考えてな」
「本当ですか。智姉さんがついてくれるとおれはありがたいです!」
それをおれは嬉しく思った。
そして翌日、4月11日の土曜日バトル当日。
朝6時。
今日はバトル当日だけど、朝の光を浴びる赤城の山でおれは練習していた。
ちなみに全身タイツ姿で運転し、紫タイツに包まれた手で車のハンドルを握る。
昨夜同様、ダウンヒルのスタート地点近くの駐車場で練習する。
「<コンパクト・メテオ>!」
技を使って煙を発生させて車を消そうとしたものの、消すことは出来なかった。
「できない……」
成功しなければ戸沢に勝つことができない!
そう嘆いていると智姉さんのR35が駐車場にやってくる。
R35が止まると、智姉さんが降りてくる。
智姉さんの服装はパジャマの全身タイツではなく、私服のセーターとスカートとタイツだ。
「苦戦しているようだな……」
「はい」
智姉さん、まだ出来ていません。
「実は思い出したんだ。 この煙で車を消す技――この技の名前は<スケルトン・アタック>という。走り屋時代に使った技だ」
え、智姉さんも走り屋時代に使ったことのあるの!?
「これは小山田疾風流の技だが、私のオリジナルだ。 ちなみに私の技は覚醒技の師匠から教えてもらった技は少なく、オリジナルが大半だ。私がすぐ師匠より強くなってしまったから、小山田疾風流のものはあまり持っていないからな」
ちなみに智姉さんの言う“覚醒技の師匠”とは彼女が走り屋時代に唯一敗北した走り屋だ。
智姉さんはその“師匠”に会うまで覚醒技を使えなかった。
しかし“師匠”と敗北後、それを教えてもらって使い出すようになったものの、「師匠を超えてしまった」という理由で教わることはなくなり、技の大半がオリジナルだ。
“師匠”とは智姉さんより3つほど年齢の上の女性で巫女服を着ており、ハイパワーな赤色JZX90型チェイサーを操る。
「あの技は智姉さんも使った技なんですね」
「その通りだ。今からその技、<スケルトン・アタック>を見せてやろう。R35に乗れ」
R35の助手席におれを乗せ、走らせる。
やく600馬力ほどのパワーのあるVR38の音を奏でながら直線を走っていく。
直線が終わるとゆるい左コーナーに入る。
このコーナーに入るとドリフトに入り、あの技を使用する!
「小山田疾風流<スケルトン・アタック>!」
技で発生した雲のように発生していく煙はR35の姿を跡形なく消していった。
もしギャラリーがいたら、クルマの姿は分からないだろう。
これを見て、おれは興奮する!
「すごォい……! こんなにクルマを消すことが出来るんですね!」
煙でクルマを消すパフォーマンスを披露すると1回スタート地点に戻る。
再びスタートして、ワンエイティに乗り、その後ろを智姉さんのR35について来る。
「今度はおれがR35の前を走る番だよ」
さっき同様、最初のゆるいコーナーで後ろのR35は<スケルトン・アタック>を使用してまた姿を消し、おれのワンエイティを楽々に追い抜いていく。
おれは<コンパクト・メテオ>でブロックしたものの、簡単に出してしまった。
「すごい追い抜きだ……!」
追い抜きにおれは驚きを隠せない。
智姉さんの<スケルトン・アタック>という技は今回は2回も披露したのだった。
今の練習が終わると駐車場に着く。
感想を言う。
「あの技は本当にすごいですね」
「だろ。お前はまだ練習中だ。しかし使えるようになるなら、あの技は戸沢の走りに対抗できるかもしれないな」
「そうですね。おれは絶対にこの技を使いたいです」
相手をだまし討ちで追い抜く技、<スケルトン・アタック>
次にまだ発動させていない“おれの能力”について話す。
「サクラとの勝負、プラズマ3人衆との勝負、柳田との勝負では能力を使わなかったな」
「はい」
「お前の能力は強力だが危険すぎるな。発動条件は“一定の精神力に減る”ことが条件だが、どれぐらいかというと、かなり体力と気力を使うことだ。しかし、戸沢が強力な走り屋ならこれが発動するかもしれないな」
午後12時、和食さいとう。今日もプラズマ3人衆が来る。
昼のおれの服装は全身タイツ姿から私服の疾風Tシャツとグンパツな黒脚に変わっていた。
「サキさん! 智さん! ここで作戦会議しましょう」
「サギさん、今度のバトルでは先行が取ったほうがいいべ。 なぜ先行を取ったほうがいいのは、まずはエンジンの回転数を縛りながら走って、後半から本気で走ることで相手はサキさんのペースに着いて行けず、FFの弱点に襲われてタイヤを熱ダレに追い込むごとがでぎるべ。つまり、勝てるわけだべ。前やった柳田と同じやり方だ~」
「これいいね、熊久保さん! くにちゃんは賛成だよ!」
「うちも、このFFの弱点を突く作戦なら戸沢に勝てると思うで!」
タカさんと川さんがクマさんの作戦に賛成する。
しかし、智姉さんはその作戦に否定的だった。
「その作戦は私は却下だ」
「なぜですか?」
「相手を熱ダレに追い込むという柳田戦と同じやり方は全く駄目だ。戸沢は柳田がなぜ負けたのかは知っているかもしれない。お前の考えた作戦は対策をしてくるかもしれないぞ」
「ありゃーダメだね、クマさん。くにちゃんもこんな作戦で行きたかったのに」
「この作戦なら勝てると思ったんやけどな……」
クマさんの作戦が却下されたことにタカさんと川さんは残念がる。
代わりに智姉さんはこんな情報を出した。
「戸沢がライトを消すのは後攻の時のみだ。先行だと前が見えなくて危険すぎるためライトは消さないらしく、相手の光が頼りになる後ろにいる時のみに消すらしいな」
「いい情報を得ました! 後攻を狙いましょうか! バトルが大詰めに入ったら追い抜きを狙います。今回のバトル、智姉さんの情報から得た作戦で行きます!」
今回の作戦が決まった。
午後6時。Maebashiのレストランに戸沢龍らWHITE.U.F.Oのメンバーがいる。
彼らはなにか話していた。
「実は今日のバトル……俺には何か予感がするんだ」
「何じゃん?」
「よそのコースでも勝利してきた俺だが、今日のバトルは久しぶりに負けるかもしれないな」
「負ける!? どうしてじゃん!?」
そう悪い予感が戸沢に来る。
「あの大崎翔子という少女の走り屋としてのオーラ、異常だった。赤城最速の雨原芽来夜並みに恐ろしいと思ったんだ。負けるかもしれないな……」
オオサキのオーラが異常すぎて、戸沢は手を追えないようだ。
「なに、弱気なことを言っているじゃん!」
「榛名下り最速は赤城の怪物に負けないと思います!」
「ごめん、あいつのオーラが強すぎてこんなことを言ってしまった。昔S14型シルビアに乗ってドリフトの走り屋を目指していた。あの頃はそれをすることに苦戦した。今のバトルへの気持ちはあれで苦戦した気持ちに似ている」
そのS14は妹に譲り、DC5に乗り換えたあとから凄腕の走り屋となっていく。
だが、オオサキのオーラの恐ろしさのあまり、そんな気持ちになっている。
「でも、やる。榛名最速に駆けてな!」
例えオオサキが恐ろしくても、戸沢は負けられない。
そしてバトル当日の時間に近い10時45分になり、空は暗くなっていた。
赤城山にギャラリーたちが集まっていき、道の側にはその人でいっぱいだった。
5連続ヘアピンの2つ目にある走り屋がギャラリーしていた。
DUSTWAYの雨原芽来夜と葛西サクラだ。
2人は何か話している。
「まだオオサキは来ていない……」
「そうだな。まだあいつは来ていないぜ」
今のところ、おれの姿はいない。
「さてバトルのことだけど、どんな風に決着が着くと思うんだ、サクラ?」
「ここ……この5連続ヘアピンで決まる――このセクションで勝敗が着くんだ……」
サクラはそう予想した。
別のところ、ダウンヒル最初の難所であるゆるやかな左コーナーからの左U字ヘアピン直前の道路左端にて。2台のクルマが停車した。
1台は黄緑のSW20型MR2、もう1台はオレンジのSXE10型アルテッツァ。
停車した2台からそれぞれのドライバーが降りた。どうやらギャラリーをするらしい。
「着いたよ……」
2台のドライバーはサクラの妹である葛西ヒマワリとモミジだ。
「やっぱここはイィーネ! 車2台置けるし、ギャラリーできるからな!」
次にバトルはどうなるかについて話し始める。
「バトルのことだけど、ボクはワンエイティが後攻を取ると思うな。けど、戸沢はワンエイティの後攻を対策するだろうと考えているのさ――」
「なるほど、頭のいいモミジの考えのとおりになるかもしれねーな」
モミジはそう考えていた。
スタート地点。
WHITE.U.F.Oのクルマとメンバーが雪のように集まっている。
戸沢のDC5が戻ってくる。
どうやら助手席に柳田を乗せてテスト走行をしていたようだ。
「テスト走行は終了だ。後は待つのみだ」
「オオサキはいつ来るじゃん?」
2人の耳に、トランシーバーを手にしたメンバーから報告が来る。
「地点より報告。赤・白・黒の派手なカラーリングをしたクルマを先頭に5台のクルマが赤城を登っているそうです」
「カラーリングからオオサキのワンエイティだ。やっと来たか」
これに戸沢は気持ちをワクワクさせた。
10分後、それらのクルマたちが来る。
おれのワンエイティ、智姉さんのR35、クマさんのC33、タカさんのHCR32、川さんのA31だ。
5台からドライバーが下車する。
おれたちが降りると、クマさんは戸沢に向かって啖呵を切るような言葉を言う。
「戸沢龍! この前、おらはやられたけど、今度はサギさんが勝負を挑むべ! 負けないからな! やられたら、やり返す! 倍返しだべ!」
某銀行員っぽい決め台詞を放つ!
「戸沢龍、その首もらった!」
「You Head ボロンしてみいィやッ!」
タカさんと川さんは某新撰組隊士のセリフっぽく言う。
「残念ながらお前たちに用はないからな」
今の戸沢のターゲットはおれだ。
「待たせたね、戸沢龍!
さてスタートしようか」
おれは自分もクルマ乗り込み、スタートラインに並べる。
左にDC5、右にワンエイティが並んで、バトルのスタートを待つ。
「サキさん、おらがスターターすっべ」
クマさんは2台の前に立つ。
赤城山からのお知らせです。
まもなく競技車両がスタートいたします。
危ないですからガードレールの内側までお下がりください。
大崎翔子(RPS13改)
VS
戸沢龍(DC5)
「それじゃあガウント始めっべ!」
この言葉のあと、2台のエンジンは吠えだす!
RB26のターボサウンド、K20AのVTECサウンドが奏でる。
カウントごとにクマさんの指が折れていく。
「5秒前! 4! 3! 2! 1! GO!」
2台はスタートし、バトルが始まった。
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