精神覚醒走女のオオサキ ACT.25「ミッドシップの加速」
夜11時の赤城山。
改造車たちがたくさん走っとって、車のヘッドライトの光とスキールの音が夜の山道に響きあい、闇の中を照らしている。
HCR32に乗るくにとA31に乗るうちは赤城ダウンヒルのスタート地点近くにあるエネルギー資料館前の駐車場へ着く。
「着いたよ。
川畑さん」
それぞれの車から降り、くににこんな提案を持ち掛ける。
「くに、今からバトルせーへん?」
「いいよ、川畑さん。
くにちゃんは負けないからね!」
くには受け入れてくれた。
それを受け入れた後、もし葛西ヒマワリのSW20と出会った時の対策について話す。
「くに、葛西ヒマワリのSW20と遭遇したらどうするん?
勝負して勝てばえんんやろ?」
「勝てばいいに決まってるじゃん!
くにちゃんたちプラズマ3人衆の強さを見せつけるためにね!
あと、くにちゃんの能力はトルクを1.5倍にするという強力な能力を持っているから!」
「そ、そうやな。
サキはんの腕に着いていくためにヒマワリを倒すべきやな!」
答えはそれしかない。
最近サキはんが勝利を重ねていくたびに、うちらプラズマ3人娘はサキはんに引き離されとると感じとる。
サキはんのターゲットとなる走り屋を彼女より早く倒そうと考えとるんや。
「かかってこいや!
葛西ヒマワリ!」
「くにちゃんたちが倒してやるよ!
チビ全開!」
葛西ヒマワリを倒すという2人の野望だったんやけど、その野望はすぐ打ち砕かれる――。
バトルに取り掛かろうとしたうちらの前に1人の青年が来る。
青年の愛車は紫のECR33型スカイラインセダンだ。
「あなた、前年度ドリフト甲子園準優勝の小鳥遊くにさんと準々優勝の川畑マサミさんですね?」
「そうだよ。
ドリフト甲子園準優勝の小鳥遊くにちゃんだよ」
「せやで。
うちはドリフト甲子園準準優勝の川畑マサミや」
どうやら、青年はうちらをドリフト甲子園の上位の走り屋だと知っているようやね。
うちらはこれだけは有名やなあ。
「すみませんが、僕とバトルしていただけませんか?」
え?
今からうちとくにはバトルしようと考えとるけどなあ。
料理するわ~。
「いやぁ、くにちゃんは今から川畑と勝負しようとしているんだよ。
残念ながら」
そんなこと言われたなら、くには青年からの誘いを断ろうとした。
しかし!
「川畑さんとバトルしても構いませんけど、僕も混ぜてください!
僕と川畑さんはどちらも敵だと思って挑んでください!」
「うん、ならいいよ。
君もバトル参加ね!」
青年が考えた提案に賛成したら、受け入れたようやね。
これでバトルは成立や。
うちらはそれぞれの車に乗り込んでエンジンを起こし、スタートラインへ移動させる。
先頭は青年のECR33で、後ろにくにのHCR32とうちのA31が並ぶ。
3台はスタートし、3台の直列6気筒のエンジン音が交差しながら最初のストレートを駆け抜けてゆく。
3台がスタートした後、頂上から1台の車がエンジン音とライトの光とともに下ってくる。
駐車場前を通過するとき、色と形が分かる。
緑のカラーリングに流線形のクルマ、それはDUSTWAYの葛西ヒマワリが運転するSW20型MR2やった。
「すごく速いぞ!」
ヒマワリのSW20はとてつもいないスピードで駐車場付近を通過していった!
遥か後ろからヒマワリのSW20が来とることはうちらはまだ知らん――。
一方のうちらは第1高速セクションの後半に入っとった。
それを抜けるとハンマーヘッドという名の左からのS字コーナーに突入していく。
S字の前半の左ヘアピンではくにのHCR32が前のECR33を追い抜き、後半の右ヘアピンではうちも追い抜いた。
「はぁ、降参です!
もう降ります!
ホント強いですね!」
青年は右足で踏んでいたアクセルを離した。
ここからうちとくにの一騎討ちになった。
「後は川畑さんだけだね!
抜かせないよ!
抜かせたら川畑さんの能力で終わりだからね!
チビ全開!」
「くに、負けへんでッ!」
くにとここから勝負をしようとした時、1台のクルマが乱入した。
ジグザグゾーンを抜け、サクラゾーンに入った時や。
「後ろからなんか聞こえるよ!!
「後ろから車が来るで!
あの音は……3S-GTEの音や!」
進む度に後ろから来とる車との距離が縮む。
2連続ヘアピンに入る直前、後ろのクルマの正体こと葛西ヒマワリのSW20が姿を現した。
「前の2台!
オレのSW20の加速力で抜いてやるぜ!」
後ろのヒマワリはうちらに宣戦布告してきた!
再び3台のバトルになった。
2連続ヘアピン。
1つ目が右で、2つ目が左や。
これらのヘアピンを3台は同じコーナリングスピードで抜けていく。
そこを抜け、緩い左コーナーを抜けると直線に入る。
「速いなあ、SW20」
「くにちゃんの高くなったHCR32のトルクでも離せない!」
うちらのクルマを煽っていく。
SW20は車線変更し、うちのA31を抜きにかかろうとした。
「くそ、抜けねー!」
しかし、うちが持つ覚醒技の能力でSW20は弾き飛ばされる。
「能力のおかげで助かったけど、油断はできへん!」
うちの能力は1つのバトルにつき、1回しか発動せん。
鬼加速相手に使い終えたら、あとが大変や。
直線が終わり、右ヘアピンに入る。
いよいよサクラ·ゾーンは終盤や。
「Kイリュージョン流<スパイダー·フォー·マーズ>!」
SW20の加速を下げようと、この技で直ドリしながらブロックした。
ブロックしたことで、うちとの距離が離れる。
加速が落ち、うちのA31と同じ速度になると思とった。
「効かへん⁉
どうしてや⁉」
けどお、MR特有の加速力は高いままや。
そんな様子を見たうちは焦り出す。
次は緩いコーナー、左や。
SW20は透明なオーラを纏い、能力が1度発動したことで無防備になったうちとA31を追い抜く!
「<ハヤテ打ち3>!
毎日月火水目金土(エブリディ・サンデー・マンデー・チュースディ・ウェーズディ・サーズディ・フライディ・サタデー)!
ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダ、ナンマイダ!」
疾風の如く高速グリップ走行のコーナリングでインをデッドに攻めならがらうちとA31の前に出てゆく。
「ホンマに速い!
<スパイダー·フォー·マーズ>を喰らった後でも、うちのA31を離しとる!」
SW20はうちの前に出ると、物凄いスピードでうちの眼から小さくなってゆき、次は先頭を走るくにとHCR32のケツを狙う。
「川畑さんが抜かれたね。
次はくにちゃんがターゲットか。
後ろのSW20、くにちゃんのHCR32はトルクが高いんだよ!
抜かせないよ!
チビ全開!」
くにならSW20の戦えると思っとる。
しかし、HCR32の様子がおかしくなっとった。
「何!
トルクが下がっている!」
いつもならくにのHCR32は高いトルクを持っとるのに!
くにはそれを感じなくなっとった。
もしかして、くにが持つ覚醒技の能力が発動せんのんか!?
けど、能力が発動せん状態でもくにのHCR32のほうがトルクとパワーが上や。
スペック勝負ならくには勝てると思うで!
サクラ・ゾーン最後のコーナー。
左や。
くには<コンパクト・メテオ>を使用し、透明のオーラを纏いながら隕石のように凄まじいドリフトで抜けていく。
「<コンパクト・メテオ>でも喰らって、この後の第3高速セクションではくにちゃんのHCR32の走りで離してやるんだから!」
SW20のほうもヘアピンに突入する。
あっちは立ち上がりに優れた<コンパクト・メテオ3>を使用し、透明のオーラを纏いながらくにのHCR32より速くコーナーを脱出した。
直線に入ると、HCR32より速い加速をしながらすぐ車線変更して追い抜きの体勢を取る!
「狂気の虎龍流<ドラゴン・キラー>!
毎日月火水木金土!
ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマ――イダ!」
緑のオーラを纏いながら、獲物を襲うかのように超加速をしながらくにのHCR32の前へ出ていった。
同時にくにの精神力を養分のように吸い取ってゆく。
「く!
吸い取られる!
くにちゃんも抜かれた」
技を受けるくには絶頂するかのような表情をしておる。
くに、大丈夫か?
くにのHCR32の前へ出たSW20は、後から来る5連続ヘアピンの中へを消していった。
くにとうちのバトルやけど、ヒマワリが乱入したことにより中止に終わった。
サキはんより先に倒すと決めとったんやけど、返り討ちにあってもた……。
ゴール付近の駐車場。
ここでうちらはクルマを止めるとそれぞれの車の外から降り、さっきのことで会話を始めた。
「くそぉ、ヒマワリ速すぎるで!
うちのブロックを崩しやがったで!
料理するわ!」
「くにちゃんのHCR32の走りでも勝てなかったよ――」
「せやな。
加速下げたんやけど、離されてもうた」
「ヒマワリに勝てなかったら、Prasma3人娘の強さを証明できないよ――」
こうしてうちらはサキはんより先に葛西ヒマワリを倒すことに失敗したんやった。
うちらを直線で抜くとは、さすがミッドシップやな。
ヒマワリを遅くするためにうちは‹スパイダー·フォー·マーズ›を使ったやけど、実はヒマワリは加速低下を受けんかったことを後で知るんやった。
深夜0時、Speed葛西のガレージ。
ここにいる私はサクラのJZA80を調整していた。
そんな所に、耳を塞ぎたくなるような3ローターのエンジン音を響かせる白いストライブに青いボディのFDが来る。
停車してアイドリング音が停止し、ドライバーで私の弟子である芽来夜が降りる。
「来たのね、芽来夜。
現在、サクラの車をリベンジに向けてチューニングしているとこよ」
現在チューニング中のサクラのJZA80を芽来夜に見せる。
「おお、完成が楽しみだぜ。
どんな車に化けるか?」
「低速トルクの強化、足回りの強化、そして軽量化を行っているわ。
現在完成度30%ぐらいかな?」
「これはかなりのモンスターになりそうだな。
オオサキちゃんにリベンジできそうなクルマになるぞ」
そう言われると、私は嬉しくなる。
次に芽来夜はこんなことを私に誘ってきた。
「ウメさん、1回付き合ってくれないか?
裏赤城の展望台へ行こうぜ」
「そうね。
チューニングの休憩にもなるからね」
その誘いに応じる。
ガレージから出ると同時に閉鎖して、自分の愛車であるJZA70に乗り込む。
芽来夜も自分のクルマに乗り込み、2台は出発した。
一行は裏赤城にある展望台へ着く。
着いた後は車から降り、クルマとMaebashiの夜景をバックに会話を始める。
内容は将来のことを考える話であり、具体的にはポスト雨原芽来夜………それは次期DUSTWAYリーダーではなく次期赤城最速についてだ。
「芽来夜、あなたの次は誰が最速になると考えているの?」
「候補は4人いるぜ。
当初は3人だったけど、ある走り屋の存在を知ってそれを入れて4人だ」
「候補は――?」
「候補の3人はウメさんの3人娘、サクラ、ヒマワリ、モミジだ。
あの3人にはいつか追い抜かれると考えている。
あの3人はすごい、いつかはあたしを追い抜きそうだ」
3人の娘はよくやってくれているからね。
もう1人は――まさか……。
「もう1人はオオサキちゃんだ。
オオサキちゃんを見たとき、うちのNo,2に勝てるほどのテクニックを見て、さらにはWHITE.U.F.OのTop2を倒したから、いつかはあいつが赤城最速になるかもしれないと考えている。
現時点で赤城最速に近い少女だ」
やはりあの走り屋の名前を挙げた。
大崎翔子以外にうちの3姉妹に並ぶ腕を持つ走り屋なんて今のところ、いない。
「あの娘はやるわね。
あの娘を見ると斎藤智を初めて見たみたいよ。
いつかは芽来夜、いや斎藤智並みのテクニックを持つ走り屋になると考えているわ」
将来の話はこれで終わりだ。
次は芽来夜にこれからやろうと考えていることを伝えるのだった。
「今度、斎藤智にバトルを挑もうと考える。
サクラが大崎翔子とのを考えているなら、私も斎藤智にリベンジを挑みたくなったわ。
現在大崎翔子にリベンジしたいサクラのためにJZA80のチューンを行っているけど、その合間をぬって斎藤智とのバトルのために練習走行しようかなと考えて言えるよ。
できればチューニングの休憩代わり、または朝に練習したいわね」
「そうか。
ウメさんはまだ斎藤智に勝ったことがねーから勝ってほしいと考えているよ」
その決意を述べると、月を斎藤智だと思って目を向けた。
「斎藤智、待っててよ。
必ずあんたを倒すのよ。
たくさん走ってあなたを倒すからね」
そう宣言すると、後は目線を芽来夜に戻す。
「さて、今日はこれまでにしようぜ。
深夜25時から走り屋のほとんどいなくなった赤城本道へ行き、暇つぶしに走ろうかなと考えているからな」
「付き合わせてくれてありがとう。
私は帰るわ。
帰ったら車のチューニングの続きをしようかなと考えているわ」
「悪いな、せっかく突き合わせて」
「いえいえ。
楽しかったわよ。じゃあね」
「チューニング、頑張れよ」
今日の付き合いはこれで終わりだ。
私は愛車のJZA70に乗り込み、裏赤城ルートでSpeed葛西に帰って戻っていく。
芽来夜の方は1時までここで待機し、針がその時間を過ぎるとFDに乗り込んで頂上のルートから赤城本道へ向かった。
しかし、赤城本道で予想もしない出来事が起きるとは芽来夜は知らなかったようだ。
深夜1時の赤城本道。サクラ・ゾーンの中。
走り屋の数はほとんどいなくなったけど、俺は1台の白いDC5型インテグラタイプRで下っていた。
俺とDC5の走る姿をギャラリーたちは眺めていた。
その時、後ろに怪しい青い影が潜んでいた。
「あのネオン付きの車は――?
「WHITE.U.F.Oの戸沢さんだー!」
「ん?
後ろから音が聞こえるぞ?」
「あの音はロータリーだ!
まさか――」
「後ろから何か来るな――音はロータリー、しかも3ローター――雨原のFDだ!」
音を聞いた俺はそう感じた。
雨原のFDの影が大きくなっていく。
「雨原さんのFDが来るぞ!」
「赤城最速vs榛名最速が始まるのか!?」
「戸沢さん、煽られたらヤバいぞ!」
雨原との勝負は1度も勝ったことがないからな。
FDは俺のDC5との距離を接触寸前に迫っていく。
俺に接近した雨原のFDは鋭く睨み付け、その眼光はまるで宣戦布告するかのようだった。
「WHITE.U.F.Oの戸沢のDC5か。
暇つぶしに腕試しでもするか」
「張り付いてくるな――スピードをさらに上げて、逃げるとするか。
相手はバトルを仕掛けてこようとしている」
そう考えたものの、相手は赤城最速の走り屋たから絶対に勝ち目はない。
しかも、俺の方が前のため、得意のヘッドライトを消す走りが出来ない。
けど、それが分かりつつも逃げるしか選択肢しかない。
アクセルペダルをさらに強く踏んで進ませていく。
ヘアピンが迫り来る。
右だ。
「<ハヤテ打ち>!」
透明なオーラを発生させながらの高速グリップ走行で雨原のFDから逃げようとした。
「あたしから逃げようとは面白いことだ!
あたしも行くか!」
ヘアピンに突入した雨原もアクセルをかなり強く踏み、ハンドルを右に限界まで曲げ、勢いのあるスピードからのドリフトで俺のDC5を追い掛ける。
‹ハヤテ打ち›を使った俺はFDの影を小さくすることが出来たものの、ここから公式戦さながらのバトルが始まるのだった。
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