精神覚醒走女のオオサキ ACT.26「交流戦予告」

雨原芽来夜(FD3S)
VS
戸沢龍(DC5)

コース:赤城下り

 サクラゾーンは終盤になる。
 後者のコーナーでは黒いオーラを纏って‹ダーク·ドライブ›という闇属性のグリップ走行で抜けていく。

 ちなみにこの技は闇属性の初歩的な技だ。
 俺の場合、ヘッドライトを点灯している時は使用できる技が限られ、初歩的な技しか使用できない。

 <ダーク·ドライブ>でFDを離したように見えたものの、雨原も負けてはいられなかった!

「雨原さんのFD、左へ右へ道幅いっぱいのドリフトをするぞ!」

「赤城のテイルガンナー流<禁断のレジスタンス>か?」

「<ハヤテ打ち>ぐらいであたしを倒せると思っているのか!」

 卍(まんじ、左右交互に道幅いっぱいのドリフトをするテクニック)と呼ばれるドリフトで、俺の後ろを接触寸前に迫っていく!

 さすが赤城最速だ、初歩的な技程度では離せない!

 サクラ・ゾーンも終え、次は第3高速セクションに入る。
 後攻の雨原FDは進むたびに性能が向上していき、テールトゥノーズでDC5を追う。
 
「後ろにいるとあたしのFDの性能が上がるんだぜ!」

 それは雨原の能力が影響している。
 後攻にいればいるほど、加速・ブレーキング・ハンドリングが向上するんだ。

「逃げられないならこうするか……」

 そう考えた俺は技を発動させて黒いオーラを纏い、技を発動させる。

「WHITE.U.F.O.ミッドナイト流<暗闇の威嚇>!」

 ヘッドライトを消すことで姿を消し、雨原を驚かせようとした。
 他にもその技は加速を下げる効果もあり、FDは加速が遅くなったように見えた――。

 しかし、この技でダメージを与えてもビクともしない。

「<暗闇の威嚇>とあたしの能力は相性が悪かったな!」

 下がった加速力は雨原の能力で戻ってしまう。
 この技は効かなかった……。

 無効にしてしまうとは恐ろしい。

 第3高速セクションが終わると右ヘアピンに入る。
 ここから赤城ダウンヒル最後のゾーン、5連続ヘアピンだ。

「いよいよ5連ヘアピンか、ここでうまく逃げ切ってゴールまでたどり着いてやる!」

「フン、逃げるもんなら逃げてみな!」

 5連続ヘアピン最初の右ヘアピンに突入した。
 俺は左足でブレーキを踏んでからアクセルを抜いて急速にハンドルを右へ切るタックインのグリップ走行で抜けていく。

「こっちもグリップ走行で行くぜ!」

 後ろの雨原はFDを減速させてから、俺と同じ走りで攻めた。
 
 グリップ走行でぶつかり合うコーナリングは互角の勝負だった。
 
 これを3つめのコーナーまで繰り返すものの、五分五分の勝負であり、バトルに変化はなかった。

 変化が起きるのは4つ目のヘアピン突入にしてから。
 ここは左の方向だ。

「<ハヤテ打ち3>!」

 この技は俺がオオサキ戦後に習得した技であり、立ち上がりに優れた技だ。

「ここは“えげつない技”で攻めてやるぜ!」
 
 後攻の雨原は4つ目のヘアピンに入ると、鉄属性を表す銀のオーラを纏って技を発動させていく。
 
「離させはしねーぜ!
 赤城のテイルガンナー流<ラヴ・カウントダウン>!」

 後攻の雨原はFDのギアを下げ、車をシフトロック(MT車限定のテクニック。車をシフトダウンさせることによって、トラクションが変化し、リアタイヤが後方すべりを誘発するという現象を利用したドリフトのこと)させながら、かなりの速度で攻め、オレのDC5に負けないコーナリングで接触寸前になりそうなほど再び距離を縮める。

 しばらく変化のなかったバトルがやや動いた。

 短い直線を終え、バトルはついに最後の5つ目の右ヘアピンに突入する!

「――いよいよ5つ目ヘアピンだ。<ハヤテ打ち>より突っ込みに優れた技で突っ込むか」

「あの技で攻めて抜いてやるか」

 2台のクルマにオーラが纏う。
 俺は透明、雨原は萌葱色だ。

「<ハヤテ打ち2>!」

 この<ハヤテ打ち>は突っ込みに優れた奴だ。
 5つ目のヘアピンを高速のグリップ走行でFDの魔の手から逃げていく。
 
「赤城のテイルガンナー流<トリプル·キック>!」

 進入の直前、3連続でフェイントモーションを放って最終ヘアピンを駆け抜けていく。

 そこが終わるとサイドバイサイドの状態となり、俺は追い詰められる。

 2台はゴール近くの45度に曲がっている左ヘアピンに突入する……。

「このままだと、バトルを降りるしかないのか!」

 そう考えた俺はここを抜けるとサイドブレーキでDC5をターンさせてクルマのお尻を前に出した。
 左手でギアをバックギアにチェンジすると右足でペダルを踏んで車を逆走させながら、駐車場へ入る。
 雨原のFDも追ってくる

 停車すると、車から降りる。
 2人の眼が合うと会話が始まった。

「中々の腕だったよ。もう少しであたしに抜かれそうだったけどな」

「いやあ、抜かれそうになったのは俺は技の使い方が悪かったからだ」

 先攻の時は安全のためにヘッドライトを消すことが出来ず、使える技は制限されている。
 特に赤城最速の前を走る時は死に近い恐怖心を感じてしまった。

 雨原はこんなことを俺に提案してきた。

「戸沢、突然だけど実は交流戦を申し込もうと考えている」

「交流戦か?」

「そう、うちらDUSTWAYとWHITE.U.F.Oの交流戦だ」

 それは分かったけど、いつ行うんだ?

「日程は5月23日の土曜日、ここで行う予定だ。興味はあるか? 赤城最速の走り屋と榛名最速の走り屋、どっちが速いか決めようぜ?」

「赤城最速vs榛名最速か、断る理由はないから交流戦は受ける」

「そうこなくっちゃ、じゃあ3週間後の土曜日の赤城にWHITE.U.F.Oメンバー全員で来いよな! こっちもDUSTWAYメンバー全員待っているぜ」

「交流戦の日にはオオサキ戦の時と違う俺をお前に見せてやるからな」

 こうして――赤城最速DUSTWAYと榛名最速WHITE.U.F.Oの交流戦が決定した。

 交流戦では勝つと決めている。

 4月30日の火曜日……今日は2015年4月最後の日だ。
 朝の葛西家……オレ……ヒマワリ……モミジの3人姉妹が家の玄関にいる――。

「母さん……今赤城へ行く――」

 そう告げると家の外へ出た――。
 ガレージに着くと妹たちはそれぞれの愛車に乗り込み……オレはヒマワリのSW20の助手席に座った――。
 2台のクルマは目的地へ向かっていく――。

 赤城のサクラ・ゾーンにある2連ヘアピン――
 中途半端なここだが場所へ降りたのは……ある理由があるからだ――。

「ここの2連続ヘアピン……。ここはオレとモミジが負けたコーナーでサクラ・ゾーンはオレの得意なコーナーだった……雨原さんと母さん以外に負けたことはなかった――」

「けどここでサクラ姉ちゃんは大崎翔子に抜かれて負け、ボクもここで彼女に抜かれて負けてしまう。今ではボクとサクラ姉ちゃんが負けたコーナーになっている……」

 致命的だ――。
 オレの得意としていたコーナーで……木から落ちた猿のままにはなりたくない――。
 
 今度大崎翔子と勝負する予定のヒマワリにモミジはこんなことを尋ねた……。

「ヒマワリ――ボクたちが抜かれたコーナーのことをどう思う? 今回のバトルでボクは結構注目しているよ」

「せっかくサクラ姉ちゃんが得意としていたコーナーだったのに……今ではサクラ姉ちゃんとモミジが抜かれたことに悔しいと思っている――けど、オレは……ぜってぇにここで大崎翔子を前に出さねー! SW20のトラクションでワンエイティの前を走ってやるぜ!」

「さすがオレの妹だ……」

「ヒマワリ、ボクとサクラ姉ちゃんみたいに――もし先攻だったら抜かれるなよ」

 ヒマワリは次のバトルでそう誓った――。
 オレらの無念を晴らしてくれ――。
 

 同じ頃、Maebashi市街にて。
 わだすのC33が道路を走り、ある女子大生がタクシーを乗ろうとしている姿を見て車を止める。
 彼女はわだすと同じ大学に通ってるべ。

 タクシーではなく自分のクルマに乗せようとナンパするように誘った。

「ヘイ彼女、タクシーに乗るよりわだすのC33ローレルに乗らねーか?」

「ダメよ。私はいつもタクシーで通学しているから、使い慣れているあっちのほうがいいわ」

「いいや、わだすのC33に乗った方がいいべ」

 このC33はタクシーより速えし、かっけえし、FRだから最近のタクシーより乗り心地がいい。 
 乗るだけで面白いし、こなな車は他にねーよ。

「あんな古いしボロボロなローレルに乗りたくないわよ!

 断ろうとするなら、無理やり手を引っ張って助手席に座らせてやっべ!
 FRセダンの底力を見せてやるだ!

「おらのC33はかっけえ! よぉし出発すっぞ! 国産旧型FRセダン、なめんなよ!」

 女子大生を助手席に乗せたおらのC33は出発し、群馬のりもの大学へ向かっていった。
 
 5分後、ぐんま女子大学にて。
 HCR32とA31が静かに立っており、ドライバーのくにと川ちゃんがいる。

「遅いな――クマさん」

「どっかで迷っとんちゃう?」

 わだすのC33が大学へ入り、2人の前にわだすは降りる。

「着いたべ、くにと川ちゃん!」

 助手席から連れてきた女子大生も降りたけど、わだすのC33に乗ることに対して拒否反応を示していたあまり……。
 
「なによ、このクソローレルッ! こんなに酔う車なんて――二度とのりたくないわッ!」

 大学に向かって全力で走らせたのが原因だ。
 わだすから逃げるかのように去っていった。
 ちきしょーめ!

「おらのC33をバカにしたまま酔いやがって!」

 わだすのC33は最高のクルマだべ!
 どこにもねー車だべ!
 馬鹿にする奴は許さねーからな!
 
 国産FRセダンをなめやがって……!

「あの女の子、どうやって熊久保さんのC33に乗ってきたの?」

「おらが連れて来たべ、C33型ローレルの良さを知らせたかったんだ~! おらのC33はいい車のはずだべえええええええええええええええええええええええええええ!!」

 女子大生に逃げられた挙句に車をバカにされた悔しさのあまり、パニックになってしまった!

 けど、そのパニックはすぐ止まる。
 くにと川ちゃんが昨夜のことを話したからだ。

「実はくにちゃんと川畑さん――昨日の夜に葛西ヒマワリのSW20に抜かれたんだ」

「とっても……とってもとっても速かったで。うちのA31やと追いつかんかった

 午前10時ごろ、赤城山。
 私はオオサキのワンエイティをRB26のエンジン音を流しながら走らせる。

 だが、ある違和感を感じていた。

「パワーが低く感じる――やっぱヤレてきているな」

 違和感はそれだ。
 能力を使い過ぎにより発生したヤレは深刻さは増している。

「パワーは30~50馬力ぐらい低下している。次のバトル、直線が速い走り屋だから戦いが苦しくなるかもしれない。けど、私は負けてほしくない――」

 午後5時。
 舞台はぐんま乗り物大学へ戻る。

 午後になると、タカさんと川さんは昨日のことをおれに話した。

「おぉ~なるほど。そんなことがあったんだね。やっぱ葛西ヒマワリのSW20はそんなに早かったんだね」

「そうだよ、ミッドシップは伊達じゃあないよ。くにちゃんのHCR32を抜いていくほど速かったよ」

「気を付けたらええ、直線では勝てんで。しかもお前のワンエイティはヤレとるし――」

「げどォ、ヤレていてもサギさんはまた勝つと思うべ。姉のサクラや妹のモミジ、WHITE.U.F.Oのメンバーにも勝ちましたし――」

 タカさんと川さんがミッドシップの恐ろしさを伝える中、末永姉妹が自動車部の部室に来る。
 
 姉妹が持って来た情報は今の話にグッドタイミングだ。

「ヒマワリのSW20だけど、あの車はツインスクロール仕様のターボだわ」

「ツインスクロール仕様?」

「末永の姉さん、ツインスクロール仕様ってなんなの?」

「知らないの、熊久保?」

 ツインスクロールターボについて末永の妹さんが解説する。

「ツインスクロールは、ツインという名称からツインターボの一部と思われやすいけどツインはターボの数ではなくタービンハウジングへの流路が2つに分割されたものだよ。これを2つにすることによって、排気干渉(多気筒エンジンにおいて各シリンダーごとに燃焼を終えて排出されたガスの圧力が他シリンダーの排気の邪魔をしてしまうこと)を少なくすることによって、回転のトルクを良くしてターボラグを小さくし、低回転レスポンスを良くすることが出来るよ。ただし、コストが高いというデメリットがあるけどね――」
 
「へぇ、こんなものが積んでいるんだね。ヒマワリのSW20」

 おれも凄い物だと感じるよ、ツインスクロールターボ。
 話を聞いたクマさんは、次にこんな予告をする。

「今夜、わだす赤城に行ってくるよ。もし葛西ヒマワリと会ったら、お尻ペンペンと同時に勝負してやるだあ~」

「けどォ、高トルクなくにちゃんのHCR32でも追いつけなかったよ」

「いや、おらのコーナーがとても速くなる超速舞流の能力で倒してやっべ!」
 
 ヒマワリの恐ろしさを知るタカさんに反対されても、やる気満々だ。
 さらにおれの小さな身体に抱き着いてきた!

「サギさ~ん、葛西ヒマワリのSW20をわだすが倒すべ~待ってくれ」

「離してよ、クマさん! 葛西ヒマワリに本当に勝てるの? あと、今おれは彼女と戦うための作戦を考え中だけど――タカさんのHCR32より速いSW20に勝つにはなにか作戦を思いつかないと――ただし彼女の走りをみるためなら負けてもいいけど、その後には走りを教えてね」

 ただしクマさんは戸沢龍のみならず末永のお姉さんのEVO9に乗ってモミジに負けたし、無理だと思うね――。

「ヒマワリよりSW20より高い430馬力のパワーとおらの強力な能力でぶっ潰してやりますよ――国産旧型FRセダンの底力をなめないでください(ウェヒヒ――ヒマワリを倒しておらたちプラズマ3人衆の実力を知らしめてやるべ)」

 よだれが出そうな自信満々の顔で宣言する。
 けど、自信満々の様子と裏腹に逆の展開になることを知らない――。

「熊久保、絶対にダメだと思うわ」

「そうだよね、お姉ちゃん」

 末永姉妹の言う通りだ。
 今のクマさんは「How Hard can it be?」って言っている状況と同じだ。

 そして――夜8時。
 夜のコンビニにてヒマワリはヤバい雑誌を読んでいた。
 内容は「全身タイツと妊婦」だ。

「うわァ、すげェ! この2つを合わせたらすげぇムラムラ来るぜ!」

 顔を熱くしながら読んでいた。

「けどもう時間だし、赤城へ行こうか」

 雑誌を元の場所に戻してコンビニを後にしながら、SW20に乗り込んで赤城山へ向かった。

 赤城山にあるダウンヒルのスタート地点近くの駐車場にて、おらはヒマワリを待っていた。

「ヒマワリはいねーが?」

 1台の車が上がって来る。
 緑のSW20、葛西ヒマワリの車だ。

 駐車場に入り、右のドアからドライバーが降りてくる。
 おらはそこへ向かう。

 彼女と目が合うと、某捜査一課っぽく挑発した。

「DUSTWAYの葛西ヒマワリい~!」

「なんだ、お前は?」

「おいトカゲ、おらは熊久保宣那だべ! お前に勝負を挑み、昨日のA31乗りとHCR32乗りの仇を取りにきたべ!」

「熊久保宣那いう名前か――おいクマよ、オレとSW20をなめんな! どんなクルマでもトラクションで離すことができるんだぜ!」

「おらのほうもなめんな、C33ローレルはコーナーならどんなクルマでも離すことできるべ!」

 大口を叩くヒマワリの言葉を真似てみた。

 そんな風に言ったらヒマワリは乗り気になった。

「こっちも1000m離せるのか? なら本当に勝負してやるけど、勝ち目はあっちのほうがゼロだけどな――オレとバトルしに来たって言ったんだから、なら望み通りに挑んでやりまあすか!」

 バトルを受け入れてくれた。

「いいだろ勝ち目がゼロって言ったけど、おらが離してィやるべ! おしりペンペ~ン~!」
 
 半ケツを出して挑発する。
 
 それをヒマワリに見せたら、一瞬だけ顔を紅くしてしまったけどな……。

「じゃあ、スタート地点に並べ!」

 2台はそれぞれの車に乗り込んで、起動させる。
 スタート地点へ並んだ。

「では、行くぜ!」

 勢い良くスタートし、有利なSW20が先攻していく。
 やっぱり先を取られたべ……。

「先行はオレだぜ、イィーネ!」

 先攻したSW20は直線でおらのC33の眼から一瞬で姿を消す。

「ちきショーめ、直線で負けるならコーナーで勝負してやるべ! おらの能力は曲がるたびに旋回性能が上がる能力だ~!」

 最初のコーナー、緩い左コーナーとS字ヘアピンからの右コーナーが迫りかかる。
 旋回性能を上げる能力を使っておらはヒマワリを追い上げようとした。

 しかしどのコーナーでも追い上げることが出来ず、右ヘアピン後の直線で車の姿が見えなくなるほど離されてしまう。
 以降追い上げることはなかった――。

「負けたべ――」

 翌朝、5月1日。
 4月から5月になる。
 おれたちは赤城の第2高速セクションにいた。

 右におれのワンエイティ、左に智姉さんのR35が並んでいる。

「今からここでドラッグレースを行う。勝負するより車のパワーを確認するからな」

 2人はそれぞれの車に乗り込み、走り出す。
 直線を走る2台、少ししか離していないがレースはR35が有利に進む。

 おれのワンエイティもゴールする。

「私はヒマワリSW20と同じ加速力で走ったはずなのに勝ってしまったな……」

「ウェヒヒ――負けてしまいました……」

 本来は0km/hから100km/hまで2.4秒の加速を持つ智姉さんのR35だけど、今回は4秒で走っていた。
 それでもおれのワンエイティを倒すほどだ――。

「負けた原因だが、車のヤレが先週より進んでいる。パワーが下がってきてるな」

「えぇ!?」

 それを聞いて、唖然した!

「しかも、今回の相手はトラクションが強烈な走り屋だ。ヤレが進んだ車だとかなりの苦戦が予想される」

「けどォ、おれは勝ちますよッ! 車がヤレていても勝ちますッ!」

「勝つための作戦だが――モミジ戦で使った走法・ゼロカウンタードリフトを中心とする技で攻めていったほうがいい」

 フロントタイヤにカウンターを当てずにドリフトする走法だ。
 これを活かした<フライミーソーハイ>でモミジとアルテッツァを倒した。

「ゼロカウンタードリフトですか――その技で戦ってみますッ!」

 ヤレ状態に勝つためにはこの走法を使って勝負するしかないのだ。
 のちにそれから覚醒技のある技が誕生するのだった――。

 深夜11時。Speed葛西。
 私はガレージを開け、中にあるクルマ・黒いJZA80に乗り込む。

 前と違ってフロントライトにアイライン(ドレスアップパーツの一種である。ヘッドライトの上部に取り付けるもので、ライトが細くなる効果があるとされている)が付けられていた。
 私がこのクルマを進化させたのだ。

 そのクルマに乗りこみ、ハンドルを握る。

「車のテスト走行と称してバトルの練習走行しようかな」
 
 キーでJZA80は目覚める。
 目覚めたクルマは私を赤城へ連れて行ってくれた。
 
 進化した走りが楽しみだ。

 峠を攻めていく。

「お、サクラさんのJZA80だ!」
 
「いやァ、待てよ! JZA80を運転席を見ろ、運転席にはキタローみてーな女ではなく、平安女みてーな姫カットの女が乗っている! あれはサクラさんではなく、サクラさんの母親であるウメさんだ!」

「なぜウメさんはサクラさんのJZA80に乗って走っているんだ?」

 なぜか私がJZA80に乗っている姿を見て、ギャラリーたちは驚きを隠せなかった。

 娘の得意とするサクラ・ゾーンに突入する。
 ここを攻めるクルマを見て、そんな違和感を感じた。

「まだ足回りは不完全だね――もうちょっと調整する必要があるね……」

 完全な進化を遂げていないようだ。
 帰ったらまた調整する必要がある。

 いよいよバトル当日の朝となった赤城山。

 オレを乗せているSW20が第3高速セクションで前を走る青いS14を追い抜く。

「オレのSW20のトラクションを見たか!」

 前に出ると、3S-GTEのターボサウンドで吠えながらミッドシップ特有の加速力で離していった。

 その後は5連続ヘアピンに突入する。
 間の直線にて、オレのSW20は次にS13を狙い定めて自慢のトラクションで追い抜く。

「今夜かかって来いよ――大崎翔子、ミッドシップのトラクションで離してやる!」

 今日は約束の日だから負けねー。
 オオサキとのバトルに対してすげー気合いが入っているぜ。

 オレはSW20のフードを開けてエンジンのコンディションを確認し、それを終えると運転席へ乗り込む。
 出発の準備を整えた。

「よし、今から大崎翔子をぶっ飛ばしてやろうか」

 目覚めたSW20は3Sのターボ音と共にガレージを後にして、オレを決戦の場所へ連れていく。

 母ちゃんもガレージへ来る。
 
「私も行くわ、JZA70」

 JZA70に乗り込んだ母ちゃんもオレを追うようにバトルの場所へ向かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?