精神覚醒走女のオオサキ ACT.9「熊久保宣那」
「川ちゃんとくにを倒したからすごい腕を持つなァ……赤城で雨原芽来夜に次ぐ実力を持つ葛西サクラを本当に倒した走り屋だと分かるべ! 威圧感がヤベーべ。けど、おらはうっしゃろの怪物に勝ってやるだァ~! 20年以上前のFRセダン、なめんなよ!」
最後の相手、オレンジのC33との勝負が始まる!
サクラ・ゾーンが終わり、第2高速セクションの入り口であるジグザグゾーンに入る。
「おらの覚醒技の能力を見せてやるだァ~!」
前のC33はジグザグゾーンに入ってすぐジグザグな曲線を左、右、左、右、左、右と攻めていき、曲線を攻めるたびにC33の突っ込みが速くなっていく。
「これがおらの覚醒技の力だべ!」
この能力はドリフトでコーナーを抜けるとクルマのハンドリング性能が上がるものになっている。
「速い!
一生懸命攻めてみたけど、こっちが付いて行くのに苦しいほどのコーナリングだよ! 腕なの? 性能なの?」
あれは超能力だ。
おれの突っ込みが苦しくなるほどの旋回性能をC33は見せていく。
ジグザグゾーンを抜けると本格的に高速セクションが始まる!
「わだすのC33は25年前に作られた旧車、けど旧車をなめるな!
旧車の底力を見せてやるだあ~!」
「前のC33、直線でも速い!」
コーナーだけでなく直線でも伊達じゃあない。
このC33に搭載されるRB20DETは430馬力のパワー、49.5kg・mのトルクを持つエンジンにチューンされていた。
おれのワンエイティのRB26DETTの350馬力と47kg・mというスペックを上回る。
そんなチューンが施されたC33はちょっとづつだが、おれを離していく。
先頭のC33は第2高速セクションが終わると左ヘアピンへ入る。
「<コンパクト・メテオ>!」
C33乗りが持つ覚醒技の能力によって突っ込み性能が上がっていて、この技は強力になっている。
次の右ヘアピンは技を使わないドリフトで抜けて第1高速セクションに入った。
「速いコーナリングだよ……強力な<コンパクト・メテオ>だ……こっちはどう対抗しようか……」
次のコーナーでのことをおれは考える。
現在のおれは一気に2戦やってきたため、精神力の消耗が激しい。
A31乗りやHCR32乗りの技を食らいながら勝負した結果、精神力が激しく消費した。
現在おれの精神力は半分ぐらい倒れそうなほどだ。
精神力を使いすぎると車を運転しづらくなったり、体力的な疲労が激しくなる。
「どう攻めるか。そうだ、次の2つのコーナーを一気に、あの技をまた使って気合で攻めてみよう!」
このあとおれは左U字ヘアピンと右突き当りヘアピンへ入る。
左U字では普通にドリフトしながら攻め、突き当たりでは……。
「一か八か、<フライミーソーハイ>! イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケェー!」
C33より速い突っ込みをする!
「速えべ! おらの速い能力にづいでごれる奴はすごいだァ~!」
さっきのおれの突っ込みを見て、C33乗りは驚きの表情を見せた!
「けど、直線ではこっちが上だべな!」
次は第1高速セクション。
パワーの勝る相手のC33の加速が有利だった。
少しずつだけど、おれを離していく。
「技はさっぎ使ってしまっだがら7秒間使えねーが、おらの走りに着いてこられるべ?」
第1高速セクションが終わり、右ヘアピンに入る。
覚醒技の能力でさらに速くなった旋回性能からのドリフトで突っ込んだ。
後攻のおれも遅れて入る。
「イケイケイケイケェー!」
技は使わなかったが、気合のドリフトで攻めた。
C33と互角だ。
「速えべ! けど、ドリフト連発するだあ!」
短い直線を抜けて、左S字ヘアピンに突入する。
予告通り、デジャ・ヴでさらに上がった旋回性能でドリフトを連発して攻めていく。
おれも気合で攻める!
短い直線を抜けて左U字ヘアピンに入り、C33はまたドリフトで攻めていくが、おれのほうはアクセルオフとブレーキを使わないグリップで攻めていく。
「どうしたんだべ! なんしてわざとゆっぐりなグリップで攻めただァ~!?」
C33はこれがおれの作戦の1つだと気付いていない……。
U字のあとはまたまた短い直線を抜けて3連続ヘアピンに入る。
左、右、左となっているコーナーで、C33は最初の2つを技を使わないドリフトを使って抜けていき、旋回性能は上がっていく。
3つ目ではそれを活かして<コンパクト・メテオ>による突っ込みで抜けていった。
「入っていくよ!」
少し離されているおれも入る。
1つ目、2つ目では共に時速70km/h程のグリップ走行だったものの、3つ目の左ヘアピンではC33同様に気合の<コンパクト・メテオ>で攻める。
その技は相手の覚醒技の能力に負けないほど速くコーナーを抜けるたびに速くなり、C33のドリフトの速度を上回るものだった。
広がっていた差は縮まる。
「速えべ! わだすのドリフトより速いゴーナリングをした奴はいねがったべ!」
気合のドリフトが自分より速いことにC33乗りは驚きを隠せなかった。
コースの距離は残り少なくなる。次は直線に入った。
パワーのあるC33のほうが優勢だと考えられたはずだった!
しかし!
「なに!
直線でもついてくるべ」
おれはコーナーでドリフトを使い終わった後、脱出時に上手くスピードに乗せていたのでC33の後ろに食いついていく。
距離はどんどん縮まり、ついにはC33の後ろを煽り出す。
いよいよ追い詰めた。
「もう後はないよ!」
2台は直線を終えると道幅の広い緩やかな左コーナーに入る。
C33はドリフトで攻めていく!
後ろのおれも入り、技は使わず入っていく。
大きく距離は離れる。
「もう終わりだべか。
ついにあそこでおらの最終兵器を繰り出すとするか……」
残るコーナーは1つだけとなった。
先頭のC33乗りは予告する。
一方のおれは。
「すっと前のコーナーでドリフトを使わなかったのはタイヤの温存だよ」
タイヤを温存するのは終盤で一気に使うためだ。
「いよいよ最終ヘアピン! わだすの最終兵器、行ぐべ!」
最後のヘアピンに入る。
先に相手、後でおれが入った!
前者が内側で、後者が外側だ。
「小山田疾風流<フライミーソーハイ>!」
風のように舞う萌葱色のオーラを纏い、猛烈なスピードで突っ込む!
「超速舞流<大外刈スクリュー>!」
あっちも時速320km/h以上を越えるスピードでドリフトしながら攻めていく。
技は強力。しかし、やばい欠点があるのだが……。
2人の技が同時にぶつかり合うッ!
「絶対に追い抜くッ! イケイケイケイケイケイケェーッ!」
「お前はもう終わりだべ! おらは勝っただァ~! スピードではこっちのほうが上なんだべ! もう勝ったと同然だあ~! この物語は第9話をもって完結だあ~! 次回からは「精神覚醒走女オオサキ」ではなく「精神ドリフト走女クマクボ」が始まっべ!」
C33乗りは勝ち誇っているものの、果たしてどっちが勝つのか!?
次の瞬間!
「何! おらが抜かれっべ! スピードではこっちが速いのに!」
おれのほうが前に出れたようだ!
「ウェヒヒ! こっちのほうがちょっと先に技を使ったんだよ!」
「抜かれても抜き返す! 仕返しだあ~!」
抜かれても諦めず、おれに接近しようとする!
しかし<大外刈スクリュー>の代償が襲い掛かった!
「うわ!」
前のC33はフラフラと直線を走った後、ガードレールにフロントバンパーがやや接触するような感じで右にスピンした。
<大外刈スクリュー>は使うと反動で精神力を消費してしまう。
代償だけでなく、おれの<フライミーソーハイ>を喰らって精神ダメージを受けている。
何回も言うが、精神力を減らしすぎるとドライバーはミスしやすくなる。
「速えべ……昨年度学生ドリフト走行会チャンピオンのわだすが負けたよ。相手は葛西サクラに勝った走り屋だと分かるね――」
C33乗りがそう呟いた。
突然仕掛けられたバトルだったが、おれは3台を追い越して勝利することができた。
バトルを終えた後は智姉さんとR35がいる駐車場に着く。
「智姉さん、やっと着きました」
そう言いながら、ドアを開けて降りる。
「突然バトルを挑まれたんだが、お前大丈夫か? 心配してたぞ」
「挑まれましたが、大丈夫です! おれはあの3台には抜いて勝ちました!」
心配させて、申し訳ない気持ちだ!
後ろからおれと勝負した3台のセダンがやってきた。
「あれはさっき戦ったクルマ!」
駐車場に止まり、3台のクルマからそれぞれのドライバーが降りてくる。
「なんだよ! いきなりバトルを挑んで!!」
突然挑んできたことにおれの顔は紅潮し、目が地走った。
「すまねーべ。にしゃ(※)が赤城で雨原芽来夜に次いで速い走り屋・葛西サクラを倒した人だと聞いて挑んでぎたんだべ」
(※福島弁で「あなた」)
C33に乗っていたドライバーは、勝手にバトルを挑んできたことをおれに謝った。
「わだすの名前は熊久保宣那と言います。
昨年度の学生ドリフト甲子園で優勝した人です」
「こっちは小鳥遊くに、準優勝だよ!」
「うちは川畑マサミ、3位やで」
3人のドライバーは自己紹介をした。
「勝手に勝負なんて挑まないでよ。今度同じようなことしたら許さないよ あと昨年度の学生ドリフト甲子園の……しかも上位3人ッ!?」
上位3人が、おれを追って来たとはびっくりだ。
「おれの名前は大崎翔子! 16歳で免許を取って2か月ぐらいだよ!」
「へえー! まだ免許取って2か月なのに葛西サクラを倒すとは思えねーべ! 大崎翔子さん、覚えておくだ! 「サギさん」と呼ぶことにすっべ」
こっちは「クマさん」と呼ぼうか。
「16で勝つとは恐ろしい才能だね!」
2か月だと言っているが、おれは免許取る前(13歳)から車を運転している。
「昔活躍していたから名前を知られていることが多いが、斎藤智だ。オオサキの師匠でもあるんだ。今は走り屋を辞めて和食さいとうで働いている」
智姉さんも自己紹介した。
「伝説の走り屋の斎藤智さんがサキさんの師匠ですか! だから葛西サクラより速いわけが分かります!」
「斎藤智さんってサキはんの師匠か~あの伝説の走り屋を師匠に持つとはすごい奴やなあ」
「やっぱすごい走り屋だよ!
サキちゃん!」
3人はおれが智姉さんを師匠を持つ走り屋だと聞いて驚いているようだ。
おれたちは帰宅するのだが、開業していない9時に和食さいとうにも3人はやってきた。
「また会ったな。午前中は開いていないが、やってきたのか」
「そうです。わだすら3人はやってぎたんです」
「まだ開いてへんけどな」
「くにちゃんも」
3人に眺めて、智姉さんは提案する。
「お前たち3人にグループの名前らしい名前を付けよう」
「グループらしい名前!? どんな名前ですか?」
CDデビューか?
いやいや、あんな3人なんて想像できないよ。
そもそも歌手じゃあないし。
「どんな名前なのか気になるよ!」
「どんな名前にするんやろうか……」
小鳥遊さんと川畑さんの心臓はバクバクだ。
「お前たち3人のグループの名前は……「プラズマ3人娘」だ。名前の由来は3人ともRB20のクルマに乗っていて、それらはプラズマと言われたからな」
その名前に3人組の名称が決まった。
3兄弟のクルマに乗っていから、おれもピッタリな名前だと思うよ!
「プラズマ3人娘ですか……いい名前だべ!」
「かっこいい名前だよ!」
「賛成やな!」
こうしておれに挑んできた3人の少女はプラズマ3人娘と名付けられた。
3人は時にはまるでお笑いトリオのような振る舞いをおれたちに見せ、時にはおれの協力者となるのだった。
なんとかドッグに出てきたな丸々坊主みたいだね。
Takasaki市のレストランにて、ここの窓側の席でとある白い2人組が話している。
灰色ポニーテールの女と、肩まで伸びた長い白髪を持つ男だ。
「あたし、サクラを倒したワンエイティ乗りに勝負を挑みたいんじゃんよ!」
「どうしてだ?」
「16歳で速い奴と聞くとなぜかバトルしたくなるんじゃん! ただし、あたしはサクラと違ってヒルクライムで挑みたいけどな!」
オオサキへの挑戦状だ。
あの女を送りたいと言っていた。
「あのワンエイティ乗りは和食さいとうに住んでいると聞くけど、和食さいとうは昼から開店する。昼に和食さいとうに行ってワンエイティ乗りにバトルを挑んでやるじゃん!」
この柳田マリアというZ33に乗る女が、オオサキの次の相手になる。
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