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精神覚醒走女のオオサキ ACT.5「ドリフト走行会」


 ――3月20日の金曜日、ドリフト走行会の当日になった。

 赤城山のあるMabashiの隣街、Takasaki市でもドリフト行会の噂が聞こえていた。

 その町にあるレストランにて朝ごはんを食べながら4人組の集団が話している。
 メンバーは男1人女3人だ。

 灰色の長いポニーテールに支那服のようなワンピースを着た背の高い女が口を開く。

「戸沢、ドリフト走行会があるじゃん。16歳のワンエイティ乗りの子供っぽい走り屋がいるけど、葛西サクラと走るらしいじゃん。あいつは一緒に走れると思うか?」

 オオサキと思われる走り屋の存在も聞いてきたらしい。
 
 白い長髪に女性的な顔つきのした男こと戸沢はこう答える。

「走れないな、柳田。戦いの年季が違う。サクラのJZA80はコーナリングでも速いからな。すぐ離されるだろう。先行なら必ず食いつかれる。しかもサクラは母親からテクニックと覚醒技を教わったからな。サクラも楽勝だと考え、今夜覚醒技を使わないと言っている」

 戸沢の答えだ。

「けど、走れるかは今夜見ないとわかりませんよ。戸沢さん」

 灰色ツインテールの女が口を開いた。
 オオサキが不利だと考えていないようだ。

「そうですよ。彼女は10代で最速と呼ばれた女・斎藤智の弟子で、年齢ながら上手いと言われているようです。走れるかどうかは今夜の赤城山でわかります」

 右のセミロングの女も、ツインテールの女と同じようなことを言った。

「そうだよな。もしサクラについて行けたらバトルしたい相手だけど、離されたり食付いて行かれたらヘタクソと言ってやるよ。けど、俺はついて行けないと考えているけどな」
 
 2人のメンバーと同じことを言うものの、結果は今夜になるまで分からない。
 オオサキは16歳だからって下手ではない。

 10分後に話と朝食を終えて全員席を立った。
 レストランの駐車場に行き、愛車の場所へ向かう。

 戸沢のクルマはMugenのエアロとingsのリアバンパーを付けた白のDC5型インテグラタイプRだ。
 さらに白のボディの両サイドには緑のライトニングパイナル、リアフェンダーに「White.U.F.O」のロゴが貼られていた。

(※)テールランプの色を赤以外にすることについては現実世界では違法改造となっており、車検には通らない。ただしこの作品の世界はでは違法になっていない。

 キーでドアを開け、ドアが翼のように大きく開く。
  
 DC5はガルウイングに改造されていた。

「ドリフト走行会に参加するワンエイティ乗りの小娘か……果たして上手く走れるのか」

 とつぶやき、DC5に乗り込む。
 同じグループの柳田が乗るZ33、白いZN6、白いV36型スカイラインクーペを連れてレストランから出ていく。

 12時、おれと智姉さんは仕事の準備をしていた。
仕事着に着替え、着替えた後は今夜の話をする。

「今日のドリフト走行だが葛西サクラは覚醒技を使わず走るつもりらしいな」

「やっぱり使わないようですね」

「今日はドリフト走行会当日です。しかし、おれは緊張して不安です……夜も眠れませんでした」

 そんなことで頭が錘を持つように重くなってしまった。
 とても考えすぎて――。

 けど、そんなおれに智姉さんは激励した

「けど、大丈夫だ。この前「ドリフト走行会は勝ち負けはないが勝負はある」と言ったが、相手に勝つことより自分に勝つことを考えろ」

「戦うのは自分ですか」

「あとこの走行会を楽しめ、相手に勝てなくてもいいだということを考えながら走れ、自分には負けるな。相手に負けたら自分を笑えばいいんだ」

 激励されたおれはやる気になり、

「励まされました。智姉さん、おれはドリフト走行会のことで緊張しませんッ! 精一杯頑張ります! 楽しみます!」

 とドリフト走行会をやり切ることを誓った。

「そうだな、私のオオサキだ」

 智姉さんも嬉しくなるほどやる気になった。
 
 いよいよ――今夜だ……。
 絶対に16歳だからってナメられる走りはしないよ!

 夜8時。赤城道路ではドリフト走行会の準備が始まっていた。
 路面の状態を確認していたサクラが帰ってくる。

「路面の状態はどうだったか? 確認の結果について、雨原が聞いてくる。

「悪くないな……老化していないし……ガタガタを感じなかったので良いコンディションだ」

「路面の状況は悪くないようだな、路面はOKと。次はガソリンとタイヤだ。あたしのFDは燃費は悪いけど、大丈夫だ。タイヤもだ」

「オレのJZA80もガソリンは大丈夫だ……タイヤも大丈夫――」

「私のRX-8もガソリンとタイヤは大丈夫です」

「私の86も大丈夫」

「V36も」

 皆、準備万端だった。

「よし、みんな大丈夫だな」

 大丈夫ではないメンバーはいなかった。


 午後9時になるとギャラリーがたくさん集まってくる。

 スタート地点の資料館前駐車場、ここにもTakasakiにいたグループがやってきた。
 戸沢のDC5をはじめ、Z33をはじめとするメンバーのクルマも来る。

 Z33は柳田という髪が長く背の高い女の愛車で、レーシングカーを彷彿させるニスモ380RS用のバンパーを付けている。

「いよいよ始まるな」

「そうじゃん」

 ドリフト走行会への準備はもう始まっている。

 2人はある走り屋のことが気になっていた。

「16歳の女の子が乗るワンエイティは果たして走れるのか?」

「まだあいつは来ていないじゃん」

 おれのことだ。
 
 色々言われつつも、
 和食さいとうにておれは支度を整え、今から赤城道路へ向かおうとしていた。

「もうすぐ始まる時間です。
 赤城道路へ行きましょうッ!」

「そうだな、行こうか」

 おれと智姉さんはワンエイティに乗り込む。
 運転席のキーを入れてRB26の爆音が響きす。

「ドリフト走行会始まるよ、ワンエイティ行こうッ!」

 エンジンという楽器を奏でながら、おれとワンエイティは戦場へ向かっていった。

 資料館前の駐車場。
 DUSTWAYのメンバーたちが集まっている、

「まだ来ていないな、大崎翔子」

 しかしトランシーバーからとある報告が流れてきた。

「こちら折り返し地点のある第1高速セクション! 1台の車が走ってきます! カラーリングは赤・白・黒の派手な3色。RB26の爆音を流しています」

「あれはオオサキちゃんだ。彼女以外はありえないと思うぜ」
 
 おれが来ると聞いて、雨原は

「よく来たな。大崎ちゃん」

 と喜んだ。

 今走ってくるおれのワンエイティは赤城の暗い山道を登っていき、スタート地点の資料館前の駐車場は到着する。

「来たよ。
 雨原芽来夜」

「私も来たぞ」

「待ってたぜ。
 今は午後9時40分だ」

 時間の針はちょっとずつだが、経過していく。
 41分、42分、43分、44分と。

 45分になると、ルール説明が始まる。

「ルール説明しよう。これは速さよりドリフトでギャラリーを喜ばせるものだ。最初は第1高速セクションに入るまでダウンヒルを行い、パイロンを見つけたらそれを回ってヒルクライムで帰ってくる。2台走行し、半分往復したら先行と後攻を入れ替える」
 
 さらに注意事項も話す。

「覚醒技は使ってもいいが、やってはいけないことを言う・相手にプッシュして事故らせるといった卑怯な手はなしだ。相手に勝つことよりも楽しんで走ってくれ」
 
 ルール説明を終える。

 55分に抽選で順番が決められ、おれとサクラは4番目に走ることになる。
 時間の針はどんどん進んでいき――。
 
 午後10時、ドリフト走行会が開幕する!

「まずはあたしたちからだ」

 ドリフト走行会の第1走者はDUSTWAYのリーダー・雨原芽来夜が乗るFD3Sと、EarthWindFireのリーダー・谷村が乗るZN6だ。

 2台とも同時にスタートし、直線を駆ける。
 最初のヘアピンに侵入して、煙とスライドが炸裂しながら2台ともドリフトで攻めていく。

「雨原さん速い!速いし、角度もよいし、煙も出てる! すごいドリフトで第1ヘアピンを抜けていくべい!」

 雨原のドリフトは後ろのクルマを離す。
 ギャラリーは身体が跳ねるように喜んだ。

「おーすごい! さすが赤城最速!」

「今度こそ本気か?」

「いやいや、違う。手加減して走っているんだ。本気の雨原さんは見たことないけどすごいぞ!」

 本気に見えるが手加減であり、上手く見えるのはテクニックが高いからだ。

 おれも感じた。
 ZN6は先日追い抜いた車だが、大きく距離まで離すなんておれでもできない。
 折り返し地点に着いた時、雨原は15秒間谷村を待ったとか。

 ダウンヒルを終え、ヒルクライムに突入する。
 先攻と後攻を入れ替える。

「後攻でも着いて行く!」

「赤城最速はヒルクライムもダウンヒルもヤバいよな」

 後攻でも雨原は伊達じゃあなかった。
 前のクルマを食いつく走りを見せていく。
 先攻するZN6はFDに何度もディープキスされそうになったらしい。
 
 谷村は怯えながら走った。

「また手加減してるけど、見えないよな。
 前のクルマもすごい走り屋と言われているけどそいつが遅く見えている」

 前の86を追いながら縦に白い線が巻かれた青いFDは追う。

 その後ゴール地点に到着する。

 駐車場に雨原は戻ってきた。

「どうだった……雨原さん」

「クルマの性能に頼っただけだよ。実力の50%より遥かしたのレベルだぜ」
 
 おれでもそう見えない。
 雨原が手加減しながら走っているなんて。

 本当なのか?

 次は2組目が走り出し、この組も華麗なドリフトを見せる


 しかし3組目が走り出すと、事件が起きる。

 車種は右が銀のC33型ローレルで、左が赤のV36型スカイラインクーペだ。
 先行しているのは前者のほうだ。

 2台は出発した。
 直線を入り、抜けると第1ヘアピンに突入する。

 鉄同士がぶつかる音がする。

 なにが起きたんだろう……?
 
 2台はコントロールを乱したのだ。

「くそったれ! 2台ともスピンしやがって!」

「下手くそだんべい。つまんねー」

「もう帰る」

 スピンしただけでなく、ガードレールに衝突した。
 唖然としたギャラリーたちは帰宅しようとする人たちも現れる。

「下手すぎて面白くない。帰る」

「あたしもじゃん」

 真近で見た戸沢と柳田も下手すぎたあまり

「あの16歳の走り、期待できんな。
 これ以上の下手な走りなんて見たくない」

「そうじゃんか」

 とてもうんざりしていた。

 頂上……。

「ピッ、こちら第1ヘアピン!
 参加者が事故を起こしました!」

 トランシーバーで第1ヘアピンの状況が雨原に報告される。

「ドライバーに怪我はないのか?」

「怪我はありませんが、事故のせいでギャラリーが相次いで帰宅していきます」

「あぁ、事故を聞いたら手が震えているよ……。武者震いなのかなァ?」

 事故を聞いた時、おれの身体が震えだした。
 元々握力のある手がさらに強くなるほどだった――。

 3組目が帰ってくる。事故ったことでギャラリーから罵声が浴びていた。

「事故りやがって!」

 凄い腹が立っている。
 楽しみを台無しにされたからだ。

 3組目が終わって、ついに大崎とサクラの4組目の出番だ。
 緊張のグループでもある。

「あの小娘に上手いドリフトを見せてやろうか――」

 2台のクルマはスタートラインに立つ。

 おれとワンエイティの前に智姉さんが来る。

「最初のダウンヒルではお前が先行だ」

「はい、頑張ってきます」

 それを伝えると駐車場に戻っていく。

 先行か、どう走ろうか――?

 そして、2台はスタートした。
 最初の直線を駆け抜ける。

「小娘のワンエイティが走ってるのか」

「果たしてドリフトできるじゃんか」

 帰宅しようとする戸沢と柳田の眼が、走るクルマに向く。

 2台はヘアピンに入る。

「来たぞ」

「ワンエイティは16歳が運転している。果たしてクリアできるんだんべか?」

 多くのギャラリーが配する中、おれたちはヘアピンをドリフトで攻めていく!

「行くよワンエイティ、高速ドリフトで攻めるよ!」

「ついて来れるか……? 覚醒技を使わないオレのドリフトに……?」

 どちらも覚醒技に頼らないドリフトを披露した。
 2台とも鋭く侵入し、素早いスピードとかなりの角度でコーナーを攻めていく!

 第1ヘアピンを抜けるとき、ギャラリーはとても驚いていた!

「離されている! サクラさんのJZA80はコーナーでも速いのに!」

 なんと、おれが第1ヘアピンのドリフト勝負で勝ってしまった。
 ギャラリーはみな驚いている。

 ドリフト勝負でサクラは離されてしまった。

「なんだ……年齢のくせにやるな……怪物か――?」

 ZN6乗りの堀内と同じことをサクラは言う。
 16歳なのに速い腕にびっくりしているようだ。

「サクラさんの腕が落ちたんべい?」

「いやいやサクラさんは弱くねー。相手が年齢の割に強いだけだんべい」

 16歳のおれがサクラを離していく姿を見てギャラリーたちはとてもショックを受けている。
 肩の力が落ちるほどだ。

 次のコーナーに2台は入った。
 おれが先に攻める!

「イケイケイケイケイケイケェー!」

 いつもの叫び声とともに攻めていく。

「離されているッ!」

「年齢のくせに綺麗なドリフトだぜ」

 おれのワンエイティはJZA80を離していく。

 ワンエイティに乗っているのは少女であるおれだが、正体は怪物かもしれない。
 ギャラリーたちはそう思っているだろう。

 頂上でも報告された。

「こちら、3連続ヘアピンの最初のあたり! 16歳の少女が操るワンエイティは先行していますが、後ろのサクラさんに食付かれる気配はしません。しかも、サクラさんのJZA80を離しています」

「サクラがドリフトで離されるとは夢にしか見えないぜ。信じたくないけど、オオサキちゃんの腕は認めてやるよ」

 トランシーバーでサクラがおれに離されることを聞いた雨原は以上のコメントを残した。

「先行を頑張ってるな」

 おれの活躍を智姉さんは嬉しいと考える。

 最初の直線でギャラリーしている戸沢と柳田はメンバーからおれの走りが報告される。

「戸沢さん、柳田さん、ワンエイティがサクラのJZA80を離しています」

「本当か。ワンエイティが走れないと予想した俺はどこ行ったんだろう?」

「すごいじゃん、ワンエイティ。これを肉眼(なま)で見て―じゃん」

 活躍を聞くと、帰ろうとした2人だったけど、おれの本当の走りを見るとギャラリーを続けることにしたようだ。

 2台は今、3連続ヘアピンを抜けてU字ヘアピンを攻めている。
 おれがサクラを離していく。

「サクラさん、今日はピンチだんべい」

「16歳にドリフトで離されるなんてありえねーべい!
 しかも運転が綺麗だんべい!」

 ギャラリーもとても驚いている。
 さらにこんなことを話す。

「なぁ、サクラさんと小娘が戦ったらどうなるんだんべい?」

「サクラさんが勝つべい」

「けど、サクラさんは離されたんじゃあねー。
 あのワンエイティは強敵だ」

 面白そうに話しているようだ。

 走行中だから聞けないものの、もしクルマから降りていたらおれも気になる。

「クルマの調子が悪いのか……? いや、悪くない。このクルマは18年落ちだがメンテナンスをたくさんしているため調子は良いはずだ……離されている……」

 サクラは離されているのは何が原因かって考え始める。

 車の悪さはおれも感じなかった。
 ひょっとして、おれのほうが上手いのか?

「このままだとシロナガスクジラ以上の長さに離される……。そうだ使わないと決めたあれを使うか」

 S字ヘアピン、ついにサクラは封印を解くッ!

「<コンパクト・メテオ>……ッ!」

 離されていると考えたサクラは、走行会で使わないつもりだった覚醒技<コンパクト・メテオ>を使ってしまったッ!
 覚醒技を使い、今までより速いドリフトする。

 今のままだとついて行くことができないほど、おれが強敵だと分かった。
 タキオン粒子のオーラを纏ったサクラは慣性の力でスライドしながら、距離を縮めていく。

「ウェヒヒ、嬉しいよ覚醒技を使ってくれて」

 前のおれも次の左コーナーで<コンパクト・メテオ>を使い、抜けていく。
 短くなったサクラとの距離をまた長くした。

 第1高速セクションに入ると赤い三角パイロンが見えてくる。
 そこを抜けたらダウンヒルは終了だ。

 おれとワンエイティはドリフトをしてUターンをした。
 遅れてサクラのJZA80もパイロンにやってきて、2台が揃うとヒルクライムの幕が開けた!

「ダウンヒルでは離されたから……ヒルクライムでは離してやろう……」

 ヒルクライムではサクラが先行に変わる。
 ここから相手のケツを追いかけようか!

 まず、最初のコーナーをドリフトで抜けてS字ヘアピンに入った。
 先行のサクラはフェイントモーションで駆け抜ける。

「ヒルクライムでいきなりフェイントモーションだんべい!」

 フェイントモーションするサクラにギャラリーたちから歓声が上がるが、サクラのJZA80はおれのワンエイティにケツを噛まれる。

「サクラさんのJZA80は大径シングルタービンを積んでいてトルクがあるからヒルクライムでも速えのに、食いつかれる!」

「ヒルクライムでも着いて行くとは速いな、ワンエイティの小娘」

 次は3連続ヘアピンに入る。
 抜く勢いで技を発動させる!

「あの技を使うよ!
 小山田疾風流<フライ・ミー・ソー・ハイ>!」

 3連続ヘアピンの1つ目、時速200km/hを超える弾丸のようなドリフトでサクラのケツを追いかける!

「行かせないぞ……。<サンズ・オブ・タイム>――!」

 これを使ったサクラはコーナーで1秒に1km/hずつ減速しながらのドリフトで、おれをブロックする。
 ちょっとしか減速していないもののよく曲がっている。

「うわああああああああ! やるねぇ!」
 
<サンズ・オブ・タイム>でブロックされてしまい、おれは精神ダメージを受ける。
 しかも、その技の属性は<闇>だったので<光>属性の覚醒技を持つおれには大ダメージだ。
 

 1つ目のヘアピンではブロックされたことにより差を縮めることはできなかったものの、次の2つ目と3つ目でのドリフト勝負ではおれの方が勝ってサクラのJZA80を接触寸前まで噛みつく。

 が、3連続ヘアピンの後の直線ではサクラJZA80は高いトルクでおれを離す。
 しかし、道幅の広いコーナ―の後、距離を縮める。

 いよいよ、最終ヘアピン。

「もうあとがないな……ドリフト勝負は先行では離したほうが勝ちで、後攻では食いついたほうが勝ちだ……。けどオレは先行では負けて……後攻では負けそうになっている……負けそうだから最終兵器のあれを使う……」

 食いつかれて負けそうだと考えたサクラ、 ここで技を発動する!

「――<サンズ・オブ・タイム>……」

 大きく角度を広げながら、1km/hづつ減速しながらドリフトで攻めていく!

「こっちも技だ! <フライ・ミー・ソー・ハイ>! イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケェェェェ!」

 おれのほうは赤いオーラを纏い、<フライ・ミー・ソー・ハイ>でJZA80のケツを追いかける!

「面白くなってきたんべい!」

「どっちが強えんだ!」

 ギャラリーたちの興奮も高まる!

「やっぱ来てよかったじゃん。このドリフト走行会」

「そうだな。やっぱ肉眼で見ると、ワンエイティは素晴らしい走りをしてくれるな」

 間近で見る戸沢と柳田も盛り上がっていた。

 強力な技同士がぶつかり合う!

「行かさない……行かさない……行かさない……行かさない……」

「イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケェー!」

 技のぶつかり合いは<サンズ・オブ・タイム>が<フライミーソーハイ>の勢いを防ぐ!

「すげェー!
 最後のドリフトはバトルみたいだったぜ!」

「熱い!
 汗が出るほど熱い!」

 最終ヘアピンでの覚醒技同士がぶつかり合うドリフトに、ギャラリーたちの熱さはトップギアだ!

 2台は直線を駆けるとゴールへたどり着いた。
 駐車場に入って停車すると、互いのクルマから降りる。

 おれは智姉さんの元へ、サクラはDUSTWAYのメンバーたちの元へ帰ってくる。

「お疲れオオサキ、楽しめたか?」

「楽しめました」

「お前はかなりやったんじゃあないか。サクラを離したり、食付いたりと、そして使わないつもりだった覚醒技を使わせたのがすごかったぞ!」  

「はい! すべては智姉さんのおかげです! D1のDVDを見たり、覚醒技で頼るおれを見て駆け引きで勝負せよと言われましたからね!」

「覚醒技を使わせることが駆け引きのひとつだったようだな」

 ドリフト走行会でのおれを褒めてくれた。

「追いつけなかった……あの小娘……」

「お前が遅いじゃあなく、相手が速かったんだ」

「そうだな……年齢のくせに良くやるな……あいつは人間ではなく、怪物だ――」

 感情を出してはいないが、おれに後攻で追いつけなかったり先攻で食いつかれた悔しさをサクラは語った。
 
 ドリフト走行会はこの4組目の終盤が一番盛り上がったものの、0時過ぎまで続けられた……。

 深夜の暗い闇の道……オレは黒いJZA80を運転し、赤城山を下ってゆく……。

 道には他のクルマが走っておらず……オレ1人しか走っていない。
 深夜の道は……先が見えないほど暗い道だった。

 黒に包まれた赤城をオレは1人走る。
 現在中盤に当たる第2高速セクションにいる。

 コーナーが来るとドリフトで抜けた。
 深夜の赤城山にはオレが乗るJZA80しかいないのだが……後ろから何か聞こえる。

「何かが聞こえる……?」

 走るほど、オレのクルマの後ろに近づいてくる。

「流面形のクルマってことは……」

 後ろのクルマは何か考える。
 知っている人が乗り、雨原さんのFD3Sか、母さんの乗るJZA70が来ると考えた。
 今のオレに勝てるのはこの2台だけだ。

 しかし、違った。今走っているクルマは固定式のヘッドライトだ。
 色は赤・白・黒の3色をしたクルマだ。

「ドリフト走行会でオレを追い詰めたワンエイティか……」

 窓が暗くて見えないが、影が小さいから乗っているのは奴だ。
 オレを煽ってくる……。

「第2高速セクションが終われば、オレの得意な<サクラ・ゾーン>だ……」

 あそこはオレの名前が付いたゾーンだ。
 絶対逃げてやる……。

 第2高速セクション後のナイフ型のヘアピンを抜けてS字直線に入る。

 オレが乗るJZA80はかなり軽量化されていて、旋回性能がとても優れている。
 
 しかし後ろのワンエイティは速かった。
 逃げても追いついてくる。

「逃げきれない……?」

 このゾーンでオレが負けるはずがない……。
 直線では勝てるが……コーナーでは負けている。

 そして2連続ヘアピンに入ると、あいつはドリフトしながら内側に入って追い抜いてくる。
 2つ目を抜けても追いつけることはなく、クルマの姿は消えていく。

 オレの眼から逃げて行った……。

「<サクラ・ゾーン>で負けてしまった……」

 もしオレとバトルしたら奴はこの<サクラ・ゾーン>で追い抜くかもしれない―――。
 正夢になりそうだ……。

 間違いなくワンエイティ乗りは少女ではなく、怪物だった――。

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