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「陶芸家になるには」ーマーケット編ー 3 < マーケットのカテゴライズ >

マーケットのカテゴライズ


自身のポジションを確認するために必要な視点が、もう一つあります。

それは、実際のマーケットへの知識です。

需要を見つけるにしろ、需要を作り出すにしろ、実際に作品の売買が行われている市場を知ることは、自身のスタイルの可能性や、価値を最大化させるために必要不可欠です。

この項での目標は、

  • 自身のスタイルに、一番近いマーケットを見つける

ことです。

日本の陶芸マーケットは、歴史的な経緯もあり、かなり成熟しています。

作り手のみならず、買い手の好みもバリエーションに富んでいます。

場違いなマーケットに参加し、過小評価されることほど勿体ないものはありません。
この自身のポジショニングに関しては、知っているか知らないか、その違いだけで差が出てきます。

まずは、現在の陶芸業界が、どの様なカテゴライズで、作品を分けているのか。
それを知ることにより、自身のキャリアプランを明確にしていくことができます。

日本文化と陶芸の発展

日本において陶芸は、とても長い歴史を持っています。
それは、日本文化の成り立ちと同時進行で発展してきた、写し鏡のような独特の文化だと言えます。

細かい歴史的な展開は、ここでは省きますが、下記のような経緯で現代に至っています。

陶芸の歴史とスタイルの分岐

縄文、弥生(野焼)

土師器、須恵器(高温焼成、釉薬)

茶陶芸(工芸的な発展)

工芸(美術としての認識)→ 民芸 → 生活工芸

オブジェ陶 → アートとして解釈可能なスタイル

このような技術的・文化的な発展をたどり、現在主流となっているマーケットへと繋がっています。

  • 生活工芸

  • 工芸

  • アート系(現代陶芸)

大きく分けると、このように現代の陶芸業界をカテゴライズできます。

マーケットのカテゴライズ

では、前項で述べた3つのマーケット、そのどれに自身のスタイルは一番近いのか。それを探っていきます。

まずは再度、マーケットのカテゴリです。

  • クラフトマン・民芸系

  • 工芸系

  • アート系

これらを相対的に見ていくため、下記のように分類します。

  1.  カテゴリごとの特性や背景知識

  2. 「柔軟性のピラミッド」による、各要素の比較

  3.  価格の相場

価格については、これまで述べてきませんでした。しかし、マーケティングやキャリアを積んでいく上でとても重要な要素です。これは次の項、「マーケット別ルート」で詳しく説明します。

注意したいのが、これは分かりやすくするために区別しているので、実際にはカテゴリ間の境界線は曖昧です。
つまり、自身のスタイルをどれかに無理やりはめ込む必要はないということです。

しかしながら、ギャラリーやショップなど、売る側も顧客へのアプローチとして、このようなカテゴライズをせざるを得ないのが現状です。

究極的に求めたいものは、「自身の作品を買ってくれる可能性のある人に、作品を知ってもらう」こと。

そのために、陶芸というマーケットを細分化し、ターゲットへのアプローチを効率化していきます。

戦略としてのカテゴライズです。
創造性の幅を狭めないよう、モードを切り替えていきましょう。

クラフトマン・民芸系 (素材・技術 振り)

歴史的な器や民芸への知識を軸として、「素材」と「技術」に着目するマーケット。

陶芸の文脈から、現代の雰囲気でも通用するようなスタイルを引用してくる、そんなアプローチです。

海外のフォークアートとも近しい印象です。

「素材」の重要性:土の種類、化粧土・釉薬のオリジナルレシピなど
「技術」の熟練度:ろくろの技術、特別な焼成方法など

この2つが主となり、そこに現代的な感覚や食生活の変化などを反映した主体性を、「スパイス」的にトッピングすることが多いでしょうか。
民芸の再ブームに伴い、「生活工芸」としてセレクトショップなどで器が扱われることが多くなり、若い世代を中心としてプレーヤーが増えてきている印象です。
大量消費社会へのカウンターとして機能している部分が多く、現代社会との親和性は高いです。

「素材」「技術」に重きを置くため、作家の「主体性」は間接的なものとなる場合が多いスタイルです。
(間接的な主体性とは、作家の自己表現というよりも、歴史的技法からの引用や、素材の選び方など、作家独自の嗜好が作品に反映されるという意味です)

価格帯は相対的に低めです。必然的に生産量は多くなります。

  • 柔軟性のピラミッド

「素材・技術」 振り = 「柔軟性」低め

  • 価格の相場

低め

ー 代表作家 ー
安藤政信さん
小野哲平さん
額賀章夫さん

工芸系 (全部バランス型振り)

伝統的な素材・技術を元に、執着的とも言えるような作家の主体性を軸にした作風を展開するスタイルです。

このカテゴリでもさらに、伝統工芸や超絶技巧派などと細分化できるほど、多彩なスタイルがあります。

一概に言えませんが、作品一点に対する熱量が圧倒的に多い印象です。
日本独自の、伝統技法を拡大解釈したガラパゴス的な発展をしてきた文脈とも言えます。

制作へのアプローチとしては、伝統的な素材・技法から、主体性を入れていく方法。
作家の主体性から、伝統的な素材・技法を当てはめていく方法等、スタイルにより異なります。

陶芸の文脈の延長線上にありながら、そこに現代性を入れ込んでいく、そんなカテゴリかと思います。
素材・技術・作家の主体性、すべての要素が絡み合うスタイルです。

  • 柔軟性のピラミッド

「素材・技術・主体性」 バランス型 = 「柔軟性」は、アプローチによる

  • 価格の相場

中~高め

ー 代表作家 ー
新里さん
神農さん

アート系 (主体性振り)

作家の主体性に重きを置いたスタイルです。

そのため、このカテゴリの柔軟度は高く、現代社会や作家自身の問題・課題に対してのアプローチも多くなる為、時代性を持った作品となります。

用途のない作品に限定してアートと呼ぶ訳ではなく、作品のバックグラウンドに作家独自の人間性が強く現れているスタイルというべきでしょうか。

伝統や素材の再定義や再解釈など、陶芸の文脈を転換させるようなアプローチが顕著です。

  • 柔軟性のピラミッド

「主体性」 振り = 「柔軟性」は、高い

  • 価格の相場

高め

ー 代表作家 ー
桑田さん
中村康平さん

便宜上のカテゴライズ

これは、私が独断と偏見で作り上げたカテゴリです。
作家のスタイルが、このようにビシッとカテゴライズできるわけではなく、グラデーションとして様々なカテゴリをまたいでいます。
再度の注意喚起となってしまいますが、マーケットを知るための概要と認識しながら読み進めてください。


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