コトノハサエ

先には行かない  歩幅を合わせ 隣を歩く 作家の先輩の言葉です こんなふうに歩いて…

コトノハサエ

先には行かない  歩幅を合わせ 隣を歩く 作家の先輩の言葉です こんなふうに歩いていきたい

マガジン

  • Gift(ギフト)

    【足音】の続編です

  • 【歌詞小説】あの日。あの場所。

    忙しなく走るワタシは、ふと足を止める。 この歌を最後に聴いたのは、いつだったろう。 次の瞬間、あの時あの場所にワタシは佇ずんでいる。

  • ハハの子離れ

    ひとり親のワタシと一人っ子のムスコの親離れ子離れ。 一人なのに葛藤は二人分。

  • 足音

    いつのことだったろう、サエがこの街にあらわれたのは。

  • 画面の向こう

    あの日から35年が立つ。 ステキな男子はたくさんいたのに、なんであの子のことを好きになっちゃったんだろう…

最近の記事

新しい風

「オレはどうすればよかったんだよ!」 バン! いっきに飲み干したグラスを テ−ブルに叩きつける 「まぁ、まぁ…」 こぼれた水割りとグラスを拭いて ママがオレの肩に手を置く 「シンちゃんは悪くないわよ」 「じゃあ、誰が悪いんだよ!  何がいけなかったんだよ!  なぁ、ママ!  オレはどうすればよかったのさ!」  図体のデカい男に詰め寄られて  ママはたじろぐ 「だ、誰も悪くないわよ!  だって、リンちゃんは、やっぱり  少〜し変わった子だったからさ…」 「変わって

    • 【歌詞評】情熱の薔薇

      学生時代に聴きまくり 歌いながら暴れまくった 親元を初めて離れ イケないことばかりヤってたな 働くようになってから あの頃もっと真剣に生きるべきだったと 後悔ばかり 正直思い出したくない でも 我が子がその歳を越えた今でも ときどき聴きたくなる 答えはずっと奥の方 心のずっと奥の方 彼らの雄叫びは pureで荒削りだったジブンを呼び覚ます 情熱の真っ赤な薔薇を胸に咲かせよう 家族も立場も環境も外見も ずいぶん変わってしまったが 変わっていないものがひとつ それ

      • 卒業

        いつものように 一緒に晩ごはん食べて いつものように 一人ホテルに泊まって いつものように 電車で帰る シゴトはちゃんとしてるのか 毎日ご飯を食べてるのか もう少し オシャレに気をつけられないものか もっと上手に育ててやれたら もっといい男になったのだろうか 後悔だらけの交差点に リュックを背負った好青年 悪気のない 人の好さが後ろ姿にも滲み出て あの子も この青年のように 育ってくれると良かったのだが どんな顔をしてるんだろう 信号待ちを装いさりげなく覗き込む

        • カホンの音色

          「そうだったんだ…」 凛太郎は後ろに両手をついて 空を見上げた 彼は俯いたままだ     ***** オレも3日間一睡もしてなかったから 母さんに尋ねられて 何気なく調べて伝えたはしたけれど 昏睡状態から目覚めたところで 母さんも頭ン中が混乱してたんだろうと 高をくくってた 今の母さんを見たら 誰だって 1ヶ月前は意識不明の重体だったなんて 想像できないだろう 俺が調べた タップダンス教室に通ってるらしい こっそり様子を見に行って そのスタジオで出会ったのが

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        • Gift(ギフト)
          6本
        • 【歌詞小説】あの日。あの場所。
          8本
        • ハハの子離れ
          26本
        • 足音
          24本
        • 画面の向こう
          2本

        記事

          雷鳴

          声が聞こえる 呟き…囁き? 誰の? タタタタタタタタタタ… ただ靴音が聞こえるだけ―        *** 凛太郎が探してくれたスタジオ 少し遠いが 職場の退勤チャイムをダッシュで出れば 何とか間に合う 五十の手習い その諺がぴったりだ そして仲間と一緒に鏡に向かう 「はい、次に移ります」 手取り足取りするわけでもなく できてもできなくても 毎回ただ先生を真似をする とっつきにくい先生ではあったが 毎週練習には通った 他の用事と重なると その用の方を断った ど

          ?のゆくえ

          「ママには自分の口から伝えようと思った」 マルがワタシを見つめる こんなに凛とした息子の瞳 初めて見た そんなマルの手に カズの手が重なる それに答えるように マルの視線は 彼を包みこむかのようにほほえむ 私は この子の何を見ていたのだろう 何を知っていたのだろう 「パパにはまだ話していないのよね」 「うん」 マルはうつむく 「正直、ママにも言うべきかどうか悩んだ。そしたら、カズが、彼が、マルのママならきっとわかってくれるから、話そうって。」 「え?」 ヨウは

          ヒイロの足音

          「あの子、話すことができないの」 サエはそう言って目をふせた こんなサエの目は見たことがない オレの前からいなくなる前のあの日より 深く濃い 「あちこちのお医者さまに診てもらっているのだけれど、原因がわからないと言われて」 さっき リビングいたサエに声をかけた時 テ−ブルの上に置いた本は 題名は覚えていないが 医学関係のものだった あのサエも そんなムズカシイ本を読むようになったんだと 驚きもし嬉しくもあったのだが… 「サエ」 オレは彼女の横顔に話しかけた サエが

          癒えない傷口

          「市長!お願いします!」 秘書の差し迫った声に我に返る 慌ててステ−ジ中央に進む 司会のアナウンスの後 一向に姿を見せない市長に 会場はザワついていた 市長の登場に気づいて 最前列の支持者たちは 急いで拍手する 「みなさん、今日はこの野外ステージ  完成記念コンサート&ダンスコンテストにようこそ!…」 後方に駅の改札が見える オレはそこで あのリンの声を聞いたんだ 木箱が積んであるあの前で 思わず振り返った リン! ここにリンがいる!   *** リンの生まれ

          『お久しぶりです』

          「お、おう」 仕事にも慣れ 久しぶりに帰省したムスコに お辞儀をしていった青年 「知り合いか?」 「うん、1個下。中学と高校一緒の。」 「え?あんな子いたっけ?  仲良かった?」 「ううん、それほど。」 「じゃあ、なんで挨拶してきたの?」 「たぶん、高校ンとき、  学校前に着いても寝てて  乗り過ごししそうやったから、  降り際に肩ポンと叩いたからやと  思う」 あぁ… キミも それで何回か遅刻したことあるからな… でもその時は 中学の同級生も乗ってて 高校は違うけど

          『お久しぶりです』

          足音【第24話】

          廻 「リンが来たわよ〜」 フリルのかたまりが飛びついてくる リンは そのかたまりをぎゅうっと抱きしめた 「リンちゃん、入って!」 フリルのかたまりが手をひっぱる タッタタッタタッタタ…… 音がだんだん大きくなる ティーポットにお湯を注ぎながら サエが振り向いた 「いらっしゃい」 トン、タタタタカッ タタタタタッタタッタタ 「あいかわらずね  あの二人座ることってあるの?」 「そうね…  食事の時と寝るときくらいね。  この間なんて、食事中に  あの子が急

          『Take away?』『Over there.』

          「え?英語、話せるの?」  「外国のお客さんと英語でやりとりできるんだ😯」 「話せんよ。  でもカタコトとジェスチャーで伝わるもんなんやわ。」    *** 出張の帰り道 ムスコの仕事場に立ち寄った 客のフリしてさり気なくレジに並ぶ ほぉ……… T大卒業生でも いざ会話するとなると伝わらないことがあるという したり顔で英語で話しかけてくる KB大卒の英語は 表現が古臭くて 外国人仲間たちで笑っちゃうことがあるって ALTの友人が言ってたっけ (日本語でいうと「〜

          『Take away?』『Over there.』

          「シゴト、ヤメたいって言ったんだ」

          「は?」  過去形? 「『やりたいことがあるんです』って、店長に伝えた」 「で?」 店長はどう言ったんだい? 「人事担当に伝えるって」 「…あのさ…キミの人生だから  好きにしていいんだけどさ…  言う前に  ワタシに話してほしかったなぁ…」 「あ、それはゴメン」 ま、いいけど。 人のこと、言えた義理じゃないし。 血は争えないっていうか。 安心したよ キミは 嫌なことを嫌だと言えることに

          「シゴト、ヤメたいって言ったんだ」

          使えないお金

          「あ、これ」 ハンバーグが旨いと評判の店で 特大を平らげたムスコが 白い封筒を差し出す 「ん?何コレ?」  覗き込む。 「言ってたじゃん。  "働くようになったら、   何年かかってもいいから   月1,000円ずつでもいいから   学費の半分は返してね"   って。だからコレ、はい。」  「え?…でも足りてるの?   家賃ちゃんと払えてる?   ご飯ちゃんと食べてる?」  ふふん!  ヤツが鼻で笑う  「あげるって言ってるうちに   もらっといたら。  

          使えないお金

          「そんなに思い詰めてると思わなかった」

          「毎晩、愚痴は聞いてはいたけど、  習い事とかボランティア始めたから、  それで気分転換できてるんだと思ってた…」 あの時 「ホントにこれでいいのか」って 思ったの そして ワタシしかいなかったキミに ピン!と伸びた背筋を 見せたかった 「オレのかあちゃん、かっこエエ!」 これが次の目標。

          「そんなに思い詰めてると思わなかった」

          『見切りつけずに、育ててくれてありがとう』

          『じいちゃんにあげて』 初任給で買ったというポロシャツが届いた。 届いた、と連絡を入れると 『あのさ…』 『ん?』 『別に何かあったワケでもないんだけどさ…』 『…うん…』 ゴクリと生唾を飲み込む。 『これまでオレに見切りつけんと  育ててくれてありがとう』  さっきまで 嬉しそうにシャツを羽織るチチに チョット(いや、かなり) 嫉妬したけど いまや このジジィさえ 可愛く見える

          『見切りつけずに、育ててくれてありがとう』

          「こちらが当店一番人気の〇〇です」

          「オススメはどれですか?」 学生くささの抜けてない ひょろっとした店員に聞いてみた。 「あ、はい。」 まっすぐワタシを見て手を差し伸べる。 「お客さまの後ろにあります●●が 3番目に人気のある商品です。そして…こちらへどうぞ。」 ワタシをその先へ誘導する。 「こちらが2番目に人気の商品で△△です。それから…」 店先まで連れて行かれた。 「こちらが当店で一番人気の〇〇です」「こちら、中は□□でできておりまして………」 流暢な語りでもなく スカっと垢抜けてる風でもなく

          「こちらが当店一番人気の〇〇です」