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足音

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いつのことだったろう、サエがこの街にあらわれたのは。
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足音【第1話】

(あらすじ)

いつのことだったろう
サエがこの街にあらわれたのは

言葉は想いを伝える便利なツ−ル
しかし時に人を傷つける
言葉は万能ではない
どうしたらわかりあえるのか
結局、人って分かりあえるものなのか

          (あらすじおわり)

サエと会った時のこと。「ホントは
 サエって名前にしようかなとも
 思ったのよ。」

ママからそんな話を聞いていたから
サエと会ったとき
家族と会

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足音【第24話】


「リンが来たわよ〜」

フリルのかたまりが飛びついてくる

リンは
そのかたまりをぎゅうっと抱きしめた

「リンちゃん、入って!」

フリルのかたまりが手をひっぱる

タッタタッタタッタタ……
音がだんだん大きくなる

ティーポットにお湯を注ぎながら
サエが振り向いた

「いらっしゃい」

トン、タタタタカッ
タタタタタッタタッタタ

「あいかわらずね
 あの二人座ることってあるの?」

「そ

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足音【第2話】

サエのこと

「どこから来たの?
 パパは?ママはどこにいるの?」

話しかけようとしたら
「おにいちゃんがダメだって。」
サエが突然話し始めた

そして、うつむいた
「そんなんじゃ生きていけない、って。」

石をポン、と蹴飛ばした
「おにいちゃんは、一生懸命だったの」

さっき蹴飛ばした石を 
追っかけて
蹴とばして
また追っかけて

そんなサエをずっと見てた

サエは
すっと首をのばした
遠く

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足音【第3話】

あしおと
タン!
サエは、うつむいたままだ

タンタン!
2回足踏みした

タンタンタン!
今度は3回
何やってるんだろう…

タンタンタン!
真似して足踏みした

サエは目をまるくして
こっちを見てる

タンタンタンタン!
タンタンタンタン!

タタタンタンタン!
タタタンタンタン!

タンタタタタタン!
タンタタタタタン!

タンタタタタカッ!
タンタタタタカッ!

ふたつの影は
街が夕暮れに

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足音【第4話】

サエがいなくなった日。①

一生懸命だったんだ
聞かなくちゃ、言わなくちゃ、
励まさなくちゃ
なだめなくちゃ、教えなくちゃ、
叱らなきゃ
守ってやらなくちゃ!

     ***

サエと会ったのは
今日みたいな日だった

空が抜けるようで
そのまま飛んでいけそうな

広がってく麦の穂の波を眺めてながら
さっき店で耳にした曲を口ずさんでた

「見える!」

え?何が?

振り返った

「声が…見え

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足音【第5話】

サエがいなくなった日。②

オレが歌うと
サエはいつも空に手を伸ばした
「見えるのに!さわれないの…」

だから
声は掴めないって
見えるワケもないし

もう慣れてちまったが

ひとつ言えるのは
背伸びして
オレの声に手を伸ばしてる
サエのそばのオレは
いつも等身大だったってこと

     ***

ダブルブッキング

レッスンとステージを
同じ時間に入れてしまった
どちらも断りたくない

サエ

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足音【第6話】

ワタシのこと、シンのこと。
シンはずっとそばにいた
たぶん生まれた時から

シンは
いつも楽しそうに私の話を聞いた

空を飛んでて
シンを見つけて大声で呼んだのに
ちっとも気がついてくれなかったことや

丸太の橋から落っこちて
そのままあおむけで
川を流れていったとき
いつも見ている空や森や
私の家までも
ゼンゼン違うものみたいだったってことや

帰り道
切り株の陰に妖精を見つけて
追っかけたけど

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足音【第7話】

みんないっしょ。
タンタンタンタン!
タタンタタンタン!

サエとワタシのまわりには
少しずつこどもが増えていった

「ねぇ、ボクもいっしょにやっていい?」

カズが身をのり出した
「うん!やろうやろう!」
サエは飛び上がって靴を鳴らす

タン!タタン!タタン!

「どうやってやればいいの?」
「胸の中にあることを思い浮かべながら足踏みすればいいの」
「ふぅ~ん…こう?」

タタンタタンタンタタタ

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足音【第8話】

ユウのステップ

タタッタタ、タッタタ、
タッタタ、タタッタ…
みんな、嬉しそうに飛び跳ねてる

ふぅ…
ユウはずっと石垣に腰かけたまま
みんなを見ていた

後ろに手をついて空をながめた
流れる雲
あの雲はどこまで行くんだろう…
父さんのとこまで行くだろうか…

     ***

「お前たちはここにいちゃいけない。
危険だ。」
「父さんはどうするの?」
「父さんはここに残る。
 この家を、この国

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足音【第9話】

ヨウの記憶①

ドンドンドンドン!
またマルが部屋で暴れている

もう、まったく!
いくら言っても聞かないんだから!

アイロンの手を止めた
よいこらしょ!
やらなくちゃいけないことが
山ほどあるのに
仕事を増やさないで!

二階へ上がると
ドアを開けっぱなしのまま
マルが足をドタドタやっている
「何やってんの!
ホコリがたつじゃない!」

「ママ!すごいと思わない!
足音だけで気持ちがわかるんだ

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足音【第10話】

ヨウの記憶②

「ヨウ、あの辺りには行っちゃだめよ
 特に夕暮れ時は
 酔っぱらいが多いんだから…」

それでも学校が終わると
リョウの家に行った

リョウは酒場の2階に住んでいた

リョウのおかあさんは
仕事の疲れを癒しに
お酒を呑みにくる人たちの
話し相手をしていた

リョウのおとうさんは見たことがない

昔いた旅芸人一座の
あのダンサーに違いないと
パパは言っていた

「たいていの旅芸人は

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足音【第11話】

ヨウの記憶③
「ママ!こっちこっち!」
マルが手を引っぱる
「そんなに引っぱらないで」
マルはぴょんぴょん飛びはねながら
力をゆるめない

「ねぇ!ねぇ!ママを連れてきたよ!
 ママもいっしょにやりたいって!」

こどもたちがいっせいに目を向ける
石垣に腰かけていたユウも
首をかしげてヨウを見た

「ママさ、子どものとき、
 こんなふうに踊ったことあるんだって!」
マルは足をドタドタやった

「へ

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足音【第12話】

ユウの靴。ヨウの音。

トントンタッ!トタッタタンタン!

右側からカズが
左側からサエが
ヨウの足元をじっと見ている

マルは相変わらず
私たちの前でぴょんぴょん跳びはねてる

トントンタッ!トタッタタンタン!

かずとサエとヨウと
他の子どもたちも
何度も何度も繰り返しステップを踏んだ

      ***

夢中で足元を見ていたら
傷だらけの靴が現れた
顔を上げるとユウが立っていた

ヨウの

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足音【第13話】

白いダンスシューズ①

いたた・・・

どこもかしこも痛い
嫌だねぇ、歳をとるのは・・・
二の腕をさすりながら庭先に出た

あら
またあの子たち
広場にあつまってる
いいわね子どもは
疲れたりしないんだろうね
アタシもあんな頃あったんだけどね――

風でレースのカーテンが
ふわりとふくらんだ

    ***

「どう?」
ひらりと彼の前に立った
「すてきだね   とても似合ってる」

今度はくる

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