足音【第9話】
ヨウの記憶①
ドンドンドンドン!
またマルが部屋で暴れている
もう、まったく!
いくら言っても聞かないんだから!
アイロンの手を止めた
よいこらしょ!
やらなくちゃいけないことが
山ほどあるのに
仕事を増やさないで!
二階へ上がると
ドアを開けっぱなしのまま
マルが足をドタドタやっている
「何やってんの!
ホコリがたつじゃない!」
「ママ!すごいと思わない!
足音だけで気持ちがわかるんだよ!」
丸い目をさらに丸く大きくして
マルは続けた
「ユウがね、
こんなふうにやってたんだ。」
またドタドタしながら
「ユウは何にも言わなかったんだけど
ボク、ユウの気持ちがわかったんだ」
ユウって…
あぁ、
山2つ越えて逃げてきたっていう
あの親子ね…
真夜中にずぶ濡れで
「一晩泊めてもらえませんか…」って
入ってきたと聞いた
あまりに気の毒な様子なんで
納屋に泊めて
そのまま住んでもらってるって
大家さん言ってたっけ
「ボクだけじゃないよ。
みんな、わかったんだ。
ユウの気持ちが」
目を足元に移して
また床をドンドン踏み鳴らす
「なんでユウみたいに
うまく音が出ないんだろう…」
アタマをかくマルの頬に
あるはずのない傷あとが浮かんで見えた
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