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獄門島〜吉備路サイクリング~サンライズ出雲|乗り鉄夫との平成よくばり鉄道旅#2

 息子の名前候補に一瞬だけ「真珠郎」が浮上していたことはまだ内緒、じゅんぷうです。

「乗り鉄」の夫と、そこに船があったらもれなく乗りたい私の、ドタバタな過去の旅日記シリーズ。

 綿密な乗り鉄計画を立てながらも台風の影響もあってギリギリのバタバタだった東北旅行からわずか2週間たらずで、今度は西へと旅立つことになりました。

瀬戸内に横溝正史巡礼の旅に出ます。

平成10(1998)年9月某日。徹夜で6:00発「のぞみ」に乗りこみ出発です。乗り鉄的には前年にデビューした500系のぞみにようやく乗るチャンス到来ということらしいですが、私は新車両のにおいで酔ってしまいました。9時過ぎに岡山に着き、特急マリンライナーで瀬戸大橋を渡って香川県の宇多津へ。冷やしうどんとおでんを食べて、JR予讃線で多度津へ移動します。

 宇多津は千葉真一の『少林寺拳法』でかろうじて知っていましたが、宇多津も多度津も関東人にはなじみのない地名。何があるのかというと…ここ多度津から船で獄門島へ行くんです!!

ここからは波間に漂うようなこちらをBGMでお読みいただきたい。

 私と夫の貴重な共通の趣味、それは金田一耕助。古谷一行のテレビドラマ版もさることながら、旅心かきたてられるといえば市川崑監督・石坂浩二主演の劇場版「金田一耕助」シリーズ。スケキヨでおなじみ『犬神家の一族』(1976)、ケレンたっぷり『悪魔の手毬唄』(1977)につづく3作目が、封建的な瀬戸内海の島が舞台の『獄門島』。俳句に見立てためくるめく連続殺人の、あの島へ行くのが今回の目的なのです。

 地理的なモデルは「岡山県のいちばん南の島」六島になりますが、私たちの目指すのは笠岡諸島の真ん中へんにあるロケ地と目されている真鍋島。金田一耕助と同じく岡山の西端の町・笠岡から船で行きたかったのですが、行き帰りで別ルートを通りたがる夫に「船にもいっぱい乗れるからいいでしょ」と言いくるめられて四国回りとなったわけです。

 多度津港から出航して、香川県側最後の島・佐柳島で船の乗り換えになります。ここから先は岡山県。佐柳の港には自販機も何もなく、三毛猫の家族が船着き場に住みついているだけで、一緒に船を降りた人たちはあっという間にどこかに消えていってしまいました。しばらくのんびりと船待ち。

 乗り換えた船で、いよいよ真鍋島に上陸です。一説では壇ノ浦の合戦後、平家方の真鍋氏が落ち延びて隠れ住んだとか。
 歴史好きの私ですが、源平の戦いの一連ってひときわ暗い気持ちになるんですよね。もちろん血なまぐさい歴史は古代から綿々とあるわけですが、日本の土地土地に残る忌まわしい因習やら因縁やらの中で悲劇が起こるのが横溝正史作品。とりわけ『犬神家』や『獄門島』は戦地からの「復員」がカギになることもあって、戦後すぐの地方の空気が生々しく漂います。

 船や島が好きっていうのもあるけどとにかくいちばん好きなんですよ『獄門島』が。太地喜和子にピーターに三木のり平に坂口良子!荻野目慶子と洋子! 映画『獄門島』の魅力はまたあらためて別記事にしたいと思います。

岡山観光WEBより

 港の周辺に密集して建つ黒い瓦の家々と、その間の細い路地。漁村の風情たっぷり、なんとも懐かしい雰囲気の真鍋島。旅番組で宍戸錠さんが訪れたという飲み屋も気になりながら、とにかく港の反対側にある今夜のお宿まで、ちょっくら山を越えます。※今回の旅も厚底サンダルです。

 菊畑の間を降りて行って着いた宿の裏(じつは正面)は海で、専用の小さな桟橋もあるという最高のロケーション。もう、いいんじゃない? 船を改造した休憩所や海辺でぼや~っとしてお風呂に入って夕ご飯。これで、いいんじゃない?

 夕食、最高でした。カニにシャコに黒鯛(ちぬ)の刺身、めばるの煮つけ、ホタルイカ、からすがい、さざえ、焼き茄子…そして冷酒。この素晴らしいごはんの途中、旅館のおじいちゃんに連れ出され、桟橋で海ホタルと夜光虫を見せてもらいました。
 私たち以外に2組の宿泊客がいたのですが、みんなリピーターだそう。私だってリピートしたい!子どもができたら絶対連れていこう!!と思いつつ、月日が経ってしまいました。桟橋から覗き込むと、海面にゆらゆら揺れる無数の青い光。水に触ると指もキラキラ(よく落水しなかったよね)。「どんな絵描きでもこの色は出せない」とおじいちゃん。もう一度行きたい場所オールタイムベスト①🏆です。

 翌朝、輝く瀬戸内海を眺めながら朝ごはん。ちぬのお味噌汁が最高すぎました。後ろ髪ひかれながらもチェックアウトして、宿の前の桟橋から船のタクシーで移動! 船首に毛布を敷いて座り、潮風を全身に受けて港まで島を半周。じつは小型船舶免許を持っている船好きじゅんぷう。広島の尾道で合宿したときの教習艇を思い出して興奮しました。小さき船の楽しさよ。

 港の周辺を散策してから、今度は高速船で岡山県笠岡まで約40分。真鍋島が遠ざかって行きます。さようなら早苗さん…(※大原麗子演じる島から出たことのない美女です)。笠岡湾は大規模干拓されていて、かなり内陸まで水路を上っていかないと港に着きません。金田一が旅したときとは全然違う風景なんですね。私の船旅、これにて終了。胸に響く早苗さんの鐘。

 笠岡からは山陽本線で新倉敷に移動し、タクシーで「真備ふるさと歴史館」へ。真備は、横溝正史が戦争中に疎開して『本陣殺人事件』『獄門島』などを書き上げた、金田一耕助誕生の地。

 横溝関連の映像や資料を熱心に見ていたら、こちらの施設のおじさまがお茶とおまんじゅう、ぶどうを出してくれました。私たち、入館料100円の施設に3時間もいたようです。※今調べたら無料になってました~

 お昼を食べそこねたのでありがたくいただき、次の目的地に向かいます。本当は『八つ墓村』のモデルになった、かの事件の地…津山にも足を運びたかったのですがさらに内陸なので今回は見送り。下の図にある井原鉄道はこの翌年開業で工事中だったのでした。

倉敷市HPより

 横溝正史の疎開宅や濃茶の尼の祠に寄り、金田一耕助が歩いた道に思いをめぐらせ、向かったのは酒造の資料館。地酒の試飲をして、おみやげを東京に発送し、ほろ酔いでワンコと戯れ。倉敷行きのバスを待っていると、地元のおばあちゃんが話しかけてきてチボリ公園をおすすめされました。

 そろそろ今夜のお宿に入りたい夕暮れ時。倉敷から水島臨海鉄道なるものに乗車。状況がよくつかめていないまま、かけこみ乗車させられました。この沿線に、宿の最寄り駅があるというわけではないということを乗ってから知らされる私。夫は、電車のいちばん前でかぶりつきで駄菓子を食べています。終点の「みつびしじこうまえ」で下車。まぎれもなく三菱自動車工場前です。ホーム以外、とくに何もなく…あ、撮り鉄はいました。

 何しにここへ来たかというと、そうです終点だから乗りつぶしに来たんです。来ただけで夫は目的達成なわけです。さてせめてタクシーぐらいいるところへ行かねばとひとつ手前の「みずしま」駅にもどりますが、夫は駅のトイレに消えたまま10分以上経過。荷物を持たされ、理不尽な思いがグルーヴし始めたころ、のこのこもどってきた夫がスタンプラリーの用紙を手にしているのを見て、じゅんぷう火山が噴火しました。

 怒りを鎮めてタクシーで山を登り国民宿舎に到着。部屋からは水島工業地帯と瀬戸内海のよい眺め。朝はまだ島にいた長い一日、昼抜きだったのですぐに夕飯にしてもらいます。メニューはぼっこう鍋。「ぼっこう」は岡山弁で「ものすごくうまい」だそうです。ぼっこうとかぼっけえとかもんげえとか、岡山弁けっこう萌えます。お風呂で真鍋島の砂を落として即就寝。

岡山県観光連盟HPより。水島コンビナート夜景

 翌朝も瀬戸内は快晴。朝食後、良寛さん修行のお寺、円通寺にお散歩に行ってから新倉敷行きのバスで出発します。さらに倉敷に移動し、荷物をコインロッカーにぶちこんで最小限の装備になり伯備線で向かったのは総社。ここから長い吉備路サイクリングのはじまりです。

 総社のお豆腐屋さんで作っている玉豆腐をどうしても食べたくて、駅員さんに場所を聞いてレンタサイクルで出発。10分ほど走ってお豆腐屋さんを発見し、玉豆腐を手に入れました! 白くて丸くてすべすべ! とりあえず自転車を走らせて見つけた公園の木陰で玉豆腐を食べちゃいます。みっしりしていて「ぼっこう」。でもお醤油持ってくるんだった…。

 このあと、2台のママチャリは灼熱の吉備路へ突入。前日、酒造の見学のときは暑くて寄ることを断念した備中国分寺へ向かいますが、今日も十分すぎるほど暑い。途中、いくつか古墳を通過します。いつか来たいとずっと思っていた国分寺。今度は秋にします。五重塔を含む遠景は本当にたまらないものがありました。茶店でかき氷を食べて休憩。つづいて林の中の国分尼寺跡も見て、また走り出します。

岡山観光WEBより

 レンタサイクルで回っている観光客をちらほら見かけますが、上半身ハダカの外国人がすれ違いざま「ヘイ!コニチワ!!」と叫んで爆走していきました。引き続き田んぼの中の一本道をわたしたちも爆走し、日陰を発見して座りこんだら、動けなくなってしまいました。

 最初のうちは「林由美香だね」とのんきなことを言っていましたが(※34歳で亡くなった今でいうセクシー女優さんで、当時、彼女が北海道の礼文島まで自転車で旅する『自転車不倫野宿ツアー』というドキュメントが劇場公開され話題になったもんでした)、もうバテバテ、行き倒れ状態で鯉喰神社にお参りし、吉備津神社へたどり着きます。本殿、拝殿とも国宝になっている、鳴釜神事が有名な神社です。

 食堂でざるうどんを食べ、オロナミンCを一気飲みしてまた出発。最寄りの吉備津駅には自転車を乗り捨てできず、もうひとつ先の備前一宮駅へ。途中で吉備津彦神社にもお参りします。吉備津彦神社が備前国一宮で、吉備津神社が備中国一宮。御朱印ガールが誕生するのはまだまだ先の話…今のわたしだったら吉備津のお隣の備中高松城跡にも絶対行ってます(城郭検定2級浪人中)。倉敷に向かう電車で一息つき、自転車でたどったコースをガイドマップと照らし合わせてみると「サイクリングロード踏破コース/20キロ」とか…!! 横溝の世界の旅情が、完全に自転車で塗り替えられました。

 倉敷ではまず薬局でおばさまに「まー、よく焼けて」と言われながらクールダウンスプレーを買って倉敷美観地区を散策開始。こんなに焼けるはずではなかった。わたし完全に熱中症だったと思います。そんな状態で素敵な酒屋さんで地酒を飲んだりおせんべいを食べ歩きしているうちにもう夕暮れ。昨日バス停でおすすめされたチボリ公園に行ってみました。イルミネーションが夢のよう。一日自転車をこいで足も尻も痛いのに足こぎボートに乗り、園内の和食処で夕飯。おこわやママカリ、きびだんごなど。わたしは頭痛・めまいと日焼けの肌の痛みでもう限界を迎えつつありますが、夫に無理やり水のジェットコースターに乗せられます。そんなに好きかレールの上が!! ここで突然の雨。はれのくに岡山、1ヵ月ぶりの雨です。

 22:08 東京行き「サンライズ出雲」。この2ヵ月前にデビューしたばかりの寝台特急です。岡山から乗る予定でしたが、もうクタクタだったので倉敷から乗車します。先月の東北はアクシデントがあったので、わたしは人生初の寝台列車。なのにまた新車両のにおいで酔いながら、みっちみちに盛りだくさんだった瀬戸内に別れを告げます。翌朝、降り立った東京はもう秋でした。

 ✦うっかり者の乗り鉄とうっかり結婚してしまった私のうっかり旅行記
お読みいただきありがとうございました。次は箸休め「伊豆」編です✦

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