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『ネットワーク科学』読書会を開催しました:感想コメントのシェア

科研費研究課題『ネットワーク解析による心理療法の高精細な作用機序の解明』(課題番号:21H05068)の一環として,研究分担者の国里 愛彦さん(専修大学)に『ネットワーク科学:ひと・もの・ことの関係性をデータから解き明かす新しいアプローチ』(共立出版)の読書会を開催していただきました!


読書会の概要

この書籍は,いまや学際分野としてゆるぎない地位を獲得したネットワーク科学の創始者,Albert-László Barabásiが2016年に出版した“Network Science”の訳本となります(池田他監訳,2019)。私たちは心理ネットワークアプローチに入れ込んで研究をしているものの,そのルーツであるネットワーク科学のことはよく知らない!ということで,夏休みの自由研究のノリで『ネットワーク科学』の書籍を読み進めることにしました。

そして,せっかく読むのであれば他にも人を誘って一緒に読もう!ということでZoomでの読書会を開催しました。2023年8月4日から週1のペースで計5回開催したところ,主催者を含めて毎回6~8名程度の参加者が集まりました。バリバリの研究者から臨床実践メインで活動されている先生方まで,多様性に富んだメンバーで穏やかな雰囲気で進めていきました。


科研費研究班メンバー3名の感想コメント

こうして良い会を開催したのに,何も形に残らないのはもったいない!ということで,科研費研究班メンバーの国里さん・樫原・柳さんの感想コメントをnoteで記事化することにしました。今後もこうした読書会など各種企画を折に触れて開催したいので,この記事を読んで興味を持ってくださった方は,ぜひお気軽にお声がけいただけると嬉しいです (本記事末尾でご案内したSlackグループを通じて,カジュアルな交流ができます)。


国里 愛彦さん(専修大学)感想コメント

以前からネットワーク科学には関心をもっていましたが,『ネットワーク科学』は分厚いのでなかなか読む時間がとれませんでした。今回,読書会を企画して,参加者のみなさんを巻き込む形で読むことができて,大変よい機会となりました。研究や臨床そしてプライベートでも忙しい中,時間を作って参加いただいた皆様に感謝申し上げます。今回は数式を丁寧に追うような読み方ができなかったのは残念な点でしたが,今後も重ね読みしつつ理解を深めていきたいと思います。

『ネットワーク科学』では,今日に至るまでの研究の発展について,その中心にいたBarabási先生の研究やその背景も含めた説明があり,ネットワーク科学に対する解像度が1つ上がったように思います。私達としては,ネットワーク科学を心理学に応用したいという気持ちをもっているのですが,その難しさも理解できてきました。特にネットワーク科学はデータ駆動の側面があり,測定されるデータの包括性が重要になります。その点,心理学において心やその不調について調べる際に,対象が限定的になり,そこから得られるネットワークには限界があるのではという点も見えてきました。このあたりがはっきり見えてきたのもこの読書会の成果に感じています。こういう問題意識を共有できる仲間がさらに増えていくのを楽しみにしています。


樫原 潤(東洋大学)感想コメント

「心理ネットワークアプローチは,ネットワーク科学を心理学の場合に応用したものである」ということを様々な論文で記してきましたが,『ネットワーク科学』の書籍と1か月間格闘してみて,その理論の豊かさに圧倒されました!世の中の様々な現象をネットワークモデルによって記述的に理解するだけではなくて,「このモデルでは,まだこの現象のこの側面を捉えきれていないから,モデルをさらに改良しよう」という試行錯誤があったからこそネットワーク科学がここまで広がったんだと実感しました。

ネットワーク科学を詳しく知ったことで,心理ネットワークアプローチがまだまだ発展途上なのだということを実感でき,それも大きな収穫でした。「ノード同士をつなぐエッジ(リンク)が,観測変数ではなく推定対象となる」という点で,心理ネットワークモデルはかなり無理をしているのだということに気づきました。でも,無理をしているからこそ心理ネットワークアプローチは面白い。ネットワーク科学全体で蓄積された理論に心理ネットワークアプローチがどこまで追いつけるか,はたまたこれまでのネットワーク科学にはなかったものが新たに生み出されるのか。心理ネットワークアプローチのこれからがますます楽しみになりました!

楽しい気づきが沢山あったのも,リラックスした雰囲気を作ってくれた国里さんと,面白がって参加してくれたみなさまのおかげです。この手の読書会のなかには,書籍の内容に精通したメンバーだけが喧々諤々してヒートアップするものもあると思います。しかしこの読書会には,「臨床実践で日中忙しい先生も参加できるように夜に開催する」「カメラはオフのまま,事前に書き込んだ感想コメントをもとに声やチャット(と,関連する映像資料)だけでやり取りする」などの参加しやすい工夫が散りばめられていました。こうした工夫は,今後の企画にもぜひ取り入れていきたいと思います!今後の企画にも,ぜひご期待ください!


柳 百合子さん(東洋大学,国立精神・神経医療研究センター)感想コメント

「えっと,,次数,,,って?」と,何度も確認するほどのネットワーク科学の初学者ではありますが,今回,読書会に参加させていただきました。最初の章を読み始めた頃は,通勤電車で「うーん。。。」と唸りながら,読み進めていました。しかし,毎回の読書会での先輩方の穏やか,かつ,エキサイティングな相互交流を通してネットワーク科学に関する学びを深めることができたと感じております。 

回を重ねるにつれて,『ネットワーク科学』で書かれていることについて,「確かに確かに!!」と思ったり,「あ,こういう現象にも当てはまるんだ!」「え,モデルだと実際はそうなの?!」と,どんどんネットワーク科学の興味深さに魅了されて引き込まれていきました。きっと,著者Barabási先生がモデルを発見した時はとても深く感動されたんだろうなと思いをはせて,いつか私もネットワーク分析を通して,ささやかながら大切な知見を発見してみたいなと感じるようになりました。また,研究に加えて,臨床現場においても汎用性が高いネットワーク科学の知見を応用して新たな有効性の高いアセスメントや介入に生かされるといいな,と思います。また,私自身ネットワーク分析について,より理解が深まったら,またこの『ネットワーク科学』の本に立ち戻ってきたいと思います。貴重な学びの機会をいただきありがとうございました!!





おまけ:心理ネットワークアプローチを学ぶコミュニティ『Psych Networks Japan』のおさそい

『ネットワーク科学』読書会は,ビジネスコミュニケーションツール Slack のグループ『Psych Networks Japan』を通じて開催されました。こちらのSlackグループでは,心理ネットワークアプローチに何かしら興味がある人が集まり,各々のペースでゆるく交流や情報交換を行っています。

今後も,読書会をはじめとした各種企画を『Psych Networks Japan』を通じてやっていきたいと思っています。ご興味のある方は,下記のnote記事に概要や参加方法をまとめていますので,ぜひお気軽にご参加ください~。


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